- Amazon.co.jp ・本 (150ページ)
- / ISBN・EAN: 9784491017372
感想・レビュー・書評
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以前まだ私が若かった頃、算数科における思考過程の分析というグループ研究を1年間やったことがありました。
あの研究は、ある問題に対して、子どもがどういう思考をするかということをあらかじめ教師が予想しておき、それぞれの思考に対する手立てを考える、というような研究だったように記憶しています。
つまり、目の前の子どもの思考過程を分析するのではなく、あくまでも教師が頭の中で、子どもがこう考えるであろうということを、夢想しているに過ぎないわけです。
これでは、子どもの発想に、いつまで経っても近づけるはずがありません。
その後、『小学校算数 学力向上をめざす少人数授業の新展開(2年)』(2004:東洋館出版社)の中で、著者の清水先生が、
「p.18 個に的確に応じるためには、子どもの素顔や内面が表出され、学習状況が顕在化されることがまずもって必要である。(中略)このため、子どもたちの協力が必要となる。また、表現力を高めることが重要な意味を持つことになろう。」と主張されるのに出会いました。
まさに、目から鱗の思いをしました。
子どもたちの協力、私にはない発想でした。そして、そのためにも表現力を高める必要があるというのです。
つまり、子どもたちの表現力を高めることで、子どもたちの思考過程が見えてくるわけです。
それから、「表現力」という言葉が、私の中でキーワードの一つになりました。
そして、この本に出会いました。
筑波の他の先生方の本は何度も読んだことがありましたが、田中先生の本は、これが初めてでした。実に分かりやすく、素晴らしい内容の本です。
算数の本というと、とかく、面白そうな課題の紹介で終わっているものが多いように思います。それはそれで価値がないわけではありませんが、実際に真似して授業をしてみると、うまくいかないということが往々にしてあるのです。
なぜなら、課題のあとの展開が分からないわけですし、目の前にいる子どもたちも、そして、その授業を行っている自分自身も、そういう課題に慣れていないからです。
でも、この本は違っています。一つの課題を、田中先生が実際にどう展開させていくのか、実に詳しく書かれています。もちろん、誰がやっても同じように授業が流せるわけではないでしょうが、参考になることは間違いありません。
そして、何より素晴らしいのは、田中先生の教え子たちが、教師の予想を上回る解答を創り出してくるところです。それは、田中先生の指導の成果なわけですが、読むものに感動を与えます。あぁ、こんな授業がしてみたい、と。
子どもの可能性って、本当に無限大だなあと感じられる1冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは良書でした。
筑波大付属小学校という有名校での授業、という点は考慮しなくてはいけないですが、著者の観察眼と努力で構築された授業はその点を抜きにしてもとても楽しく、まさに教育そのものでした。
その知見を惜しみもなく凝縮した一冊なので、全小学校教諭には読んでいただきたい。