- Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492061169
感想・レビュー・書評
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計量経済史の泰斗だった故中村隆英のインタビュー形式の回顧録。大学での研究や政府機関での仕事を通した戦後経済の俯瞰と、師である有澤廣己や盟友である伊藤隆ら日本近代史家たちとの交流などが描かれている。計量経済史の大家だけあって、言及されるメンバ―も豪華だ。中山伊知郎、篠原三代平、岡義武、伊藤隆、佐藤誠三郎、三谷太一郎、坂野潤治と大御所学者の名前が出てくる。若き日の猪木武徳、加藤陽子、宮本又郎といった名前もちらほらとある。
第五章までは中村の人生回顧で、最後の第六章では日本経済史に対する見解が述べられている。この章は、中村の今までの研究のちょっとした概要であり便利だ。「産業政策」に焦点を当てると、戦時統制は、「ソ連型の計画経済を日本に持ち込んだもの」であり、産業政策は、「個別の企業の利益を追求することを前提にして、通産省が考えるような産業構造を実現することを目的とした一種の誘導政策」であると定義されている。戦時統制と産業政策は、ドッジ来日を挟んで「断絶」があり、石油ショック以降に産業政策は衰退していたと見解が述べられている。中村によれば、政府の「広義」の産業政策はあったが、政府の産業政策は過大評価されているとその評価は両義的だ。
今後の経済政策のあり方についてインタビュアーに問われて、その答えが構造改革路線、「小さな政府」論であり、それはどうかと感じられた (P.243~P.244)。インタビューが行なわれたのが、小泉政権下の2000年であり、あれほどの人も世間の雰囲気に飲まれていたのだなあとちょっと感慨深い。
産業政策の是非や経済政策に対する構造改革、「小さな政府」論には異論があるが、中村隆英という人を知るには悪くない本だと思う。
評点 6.5点 / 10点詳細をみるコメント0件をすべて表示