- 本 ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492222300
感想・レビュー・書評
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著者の本を読み重ねるにつれて、主張が繰り返されるものもあり、馴染んできた感がある。それでもまた新たな発見もあり、知的欲求が心地よく満たされていく。本作は「論理の方法」だが、特に宗教の論理が掘り下げられる。また、その途中で「因果律」と「予定説」の対比を用い、カルヴァン派と儒教の一派である崎門の学との類似性を説きながら、我々の思考形態の本質を抉る。
と書いても分かりにくいので、少しかみ砕くと、因果律とは全ての結果には原因があり、その原因は元をたどり、起源から発するという考え。予定説は、これとは真逆で、全ての行動は決められた運命によるものと考える。スタートから考えるか、ゴールから考えるかという事だが、この考え方が、宗教に組み込まれていて、仏教は因果律。キリスト教のプロテスタントの一派は予定説である。この予定説は、運命が決まっているのならば何をしても同じという運命論的諦念によって解釈しそうになるが、違う。誰が救われるかは神によって予め決められているが、信者は自分が選ばれた者であることを確信するために、禁欲的な生活を送り、勤勉に働くことが求められるのだ。それ故に、予定説を信じるカルヴァン派は、禁欲的な生活と勤労に努め、経済は発展した。この主張は著者というよりもマックスヴェーバーによるものだが、小室直樹のお気に入りだ。で、これと同じストイックな態度を重んじたのが、崎門の学。これらが経済発展した近代の思考の下地になっているという考えだ。信者ではなくとも、信者がリードし、他者がそれを成功モデルとしたというロジックだろう。
このように「労働は神聖であって神に救われるための条件になる」という行動様式が社会主義経済のためにも必要不可欠だったが、ソ連は唯物論であったが故に「労働そのものに人が喜びを見出す」行動様式が確保されなければならなかったが、それに失敗した、というように繋がる。
他にも、『蜂の寓話』という個人の利己的な行動が社会全体の利益につながるというマンデヴィルによる逆説的な論理の紹介。ケインズのいう政策介入の有効性を担保するには、ハーヴェイ・ロードの仮説が満たされる必要があるという話。各宗教における死後の世界観やその論理。「原罪」について。キリスト教における、神を愛せよという戒律と同じくらい、汝の隣人を愛せよということが根本的戒律になっているという話など。
少しこぼれ話っぽいが、面白い考え方だなと思った内容を一つ。キリスト教弾圧の「踏み絵」について、これは踏ませる方も、それを拒む方も、キリスト教を正しく解釈できていなかったという。
ー 幕府はキリシタン禁令を下してキリスト数に対し大弾圧をした。踏み絵などの手段で「隠れキリシタン」を探し出し、棄教を迫り、応じないものを殺した。ここで注目するべきことは日本人は誰も踏み絵の意味を理解してはいなかったことです。イエスやマリアの絵も像も被造物に過ぎない。しかも元来キリスト教ではつくることを禁止されているものである。拝むなんてとんでもない。踏んづけようが蹴っ飛ばそうが少しの差し障りもない。要は心で主イエスを信じているかだけにかかっている。しかしこのように理解していた日本人もいなければ、このことを隠れキシリタンに教えた日本人もいなかった。
信仰は即ち論理であり、自己解釈し自己正当化したものが脳に組み込まれる。ゆえに我々は論理的ではない説明を信じることに対しては、違和感や抵抗感をもつようにできている。また、その説得力を増すのは他者の存在であり、それは物語の存在という事でもあるのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
故小室博士の著作の多くは「~原論」というタイトルのものがいくつかあるが、本書はいわば「社会科学原論」と言えるだろう。小室博士の思想のベースとなった社会科学モデルとして、古典派経済学モデル、ケインズ経済学モデル、マクスウェーバーの宗教と資本主義精神モデル、丸山真男の日本政治モデル、平泉澄の日本歴史モデルが紹介されている。
社会科学分野では、自然科学のように実験で理論を検証することは容易ではないが、小室氏は抽象化したモデルを考案し、現実の事象を理解するための補助線として利用することを推奨している。小室博士は一般向けの啓蒙書も多数執筆しているが、その多くは上記のモデルから導き出したものであり、ソビエトの崩壊等、現実の出来事を事前に予見した事例もある。
小室氏の著作にすでに氏の著作を多数読んでいる方にとっては復習的な内容かもしれないが、小室氏が価値を認めたモデルを再確認することは現代社会を理解するうえでの手がかりになるだろう。 -
社会科学的な文脈で学問を扱うとき、それはモデルを必要とする。それは具体的にはどういうことかというと、考察する対象について、本質的なものだけを抽出して他を捨象することである。 経済学・社会学・歴史学のモデルについて例を挙げてわかりやくす解説している。ケインズ・リカード・ヴェーヴァー・丸山などである。こうやってみてみると各モデルには急所というべき重要なポイント前提があるっことがわかる。その本質を見抜くことが天才的にできるものだけが、影響力ある論理を構築できるのである。
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モデル化は、社会の仕組みを解明する方法のひとつ。 表題にあるとおり、社会の仕組みをザックリと知りたい人のための本。古典経済モデル、ケインズ経済モデル、宗教モデル、日本政治モデル、日本歴史モデルなど、モデルの提唱者とその理論を簡単に紹介しています。著者の独特の語り口で(好き嫌いは分かれるかも)、様々なモデルを紹介していて読み物として面白い。
専門的に勉強したい人には物足りないかもしれませんが、先人達の考え方を手っ取り早く知りたい人にとっては、この本には要点が簡潔に書かれていて判りやすい。社会科学の知識をある程度理解していればものの見方も変わるし、いろいろ役に立つ場面も多いと思います。 -
小室直樹の数多い書籍の中でも最高峰の内容かと思います。
社会モデルの構成を歴史のパラダイムを踏まえて記述している事項の数々は正に圧倒的。ソビエトの崩壊から社会主義の論理を読み解き、さらにケインズ経済学のモデルへと展開、さらに資本主義の起源を考えキリスト教の論理を追求、さらにプロテスタントの存在を考察、日本の論理を追及する上で日本に伝わる仏教や習慣が如何に日本教の中で変革していくのか、明治維新の起源となった山崎闇斎の崎門の学、荻生徂徠を追及・・などモデルに至る論理の追求を紐解いた一書。
各項一つ一つで十分に一冊の書籍として成り立つ。それら別々の論理の追求を見事に一冊の内容にバランスよく纏められている。 -
桃山学院大学附属図書館電子ブックへのリンク↓
https://kinoden.kinokuniya.co.jp/momoyama1040/bookdetail/p/KP00079292/
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何かを理解や研究するうえで、モデル作成の重要性が実感できます。とは言え、数式以外の言葉でモデルを定義すること(ヴェーバーは理念型と呼んだそうな)は、何がモデルなのか?理解するのが難しそうです
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やはり小室氏の本はめっぽう面白い。
こういうのは新書で出してほしいな -
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小室直樹結構よんだかな?
だんだんいってることが繰り返しに感じられてきた。
そして、完全に信じるわけにもいかん気持ちになってきた。
いい傾向。
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