善と悪の経済学

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (596ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492314579

作品紹介・あらすじ

2008年のリーマンショックを機に、経済学への信用は失墜した。

経済学は、いつから、どのようにして象牙の塔の学問となったのか?

失われた信用を取り戻すために、経済学はこれからどこへ向かえばいいのか?

チェコ共和国で大統領の経済アドバイザーを務めた気鋭の論客が、
神話、哲学、宗教、経済学の文献を渉猟しながら、21世紀の経済学の進むべき道を示す。

ーー経済学の歴史を深く知ることは、経済学の可能性を最大限に示してくれる。

ーー経済学は、その始まりのときと同じように、倫理の問題を取り扱うべきだ。

ーー経済の研究が、科学の時代から始まったわけではない。

刺激的な主張を繰り出し、経済学のルーツを探る旅に読者を誘う。

・チェコで7万部を超えるベストセラーとなり、15カ国語に翻訳され、2012年にドイツのベスト経済書賞(フルランクフルト・ブックフェア)に輝いた話題作。

・チェコの初代大統領、ヴァーツラフ・ハヴェル氏によるはしがきつき

・チェコを代表する気鋭の経済学者による主流派経済学批判

・主流派経済学へのもやもやした不信感のすべてをずばっと記述!

・専門家がまゆをひそめるような刺激的な主張の数々。

経済学は物語の力を信じるべきだ/経済モデルは虚構、もっといえば神話にすぎない?/
人間はこれだけ好き勝手にやっていながら、それほど幸福でないとしたら悲しいことだ/
経済学者は何の予知能力も持ち合わせていないにもかかわらず、社会科学のなかで
いまだに将来予測にひどく熱心なのは、経済学者である。

感想・レビュー・書評

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  • この本は作中にも書かれているように「機械論的・強権的な主流派経済学に対する批判の書」です。つまり、現在の経済学にありがちな数式等を駆使したものではなく、数式で表すことの出来ない倫理、哲学を土台にした経済学の本であると言えます。私自身もこの作者の意見には賛成で、物理学等と違い、経済学は人間の行動を相手にした学問であり、そこには倫理学、哲学だけでなく、社会学、心理学等複雑な要素が沢山絡んでいます。その複雑な要素を数式だけで表すのは到底無理な話であり、実際問題現実世界においても様々な経済学の理論はあれど幾度となく金融危機が生じています。経済学は全てを数式で表そうとはせず、数式で表せる部分とそうではない部分を補完し合いながら学ぶのが最適だと考えている私にとってこの本に記されていることには概ね賛成することが出来ました。
    また、この本は経済思想の変遷も比較的分かりやすく記しており、社会思想史を学ぶ上でも大変参考になる本でした。

  • 西洋人の知の土台を再認識することができる一冊。日本人には当然ではなく、その理解なしに現在の問題を同一の視点で語ることは無理がある。一方で問題を相対化して語ることができる可能性があることは、大きな利点でもある。
    経済学の本だと思って本書を手に取った人は、良い意味で期待を裏切られるでしょう。

  • 読み終わるまでかなりの時間を要した。図書館で2回借りてようやく読み終わったよ。何しろ例えで使われている書籍の大半を読んだことがないから逐一頭の中で整理しつつ読んでたら思ってたより時間がかかった。そういう意味では古今の西洋に伝わる幾つかの物語を知るのに良い本と言える。

    ギルガメッシュ叙事詩に始まり、旧約聖書、古代ギリシャ、キリスト教を経て、哲学者、詩人、物理学者など様々な偉人たちが語ってきたことを考察しながら、現代に繋がる人間の欲望と善悪と自然について縦横無尽に話が展開されていく。正直一度読んだだけでは半分も理解できないので、いっそのこと電子書籍で購入して改めて読もうかなと思っている。

    足るを知ること。幸福を追いかけ続けていたら永遠に幸福にはなれない。これからどうやって自分の欲と折り合いをつけるかを考える良い一冊になった。

  • 経済を歴史や倫理、哲学等の観点から深堀りした読み応えのある良書。
    現代の数式やお堅い専門用語を並べがちな主流の経済学へ一石を投じる内容になっている。

    文章の大半は偉人や古典文学からの引用で構成されており、現代の通説は過去の原則で成立している事を理解させてくれる。

    知性は情動の奴隷であり、「見えざる手」は人間の情動で成立している。
    人の強欲さが現代の継続したGDP上昇の源泉となっている。

    様々な観点から経済学を捉えてみたい。
    そのためには一見関係なさそうに思える歴史や心理学にも目を向けてみよう。
    そんな気持ちになれた、良い読書体験だった。

  •  経済学の本というよりは、経済学の歴史の本と言った方が分かりやすいと思う。
     ギルガメシュ叙事詩から聖書、そしてアダム・スミスの「神の見えざる手」理論、そして映画『マトリックス』まで。人類の初めから経済はどのように発展していったかを論じている。
     経済のことを詳しく知らなくても、根気があれば読みこなせる。
     筆者の主張としては、経済は未来永劫発展していくことはないのだから、「このあたりで満足したらどうだろう?」ってことを言いたいのだと思う。

  • チェコ人の経済学者による、経済論。
    歴史を紐解き、聖書や古代ギリシア、ローマにおける哲学、倫理学、数学等と経済学との関連を明確にし、善悪を含めた倫理の要素と経済学とに焦点を当て論述している。以前は倫理的要素が経済学でも大きく論じられていたが、現在は経済学と倫理学、哲学とは切り離されている。善悪の観点を排除した現在の経済理論は、目的を見失っていると批判している。常に進歩と発展を追及している資本主義のあり方に警鐘を鳴らす著者の考え方は理解できた。
    「よい経済学者であるためには、よい数学者であると同時によい哲学者でなければならない。経済学は数学に肩入れしすぎて、人間的な要素をおろそかにしてきた」p13
    「現代人は進歩という概念に毒されているが、古くはこの概念は存在しなかった。時の流れは循環的であるとされ、人間が歴史に足跡を残すとは考えられていなかった」p18
    「社会が全体として高度化するほど、その構成員は個人として独力では生き延びられなくなる。社会の分業が進むほど、生存に関わる程度にまで相互依存の度合いは高まる」p40
    「14世紀のヴェニスでは、ユダヤ人といえば金貸しだった。経済史家のニーアル・ファーガソンが指摘するとおり、シャイロックが「アントニオはいい人間だ」と言うとき、それは倫理的によいという意味ではなく、返済能力を備えているという意味である。ユダヤ人が、金貸しはどの職業よりいい商売だと知ったのは、この頃である」p117
    「プラトンもアリストテレスも、労働は生きるために必要とみなしていたものの、それは低い階級のやることだと考えていた。そうすればエリートは労働に煩わされることなく「純粋に精神的な活動すなわち芸術や哲学や政治」に専念できる。アリストテレスは、労働は「堕落であり時間の無駄であって、真の名誉への道を妨げる」とさえ考えていた」p123
    「安息日は生産性を高めるために設けられたのではない。安息日は絶対であって、主が天地創造の七日目に休んだ例に倣っている。主は疲れたから、あるいは元気を回復するために休んだのではなく、大仕事を成し遂げたから休んだ。仕事をやり遂げたら、達成感に浸り、成果を楽しむ。七日目は、楽しむための日なのである」p125
    「(クセノポン)家具であれば、家に十分整えればそれ以上は買わないものだ。だが銀の場合は、どれほど所有しても、これ以上いらないと言う人はいない」p148
    「(マンデヴィルの平和な蜂の世界)この社会で起きたことはこうだった。蜂はいよいよ栄えてよい暮らしをするどころか、まったく逆のことが起きたのである。窓枠もドア飾りもいらない社会では、一握りの鍛冶職人しかいらない。一事が万事で、多くの蜂は職を失ってしまった。判事、弁護士、検事も失業し、法の執行を監督する役人も不要になる。贅沢も暴飲暴食もなくなり、需要が激減して、農夫、執事、靴屋、仕立屋は商売が立ち行かなくなった。好戦的だった蜂社会は平和志向になり、軍隊は廃止される。あわれ大勢の蜂は死に絶え、ごく少数だけが生き延びる」p262
    「悪徳は有効需要を増やす相乗効果に相当し、経済の牽引力となる」p265
    「アルコール中毒患者が飲んでも飲んでも飲みたくなるように、消費は本質的には中毒と同じではあるまいか」p312
    「経済学は「稀少資源の配分」の学問とされているが、では資源が豊富になったらどうするのか」p340
    「私たちは、感謝し満足することを知るべく努力しなければならない。信じられないほど貧しかった古代の哲人に比べれば、少なくとも物質的には何百倍も豊かな状況にあるのだから」p347

  •  久しぶりの書評です。表面的なテクニックに留まらず「あるべき」という倫理を追求することは、改めて仕事に当てはめる必要があると感じさせられました。

     本書は、経済思想は本来、哲学、宗教などと密接に関連し、常に「倫理的な規範」「善と悪」の価値判断と不可分であるが、現代の主流派経済学は分析的アプローチと数学モデルによってこうした倫理と決別したように=「価値中立的」に見える。しかし、実は「効率性、完全競争、高成長」「快楽追求・効率至上主義的」に価値を置いているとし、リーマン・ショックの問題も契機に、物質的反映がもたらす幸福を躍起になって追い求める「経済成長」よりも巨額の債務に依存しない安定性がより重要であるとしている。

  • 現在のウォール街の問題をギルガメッシュの壁から語り起こす経済学についての一大叙事詩です。道具としての経済学はいかに近年のものであり、経済が人間とか社会に向き合う学問である限り、「倫理」からは目を背けてはならない、という熱い想いが一貫されています。「神の見えざる手」の元祖とされているアダム・スミスに対してさえ「国富論」より「道徳感情論」の作者として光を当て直しています。キーワードとしてアニマルスピリットが多く使われていますが、レヴィ・ストロース「野生の思考」を連想してしまいました。また最近、シンギュラリティが間近とされているAIの専門家が、これからはテクノロジーには倫理についての議論が求められている、と話されていたことも思い出しました。とにかく膨大な教養によって経済学の限界と可能性を語り巡る旅としての読書でした。そして、こんな知性が現実の経済の責任者だったなんて、チェコすごい!

  • 【要旨】
    経済事象が非合理性の塊である人間がすることである以上、全てを数理モデルで分析すことは難しい。
    本書では現代経済学の抱える課題を、「善悪」に関する倫理学、哲学、政治思想から紐解いていく。

  • 宗教や歴史を軸にした経済学本だが、映画からの引用もある。バーナード・マンデヴィルを知れたのは良かった。
    ラディスラフ・ベイダーネクはググっても出てこなかった。
    まぁいつの時代でも裕福の飢餓なんでしょ。物は溢れているけど心は満たされない的な。

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著者プロフィール

1977年生まれ。チェコ共和国の経済学者。CSOB(チェコスロバキア貿易銀行)にてマクロ経済担当のチーフストラテジストを、ならびにチェコ共和国国家経済会議の前メンバーを務める。プラハ・カレル大学在学中、20代で初代大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの経済アドバイザーとなった。著書『善と悪の経済学』はチェコでベストセラーとなり、刊行後15の言語に翻訳され、話題を呼んだ。2012年、ドイツのベスト経済書賞(フランクフルト・ブックフェア)を受賞。日本ではNHK「欲望の資本主義」シリーズなどに出演したことで知られる。主な著書に『善と悪の経済学 ギルガメシュ叙事詩、アニマルスピリット、ウォール街占拠』(村井章子訳、東洋経済新報社、2015年)、『続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析』(オリヴァー・タンツァーとの共著、森内薫ほか訳、東洋経済新報社、2018年)などがある。

「2020年 『改革か革命か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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