欲望の資本主義

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492371190

作品紹介・あらすじ

この星は欲望でつながっている。
やめられない、止まらない、欲望が欲望を生む世界。
わたしたちはいつからこんな社会を生きているんだろう?

大反響のNHK経済教養ドキュメント『欲望の資本主義』、待望の書籍化!
未放送インタビューも多数収録した拡大版。

経済のルールはいつどのように変わってきたのか?
利子という「禁断の果実」は何をもたらしたのか?
お金に代わる新しい“通貨”とは?

「アダム・スミスは間違っていた」、「ケインズは誤解されている」……。
ノーベル賞学者スティグリッツ、異端の奇才エコノミスト・セドラチェク、シリコンバレーの投資家スタンフォードら、世界の知性との対話を通して、人間の業=欲望をキーワードに資本主義の本質と新しい経済を問い直す異色ドキュメント。

ナビゲーターは気鋭の若手経済学者・安田洋祐准教授。
特別対談「セドラチェク×小林喜光」も収録。

感想・レビュー・書評

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  • 【スティグリッツ】
    少なくとも世界中の人々を最低限の生活ができるレベルに引き上げるまでは、経済の成長は必要。それを成し遂げた後には、どのような社会を目指すべきか国内的、国際的な議論がいる。

    長期的な投資ニーズと大きな貯蓄があるのに、金融市場は目先のことに躍起になって機能不全に陥っている。問題は、市場経済そのものではなく、市場経済の設計を誤ったこと。富の公平な分配を目指すルールに変える。

    世界的な傾向として、金利がマイナスになっても投資が行われないのは、総需要が無いから。金利は人の行動を促す一因にはなるが、要因は他にもある。異なる2点間の価格が、人の行動に対して影響を与えないことが分かってきた。
    正しい経済政策をとれば、金利は5%の水準に戻るはず。

    イノベーションによる生産性の上昇は生まれない。また、イノベーションが既存のセクターから利益を「奪う」という観点にも着目する必要がある。
    新しいプラットフォームの中には、労働者の組織力を弱体化させているものがある。長期のスパンで見ると賃金が下がり続ける可能性が危惧される。

    【セドラチェク】
    「経済は成長し続けなければならない」という思い込みを疑うべき。経済は当然ながら失速したり停滞したりするのに、私達の社会モデルや年金モデルは、経済成長を前提にしている。

    民主資本主義の本質的な意義は「自由」。

    成長には良い成長と悪い成長がある。
    良い成長というのは、何かの発明等により経済が自然と上向きになること。悪い成長は、ゼロ金利政策のように、借金を生み出しながら無理に成長を促すこと。
    大切なのは、成長しすぎているときはそれを抑制し、余ったエネルギーを不況に備えて備えておくこと。また、成長が止まり、生活水準は定常状態になっても、「それでいい」と受容すること。

    私達の文明は「成長」を買うために「安定」を売ってしまった。そして問題なのは、それが何とかなってしまったせいで、借金→投資というドラッグ漬けになってしまったこと。

    財政赤字がGDPの3%で、GDP成長率が1%であれば、1%の成長を3%の借金で買ったのと同じ。それは意味がない。

    進歩することは悪いことではないが、GDPの平均成長率がゼロまたは低い率でも揺るがない経済を作るのが望ましい。成長よりも債務を減らすことを第一に。

    インターネット空間の登場により、モノではない抽象的な豊かさが生まれてきている。



    まとめ
    ①世界では総需要の減少が起こっているため、金融政策が効果的に作用しない
    リーマン・ショック後の経済の落ち込みを解消するべく、各国で大胆な金融政策が取られている。ゼロ金利政策を超えたマイナス金利政策である。それは金融機関の中央銀行への預入金に利息を取ることで、金融機関が企業への貸し出しや投資に資金を回すように促し、経済活性化とデフレ脱却を目指すものである。
    また、経済の下支えのため、政府は莫大な国債発行による財政政策を進めている。
    しかし、想定以上にインフレ率は向上せず、景気も上向いて来ていないのが現状だ。
    この理由は、世界的に総需要が減少しているからである。マネーフローをいくら増加させても、対になる需要の増加が無ければ、消費が向上しない。無理に生産を増大させようとすれば、デフレ圧力を高めるだけである。

    ②成長主義は限界に来ている
    となると問題は、「なぜ世界で総需要の減少が起こっているのか?」である。
    これには様々な見方があるが、本書の中でセドラチェクは、「成長が天井に到達したから」であると述べている。
    現在の資本主義は「成長資本主義」の前提に立っており、成長し続けなければ自壊する社会システムである。その結果、借金をしてまで財政出動をする政府や、「もっと消費を」を求め苛烈な労働競争を行う企業群が存在するようになってしまった。
    しかし当然、「もっと頑張れ」「もっと成長しろ」と鞭打っても、身体には限界がある。成熟しきった国家において「もう1%」はオーバーワークに近い。
    この虐使を正当化し成長を実現するため、政府や金融機関で負債の積み増しが起こった。金が増えることが成長を生む、その当然の成り行きに逆行する形で、成長を金で買う行為が起こったのだ。
    そのような「借金の増加による成長の歪み」はバブルの崩壊として現れる。現に、リーマン・ショック前には金融セクターの高成長と返済不可能なレベルの負債の増大が見られた。
    こうした不健康な成長を防ぐためにも、各国政府は成長よりも債務を減らすことを第一とし、GDPが増加せずとも揺るがない社会を作るべきである。
    とはいっても、むろん発展途上国において経済成長は必要である。恵まれない生活を送っている人も多く、生活環境の向上の余地があるためだ。
    しかし、先進国は既に「生存に足る」以上の物質で溢れている。これからは不健全な「成長」を目指さずに「安定」を続けることを目指すべきなのだ。


    感想
    本書を読んで、セドラチェクが持つ「経済成長」の認識の鋭さに思わずハッとさせられた。「銀行から100万円を借りて、100万円分金持ちになったと喜ぶ奴は大バカ者だ。しかし政府は財政政策という形でそれを行っている」と彼は述べている。まさに言い得て妙である。
    何故現代の社会では、借金をしてまで成長を続けることを「良し」とするイデオロギーがあるのだろうか?成長した先に何があり、稼いだお金を何に使えば精神が休まるのだろうか?
    セドラチェクはまずこうした「哲学」から出発する。人々の活動の根底にある「なんのために」をあぶり出し、社会や経済よりも優越するものは何かを確認する。
    当然、優越するものは「人間の幸福」であるが、資本主義というものは人間の幸福を欲望とすり替えることで機能するよう出来ており、かつ欲望を膨らませ続けることでしか自走し続けられない脆弱なシステムであるのだ。
    これは大変危険なシステムである。なぜなら、現在の社会が全て欲望に着き動かされているならば、何かのきっかけで全人類が欲望と妄想を辞めれば、資本主義が一夜にして崩壊することも有りうるからだ。その片鱗を見せたのがリーマン・ショックであった。
    こうした不安定な世界に対してセドラチェクは、「いったん落ち着こう」「成長よりも安定を」と主張している。それは加熱する空想から一度目を覚まし、現実に有りうるスケールで社会全体を把握せよということだ。肥大する金融資本主義を自らの手で扱えていない人類への警鐘であり、いずれ起こるバブルの再崩壊に備えて逃げ道を作ることを提案しているのだ。

  • セドラチェクの主張にはすごく納得感があった。
    特に下記は「なるほど、確かに!笑」と思った。
    「 財政赤字が GDP 成長率の3倍もある時とき、GDP成長率に意味はない。財政赤字が GDP の3%で、GDP成長率1%であれば、1%の成長を3%の借金で買ったのと同じです。そんな成長に意味がありますか?」
    「 銀行から100万円借りて、自分は100万円分金持ちになったと思うのは馬鹿者だけです 。誰でもわかることですね。しかし、財政が同じことをしたら、つまり、銀行からGDPの3%の借金をして、それを財源に公共投資して GDP1%の成長を達成したら、私の同僚は皆、喜んでシャンパン開けます。私たちは1%豊かになったと言ってね。でも、それは違います。」

  • 現代資本主義の問題について、欲望という点から考察している本著。こういう企画をできるのはNHKならではと思う。


    本著は三人のインタビューが載っているが、何よりセドラチェクの主張に感嘆する。

    現代のGDP至上主義に対して、借金をして得た成長に意味がないと語る部分にすごく納得した。
    たしかに、100万円借金しても金持ちになったとは言わないよね。。。


    当たり前と思われている事に対して誰にでも理解し易く、かつ説得力のある説明ができる彼に一発で惚れ込んでしまった…

    善と悪の経済学、絶対買おう。笑


    彼のインタビューだけでも買う価値あります!


  • NHKスペシャルの書籍化らしいけど、結論ありきで方向性が見えており、ディレクターの嗜好が色濃く出た本といった感じ。インタビューの端々にもディレクターの誘導が見られてしまって残念。
    もうちょっとそれぞれの人の主張を聞きたかった。

  • ・人の欲望は無くならないのか
    ・人の欲望が今の社会システム(資本主義)をどう変えて行くのか
    が主題の、知識人との対談。

    人の生活がどうある「べき」なのか、については考え方それぞれあるが、技術特異点に達して人間の労働の価値が大きく揺らぐ事
    その時、上手くやらないと致命的な不平等が生まれる事については意見が一致している模様。(それすら、「別に構わない」って人もいるけど)

    個人的には、こんなに社会が発展しているのに、さらに良くするために同じ時間の労働を強制されるのはおかしくて
    労働が個人の自由意思に任される社会が来てほしいと強く思っている。

    声でスピーカーが動いてくれたら楽だし、
    海外のスニーカーがすぐ届いたら嬉しいだろうけど、
    そのために血眼になって競争して開発してくれなくて良いと思う。

    とはいえ、技術がエイズや運転ミスによる事故を無くすのだろうし
    何が欲望で何が使命なのか、分かりづらい時代が続くのでしょうね。

  • 2019年2冊目。

    年明け早々、『欲望の資本主義』シリーズのテレビ番組を6時間見通してしまった。理論的な経済学には苦手意識があったにも関わらず、これにはかなり大きな刺激を受けた。

    経済の学説は単なる教養ではなく、政策的なイデオロギーになる。時代背景やテクノロジーが変わり、その説が唱えられた時代と前提がずれていてもなお、過去の理論が説得力を持たせるための道具にもなり得る。にわか知識で「アダム・スミスが言っている」では済まないと感じた。

    一番強く思ったのは、テクノロジーから目をそらしてはいけない、ということだった。「資本主義 or 社会主義」という当たり前に考えてきた二項対立でさえ、テクノロジーの進化によって新しい概念が生まれる可能性すらあると感じる。テクノロジーには、おそらく社会の前提すら覆す力がある。スコット・スタンフォード氏が、AIによる変化はこれまでの変化とは一線を画し、「種の進化」レベルの話だと語った言葉は、単なるセンセーショナルな例えだと思ってはいけない気がする。

    行き先もわからず今の流れに身を委ねることへの恐怖心を持った。債務を重ねてでも突き進む成長至上主義への危機感も急激に強まった。プラットフォーム企業の台頭やイノベーションの価値に対しても、これまでとは違う慎重な見方が芽生えた。2019年に読みたい本のジャンルが、この本によってだいぶ変わったと思う。足元のミクロでの動きも大事にしつつ、大きな流れをもう少しちゃんとつかみたい。

    番組でもそうだったけど、セドラチェク氏の語りは非常に興味深い。研究分野の幅広さからも、例えが秀逸。チェコで共産主義時代も味わっているというバックグラウンドも貴重だし、この人の本はすべて読もうと思う。

  • スティグリッツのイノベーションへの主張が印象的だった。
    "イノベーションにより生産性は上昇しない"
    シリコンバレーの企業の成長や利益の源泉は広告によるものが多い つまり、利益が他企業から移行しているだけで生産性向上にはつながっていないのでは?
    新しいテクノロジーの成功例の一部は短期的に法をかいくぐっているものも多い ウーバーやエアビーなど

  • 昔観た番組が面白かったので。経済学のコペルニクス的転回があるかというコンセプトも大いに共感できるし、そう言えばマクロ経済学って面白かったよなぁと思い出させてくれた。
    スタンフォードはあまりにも立場というか物事の見方が違い過ぎて、論点がかみ合っていない印象。

  • 我々が信じてい経済は成長し続けるというのは正しくないことなのかも?

  • 本当の問題はマイナス金利ではなく、中小企業が資金を調達できないことにある。

    日本経済低迷の要因は、人口減少

    高齢化が進む日本は、医療機器の分野で世界をリードできるかもしれない

    豊作の年は、収穫したものを全て消費するのではなく、貯めておくことです

    民主資本主義の本質的な意義は、「自由」にある

    日本の資本主義は終着点に到達している。もう全て手に入れた。誰も欲しがらないものを作っても意味がないから、そんなに働かなくてもいい。一度きりの人生なのに、誰も欲しがらない物を作るラットレースを走り続けるのは馬鹿げたことです

    経済ではなく、他の分野で成長すれば良いのです。芸術、友情、精神面など

    本来、仕事は人生に意味を与えるものです

    欲望は充たされない、欲望が望むのは増殖である。

    消費者もハッピーになり、企業も稼ぐことができる。それがテクノロジーの利点です。

    投資銀行は助言、銀行は貸付、ベンチャーキャピタルは投資です

    シリコンバレーにいる人達は、
    イノベーションをスローダウンさせそうな政府の規制に対しては、力を結集させます

    もっと面白いのは、シリコンバレーにいる人達は、できることはすぐやるという精神に溢れていることです

    自分のためだけに仕事をしている人なんてほとんどいないと思います。それに気づくのが大事だと思います。

    変化のスピードを緩めることはできませんし、緩めるべきでもない。認めて受け入れて、その上で行動しなければなりません

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著者プロフィール

丸山 俊一(マルヤマ シュンイチ)
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
1962年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズをはじめ「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「人間ってナンだ?超AI入門」「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」他、異色の教養番組を企画・制作。
著書『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『結論は出さなくていい』他。制作班などとの共著に『欲望の資本主義』『欲望の資本主義2~5』『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ』『マルクス・ガブリエル 危機の時代を語る』『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後』『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70~90s「超大国」の憂鬱』他。東京藝術大学客員教授を兼務。

「2022年 『脱成長と欲望の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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