日本人のための経済原論

  • 東洋経済新報社 (1998年11月1日発売)
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  • 本 ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492392836

感想・レビュー・書評

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  • 「有効需要の原理はケインズの発見。経済学における最大の発見である。有効需要とは、消費+投資。国民総生産は国民総所得に等しい」特にこのワンイシューから論理展開して解説していく経済原論だが、ゆえに分かりやすい。また敷衍しながら経済学の議論を触れていくので経済学史としても読むことができる。小室直樹の時代なので少し古いのだが、しかし、今にも通ずる内容だというのが有難い。

    ー 消費が景気を決めるのか、景気が消費を決めるのか、これらは同時因果または相互因果と言う。同時因果関係である。経済学は同時因果関係であり、これを解明するためにゆえに実験ができない。

    ー ガルブレイスは、バブルにおける投機を陶酔的熱病(ユーフォリア)、多幸症として捉えている。予想連鎖のスパイラル過程。デフレスパイラルモデルは、国民生産の減少=国民所得の減少からスタートし、消費の減少へつながる。

    ー 自由市場とは何か自由放任(レッセフェール)。完全競争からは、資源の最適配分や神学的な最大多数の最大幸福である所のパレート最適などが証明されてくる。資本主義の使徒マンデビル個人の悪徳は、公の美徳であるとの予言、アダムスミスの神の見えざる手と言う説が完全競争市場。

    ー 市場が自由に作動しても、最適な資源配分が達成されない場合もある。これを、市場の失敗(market failure)と呼ぶ。市場の失敗をもたらす要因として知られているのは、外部経済費用通増、公共財、不確実性などが存在するケースである。

    ー 自由市場(完全競争市場)成立のための条件として、とくに重要であるのは、完全情報(perfectinformation)の前提である。情報が完全情報でなければ、不確実性やリスク(危険)の問題が起きてくる。例えば、株式市場や労働力市場においては、不確実性やリスクは付きものであろう。新企画に投資をおこなおうとする企業にとっても不確実性やリスクは避けられない。不確実性やリスクに対処するために、保険(insurance)が発明された。

    ー 田中角栄は、日本外交を一気にアラブよりに転換させた。十分な石油を輸入することこそ、日本の命綱であるから、財界人や通産省を賛成したが、外務省は反対。アメリカの言論界はユダヤ人勢力が強く、キッシンジャーも中東和平工作を進めているところだった。しかし角栄は1973年アラブ支持を鮮明にした新中東政策を発表。角栄は日中復交によって既にアメリカの逆鱗に触れていた。

    ー 占領軍は、日本非武装化計画の端緒保障を戦時補償(軍需品の納入代金の支払い等)を禁止した。これにより銀行に借入金が返されなくなる。また金融機関は、朝鮮、台湾、樺太、内容の植民地及び満州国への投資及び金融資産を全額全てを失う羽目になった。日本の工業生産はほぼ停止していて、税収を確保することはできない。復員軍人が引き揚げてきたが、生産が回復せず収入のない失業者が溢れ所得税も得られない。お札を擦りまくるしか方法がなく、物価が急上昇した。占領軍は、当初1ドル4円のレートを定めたがこれによりあっという間に1ドル360円に達した。金融機関は貸付金の返済不能によって生じた。巨大な不良債権と植民地における投資金融資産の喪失によって生じた極端な債務超過によって破産に品した。日本政府は金融機関の預貯金を封鎖した。これにより需要急増の値を断ち切った。預金封鎖の目的は、貨幣購買力を凍結し、インフレを押さえ込むことにあった。また個人財産を白日のもとにさらすことにもなった。同時に新円切り替えが行われた。期限を切り旧円は全て預金しなければならない。この切り替えによって約500億円の日銀券が回収され、インフレは一時的に足踏みするようになった。経済統制は復活し、自由経済は影をひそめた。新円切り替えと同時に行われたのが財産税徴収。これにより華族、地主始め、金持ちは急速に没落していき、無階級社会が開始した。

    新札発行に対し預金封鎖の前触れだというトンデモ?論をネットで見かけるが。戦後の預金封鎖について不勉強だったので、本書で学べたことも収穫の一つであった。

  • 事前と事後との区別こそ、経済学が発見した貴重な資産である。

    目次
    序章 日本経済はなぜ身動きとれないのか
    第1章 現代経済を見る眼—スパイラル現象に注目せよ
    第2章 スパイラルの実際例—バブルの出現、崩壊そしてデフレ
    第3章 需要と供給が織りなすミクロの世界
    第4章 マクロの世界の相互連関メカニズム
    第5章 三大経済学者のポイント—スミス、マルクス、ケインズを    どう評価するか
    第6章 日本経済の大きな構造変化
    第7章 日本は鵺経済だ—資本主義、未だ成立せず
    第8章 依法官僚制と家産官僚制の矛盾—日本をダメにした元凶を    明らかにする

  •  小室直樹氏による経済論。本書の前半では数式を使わずに経済学の基礎を解説されており経済学の初学者には分かりやすい。後半では日本経済が低迷する原因について分析している。
     日本経済を封建制と資本主義と社会主義が混在した「鵺経済」と称し、腐朽官僚制を景気低迷の根源とみなす。巻末では日本経済への処方箋として①資本主義化の徹底とケインズ政策の活用②インフレターゲットの設定③官僚制の研究④イノベーションの奨励を提言している。
     本書は1998年に書かれたものながら、小室氏の諸提言は現在でも議論され続けており、何も状況が変わっていないことが分かる。小室氏の提言は正論だと思うが、氏の指摘する通り、日本に資本主義も民主主義も存在しないならば①の資本主義化の徹底は実現可能なのだろうか?日本の空気(ニューマ)主義と鵺経済という現状からスタートできる実現可能な処方箋があるのだろうか?やはり反作用の強い強烈なショック療法が必要なのだろうか?それとも何もできずに国家が崩壊するのを待つしかないのだろうか?

  • 105円。

  • 眠れない夜に読んだら眠れるかもよ(’∀’)

  • 経済学の要諦をてっとり早く見につけるにはもってこいの本。それとともに、「日本人のための」というだけあって、日本経済の長期低迷の原因、そして日本で財政政策が効かなくなった原因を、官僚制の腐敗に焦点を当てて鋭く分析している。ケインズ経済が機能するためには資源配分に介入する政府が優秀でありかつ国民から信頼されていることが必要だ。しかし日本は官僚が腐敗しきって国民からの信頼がない。だから財政政策が効かないのだと。官僚制を制御するためには別系統の監視機構が必要である。監視なき官制は必ず腐敗する。これは歴史の教訓である。

  • 経済学の考え方の取っ掛かりとして。
    小室直樹氏の本は読みやすく楽しい。

  • 簡単な経済学の本

  • 2番目くらいに経済が分かりやすい本。
    1番は細野さんの。

  • 小室直樹による経済解説。
    国民総生産=国民総支出であれば経済はウマク回るという、当たり前の様でありながらウマクいってない構造を認識できる。
    経済学を多少知っておこうかなー?って人にはうってつけ!

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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