傲慢な援助

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492443606

作品紹介・あらすじ

本書は、善意にあふれた先進国からの援助のうち、たった数パーセントしか本当に必要な人に届いておらず、これまで経済成長に成功してきた国は、援助をそれほど受け入れてはいない国である、という現実をまず冷静に分析する。そのうえで、本当に有効な援助とは何か、どんな援助のやり方が、本当にそれを欲している人々のもとに届けることができるのかについて、これまでの援助のやり方とは異なる援助を提案する、いわば、論争の書である。

感想・レビュー・書評

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  • 091209 by東女ms.terumi 高価 結論だけでも
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    「援助はなぜ、貧しい国の人々を幸せにすることに失敗し続けてきたのか?」

    ここに2種類の「貧困の悲劇」がある。
    1つ目は、貧困が人々を苦しめているという悲劇。
    2つ目は、莫大な援助をつぎ込みながらも、それでも貧困はなくなっていないという悲劇。
    いったいどのようにしたら、貧しい国の人たちを幸せにすることができるのか。
    援助を増やせばいいのか、援助のやり方を変えないと駄目なのか。
    本書は、善意にあふれた先進国からの援助のうち、たった数パーセントしか本当に必要な人に届いておらず、これまで経済成長に成功してきた国は、援助をそれほど受け入れてはいない国である、という現実をまず冷静に分析する。そのうえで、本当に有効な援助とは何か、どんな援助のやり方が、本当にそれを欲している人々のもとに届けることができるのかについて、これまでの援助のやり方とは異なる援助を提案する、いわば、論争の書である。
    経済発展とは自助努力であり、援助はそれを側面支援する、という意味で、著者は援助は必要だと考えている。だが、先進社会にいる官僚が「貧困を一挙に解消する」などというビッグプランを立ててもうまくいかないと主張する。そうではなく、本当に援助を必要としている人々の近くにいて、常に彼らの声を聞き、需要を探し出し、うまくいくやり方を見つけ出すのに長けている人たち、そう、まさにマーケット・リサーチャーのような人たちこそが、マラリア汚染地域に住む子どもたちにマラリアによる死亡を半減させる1つ数セントの薬を、確実に届けることができるのだ。
    2つ目の悲劇がなくなれば、私たち先進国の援助は、確実に、第1の悲劇をも救うことができるだろう。
    ---
    スナップショット アマレッチ一〇歳 3
    第1章「プランナー(Planners)」対「サーチャー(Searchers)」 5
    スナップショット ガーナ今昔 40
    第1部 なぜプランナーによる援助は発展をもたらさないのか 45
    第2章 ビッグ・プッシュの伝説 47
    スナップショット 十代の医療補助者 69
    スナップショット グラミン銀行の秘密の歴史 70
    第3章 市場はプランニングできない 75
    スナップショット 貧困に対するシェル財団のビジネス的アプローチ 128
    スナップショット ビジネスを行う上での改善 130
    第4章 プランナーと悪漢
    スナップショット フェラ・クティ 184
    スナップショット ニューヨーク大学教授レナード・ウォンチコン 185
    第2部 「白人の責務」を行動に移す 189
    第5章 富者に市場あり、貧者に官僚あり 191
    スナップショット 民間企業がインドの貧しい人々を助ける 238
    第6章 貧しい人々を救う 241
    スナップショット 簡易水道 269
    第7章 癒しの人――勝利と悲劇 271
    スナップショット 予防をめざす売春婦 301
    第3部 白人の軍隊 305
    第8章 植民地主義からポストモダン帝国主義へ 307
    スナップショット ガーナのスワスモワ大学 351
    スナップショット キングスフィールド教授、インドへ行く 352
    第9章 貧しい人々の社会に干渉する 357
    スナップショット 貧しい人々に向き合う化学者 388
    第4部 未来 391
    第10章 自分の国の経済発展は自前の発想で 393
    スナップショット クマウから来た三人のクラスメート 420
    第11章 欧米流援助の将来 423/2. ドバック 439/8. 基本に立ち返ろう 441/9. あなたに何ができるか 442

  • SDGsなど援助機関の掲げる目標それ自体は素晴らしい。だが実施にあたってはまずプランありきで現地の実態に合わないことも多く、しかも失敗から学ぶどころか、ひたすら同じことを繰り返す。民間企業ならばまずは自分たちのサービスを定着するためマーケットを分析して失敗すればアプローチを変えていくのに、と官僚主義的な援助への痛烈な批判は耳が痛いが的は射ていると思う。また日本をはじめいくつかの開発に成功した国のキーが何かだったのかをさまざまな角度で考察している。良くも悪くも政治の力の大きさを痛感する。

  • 渋谷のお気に入りの本屋で
    タイトルに引かれて購入。

    2週間弱くらいかけて読みまシタ

    自身も貧困国の支援に従事した筆者が
    コレまでの「白人の責務」的支援は
    効果が無かっったと批判

    <従来>
    ・支援国のプランナーによる
    ・大規模でユートピア的支援計画
    ・現地の権力者を通した支援体制
    ・癒着を生みやすく、効果が出にくい
    <これから>
    ・現地のサーチャーのフィードバックを反映した
    ・小規模でも市場主義型の支援
    ・現地の貧しい人に直接届く支援
    ・支援する人、される人の自律的行動を生み出す効果



    という構造で、
    これまでの史実を統計的に検証しつつ
    フィードバック型支援を主張しマス

    モノゴトをなるだけ多くのソクメンから見つめる
    そのためには、非常に意義のあるオモシロィ一冊でした


    それにしても、コノ「計画型」のモデルって
    どっかのクニの権力・支配構造にそっくり(笑)

  • 原題’White Man's Burden。白人の債務。俺ら白人偉いもんね,かわいそうな有色人種たち助けてあげなきゃね、ということか。たしかに傲慢だな。でも傲慢な援助と訳すと人種差別的な意味合いが全く分からなくなってしまう。


    本書にある事実;援助資金や援助物質が中央政府に届いたとき、どこの国であれほとんど実際に必要な貧しい人に届くことはない。

    そこから導きだされる結論;Big Plan, Big Pushは無意味である。

    さらには;プランナーは失敗し,サーチャーが成功する。プランナーはたとえ問題の国にいなくても答えは分かっているとばかりに解決策を押し付ける。サーチャーは試行錯誤を繰り返して個々の問題に対する解決策を探ろうとする。

    提案:「人はインセンティブに反応する」という人間の本性をいかした制度設計をせよ。

    基本的に本書に賛成。課題は自分の活動の中にいかにフィードバックとアカウンタビリティを導入していくか。

  • 「傲慢な援助」ウィリアム・イースタリー

  • 貧困支援を、支援額のような世間へのPRを主眼としたインプット情報で見るのではなく、科学的根拠を添えたアウトカムで見るべきで、そのためにもプランナーではなくてサーチャーに実行を任せるべきという論を展開する本。

    詳細は下記。
    https://note.com/t06901ky/n/n2570c2880c7f

  • 傲慢な援助。ウィリアム・イースタリー先生の著書。貧困国、貧困状態にある貧しい人たちへの援助は正しいやり方でしないと何の問題解決にもつながらないし、自分勝手で自己中心的な傲慢な自己満足、傲慢な援助にしかならない。せっかくの援助が、単なる傲慢な自己満足、傲慢な援助に終わらないためにするべきことをきちんとしないと。

  • 貧困には二つの悲劇が存在する.①人々を苦しめる貧困そのもの.②莫大な援助が行われてきたのに①が解決されないこと.そして②には現場を知らない先進国の「プランナー」の傲慢さがあると指摘する.

    本著では途上国への援助に携わる人を「プランナー」か「リサーチャー」に分けている
    ②の悲劇は主にプランナーが生み出している.本著のタイトルは「先進国である我々が手をかけてあげなければ途上国は貧しいままだ」「援助こそ貧困からの脱却に必要なものである」といった援助に対する考え方を痛烈に批判する.
    一方リサーチャーは「何をすれば現場現実の人々の諸問題が解決されるか」にフォーカスする.そのために現地の人々を動かす経済的インセンティブをベースに効果的な援助方法を設計・実行してその責任も担う.プランナーが気にする援助額の多寡や聞こえのいい国際的なスピーチは蚊帳の外である.

    「プランナー」の傲慢さの背景には官僚主義的発想,人種的優越性的思想,インプットのみを考えてアウトカムを顧みない姿勢,彼ら自身のインセンティブ(国際的な場でのポジショニングなど)と実問題の解決との乖離などが垣間見える.

    「ブラックスワン」「反脆弱性」から言葉を借りれば”フラジリスタ”がまさに「プランナー」と合致する.

    ある国のマラリアの伝染病を防ぐべく,蚊帳を国中に配った話がわかりやすくて印象的であった.
    ・プランナーは膨大な費用をかけて国中に蚊帳を配った.蚊帳はヤミ市場に出回り漁網や花嫁のヴェールとして使われ,本来の目的で使われなかった.
    ・リサーチャーは現地の診療所に格安で蚊帳を売らせた.その売り上げは現地の病院にとってもメリットになるので販売が滞ることなく,格安なため現地の人に行き渡るのも時間の問題だった.また,マラリアにかかりやすい幼い子供や妊婦にダイレクトに蚊帳が届けることができた.
    さらに経済的に余裕がある地域には蚊帳の販売価格を少し高めに設定することで,そこから生じる利益をさらなる蚊帳の調達に使った.

    ある問題に対して
    インプットでものを見る(プランナー)
    アウトカムでものを見る(リサーチャー)
    という視点は実生活のあらゆる場面で有用だろう.

    正直全部は読んでいない,やたら長い名前のついた国際的な組織,開発国,地域,時代,人物名など想起に体力を要する言葉の密度が濃いので,今の自分がそれをしっかり読むにはそれなりの時間が必要だと感じる.

  • 「プランナー」による「全ての貧困を終わらせる!」みたいなユートピア的アプローチの援助を批判し、もっと現場主義の「サーチャー」による援助をすべきだという主張。著者の考え方は市場メカニズム(インセンティヴ、可視性&説明責任、自律性など)を重視したもので、第三世界の現状もあわせ考えると非常に説得力がある。

    ただし学者の議論としては、あまりにも現場主義、ケースbyケースを強調すると「じゃあ、何も言っていないのと一緒じゃん」となる難しさはある。ある程度の一般化をする努力もいるのかなと思う。もちろん著者にしてみれば、援助機関の現状を踏まえると、とにかく無責任なユートピア的発想に一言物申したいのだろう。

    第3章 市場はプランニングできない
     自由市場はワークするが、自由市場改革はワークしないことが多い(イースタリー自身もかつては自由市場改革を信じていたが)。
     信用、ネットワーク、所有権など社会制度は複雑かつ慣習に基づいているので、トップダウンでデザインできない。西欧でも長い時間をかけて慣習が良い法の支配に発展した。著者はボトムアップ型の法進化として慣習法をほめる。
     さらに悪いことに、中途半端なお仕着せ法システムができると、既存制度の中で取引相手をチーティングした者の避難所になり、(もともとのトップダウン「改革」とあいまって)既存制度を破壊する方向に作用する可能性がある。ケニアでは土地所有制を導入したため、伝統的な土地の交換・貸与・共有の権利に関する複雑なシステムを破壊して混乱を招いた。
     ロシア・東欧、中南米、アフリカでは市場改革は実を結ばなかった(援助がなくても携帯電話は急速に広まった)。中国は対照的に漸進的な改革を進めた。

    第4章 プランナーと悪漢
     民主主義は機能するが、外から民主主義を押し付けても機能しない(そもそも押し付けるのは無理)。
     民主主義の問題点のひとつは多数者の横暴・・・少数派の権利や自由の擁護が必要となる。例えば、多数派が少数派の所得を再分配しようとするとき。寡頭政治(富裕な少数者による支配)と民主主義の綱引きが起こる。寡頭政治は民主主義と比べて、一時的かもしれないがある程度の経済成長が期待できる。所有権に対する民主主義の脅威を排除できるので、エリート層が有利な分野に投資することを促進する。しかし長い目で見ると、既存の富裕者だけを温存することで資源分配の非効率を作るので、新規分野の勃興を促進する民主主義に勝てない(例:カリブ海v.s.ニューイングランド)。革命を恐れる富裕層の貧しい大衆との取引、妥協を経て英米では民主主義が発達した。その際には、二院制など多数派による再分配を抑制する仕組みがあった(Acemoglu参照)。天然資源の生産国(資源の罠)や、不平等な農業社会では、そうした機制が働かずに民主主義が育たない。
     悪い政府を外からどうこうするのはきわめて困難。まず悪い政府か否かを見分けることからして難しい。IMFも国連も、この分野での実績はひどい。以下の3つの矛盾する考えが同居している。
    1.政府に「良い行動」を課そうとする(条件付援助、ピアレビューなど)。
    2.政府は開発のオーナーシップをとって自由に行動すべきだ。
    3.ドナーの計画を実施するために時には政府を迂回する。
    著者のオススメは取りあえず3。

    第5章 富者に市場あり、貧者に官僚あり
    援助機関の官僚主義
    ・複数の援助機関の共同責任=無責任体制
    ・アウトプットが測定困難なのでインプットばかりをアピールする
    ・各機関が得意分野を作らず、総花的、ユートピア的な目標ばかり
    (官僚主義は援助機関の専売特許ではなく、民間の会社にだってあると思うが、やはりフィードバックが弱いことやインセンティブの構造なんかで重症化しているみたい)

    プリンシパル・エージェント問題
    ・援助機関の多くのスタッフは善良なプロフェッショナルだが、インセンティブ構造が足を引っ張るほうへ作用する
    ・本来は被支援者がプリンシパルであるべきだが、援助国の有権者、政治家がプリンシパルであると言うオマケつき

    医療、教育、浄水、衛生などの特定分野では援助が一定の成果を挙げている。目標の絞りやすさ、成果の測定しやすさ、WHOという専門店の存在などが要因か。
    最近で言うBOPの事例も紹介される。民間で市場メカニズムを使って出来ることはやるとよろしい。

    第6章 貧しい人々を救う
     IMFについて。もともと新興国での金融危機に対する短期の融資という限定的な分野では一定の機能を果たしていた。しかし官僚主義のなせるわざか、土台無理である重債務国の貧困撲滅や構造改革の長期融資にミッションを拡大させて失敗していると言うのが著者の見立て。IMF暴動やら貸倒が生じている。

    第7章 癒しの人−勝利と悲劇
     保健分野は援助が例外的にワークしてきた分野だが、例外の例外はエイズ。初動が遅かったためにアフリカは2900万人の感染者を抱えるドツボにはまった。著者が批判するのは予防(お行儀の良いキリスト教徒は触れたがらない)よりも目立つ治療(しかし費用対効果が恐ろしく悪い)にばかり目を向ける援助村。しかも中途半端に抗ウイルス薬を使うと耐性ウイルスの出現を促すことになりかねない。アフリカのエイズ患者相手に適正な服薬管理をするのは無理っぽい。
     著者が推す予防(コンドームとか)も、例えば麻疹のワクチンみたいな単純なヤツよりだいぶ実行が難しそうだと思う。それもエイズ対策がワークしなかった大きな要因だろう。

    第8章と第9章は植民地時代から冷戦まで、いかに欧米による支配、介入が現地の役に立たなかったか。著者はとにかく介入反対主義に見える(ルワンダでは何もしなかったことを批判しているようでよく分からん)が、東ティモールやシエラレオネなどのPKOはどう評価するだろうか。ともあれ冷戦時代の代理戦争が最悪だったのは了解。

    最終章で、援助の出会い系サイト(<a href="http://www.globalgiving.org/" target="_blank">ここ</a>かな?)や、バウチャー式援助など新しいアイデアにも少し触れる。

  • 『傲慢な援助』
    William Easterly [著]
    小浜裕久/織井啓介/冨田陽子[訳]
    ISBN:9784492443606
    サイズ:A5判 上製 488頁 C3033
    発行日:2009年09月04日
    http://store.toyokeizai.net/books/9784492443606/

    【個人的メモ】
    ・「道草」より。
     ウィリアム・イースタリー「援助議論の終焉――ジェフリーサックスによるミレニアム村の失敗」
    http://econdays.net/?p=8921


    【目次】
    謝辞
    スナップショット アマレッチ一〇歳 003

    第1章「プランナー(Planners)」対「サーチャー(Searchers)」 005
    スナップショット ガーナ今昔 040

    第1部 なぜプランナーによる援助は発展をもたらさないのか 45
    第2章 ビッグ・プッシュの伝説 047
    スナップショット 十代の医療補助者 069
    スナップショット グラミン銀行の秘密の歴史 070
    第3章 市場はプランニングできない 075
    スナップショット 貧困に対するシェル財団のビジネス的アプローチ 128
    スナップショット ビジネスを行う上での改善 130
    第4章 プランナーと悪漢
    スナップショット フェラ・クティ 184
    スナップショット ニューヨーク大学教授レナード・ウォンチコン 185

    第2部 「白人の責務」を行動に移す 189
    第5章 富者に市場あり、貧者に官僚あり 191
    スナップショット 民間企業がインドの貧しい人々を助ける 238
    第6章 貧しい人々を救う 241
    スナップショット 簡易水道 269
    第7章 癒しの人――勝利と悲劇 271
    スナップショット 予防をめざす売春婦 301

    第3部 白人の軍隊 305
    第8章 植民地主義からポストモダン帝国主義へ 307
    スナップショット ガーナのスワスモワ大学 351
    スナップショット キングスフィールド教授、インドへ行く 352
    第9章 貧しい人々の社会に干渉する 357
    スナップショット 貧しい人々に向き合う化学者 388

    第4部 未来 391
    第10章 自分の国の経済発展は自前の発想で 393
    スナップショット クマウから来た三人のクラスメート 420
    第11章 欧米流援助の将来 423
    2. ドバック 439
    8. 基本に立ち返ろう 441
    9. あなたに何ができるか 442

    訳者あとがき 445
    参考文献 466
    索引 474

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