世界史の中の資本主義: エネルギー、食料、国家はどうなるか

制作 : 水野 和夫  川島 博之 
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492443972

作品紹介・あらすじ

16世紀の金融バブルがもたらした「世界史の大転換」期とあまりに酷似している現代社会。16世紀同様に、「長期デフレ社会」「先進国と新興国の逆転」は起こるのか。さらに、社会の不安定要因ともなっているエネルギーや食料価格の高止まりは続くのか。各分野を代表する識者たちが歴史の中に答えを見出すとともに、「次なる社会システム」の行方について論じる。

感想・レビュー・書評

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  • 水野さんは、『資本主義の終焉と歴史の危機』などの著者で、過去の中世ヨーロッパの歴史をひもとき、現代が記録的に利子率の低い時代にあり、もはや利潤を生む辺縁が存在せず、「長い16世紀」に比肩する「長い21世紀」となり低成長な時代になると主張している。本書は、その水野さんの歴史観に沿って、エネルギー問題の専門家として角和氏、食料問題の専門家として川島氏、金融システムの専門家として山下氏が、それぞれ各章を担当してひとつの本として仕上げたものである。構想なく雑に人を集めて作った対談本ではなく、きちんとそれぞれの主張が連関しており、複数人の著作として意図をもってよくまとまった本になっている。というのも著者らは、「長い二十一世紀研究会」のメンバーであり、その研究の成果を取りまとめたものであるからということは言えるだろう。

    それぞれの章での洞察は専門家のそれとして耳を傾けるに値するものが多い。
    ・為替と購買力平価の関係においては為替の動向の方が先で、それに購買力平価が影響される、
    ・どの国も景気の腰折れが怖くて利上げに踏み切れない状態になる、
    ・日本の国際・社会保障・銀行預金の危うい関係、
    ・原油価格とシェールガス他の生産への影響、
    ・世界の食糧生産余力は化学肥料のおかげで需要を上回っている(食料自給率を高める必要はない)、
    ・バイオエタノールの件はトウモロコシ生産州が選挙で接戦となるスイングステートであることに関係している、
    ・原油価格とトウモロコシ価格の変動は連動している、
    などなど多くの例を挙げることができる。

    また、2013年6月に刊行された本書ではいくつかの予測が行われている。今は2015年6月で約2年後になるわけだが、結果はどうなっているだろうか。意地悪だが、少し見ていこう。

    「現在の円安の流れが続けば、1ドル=90円台が110円程度に達するのもそう遠い時期ではないだろう。しかし実際にはアメリカ政府は、そこまでのドル高は容認しない可能性が高い。財務省高官の発言で一気に相場の方向性が変わる、といった展開になるのではないか」(水野)
    ⇒ 1ドル124円を超えて円安は進行(外れ)。110円を超えたのは2014年10月辺り。これはきっちり当たっている。

    「私は先進国のゼロ金利は、これから10年程度は続くと見ている」(水野)
    ⇒ 2年でまだ1/5程度の進捗率だが、今のところはその通り。

    「おそらく今後、「リーマン・ショック2」というべきバブル崩壊が、現在の新興国の側で発生し、世界経済にリーマン・ショック以上の大きな影響を及ぼすことが予想される」(水野)
    ⇒ 時期が示されていないので、予測に値しない?

    「私は、現在100ドルを付けている国際原油市況がいつなんどき70ドルに下落しても驚かない」(山下)
    ⇒ 2014年11月には70ドルを割り、最安値では50ドルも割った。正解?

    「私はトウモロコシについては、たとえアメリカのバイオエタノール増産計画が継続されたとしても、二、三年後には供給が増して価格は下がり、現在より低い価格で安定するのではないかとみている」(川島)
    ⇒ 当時1トン300円超だったものが、1トン170円程度に下落。正解?

    統計情報を扱った本『シグナル&ノイズ』では、専門家の予測はあてにならんということであったが、どうであろうか。結構当たっていると言ってもいいかもしれない。

    勉強になる、という感じの本。

    『資本主義の終焉と歴史の危機』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4087207323

    『シグナル&ノイズ』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822249808

  • 非常に面白い。2014年12月の原油価格の大暴落の理由が分かる

  • 中世16世紀と今の状況の類似性から、資本主義の終着点にたどり着いているのではないかという論説。今回はエネルギーや食料の価格の動向において、もはや実需によってではなく、投資目的での価格変動が起こっており、利子率を稼げる、要はリターンが得られる要素を探し求めている状況を解説。それにより、フロンティアを求める資本主義は、フロンティア探しが行き着くところまで行き着いて袋小路に入りつつある、というのを示している。

    リターンを得られるか?という観点だけで世界を眺めたら、いずれ行き着くところは「もう稼ぐ余地はありません」という状況だというのは実感として思う所があるので、本書の主張には共感する部分がとても多い。
    じゃあ次の資本主義に代わる位置づけとしての世界観がどうなるのか、それについては本書では明快な解の様なものは出てこないように思えた。あくまで現状分析の深い一冊だと思う。

  • やはり水野和夫氏の本は良いですね。私の感覚とかなりマッチしていて納得感あります。大澤真幸氏、島田裕巳氏、萱野稔人氏など、様々な分野の第一人者と共著を著し、視野を広げようとする姿勢には敬意を表したいです。
    水野氏の言わんとすることをまとめると長くなってしまうのですが、短く言えば、「常にフロンティアを求め続ける資本主義の拡張は地球規模で限界に突き当たりつつあり(それでも日本の国債は後10年はもつだろうと言っています)、何時かは前回より遥かに大きい「リーマンショック2」が訪れ、今の「長い21世紀」が終わった後には、近代資本主義とは違った経済システムが出現してくるだろうが、その姿が具体的にどういったものかは、まだ誰にも見えていない」ということです。
    終章で水野氏は次のように言っています。「私は今は『これで十分』と考えなければいけないときだと考えているが、その考えは世の中にまったく受け入れてはもらえない。『敗北主義』ととられ、『人間は永遠に進歩する』と反論されるのだが、何をもって進歩と言うのだろうか。そもそも資本主義は、世界中の人々が等しく豊かになるような仕組みではない。今後の世界で、アジアと欧米の均一化が進むとしても、その一方で各国内の格差は広がるだろう。おそらくある時点で、『今の経済システムでは、世界の70億人のうち60億人が豊かになるような世界はできない』ということが、誰の目にも明らかになるだろう。」
    只、一点だけどうしても水野氏から直接伺わなければと思っているのは、「資本主義とは、人間の飽くなき欲望(グリード)を前提とするシステムである」という前提で、私は資本主義というのは、もう少し人間の本質に根ざしたもので、人間が人間であるということと資本主義というのは、もっと深く結びついているのではないかと思っています。

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著者プロフィール

1953年愛媛県生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。現在、法政大学法学部教授。専門は、現代日本経済論。著書に『正義の政治経済学』古川元久との共著(朝日新書 2021)、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書 2017)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)他

「2021年 『談 no.121』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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