富国と強兵

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (638ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492444382

作品紹介・あらすじ

衰退著しい覇権国アメリカ、混乱する中東、クリミアを強引に奪取するロシア、東シナ海、南シナ海で挑発行為をやめない中国。
パワーバランスが大変動する今、「地政学」という、古めかしく、禍々しいニュアンスすら伴った言葉が現代に蘇ってきている。
一方でこれまでの地政学的思考だけで、世界を分析し、生き抜くことは非常に困難だ。
経済が地政学的環境にどのような影響を与えるのか、またその逆についても考察を及ばさなければならない。そうしなければ国際政治経済のダイナミズムを理解できず、戦略を立案することもできない。そこで、地政学と経済学を総合した「地政経済学」とも呼ぶべき新たな思考様式が必要となる。
本書では、「地政経済学」とは、「富国」と「強兵」、すなわち経済力と政治力・軍事力との間の密接不可分な関係を解明しようとする社会科学であることを示し、地政学なくして経済を理解することはできず、経済なくして地政学を理解することはできないことを明らかにする。
『TPP亡国論』で日米関係のゆがみを鋭い洞察力でえぐり出した著者が、資本主義終焉論と地政学が復活する今と未来を読み解く渾身の書き下ろし大著。
ポスト・グローバル化へ向かう政治、経済、軍事を縦横無尽に読み解く気宇壮大な21世紀の社会科学がここにある!

感想・レビュー・書評

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  • 自分にとって本書の意義は2つある。
    まず、軍事と経済が両輪であることを古今東西の多数の事例とともに再確認できる。
    次に、国際関係論と経済学双方のリベラリズムのバーチャル性がよく分かる。そして対案提示される、空間・時間・人間の3つの「間」のリアリティに則した学問群を学べる。主なものは地政学、現代貨幣理論、制度経済学だが、ほかにもリスト、ケインズ、ミンスキー、ポランニーほか、枚挙に暇がないほど知の巨人達の言説を知ることができる。
    グローバリゼーション下で忘れ去られた、もしくは忘れたふりをし続けてきた「間」のリアリティ。コロナとウクライナ侵攻で一気に吹き出した今こそ、「間」の再認識を迫る本書は意味を持つ。

  • 大変よく研究された素晴らしい書だった。

  • 富国と強兵
     緒言

     序章 地政学と経済学
      地政学の復活
      地政学は幻想か
      トゥキディデスの罠
      ハルフォード・マッキンダー
      冷戦後のアメリカの地政戦略
      マッキンダーとブレジンスキー
      アメリカとマッキンダー
      中国とマッキンダー
      地政学と経済学の総合

     第1章 貨幣と領土
      貨幣の脱領土化?
      貨幣とは何か
      貨幣と租税
      貨幣の起源
      表券主義と信用貨幣論
      内生的貨幣供給理論
      セイの法則と一般均衡

     第2章 資本主義の不安定性
      ケインズ革命
      金融不安定性仮説
      資本主義の安定化と国家
      金融循環の復活
      財政政策
      金融危機と地政学的危機

     第3章 通貨と財政
      国定信用貨幣論と国家財政
      政府債務の戦略的な意義
      機能的財政論
      現代貨幣理論
      非国定信用貨幣「ユーロ」
      予言されていたユーロの失敗
      国境の意義

     第4章 領土の政治経済学
      領域国家
      領域国家の権力と個人
      領土とナショナリズム
      聖的なる領土
      シティズンシップと領土
      マクロ経済運営と領土
      領域通貨の歴史

     第5章 戦争と国家
      国家形成の理論
      軍事組織と国家組織
      租税国家
      軍事技術と国家
      重商主義と経済政策
      戦争が革命を生む
      戦争とナショナリズム

     第6章 資本と強制
      ティリーの歴史社会学
      軍事革命
      「資本化強制」型国家の権力
      19世紀の民政化
      スピン・オフ
      戦争と国債
      戦争と中央銀行
      資本化強制としての中央銀行

     第7章 第一次産業革命の地政経済学
      西ヨーロッパの地政学的特性
      立憲政治の地政学的背景
      財政軍事国家の誕生
      財政軍事国家と産業革命
      対仏戦争が生んだ経済政策の革新

     第8章 第二次産業革命の地政経済学
      経済自由主義へと転じたイギリス
      ジェントルマン資本主義
      経営者資本主義
      英米独の違い
      国家の役割
      ハミルトンとリスト
      大英帝国の衰退

     第9章 ハルフォード・マッキンダー(1)
      マッキンダーと経済理論
      イギリス歴史学派と関税改革運動
      国民的効率
      イギリスとイギリスの海
      自由貿易と帝国主義
      「地理学からみた歴史の回転軸」の経済観
      紛争と統合

     第10章 貿易の地政経済学
      「関税問題」
      収穫逓増の法則
      労働問題
      国民的効率
      アシュリーの地政経済学

     第11章 ハルフォード・マッキンダー(2)
      地理的現実と経済的現実
      ゴーイング・コンサーン
      イギリスの理想主義とドイツの現実主義
      経済発展とゴーイング・コンサーン
      国際秩序の構想

     第12章 戦争の経済的帰結(1)
      第一次世界大戦の衝撃
      学説史的背景
      第一次世界大戦の経験と制度経済学
      第一次世界大戦とニュー・ディール政策
      戦争による恐慌からの脱出

     第13章 制度経済学
      コモンズの制度経済学
      マクロ経済とミクロ経済
      新制度経済学?
      コモンズの貨幣論
      資本主義の不安定性
      世界大戦と恐慌
      戦争と経済理論
      資本主義の改革

     第14章 戦争の経済的帰結(2)
      ピケティとシュンペーター
      累進課税
      ケインズ主義と経済プランニング
      戦争と統計
      福祉国家と制度経済学
      戦争と市民社会
      ブレトン・ウッズ体制と資本規制
      埋め込まれた自由主義
      経済政策と経済思想

     第15章 経済成長の地政経済学
      経済成長
      技術革新
      技術革新の地政経済学
      軍事行動と経済活動
      収穫逓増と制度経済学
      経路依存性
      新しい産業国家
      経路依存性と戦争

     第16章 平和の経済的帰結
      ワシントン・コンセンサス体制
      なぜ新自由主義は勝利し得たのか
      新自由主義の復活と地政学
      アメリカの地政経済学的金融戦略
      金融化による資本主義の変質
      グローバリゼーションの帰結
      21世紀の富国と強兵

     第17章 東アジアの地政経済学
      繰り返された歴史
      二重の封じ込め
      バブル経済の起源
      構造改革の地政経済学
      東アジアの勢力不均衡
      米中の「大取引」
      中国の脆弱性と危険性
      日本の運命

     第18章 領域国家と通商国家
      政治と経済の二元論
      通商国家の没落
      「反古典の政治経済学」批判
      環大西洋同盟論批判

     終章 地政経済学とは何か
      地政経済学と不確実性
      資本主義の動態
      富国と強兵の弁証法
      経済政策の本質
      歴史の運命
    東洋経済新報社「富国と強兵」 2016年12月

  • 本書を読むと経済学という学問がいかに人間社会からかけ離れた社会科学であるかが良く分かる。そもそも経済学が大前提としている「経済人(エコノミックマン)」という考え方自体が現実とはあっていないのだ。人間は合理性があるかどうかだけを基準に物理的に動く原子のような物体では決してない。人間は社会あるいは人と人とのつながりの中で能動的に行動する社会的生物なのだ。間違った前提のもとでいかに議論を精密化させ数式のみを弄しても決して現実に合った解答は得られない。ノーベル賞から経済学賞は今すぐ廃止すべきだ。
    しかし、著者の中野剛志氏は膨大な学術書を読みこなし我々に分かりやすい言葉で解説してくれる。なんと頭の良い人だろう。

  • 経済は集団行動。政治も同じく。地政学的環境による。
    集団行動を科学するアイデアはマッキンダーの地政学から。
    経済は地政学なしでは語れない。逆もまたしかり。なので地政経済学。
    大きなトレンド転換は地政経済学の環境大変化が必要。
    ケインズを再評価+新自由主義批判。
    地政学、経済学、それぞれの国の実情を踏まえないとダメ。

    19世紀は自由主義。
    2度の世界大戦による戦時統制経済でケインズ主義が実現。
    終戦後も体制が経路依存性で持ち越されて民政化した統制経済。
    これによって高度経済成長期。
    ケインズ政策の副作用がインフレ→これによりケインズ主義の人気が低下。
    この戦後ケインズ主義は亜流だけど。
    インフレ=富裕層・支配階級が損。

    シカゴ学派の新自由主義、自由な金融、自由な貿易、グローバリゼーション。
    成長率も技術革新も何かと低下している。
    さらに金融恐慌が多い。
    新自由主義のデメリットがデフレ。
    デフレ=富裕層・支配階級が得。
    すでに新自由主義は失敗が顕在化してるが集団行動は慣性の法則で動き続ける、すぐ止まらない、経路依存性で。なので続いてる。。

    貨幣の信認は市場ではなく国家による=なんぼでもカネ刷れる。
    →財政出動で需要をつからないとダメ=MMT系と同じ主張。
    リチャード・クーとも同じ系の主張。

  • 地政学と経済学を一元的に見る社会科学の話。
    大著だが読みやすい。
    ここ100年のここ経済学と地政学の流れを追うのに必読。
    貨幣は国家による信用貨幣としての在り方の序章で満足していたので、残りを読めていなかったのだがその後はが本番であった。
    新自由主義の台頭とケインズ主義の復活とここ最近のグローバリズムの影響が見えてくる。
    不確実性な未来に向けた人類の今後を見据えたくなる。

  • 学生購入希望で購入した図書(2019年度)
    【所在】3F開架
    【請求記号】312.9||NA

    【OPACへのリンク】
    https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/187418

    これまでに学生購入希望で購入した図書の一覧は
    http://www.lib.tut.ac.jp/irai/kibo.html#konyu_kibolist
    こちらで確認できます

  • とにかく良く調べ良く書かれた本で、その素晴らしさに感動した!

  • 長かった。。。冗長なようでエッセンス詰まってるので読み流すのにさえ時間がかかる。
    失われた20年と言われて久しいが、思考停止してんだね、と思いつつ、なぜ軌道修正できないのか、この論が異端なのか不思議。
    現政権なんて新自由主義のグロいところを重要法案だとか三本の矢だとか一億総活躍だとか言って推し進めてるんじゃないですかねぇ〜。誰がやっても同じ道進んだんだろうね。
    と思わせる、壮大かつある意味厭世的気分に浸れる一冊。

  • 現役官僚が著者とは到底思えないほど、専門的な本。本書の主題である、地政経済学とは、富国と強兵、すなわち経済力と政治力・軍事力との間の密接不可分な関係を解明しようとする社会科学。地政学なくして経済を理解することはできず、経済なくして地政学を理解することはできない、というのが地政経済学の大命題。
    学生の頃、経済学を学んでいたが、それはまさに経済学の一部分でしかないことを痛感させられた。
    そもそも、貨幣とは何か。領土との関係性は何か。政府債務とは、、など、分からないことだらけなのが分かる書籍。また、研究していた経済モデルの批判もあり、非常に勉強になった。そして、まだまだ勉強していかなければ、と考えさせられた。

    以下抜粋

    もしヘーゲルが言うように「ミネルヴァの梟は迫り来るくる夕闇とともに飛び始める」のであるならば、「大規模な戦争なしには経済的繁栄も社会的公正も実現できない」という不愉快な現実は、すでに過去のものになりつつあるということになろう。したがって、本書が示した認識が正しいとするならば、むしろ希望はまだ残っていると言うべきである。

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著者プロフィール

中野剛志(なかの・たけし)
一九七一年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。九六年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。二〇〇〇年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。〇一年に同大学院にて優等修士号、〇五年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(ベストセラーズ)など多数。

「2021年 『あした、この国は崩壊する ポストコロナとMMT』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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