ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492502464

作品紹介・あらすじ

欧州No.1ビジネススクールの人気若手教授による初の著書。世界で行われている、経営のおかしなこと、間違っていることを痛快に解き明かす。

常識を裏切る内容の数々、読み物として面白さと新しい視点の気づき・発見の多さは『ヤバい経済学』にも匹敵する。

紹介するトピックは、M&A、リストラ、成果主義、イノベーション、経営戦略、組織改革など。

感想・レビュー・書評

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  • 「別に裸だって構わないのだ(むしろ王冠があるから王様はよけいにおかしく見えるのだが)。ビジネスの世界では、そのままの姿を見せても良い。ときにはそれが馬鹿らしく見えたり、うまくかないこともあるだろう。しかし、まずは裸であることを認めよう。そうすれば、風邪をひく前に何かを変えられるかもしれない。」(p.294)

    原題を訳せば『ビジネス暴露話 ビジネスの世界で本当に起こっているナマの事実』とでもなるか。従来の経営学やビジネスコンサルタントなどが述べてきて、なかば常識的ともなっているような見解について、改めて疑問に付し裸の事実を明らかにしようとする本。軽妙なタッチで面白おかしく書かれているが、実際はかなりしっかりしたデータに基づいて議論を行っている。その書きぶりには反感を覚える人も多いだろうが、中身はしっかりしたものだ。

    本書は、著者が経営学の学者として、あたかも動物学者がゴリラの行動を調査するように経営者の行動を調査して、何が本当に起こっているのかを掴もうとしている(p.5)。その結果示されるのは、予想通りだが王様は裸だということだ。とはいえ、単に暴露話をして終わるような本でもない。ビジネスにおいてどうすべきなのか、量は少ないけれども書かれている。

    記述は個々のトピックについてバラバラに書かれているので、それぞれの章や節ごとに切り離して読める。とはいえ、全体を通して鍵となるのは、「集団慣性」と呼ばれているものだ。これは「他の人がやっていることをなんとなく真似してしまう」(p.11)という人間の習性である。結局はこの集団慣性が、実際には効果が無い、あるいは有害にもかかわらず、かくも多くの経営者が取り入れている理由となる。例えば製薬会社は新薬研究よりもMR活動によるマーケティングに多くの金を費やしている。ところが調査によると、MRは新薬が医者に採用されるまでに平均26回分の無料サンプルを配っている。これが効果的なマーケテイング活動と呼べるだろうか。プロスペクト理論を思い浮かべれば明らかな通り、人は利益よりも損失を大きく見るから、他社がMR活動のあり方を変えていないのに、万が一の失敗のリスクのなか自社が変える動機はない(p.13ff.)。こうして集団慣性が働く。もちろん、ここには新しい発想によるイノベーションの余地があり、100年以上の集団慣性を打ち破って新聞を小型化したイギリスの『メトロ』の例もある(p.11f)。経営とは前のよく見えない霧の中のドライブのようなものだから、前の車がブレーキをかけたときに衝突しないくらいの車間距離を保ちながら、テールランプを見ながらついていくのである(p.222ff)。

    他に印象的なのは経営者の過大評価である。ビジネスの世界は名声の世界でもあるので、こうした過大評価は(自己評価であれ他己評価であれ)よくあるものだ。データで見ると、ほとんどの企業買収は価値を産まない。企業買収はそれにきちんと見合う価格で行われることは少ない。被買収企業の株価に対するプレミアムの大きさと、買収企業の経営者がメディアで賞賛されているかどうかの間には相関がある。ここから、高いプレミアムは経営者のうぬぼれから来るのではないかと著者は仮定をしている(p.95ff)。また、1960年代には事業の多角化とコングロマリットが流行ったが、1990年代になるとコア事業への集中として会社分割が盛んになった。ここに著者は証券アナリストの影を見ている。というのも、証券アナリストは通常、業界によって専門が分かれている。したがって業界を大きくまたがる多角化経営をしている企業は、アナリストのカバーから外れてしまう。その結果、事業戦略は理解されないし、株価は低い値段で放置される。つまり、証券アナリストが理解しやすいように会社の分割が行われているフシがあるのだ(p.135-138)。

    また、報酬委員会があまり機能していないという指摘も印象的だ。報酬委員会は経営者の報酬について、恣意的でない客観的な判断をするためにある。だが調査によれば、報酬比較のサンプルとして使われる他の企業の抽出に恣意性がある。つまり業績がパッとしない企業を比較対象に選ぶことによって、自社の業績がそんなに悪くなく報酬を削減する必要がないという結論を導いているのである(p.163-166)。経営者の報酬を言えば、新しい経営手法と経営者の報酬の間に関連がある。つまり、「経営者がはやりの経営手法を導入すると、経営者の報酬が増えていたのだ」(p.190)。一方、はやりの経営手法とその手法の導入企業の業績の間には相関関係が無い、あるいはマイナスの関係があり、流行りの経営手法は何の役にも立たない。流行りの経営手法と言われているのはTQM、ISO9000、シックスシグマ、BPR等々、経営書でお馴染みのものだ。こうした経営手法は企業から企業へ伝播する(この伝播に大きく寄与するのが集団慣性である)。しかも経営手法の企業業績への貢献は少ないというよりも、むしろ企業業績を圧迫して企業の体力を奪う。こうした性格から、著者は流行りの経営手法をウィルスにたとえている(p.198)。そしてマラリア原虫を媒介する蚊のように、こうしたウィルスの媒介者となっているのが、経営コンサルタントである(p.200f)。
    「[...]流行りの経営手法の多くは意味がない[...]。しかし、こういう手法を導入する経営者は、革新的で適任だと他人の目には映る。それは、「最も尊敬される企業」に投票してくれる経営者仲間だけではなく、なんと自分の会社の取締役にも効果がある。取締役会は、経営者を祝福し実績を褒め称え、経営者の報酬額を引き上げるのだ。」(p.190)

    さて、こうしたさして効果もないのに集団慣性によって蝕まれている例を見ると、この集団慣性を打ち破るところに勝機があるように見える。最近流行りのイノベーションである。著者もイノベーションについて注目しており、本書にはイノベーションの役割が大きく出てくる。だが、結局はそれも運である。統計結果からは、イノベーションを起こす革新的な会社が「いい会社」であるという事実はない。イノベーションを起こす会社は、成長が他社より遅れているし、平均的な生存率も低い。おまけに分散を考慮してもそうだ。つまり統計的には暗い結果しかない。
    「結局のところ、本当に会社はイノベーションを起こすべきではないのだろうか。組織的には、同じことをずっとやり続け、新しいものを始めようとしたりしなければ(そして辛抱強く他人の真似をするチャンスを待てば)、うまくいく可能性も上がる。そして、リスクも少なくなる。
    しかし、本当にそうだとしたら、あまり真実を人に言わないほうがよいだろう。イノベーションは確かに大事なものだし、社会的にも必要だ。誰もが会社はイノベーションがない方がうまくいくと知ったら、誰も新しいことを始めようとしないだろう。だから、この話はみんなと私の間だけの秘密にしておこう。約束だ。」(p.228)

    とはいえ、集団慣性を打ち破るイノベーションは重要である。この辺り、著者は苦労しているようにみえる。ビジネスの様々な常識はデータ上支持されないと喝破しつつ、イノベーションについてはデータ上支持されなくてもこだわっている。革新的な戦略は合理的に生み出されるものではない。後からの結果説明はつくにしろ、とても論理的プロセスによる戦略立案とは言えない(p.40ff)。経営戦略上の様々な数字は戦略の思いも寄らなかった事実を明らかにすることはあるが、戦略は数字から導出できるものではない。最後は直感と感覚に基づくべきだ(p.23f)。イノベーションにとって重要なのは、イノベーションを利益を得る手段ではなく、イノベーションを行うために利益を得るようにすること(p.232ff)、イノベーションを目的とした会社体制とすること。頻繁な組織構造の変更もよいことだ(p.251-258)。こうした考えからすれば、不況時にはコストの削減よりも売り上げを確保し、うち手を増やし、イノベーションを起こすこととなるだろう(p.63-71)。こうした論点は、楠木建『ストーリーとしての競争戦略』との近さも感じる。実際、経営者の役割は一貫した語るべきストーリーを持つことだといった指摘も見える(p.116ff)。

    データに基づく議論を行っているとしても、こうした調査結果はそうした調査結果もある、といったところだろう。とはいえ、流行に流されがちな経営学の議論を相対化して、自分の頭で考える視点を持つには、読みやすく啓発的でとても良い本だ。

  • ビジネス書や経済誌でもてはやされている経営哲学やビジネスモデルに対して、冷ややかな目線を浴びせ、世界のビジネスで起きている不都合な真実を論理的に紹介しています。ありふれた経営の指南書に食傷気味の人にとっては、本書の内容は学びが深いものであると思います。以下に、興味深かった点をいくつか紹介しておきます。

    ①経営方針の転換はどうやってなされるのか?
    多くの会社が経営方針を大胆に変更するときは、競合他社も経営方針を変更した時である。端的に言うと、「みんなやってるから」という理由が、企業の意思決定で重要な位置を占めています。

    ②買収は企業価値を高めるのか?
    筆者の研究によれば、買収を成功させた企業のうち75%の株価と売り上げは減少しており、ほとんどの企業買収は失敗に終わる。

    ③なぜ、企業買収は失敗するのか?
    大きな要因は、買収先の企業が買い手企業にうまく適応できないことである。企業文化や社内システム、人事制度などは時間をかけて順化させていくものであり、一朝一夕で出来上がるものではない。これは時間圧縮の不経済とよばれ、買収した企業の大半が時間圧縮の不経済を克服できていない。

    ④大成功した経営者は本当に超人か?
    筆者の研究によると、莫大な利益を上げた経営者は、莫大な損失を出しやすい傾向にあることが明らかとなっている。そのため、億万長者の経営者が大富豪であっても、将来的に一文無しになるリスクもありうる。

    ⑤経営者はだれを後継者に選ぶのか?
    人は自分とよく似た性格やアイデンティティを有する人を好む傾向にある。これは、経営者が後継者を選ぶ際にも当てはまることであり、経営者は自分の考えや意図を汲んでくれる人を後継者に選ぶことが多い。このため、組織風土や経営方針が硬直化してしまうという問題が生じる。

    ⑥なぜ、経営者はストックオプションを報酬として持つか?
    ストックオプションの価値を高めるためには、株価を上昇させる必要がある。これにより、株価を上げて欲しい株主とストックオプションで報酬を得たい経営者のインセンティブが合致させることができる。

    ⑦ストックオプションを持つと、経営者はどうなる?
    ストックオプションは現在の株価が行使価格を下回った時点で、無価値になる。このため、経営者はプラスの儲けのみを気にして、マイナスの利益には関心を払わなくなり。結果として、経営者はリスキーな選択を好むようになり、積極的に企業買収をする傾向がある。

    ⑧スター社員に高い報酬を払うべきか?
    スター社員は、会社内の様々なネットワークに依存しているからこそ、高い成果を挙げていることが多い。そのため、彼らの成果は彼らのスキルだけでなく、社内インフラによるものが大きい。この意味で、高い報酬をスター社員に与えて自社で囲い込むのは、合理的な選択とは言えない。

    ⑨組織改編のメリット
    部署移動や人事異動などの組織改編は、その人が当該部署で蓄積した知識やスキルを失ってしまうという観点から批判されることが多い。しかし、組織改編は、権力を特定の人に分散させない、新たな環境に順応する適応力をつける、という2つのメリットもある。

  • 入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版、2012年)には、経営学の三大ディシプリンを①経済学、②認知心理学、③社会学としている(p.46)。その分類に従えば、フリーク・ヴァーミューレン『やばい経営学』(東洋経済新報社、2013年)は②に該当する。著者は本書で企業経営の非合理な側面をあぶり出しており、社会心理学の書籍を読むような驚きがあった。

    たとえば第6章(経営にまつわる神話)には、ISO 9000の導入によって企業の長期的なイノベーションが阻害される調査結果が記されている(p.193)。ISO 9000に限ったことではないが、プロセス最適化に関するマネジメントシステムは形骸化しやすいので、無理もない。しかし、短期的な利益(世間の評判や株価の上昇)は得られるので、流行に従って導入してしまいがちだ。そのほか、研究開発部門の真の貢献は研究開発ではなく競合企業の新発明を素早く模倣することにあるという点も興味深い。

    情報システムとの関連では、知識データベースである「ノウハウ管理システム」の事例(p.212)が興味深い。プロジェクトに入札するためのノウハウ管理システムが構築・運用された企業で、システムの効果を検証するために社員のデータベースの活用が入札成功率に与える影響が調査された。すると、内部データにアクセスすればするほど入札に負けるという、予想を覆す事実が判明した。過去のノウハウが見つかると、それで満足してしまって思考が停止するためだ。著者は、「高価な文書データベースは廃止したほうがよい」と述べている。

    また第7章(暗闇の中での歩き方)では、イノベーションをめざすと失敗するリスクが大きくなるうえ成長もしないという結果が示される(p.228)。むしろ、うまくいっている他の会社を「そのまま」コピーするのがよいという。優良企業の成功要因は複雑に絡み合っていて、1つ1つを取り出すのは難しい。従って、最初は完全にコピーし、時間をかけて修正していくのがよいのだそうだ(p.246)。

    また、組織再編についての助言も納得のいくものだ。著者は、たとえ明確な理由がなくても組織再編を行うべきだと主張する(p.253)。それは社員同士のつながりを活発にさせるとともに、過度の権力の集中を止め、変化に対する適応能力を高める効果がある。

    学生のころ、『Dilbert』というエンジニアを主人公にした米国のコマ漫画で、効率化のために機能を集中させ、その1年後にボトルネック解消のため機能を分散させる経営層の説明を聞いた主人公が「こいつはマネジメントの天才だ」と独白するシーンを思い出した。あれはまんざら間違いではなかったのか。

  • 経営学の常識をひっくり返す。経営者も人間である。超人的な天才というのはあり得ず。
    戦略と言いつつも人の影響を受ける。成功の罠。企業買収の殆どは採算が取れない。取締役と経営者の仲間意識。投資銀行とアナリスト、顧客の矛盾した関係。ストックオプションが報酬になると経営者はリスク的な行動を取るようになる。上場は実はコスト?、

  • まえがきに「世界は非合理的だということを見ていくだけでなく、実際どうすればビジネスがうまくいくのかを明らかにすることが、本書の重要なテーマだ」と書いてあるものの、ビジネスのヤバい側面をつらつらと指摘し、経営者やコンサルタントの文句を言っているだけの印象を受けた。あまりこれと言った解決策は提示されていない。

    ただ、研究結果を元にした事実を述べてあるので、その文句の説得力は申し分ない。企業の施策を何百社も統計的分析し、その良し悪しを評価している研究が多数紹介されていたが、具体的な分析方法・評価方法について知りたくなった。参考文献を頑張って読んでみたい。

    世の中は混沌としていて、成功の黄金律など存在しないことは深く理解することができた。

  • ISO9000SとTQMをウイルス呼ばわり。
    サウスウェスト航空の復活はラッキー。
    年間計画を立てる事例にも深く共感。

  • レビューはブログにて
    http://ameblo.jp/w92-3/entry-11525053061.html

  • Introduction モンキーストーリー
    Chapter 1 今、経営で起きていること
    Chapter 2 成功の罠(とそこからの脱出方法)
    Chapter 3 登りつめたい衝動
    Chapter 4 英雄と悪党
    Chapter 5 仲間意識と影響力
    Chapter 6 経営にまつわる神話
    Chapter 7 時間の中での歩き方
    Chapter 8 目に見えるものと目に見えないもの
    Epilogue 裸の王様

  • これは面白かった. 普段,職場での事業計画,中期計画で感じる疑問,腑に落ちなさを一刀両断バッサリ切り捨ててくれて痛快だった.

  • ☆皆真似をする。組織横断的なチームは失敗することが多い。
    ☆表面的な対応は失敗する。

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