教養としての社会保障

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492701447

作品紹介・あらすじ

年金局長、雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改正を担当。さらには内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめるなど、社会保障改革と闘い続けた著者による書き下ろし。


日本の社会保障制度は、大きな曲がり角に差し掛かっています。安心社会の基盤となり、社会経済の変化に柔軟に対応し、社会の発展・経済の成長に貢献できる社会保障制度の構築は、これからの日本にとって必須の改革だと私は考えています。(中略)年金制度や医療制度を始めとする社会保障の諸制度は、市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための制度です。現代社会にあって、個人の自己実現を通じた経済の発展と社会の活力、そして市民生活の安定を同時に保障するサブシステムとして、人類が考え出した最も知的かつ合理的な仕組みであり、社会にとっても個人にとってもなくてはならない制度です。本書が、私たちにとってなくてはならない社会保障と、その社会保障制度が置かれている現状について理解するための一助になれば幸せです。(「はじめに」より)

感想・レビュー・書評

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  • 人間は助けてあって生きていく。その思想を形にした画期的なシステムが社会保障

    ●本の概要・感想
     多くの社会人が給与明細の控除額を嘆く。その控除額が社会保障を支えているのである。徴収分を嘆くのはミクロの視点であり、その意義を理解するにはマクロの仕組みを知らなければならない。社会保障の制度は一人ひとりが安心して暮らせるために作られた合理的なシステムだ。これを守り、生かし、いかに日本を発展させてゆくか。きちんと社会保障を学べば、給与明細や税徴収の見え方が変わるに違いない。社会保障は生きる価値の無い人などいないとする。人は時に助け合い、支えあわなければならないとしている。その制度を皆で選んでいる。そのことを我々は知るべきだろう。
     
    ●本の面白かった点、学びになった点
    *社会保障がリスクを分散させる。不安を軽減させる
    ・人生にはリスクがつきものだ。明日事故にあうかもしれぬ。一家の大黒柱がいなくなるかもしれぬ。難病を発症し、いつものように働けなくなるかもしれぬ。もし、そんなリスクが現実になったとき、誰も手を差し伸べてくれない世界だとしたら。自分の貯蓄や家族だけしか当てにできないとしたら。人々は不安を抱き、他者を信頼しづらくなるかもしれない
    ・社会保障は助け合いを約束したシステムだ。生きづらい人、生活に困窮する人皆を支えていく仕組みである。生活には困っていない人たち同士でお金を出し合って、いざというときに備える。そのような仕組みがあるからこそ、僕たちは安心して人生を送ることができる

    *社会保障が経済を回す
    ・日本の成長産業は社会保障と深く関わっているところばかりだ。福祉や医療、教育等..。もし、社会保障がなければ、金持ちは自分の資産を抱え込んでしまう。そうならないように、一定の額を徴収し、社会保障として還元することで、経済が豊かになる
    ・今や社会保障に関わる消費および投資がその地域を潤している場合もある

    *社会保障は恵まれない人々の自立を支援する。自助・互助・共助・公助の考え方
    ・社会保障は何でもかんでも人々を支援するというわけではない。皆でリスクを分散しつつ、本当に大変な目にあっている人にはお金を渡すという仕組み
    ・まずは自助と互助を求める。あくまで自分の力で、それでもうまくいかない場合には周りの力で助けあう。それでもうまくいかない場合には共助の仕組みが働く。自分が普段払っている保険によって支援を受けられる仕組みだ。それでも困窮にあえぐ人には公助によって支える。虐待や生活保護者などがこれにあたる

    *年金は破綻しない。なぜなら、ある分しか払わないから
    ・年金が破綻すると吹聴された政権があったが、全く払われなくなるということはない
    ・マクロ経済スライドという仕組みを導入した。ざっくり言うと、「払える分しか払わない」という仕組みになっている

    *皆保険を達成した日本の奇跡
    ・皆保険を達成したのは日本が戦争に負けて資産格差がほとんどなくなったから。今の中国などでは、皆保険制度を作り上げることはムリだろう。資産家や金持ちが金銭的に割りを喰う制度になるからだ

    ●読んだきっかけ
     オーディオブックのセール。図表が54もあってびっくりした。とても良い本だったけど、図表はオーディオブックと相性悪いんだよな

  • 【ミクロとマクロ】

    福祉の現場にいてミクロの視点で社会保障の物足りなさを感じている。だからこそこの本でマクロの視点を知ることが有意義だった。

    寿命延伸
    医療の進化
    労働力不足
    少子化
    人口減少

    「安心して子供が産めない」社会であるがというが「計画的でない子供」が問題になっている気がする。家計が苦しく両親が働くことによる子供に対する愛着不足。貧困による教育格差。非行化。引きこもり…などなど。
    制度の整備が必要なのは大前提。
    加えて「共助」など心の整備?が必要。
    「自分さえ良ければ」という考えが社会保障制度の最大の敵ではないだろうか。

  • 元厚生労働省官僚の香取照幸氏の著書、社会保障の歴史や諸外国との比較を通じて、今後の日本の在り方を提言する作品。

    まず日本の医療制度は世界でトップレベルだそうだ、よく病院での待ち時間の長さが問題視されるが、福祉国家と言われているスウェーデンでも、複雑な受付手順を経て専門医の診察を受けるのに90日以上待たされるらしい。しかしこの優秀な日本の制度も、医療現場従事者の重労働に支えられているという難点がある。

    そして年金破綻については全く心配がないとの事、なぜなら年金は現役世代の所得から積み立てられているので、国民に所得がある限り年金は潰れない。つまり年金が破綻するときは、日本が破綻するときなのだ。しかし今後高齢化が進むにつれ、給付開始の年齢が上がったり給付額が目減りしてしまうのは避けられない。

    これらの問題を緩和するためには、企業の内部留保や高齢者の貯蓄を市場に還流させ、赤字国債を減らして国の財源を確保する事が必須である。そのためには将来の不安を軽減させるための政策や、社会保障制度の再構築が急務なのだが、それには国家単位の合意形成が必要であり、気の遠くなるような調整業務を繰り返さなければならないのだ。霞が関のお役所仕事は大変である…

    巻末に香取氏が後輩たちに述べた言葉が紹介されているが、「実態を把握し、コミュニケーションを図り、問題を理解し、最適解を見出し、解決策を組み立て、合意を形成し、確実に実施する」、というプロセスがとても印象的だった。これは公務員の仕事だけではなく、自分のようなサラリーマンにとっても非常に貴重な言葉だなと思った。

  • -高齢化で給付は増加、不景気で収入は停滞、公費投入
    -社会保障の二面性
     −社会保障は負担
     +経済成長のエンジンでもある1つの産業
    -過剰貯蓄を防ぐはずの社会保障
    -人口減少、少子高齢化、経済停滞の結果、資金は高齢者と企業に留保、格差拡大
    -経済社会、政治への不安←一億総中流社会の崩壊、グローバル化
    -財政再建経済成長社会保障のために政治への信頼を取り戻すことが肝要
    -今後の社会保障の役割(安心社会基盤、ルール、人口減少社会を乗り切る持続可能な社会実現)
    - 持続可能な制度の構築、制度の簡素化、ITによる効率化が必要
    -社会保障による雇用の創出、地方への所得配分

    想像していた内容とは違ったが、漠然とした不安の内容はとても共感した。

  • 社会保障の成り立ちから考え方まで教養として知るには確かによいかもしれない。
    しかし、真ん中延々と述べられる財政を中心とした内容があかん。

    「国の借金は国民将来世代へのツケ」
    「国の財源は税」

    もうこんなん言われると信頼性をなくすのよね。

    ホントは☆1にしたいとこだが、上述のとおり学びもあったので☆2です。

  • 題名の通り専門的すぎず教養として知っておくべき内容を分かりやすく説明している。
    公教育でここくらいまで踏み込んで学べたらいいのに。
    「現金給付よりも現物給付に重点をおく」はこのコロナ禍で本当に考えるべき。
    一律現金給付をして一体どのくらい市場にまわったんだか…

  • 現役世代が社会保障のコストを負担する見返りの一つに、ジョーカーのような無敵の人による無差別殺人を防ぐ事があると思うのだが、果たしてこうした犯罪に対して社会保障に抑止力があるかは定かではない。それとこれは別次元の話で、セーフティネットが必ずしも犯罪抑止に効果があるわけではない。

    社会が資本主義を選択し、企業や人間を競わせる事を前提にするならば、競争敗者への社会保障が必要という建前は分かる。また、そうした対象以外に寧ろ高齢者や介護の対応が必要で、120兆円の内訳は、年金60、医療40が圧倒的で生活保護は3程度。日本にいると暮らしやすいという実感はあるが、大多数は給与から保険料が引かれる現状に「諦めている」のが実態ではないだろうか。

    本著を読んでも答えはない。ヒントはあるが、自分の頭で考える、当然の事。ネット上には、高齢者大量自決、現役世代を諦めるなどの極論もある。テクノロジーの前提を変えない限り、極論に至る。しかし、そういう意味で、戦後GHQによる外圧は極論を通すのには好機で、天皇家からも多額の税徴収に成功している。他力による革命と言えるが、こうした革命に期待するしかないのか。

    それと、大衆の合理的無知。それによる世論形成の重要性という考え方を改めて思い出した。制度やルールを詳しく知ろうとしないのは、学ぶための手間が大きく、知った所で何になる、ここでも諦めの現象なのである。とにかく税金を払えば良いのだろう。諦めさせる、とは共通認知の社会において、大衆操作の大きなヒントになるだろう。恐ろしい話だ。

  • 社会保障は成長産業になるという視点が新しかった

  • 日本人は、老若男女全員これを読むべし。日本の将来を考えてみる良いきっかけになる本。
    個人的2020年上半期No.1の本。

  • オーディオブックにて聴了。ものすごく勉強になった!本も購入を検討。

    日本の皆保険制度が世界的にも珍しく、よく出来た仕組みだったとは。

    一方で、リタイア後の層に手厚く、現役世代に優しくないという日本の社会保障の設計自体は、もはや時代に即していない。こういった制度も現実に合わせて刷新されていくべきだと思う。
    マクロ経済スライドはまさに現実に合わせて保障を見直す、年金制度持続のための仕組みなのに、「年金が減る!」と騒がれて叩かれていたような…?

    思想の一貫性なくその時々で政策を批判し煽り立て、有権者側に無知や無関心が植え付ける(政治は誰がやってもダメなもの、変わらないと諦観の念を抱かせる)マスメディアにも責任の一端はあろうが、高齢者優遇の政策や制度が変わらず残存するのは、最終的には《選挙に行かない》という行為を果たしてしまう若年世代自身の責任でもあると考えさせられる。

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著者プロフィール

香取 照幸(カトリ テルユキ)
上智大学教授、未来研究所臥龍代表理事
1980年旧厚生省入省。在フランスOECD事務局、内閣参事官(総理大臣官邸)、政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改革を担当。また、内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。2016年厚生労働省を退官。2017年在アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使。2020年4月より上智大学総合人間科学部教授、同年8月より一般社団法人未来研究所臥龍代表理事。2021年11月より総理官邸「全世代型社会保障構築会議」構成員、2022年8月より厚生労働省「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」構成員を務める。主な著書に『教養としての社会保障』『民主主義のための社会保障』『社会保障論Ⅰ』(ともに東洋経済新報社)がある。

「2022年 『高齢者福祉論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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