AI vs. 教科書が読めない子どもたち

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492762394

作品紹介・あらすじ

東ロボくんは東大には入れなかった。AIの限界ーー。しかし、”彼”はMARCHクラスには楽勝で合格していた!これが意味することとはなにか? AIは何を得意とし、何を苦手とするのか? AI楽観論者は、人間とAIが補完し合い共存するシナリオを描く。しかし、東ロボくんの実験と同時に行なわれた全国2万5000人を対象にした読解力調査では恐るべき実態が判明する。AIの限界が示される一方で、これからの危機はむしろ人間側の教育にあることが示され、その行く着く先は最悪の恐慌だという。では、最悪のシナリオを避けるのはどうしたらいいのか? 最終章では教育に関する専門家でもある新井先生の提言が語られる。

感想・レビュー・書評

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  • AIの事が延々と書いてあって、正直、読むだけで疲れる。将来、AIに仕事を奪われるという事が書かれている。AIは万能ではないが、人間もそこまで賢くはないという結論に辿り着いているように思う。

    一章ずつ感想を書いてみる。



    第一章 MARCHに合格――AIはライバル
    AIの言葉の定義でいうと、現在はまだAIが出来ていないという事が書かれている。
    AIの和訳は『人工知能』であり、人工知能というからには『人間と同等』か『人間と同等レベルの知能』をもつことになるが、そんなものは出来ていない。という説明と、現代の『AI』は『AI技術』の事をそう言っているだけということ。

    最初は、言葉の定義を細かく説明している。


    そこからAIの歴史、この本のメインの話『東ロボくん』の話が出てくる。

    AIの概要が分かる。AIにできる事はAIへと仕事が置き換わっていくという未来予想も書かれていた。

    でも、ついこの間見たテレビでは最貧困層では手製の麻薬製造機を作っているというのがあった。資本主義の世の中でAIが使えるのは、裕福層なのである。『仕事がなくなると困る』ではなくて、仕事がなくなると劣悪で違法な労働しかできなくなるというのが現実ではないだろうかと思ってしまった。

    介護や家事といった女性の仕事は置き換わることがないというのも書いてあったような気がするが、女性にとってはそちらの仕事の方がもっと手軽になってほしいものである。



    第二章 桜散る――シンギュラリティはSF
    私は大学を目指したことがないので、正直、大学入試が分からない。センター試験もよくわからない。高校入試と似たような仕組みという理解でいいのだろうか?と思いながら読んだ。

    東大合格を目指した東ロボ君は、東大には合格できないという事が書かれている。理由は一章で書いてある通り、コンピューターができる事は四則演算だからだ。一章よりも詳しく現代のAIが出来ることと出来ないことが書いてある。

    この辺りでちょっとおなか一杯になってきて、めげそうになった。話が同じことの繰り返しなのと、難しいので頭をついていかせるのが大変。



    英語についてかなり書かれていたが、英語翻訳は難しいという事だった。英語だけに限らず、ほかの言語も同じだが。

    とにかく翻訳するには文章の前後の入れ替えの違いや、独特の言い回しetc、入力するべき情報が多すぎるせいだという。しかし、今はネットの普及で一般の人が修正情報を入れてくれることで補正されていると(悪意ある補正についても書いてあったので、万能ではない)

    なるほどなと思って読んだ。確かに20年前よりは翻訳の質が上がっている気がする。英語が苦手な私がそう感じるほどには、昔の翻訳は酷かったからだ。



    特に言語翻訳は一番使える機能だから、開発がいろいろとされているらしい。

    少し前に韓国の小説を自動翻訳で読もうとしたら、ネットの自動翻訳があまりにも使えなくて日本語の文章がおかしかった。その作品はしっかりと人の手でも日本語に翻訳されていたので、読み比べるとますます自動翻訳のおかしさが際立っていた。

    翻訳の難しさは『特定のジャンルでしか通用しない』という事だと本にも書いてあったが、小説には小説独特の言い回しがあるので、海外作品の翻訳本のレビューを見ていると時々『この文章の翻訳は違う』という指摘が書いてある。

    つまり、小説を読むには言語獲得だけではなくて小説独特の言い回しも理解しなくてはいけないということだ。

    英文翻訳のあれこれは読んでいて面白かった。



    第三章 教科書が読めない――全国読解力調査 
    AIに出来なくて、人間にできる事はあるが、その能力を今の教育で伸ばせていない。という事が書いてある。
    二章が東ロボ君への問題だったものが、三章になると子供たちにテストを受けさせて『読解力』を測ったという話になっている。

    テストの問題がいくつか載っていた。大半は解けたのだが、いくつかは深く考えすぎて転んだ。試験らしい嫌らしい問題が紛れているなと思った。

    試験の問題文は独特だと思う。『正しい日本語』ではあるが、『わかりやすい日本語』ではない。なので、試験に受かるための最低条件が『試験の問題文の独特さに慣れる事』だと思う。私は車の学科試験を思い出してしまう。あれは日本語を読むのが大変だった。

    というのを思い出しながら読んだ。

    難易度が高い係り受けの問題
    『アミラーゼという酵素はグルコースが繋がってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

    セルロースは( )と形が違う

    1.デンプン 2.アミラーゼ 3.グルコース 4.酵素』

    問題文を抜いているが、上記の文を読んでカッコに入る言葉の数字を選べという問題。
    私はアミラーゼかと思ったが、答えは1のデンプンという事だった。これそもそも『セルロースが何か』が分かりにくい。答えを見ても、デンプンがどうセルロースにかかるといわれても、何度も読み直した。

    ・グルコースが繋がってできているデンプンをアミラーゼは分解する。
    ・アミラーゼはセルロースを分解できない。
    ・セルロースはグルコースからできている。



    ここまでは理解できる。
    が、『形が違う』という部分はセルロースにかかるのではなくて、さらに前の『デンプン』にかかるらしい。
    難問すぎる。文章が長くてわかりにくい上に、よくわからない単語の連続で意味を読み取れない。

    でもこれ、知識がある人にとってはこれだけの長文にしても意味がくみ取れるという現象が起きるんだよなとも思う。こうなると『文章を読んでいる』のか、『知識を基に文章を読む』のかわからなくなる気がする。

    そんな風に思えるような事例が中高生向けのテストでもあって……読解力って結局なんなんだ?と思う。



    第四章 最悪のシナリオ
    仕事が消えていくよという脅しのような話から、ほぼ日の事例を出してきて人間にだけ生み出せる『ストーリーでモノを売る』という話になっている。

    つまり、発想力で新しい仕事を生み出していけと。それは、今までにも存在している『起業家』というものだと思います。

    でもここで、日本は『出る杭を打ちまくる』民族だという事を踏まえると、そもそもの土壌が『打たれても伸びようとする人間しか伸びない』ので期待値は低い気がする。もしここに教育の話が出てくるなら、必要な教育は読解力などではなくて『発想力』と『応援力』ではなかろうかと思う。

    一応結びは、『新しいジャンルの知識を得るためにも読解力が必要』となっていた。

    私はそこには賛成できないなと思う。
    応援する力がないと人は伸びない。新しい発想を『面白い』と楽しめる土壌も必要。おそらく大学まで行けてしまうような人たちはどちらも得ている環境だから、私のような結論には至らないというのもわかる。

    AIの仕組みがそれなりに理解できたのは楽しかった。内容は一部問題が難解だったけど、分かりやすくは書かれていた。

    AIの話というよりも、言語の話がほとんどだったような気もする。国語を学びなおす意味でも、興味深い本だった。

  • AIとは何かを理解すること、そのAIにできないことが意味を理解すること、つまり読解力であるが、読解力がない子供達が多い事実があるということ、その上で今後どうしていくべきなのかについて学び考えさせられる本。
    AIはあくまでコンピュータに過ぎない、数値化できるものでしか判断できない。数学が歴史上証明してきたものは、論理、確率、統計である。そのことを踏まえてAIができることを理解する必要がある。
    読解力がないことの証明はデータに基づく根拠のある提言がされており興味深いものだった。意味を理解し考え新たなものを生み出すような力が求められる中で、読解力を養う方法はない、読書による向上はデータからは導けなかったとあるが、文章を読み意味を考えることを継続することに効果はあると自分は考える。

    その他、情報の非対称性(立場が異なる双方において情報が共有されていない状態)がAIにより修正され、一物一価の原理が早いスピードで起こってくる、など勉強になることも多かった。

  • 興味深い内容だった。「AIの得意なこと、不得意なこと(限界点)。そしてAIが苦手な(肩代わりできない)読解力を基盤とする、コミュニケーション能力や理解力(P172)」を私たちは備えているのか。(→否。)AIが労働市場に参入すれば、失業者があふれ、企業が消え、「AI恐慌」とでも呼ぶべき、世界的な大恐慌が訪れるのではないか。これが筆者が予測する「最悪のシナリオ」。ではどうすれば「基礎読解力」が身に付くのか、ということについて、科学的な検証はされてないとしながらも、「多読ではなくて、精読、深読に、なんらかのヒントがあるのかも(P246)」というところが気になった。読解力とは何か、どのように身につけるのか、についてもう少し考えたい。

  • 佐藤優氏との対談が掲載されている「国難のインテリジェンス」を読み、概要をわかったつもりでいた本書の重要性を痛感し、今更ながら拝読。5年ほど前の著作でAIのことを書いているにも関わらず全く古さを感じさせない。ということはシンギュラリティが絶対不可能なAI技術の本質を論理的に喝破しているから。後半の読解力の絶対的不足は国難といっても過言ではなく、本の精読が非常に重要だと感じた。本当に素晴らしい本で、AIの立ち位置が明確にわかる。

  • 2024年2月25日読了。数学者で「AIは東大に合格できるか?」というプロジェクトを推進してきた著者による、今のAIの限界と未来について、そしてもっと深刻な人類の現状について。生成AIの挙動には騙されそうになるが、AIのアウトプットは「統計的に確からしい、自然言語っぽく生成された回答」にしかすぎないわけで、シンギュラリティとか人類を超えるとかは基本心配することはない、が、「AIにできないことを人類がやる」という楽観的議論に、「そもそも人類はAIができないことをできるケイパビリティがあったんでしたっけ?」とぶつけられる疑問の深刻さにゾッとする。大学生に対する調査をエビデンスとしているが、確かに、中学受験で叩き込まれる処理は「問題を図形的にとらえ、過去に対処した似たような問題や公式を当てはめ高速で処理する」と、まさにAIが得意な学習をひたすら鍛えているわけで、「AIの下請け」みたいな若者を量産しているということなのだよな…。AIに駆逐されるのではなく、人類が勝手に滅んでいく、という。解決のための処方箋はないが、真剣に考えていく必要があるのではないか。

  • 20240213

  • 世の中のほとんどの仕事はAIキャンバスに代わられてしまう。その中で生き残っていくためには、AIが持っていない読解力が必要だが、近年の学生はこの能力が低い。AI時代を生きていく中で、現代の学生に危機感を警鐘する1冊。

  • AI関連の書籍を色々読んでくると、前半はさすがに聞いたことある話も多いが、東大合格に向けて頑張るAIトオルくんの話とかは面白かった。また第五世代コンピュータ開発の失敗談が国内に見当たらないというのは、研究が失敗すると論文化出来ずその知見が世に公開されずに終わる、というアカデミアの問題にも通ずるような気がした。RST開発からの読解力の大切さへの気づきは、著者ならではで面白かった。日本では、文系がトップに座ることが多いためか自分とコミュニケーションが取れない数学出身者を使いこなせず、大きく出遅れがち…それだけじゃ無いだろうけど、同意…あと、このAI全盛期に行列・線形代数は重要だよね…生成AIが登場した今でも書かれている内容は陳腐化していないと思う。

  • 学力って、結局は「読むチカラなんだよなー」と改めて感じた一冊。
    AIの進展について学んだというよりは、
    子どもたち、本当に大丈夫か?!と心配になった。
    筆者も危惧しているドリルのような反復学習について、
    小学生のうちからデジタルドリルに励んで「勉強した気分」になり,テストでいい点をとってしまうと,それが成功体験となってしまって,読解力が不足していることに気づきにくくなる。中学に入ってもデジタルドリルを,繰り返せば,一次方程式のテストで満点が取れて,英単語や漢字は身に付くから、そこそこの成績はとれる。
    ところが受験勉強など、読解力が問われるシチュエーションに置かれると、急に「分からなくなる」。
    しかも、ドリルで身につく能力がもっとも「AIに代替されやすい能力」と言われているんだからもう。。

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著者プロフィール

国立情報学研究所情報社会相関研究系・教授

「2021年 『増補新版 生き抜くための数学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

新井紀子の作品

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