- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784494020485
感想・レビュー・書評
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2017年度読書感想文コンクール中学の部の課題図書
いとうみくさんは、このコンクールにご縁があるのか、今年度も「天使のにもつ」が中学の部の課題図書に指定されている。
それはさておき。
この作品をブクログに登録しようと、「アポリア」で検索したら、思いがけず、多くの作品がヒットした…そしてこの作品は出てこなかった…。
「アポリア」はギリシャ語で、「道のないこと」を意味し、転じて「解けない難題」というようなことを表す言葉だそうだ。「難題」をテーマにしている作品って多いのね。
では、この作品で問われる難題とは…。
東北大震災から20年後、東京湾は津波に襲われない、という通説を裏切り巨大地震発生直後を巨大津波が襲う…恐れていたその日から始まる物語。
3か月前から不登校になり、自室にこもっていた一弥(いちや)は、突如起こった大きな揺れに動転し、どうにか自分の体を庇うだけで精一杯。
気がついたら、二階にいたはずが一階に。自分のことで学校の面談に行くはずだった母が、潰された洗面所に閉じ込められていることが分かった。
どうにか、助け出そうともがくところに津波警報が鳴り響くが、一弥は救出を諦められない。そこへ通りがかった中年の男が、無理矢理一弥を引き剥がし、会社と思しきビルの階上へと連れて行く…。
これまで生きてきた中で、日本を襲ったいくつもの大きな地震を知っている。
映像、写真、文章で幾度となく触れてきたが、常に自分は安全なところにいるという事実があり、それは、本当にただそのことを知っているというだけのことに過ぎない。
この物語では(他の方もレビューで書かれていたが)、地震発生から高い建物へ避難し、助けを待つ様子が、まるで自分がそこにいるかのように感じられるほどリアルで、自分は安全なところにいるという事実を忘れてしまうほど恐ろしく感じられる。
何も見えない闇、ジワジワと染み込む水の冷たさ…読むほどに鳥肌が立つ。
登場人物達の心情が代わる代わる書かれていて、誰の気持ちを言っているのか一瞬分からないこともあるが、それは彼らの混乱した様子をより鮮明に描き出しているのかもしれない。
地震による津波だけでなく、豪雨による水害が毎年のように起こっている。今この時も。
このままでいいのか、という焦りのようなものをジリジリと感じる。2020.7.7
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東日本大震災から20年後、東京を大地震と津波が襲う。中学2年の一弥は通りすがりの片桐によって助けられ、瓦礫の下の母親を残し逃げた。
許せない自分。許せない片桐。
片桐への怨みは八つ当たりだが、強い憤りは誰かにぶつけなくては収まらなかったのだろう。
黙って殴られている片桐の大きさに驚く。
東日本大震災の被災者たちは、一弥のような憤りを誰にぶつけていたのだろう。
冷静に耐え頑張っている人々の姿が紹介され、その印象ばかりが強く残っているが、どうしていたのだろうと改めて考える。
片桐のような人がたくさんいたのだろうか。私にできるだろうか…
まるごと受け止めてくれた人がいたから、一弥は立ち上がることができ、今度は助ける側になりたいと思った。真摯に生きる姿は、そのまま手本となるのだと沁々思う。
挟まれた見開き写真、ページの縁の小さな写真、どれも東日本大震災後の被害を写し当時の記憶が甦る。 -
西暦2035年春
首都圏を巨大地震が襲い、沿岸部に大津波が押し寄せる
通りがかりの片桐に助けられた不登校で引きこもりの中学2年生一弥は、自宅から母を救い出せなかったことで片桐を憎み、避難した建物にいる人たちにも心を開こうとしない
わずかな水と食料、雨が強まり不安が増すばかりのなか、片桐が病に倒れてしまう
いっぽう、山梨にいて難を逃れた伯父の健介は、被災地にたどりつき懸命に一弥たち母子をさがす
《生きているということがすべてだ。
だから生きる。生きなければいけない。しっかりと、足を踏ん張って。》
極限の状況におかれた人間の弱さと優しさ、生きる希望を失いかけてなお信じるひとすじの未来
容赦ない筆致で描写される地震と津波が圧倒的なリアリティをもつ
あの日から5年のときを経て書かれた愛と希望の物語
著者は『糸子の体重計』(第46回日本児童文学者協会新人賞受賞作、2012年童心社刊)でデビューした、いまが旬の児童書作家 -
とても大きな、重いことなんだけど、それは一瞬の出来事で、一瞬の判断で。
全てを分かつあの瞬間。
もしあの時、もしこうしていれば…考えても仕方ないとわかっていても、ずっと考えてしまうだろう。
そうやって考えられるのも、生きているからできることだけれど、それを前向きに受け止めるのは簡単じゃない。 -
2017年度中学課題図書。中学2年生の少年を中心に大震災の渦中を生き抜く人々を描く。
心を締め付けられる思いで読み進めた。まだあの震災から6年。課題図書として不特定多数に読ませるには、まだ、早くないか -
いとうみくさんの本ということで手に取りましたが、これも読書感想文コンクールの課題図書だったとのこと。
それはさておき、混乱の中でいろいろな立場の人たちが出会い、そこで起こる様々なこと、それぞれの人たちの過去と今、想像すると苦しくなるけれど、どこか希望も感じられる、と思えるのは、まだ身内を一人も失ったことのない私だからかもしれません。
中学生が主人公ということで中学校の部の課題図書になったのでしょうが、私には一般向けに思えました。
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東日本大震災から20年ほど経ったある日、東京を大地震が襲い、沿岸部は津波に呑みこまれる。
自宅で被災した少年は、自宅一階で被災した母親を助けることができない。そこへ津波が押し寄せてくる....
自らを責め続ける少年。だが、やがて...
話の設定こそ、20年ほど経った東京になってはいるが、この話は明らかに東日本大震災の丹念な取材を元に、津波の記憶を残し伝えるものとなっている。
日本人は、この記憶を残し伝え続けることができるのだろうか?
原発事故の原因もわからないまま、原発再稼働への道を歩み続けるこの国が... -
講演会のお話でこちらの本の話も出たので気になり読みました。
美容院では読んではいけないものでした。
最後、感情移入してしまい……。