天使のにもつ (単行本図書)

著者 :
  • 童心社
3.79
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本棚登録 : 415
感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784494020553

作品紹介・あらすじ

「頼んでまでして、なんで仕事しなきゃなんないの?しかもタダで」そんな中学2年・斗羽風汰が職場体験先に選んだのは、保育園だった。「子どもと遊んでりゃいいってこと?ありかも」本当に大丈夫なのか、斗羽風汰。

感想・レビュー・書評

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  • ちょうどラストシーンだけを、切り取った形で読んだのが最初だった。
    その時は前後の分からない物語だったのに、ぐっと引き込まれて、一冊読みたいと思った。

    中学生の風汰が、子どもと遊んでいるだけなら楽だと思い、職業体験先に選んだのは保育園。
    もちろん、彼が思うような楽さなどなくて、子どもたちと過ごす一日は、中学校での生活よりも、ずっとハードだと知る。

    そんな中で、風汰の泥だらけの靴を洗ってくれる、しおん君という園児との出会いが描かれる。
    しおん君の家庭背景を知ってからは、彼の表情の描写、言葉の意味、握りしめる手、その一つ一つに、切ない気持ちがした。

    二度目に読んだラストシーンは、最初に読んだ時よりも、風汰そこだ!行け!とエールを送りたくなる気持ちが強かった。

    ヤンチャな中学生が、子どもたちには素直に受け入れられ、また風汰自身も誰かや何かと関わることの「深刻さ、真剣さ」を考え、成長する。
    それは一見、おきまりの綺麗事みたいに見える。
    でも。風汰だからこそ為せることが、あって良いじゃないか、とも思う。

    後日談における園長先生の言葉に、涙。
    評価項目でははかれない、風汰が残したことを、ぜひ読んで欲しい。

  • 少年少女向けの小説。
    中学2年生の斗羽風汰は職場体験として保育園に行く。

    軽い文体で、リアル10代に読みやすく書かれている。
    書かれている内容は軽くみせながら、なかなか奥深い。

    主人公は、普段関わらない世代、色々な層の人と交わることで、同級生だけではわからない、新たな感情、思いが芽生える。

    人の世話をすることがさりげなく色々なエピソード(捨て犬、認知症の老人、保育園のぎこちない子ども)として、でてくる。人の世話は身近でありながら、正解はない。皆迷いながら、対応している。

    これらのエピソードが、大上段に道徳的に書かれるのではなく、事実として、主人公はある程度ポカンとなんだかわからないまま、距離がありながらも触れ合う。この書かれ方がリアリティがあるし、現実でも「あれってなんだったんだろう?」くらいのことに「本当のこと」がまぎれている気がする。

    10代で読んで、また大人になって読むと一味違って読めるのではないだろうか。

  • 多くの中学校で行われていると思う職場体験。
    体験先に保育園を選んだ風汰。楽勝だと思ったのに現実は…

    中学生ならまだ自分の保育園時代の記憶も新しいと思うけれど、童心にかえって、なんて感じのしない風汰の焦る様子が読みながら目に浮かびます。

    風汰みたいに先生に反抗してばかりだったり、特にやりたいこと、好きなこともないなあなんて思ってる中学生におすすめ。

    なお、教育現場では特に、「(誰か一人を)特別扱い」しないように、「みんな平等に」ということをよく言われるけれど、
    「平等って全員に同じことをしてあげることじゃないと思うの。一人ひとり、その子にとって本当に必要なことをしてあげる、それでいいと思うのよ」
    こんなふうに言ってくれる園長先生のいる保育園はいいなあ、と思います。

  • これも中学生の課題図書のような軽さがあり、シンプルなんだけど、シンプルだからこそ真っ直ぐに伝わるものがあって、読みやすくて、子どもっぽいところが、作品とすごくマッチしていた。幼稚園に職場体験に行くことになった中学生が、子どもとの触れ合いを通じて成長していく、というわけではない。成長というよりは子どもとの触れ合いを描く場面で、様々な角度からこの主人公を描いていって、いわゆる画一的な生徒評価のようなものが少しずつ覆っていく爽快さが良かった。でも、実際こういうことは本当によくある。自分がいかに限られた視点でしか子どもを見ていないかが痛感させられるような。だから、学校行事は授業を削ってでもやる価値があるんだろうな。

  • ★2020年度課題図書(中学生)

    『エンジェル保育園』って?
    中学2年生の斗羽風汰は、5日間の職場体験の希望先に保育園を選ぶ。
    子どもとあそんでればいいってこと?
    そんな風汰の思惑とは裏腹に、子どもはうるさいし、汚いしで、大変!

    前半はつまらなかった~。
    いくら勉強が苦手という設定と言っても、職業体験先の大人に「はい」ではなく「うん」って答える中2はいるかね?と思ってしまったし、そもそも保育園実習なんてどう考えても大変そうだろう…と思いながら読んだ。
    話の展開としては考えうる王道で、それを期待しての購入でもあったが、前半の展開が遅く感じられてだるかった。
    命を預かるということについて対比させたかったのだろうが、職業体験に行くジャストのタイミングで捨て犬を拾ってくるという設定も、どうも設定ぽいというか蛇足に感じられ、そこは保育園の体験のみで語ってもよいのではないかと思った。
    が、マーくん先輩(だったか?)の存在はなかなか面白く、おそらく高2だろう彼が年寄り見回り隊に参加している理由なども納得がいくもので、犬の存在とは違い、お年寄りにフォーカスする彼の存在については視点が広げられてよいと思った。

    途中から、しおんくんの描写が増えてきてからは、しおんくんを中心に話に惹きつけられた。しおんくんのようなケースは程度の差はあれ、どこにでもありそうな故に唐突さもなく、そして実際にエスカレートして事件化するケースも少なからずあるので、真摯な気持ちで見守ることとなった。しおんくんのケースが虐待か否かというところも大げさに書かれてはおらず、実際の保育や周囲の対応の難しさも伺える。(しかし夜中に外に出ているのは虐待と言えるだろうな…)
    しおんくんが風汰になついている様が本当に可愛くて、幸せになってほしいなと思った。

    お昼寝の時間に、一人だけ園長先生の膝の上で読み聞かせをしてもらうしおんくんについて、
    「平等って全員に同じことをしてあげることじゃないと思うの。一人ひとり、その子にとって本当に必要なことをしてあげる。それでいいと思うのよ。」
    とこたえる園長先生の言葉に思わずうるっとしてしまった。
    本当にそうだ。でも、「一人ひとり、その子にとって本当に必要なこと」を正しく見抜くのは難しく、どうすれば正解なのか迷ってしまうこともあるのではないか。
    保育士や教師がこんなふうに、一人ひとりに心を砕いてあげられる現場は理想だ。

    職場体験後に体験先から返される職場体験・評価表に、
    『斗羽風汰君の評価は、上記にあるような項目ではうまくお伝え出来ません。』
    という文言とともに、風汰が見た年中組の子どもたちの絵が送られてくるシーンは泣けた。みんな風汰と子どもたちが楽しく遊んでいる絵を描いている。
    やっぱりこの園長先生はすごい。
    そして絵の中で、担任に「前髪が長すぎるから切れ」と言われていたのに、切らずにちょんまげに結って職場体験をしていた風汰の姿が描かれ、ちょんまげがバレて担任に怒られるというラストまでの流れがきれいだ。

    話の展開としては読めるし目新しい感じはしなかったが、最後に泣かされたので☆4になりました。

  • 「エンジェル保育園」に職場体験に行くことにした中学2年生の斗羽風汰

    「保育園って、おまえが?」
    「大丈夫っす。オレ、親戚のおばさんに、五歳児と考えること一緒だって言われたし」

    心配する担任をよそに、態度も言葉づかいも長い前髪もそのままに、風汰の5日間の職場体験が始まる

    西本園長にあたたかく迎え入れられた風汰は、四歳児担任の林田に教えられながら、仕事・保育・親子関係……の難しさ、たいへんさ、おもしろさにすこしずつ気づいていく

    「お疲れさま。五日間、どうだった?」
    「みんなすげーって思った」

    拾った子犬とまーくんセンパイがスパイスに効いている中学生の等身大の物語

    《成長物語という大それたものではないけれど、風汰自身に「気づき」はあったのかな、と思います》──著者特別インタビュー

    『日本児童文学』2017年1-2月号から11-12月号の連載に加筆、2019年2月刊

  • 中学生だからこその正義感が眩しい。

    中学生にはできないこともちゃんも分かっているのが良い。
    無理に何か解決しないところがすごく良い。

  • 主人公は、ちょっとヤンチャな中2男子。
    楽だろうという理由で職場体験先を保育園に決める。

    「そんなことはないよ」と私は突っ込む(笑)

    話の展開は、「まあ、こんなのかなぁ」と読み進めて行ったけど、ラスト周辺うかつにもほろっときてしまった。

    ちなみに、
    我が家長男の職場体験先は、「サ」から始まるファミレス(笑)
    長女は花屋さん♪

  • 子供と遊んでるだけだから楽そう、との理由で職業体験で保育園を選択した主人公。課題図書とのことで中学生にとってとっかかりやすい読みやすい文体ながら、結構シビアな事も書かれている。いとうみくさんは子供~YAにとって素晴らしい読み物をたくさん書いてくれていると思う。

  • 『感想』
    〇自分と違う人との出会いは財産。歳をとると新しい出会いが億劫になるけれど、そこから得ることで自分が更に成長できるはず。新しい世界に足を踏み入れてみようかな。

    『フレーズ』
    ・人と人とが出会って、そこからなにも得るものがないなんてことはないでしょ。子どもたちにとっても、体験に来る中学生にとっても、それにわたしたちだって。(p.80)

    ・平等って全員に同じことをしてあげることじゃないと思うの。一人ひとり、その子にとって本当に必要なことをしてあげる。それでいいと思うのよ。(p.140)

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。『糸子の体重計』で日本児童文学者協会新人賞(2013年)、『空へ』で日本児童文芸家協会賞(2015年)、『羊の告解』でうつのみやこども賞(2019年)『朔と新』で野間児童文芸賞(2020年)、『きみひろくん』でひろすけ童話賞(2021年)、『あしたの幸福』で河合隼雄物語賞(2022年)、『つくしちゃんとおねえちゃん』で産経児童出版文化賞(2022年)を受賞。そのほか、『かあちゃん取扱説明書』『二日月』『チキン!』『カーネーション』『ぼくんちのねこのはなし』『よそんちの子』など、話題作を多数発表している。全国児童文学同人誌連絡会「季節風」同人。

「2022年 『バンピー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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