いばらの髪のノラ 世界の器 (III)

  • 童心社 (2024年8月29日発売)
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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784494028450

作品紹介・あらすじ

ノラに〈黄金の心臓〉を手に入れることはできない。だから、棲み家にも帰れない。棲み家にいても、地面の上でも、だれに会ってもノラは、失敗することしかできない。心臓が暴れている。こんなにおどろきつづけているのだから、とっくに魔法は起きていていいはずだった。けれどもノラの心臓は、まともに脈を打つことすら、できないでいた。起こりかけてはねじまがり、消えてはよみがえる魔法が、ノラのなかで行き場を求めて吹き荒れる。
「……ああああぁあ」地面に顔をすりつけて、ノラは泣いた。涙で魔法がみんな溶けてしまえばいいと思った。そうすればもうノラは、どこにも行けなくなる。なにも望むことができなくなる。(ごめんなさい。最初から、なにもほしいなんて思わなければよかった。なんにも、しなければよかった)棲み家の北の塔で、じっとしていればよかった。足首の鈴が鳴ることがないように、じっといつまでも、息をひそめていればよかったのだ。そうしたら、なにも起こらずにすんでいたのに。
……大きな魔法が働いて、ノラたちは〈あかつきの町〉の僧院にいた。言葉を話すゾウたちの僧院で、ノラは父の墓と、父が書き残した本がここにあることを知る。この町は、神炉の火をたくわえる研究をしていた人間たちの町だった。図書館で父の本を見つけるが、書かれていたことに打ちのめされるノラ。
――ノラ。すべての魔女は、世界の器になる。器が必要になろうとしている。
おだやかなのに、その声はとても厳しかった。その響きは似ていた、〈ラ〉に、セムに、キサラに、ミダに、ホゥカに、ウラナさんに。たくさんの声に似ていて、けれども、だれとも似ていなかった。
――あなたの歩いてきた世界の入れ物に、あなたはなる。その器が、世界を新しくする。
どういう意味なのか、ノラにはわからない。ただ、知らない響きのその声が、苦しくなるほどなつかしかった。
――さあ、行かなくては。
ノラの肩を見えない手が押す。その力は、悲しくなるほどかすかだ。
食べものをもとめて暴走する神炉は、〈あかつきの町〉を破壊しながら、ゾウたちの僧院をめざす。生け贄になることから逃げ出した男の子・モモがいるのだ。リンゴはモモを守るために、神炉の前に立ちふさがる。そして、神炉は光の束となってリンゴを取りこんでしまう。リンゴは神炉に食べられてしまった。絶望するノラだが、シュユ・シンの助言により、リンゴを助けるためのただ一つの方法を選ぶ。
人間が飼いならすことはできない神炉。もう、神炉がいない世界を選ぶことはできない。でも、魔女が再び地上に戻り、人間と力を合わせることができれば。人と魔女がもう一度、話し合いを重ねながら、共生の道を考え続けることを始めよう――魔法の力をすべて失ったノラは、リンゴとソンガ、三人の姉たちと、再び旅を始める。地上で出会った人たちに、自分が何を見て、何を考えたかを伝えるために。それこそが魔女の仕事なのだ。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ最後巻。
    「あかつきの町」に来たノラたち。
    この町には、かつてノラの父が住んでいて、書き残した本があった。
    ノラは「黄金の心臓」を自分のものにして、一人前の魔女になれるのか。

    仄暗い印象の1、2巻に比べて、光が差し込んで少しずつ明るくなっていく3巻。
    だけど決して光いっぱいの世界にはならない。
    それは私たちの世界も同じだ。

    泣き虫のノラがどんどん強くなっていく姿が素敵。
    リンゴはやっぱり物語の希望だった。
    ただただ厳しいと思っていた3人の姉たちが、実はノラを大切に思っていたことがわかってホッとした。

    自分たちの過ちではないけれど、たくさんの人のために、世界のために、次世代のために重荷を背負って、課題を解消しようと覚悟して生きていく登場人物たちは尊い。

    神炉はまるで原発のようだ。
    人間が手にして良いものなのか。
    改めて考えさせられた。

  • 図書館本。佳境に入ってきた。3人のお姉さん達は悪い魔女じゃなくて良かった。

  • 最後の最後に落ちこぼれの魔女ではないことやお母さんが亡くなった原因がノラではなくココのせいだと知りココに謝る場面が読み終わってからすごく心に残った。

  • シリーズ最終巻。
    ノラたちは目覚めたら見知らぬ場所にいた。そこはかつてノラの父がいたという〈あかつきの町〉で、ゾウのいる僧院で保護される。

    リンゴのこと、黄金の心臓とは、ノラの姉妹たちとの関係性、神炉について、謎がどのように解かれるのか。
    出来損ないと思っているノラが自分の魔法と向き合うのかが焦点の今作。
    最初に抱いたノラの希望とは違ったけど、魔女として大きなことを成し遂げる勇敢さ、友情、姉たちとの関係の変化が見れたし、人間と魔女の関係もこれから改善されるかも…といった良い終わり方だったと思う。



    最終巻まで読んでみて自分には合わなかったなと感じた作品。
    なおく、まといつく、あとじさる、といった常用されない言葉や言い回しが時々出てくるので読んでいてなんかとても気になってしまった…。

  • 3巻まで一気読み
    このワクワクを楽しめるのでファンタジーはやっぱりいい
    大きな役目と運命を自分で選ぶノラ
    陰日向に助けるタタン
    ノラ大好きで超然としてるリンゴ
    アニキとして最高のソンガ
    実は愛情深かった姉たち
    いやでもお姉ちゃんたちさ、実はノラ大事とか言ってるけどそれならもっと最初から優しくしてて欲しかったな
    もちろんそれじゃ話が始まらないんだけど
    神炉も可哀想な存在だよ

    私の頭が固いからか、終盤何箇所かで展開されてく場面が分かりにくかったり、必然性が感じない部分があったかな

  • 黄金の心臓を手に入れ、ちゃんとした魔女になるためノラは人間の住む地上に降りる。
    火を生む神炉。時に制御できず暴れ、治めるために生贄を与える。そんな世界のために厳しい状況や描写も多くなるが、全体を包むのは暖かな感覚。
    それはいつも失敗ばかりすると自分を責めながらも、懸命に前に進もうとするノラの姿に起因するのかも。そんなノラを支える人、見守る人、ノラだから為し得たこと。
    大きな力に助けられながらも翻弄される。その力を手放すことができるのか。作者が別作品でも描いたテーマが、ここにも貫かれている。

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著者プロフィール

1984年、兵庫県生まれ。児童文学作家、日本児童文学者協会員。「雨ふる本屋」シリーズなど児童書のジャンルで活躍する中、2018年に冒険ファンタジー『火狩りの王〈一〉 春ノ火』を刊行、同作は全5作のシリーズとなりのちにアニメ化するなど大きな話題となる。他の著書に「すすめ!図書くらぶ」シリーズ、『魔法の庭へ』『日曜日の王国』など多数。

「2023年 『ネバーブルーの伝説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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