駅・まち・マーケティング 駅ビルの事業システム革新

  • 同友館 (2017年11月8日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784496053030

作品紹介・あらすじ

駅ビル生成・発展の軌跡と、商業空間としての駅ビルの魅力・可能性についてJR駅ビルの実際例を参照しながら解説する。雑踏の中のワクワク装置、「駅ビル」の仕組みを徹底解明!

感想・レビュー・書評

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  • 普段何気なく駅ビルを使っており、百貨店やSCと何が違うのだろうと思って購入しました。
    駅ビルは百貨店と異なり、鉄道系の会社が運営している施設で街開発の事業の1つとして行われております。その性質には立地創造型と立地深耕型に分かれており、街に与えるインパクトとコンセプトが異なります。創造型は都心に大きなインパクトを与えることを目的とし、10~20年スパンで計画されます。建設される建物周辺の施設や領域に補完性を持たせること、つまり足りないものや集客力の強いものを建設する型です。一方、深耕型は駅ビルの建物について考えており、創造型よりミニマムな建物です。例えば、アトレという東京中心に展開しているJRの駅に直結している商業施設が該当します。本書ではアトレ恵比寿店の事例を用いて駅ビルについて述べています。郊外のショッピングモールや百貨店と異なり、ふらっと立ち寄ってみる消費者(流動客)が多い中、どのように施設を配置していくか、建築のデザインはどうするのかなど様々な要因を掛け合わせてアトレ恵比寿店が出来上がっています。

    このように少し読むだけでも駅ビルをひとくくりにできないことが分かりましたし、建てる目的が大きく2分割されることが分かりました。
    百貨店は各テナントが百貨店のブランドを借りてスペースを確保するスタイルです。つまり、百貨店にとっては各テナントからもらうフィーだけでなく、ある程度ブランドがあり、少し高級な価格帯で百貨店のブランドイメージも損なわないことが重要です。しかし、駅ビルや駅近くのSCは都市開発事業の1つとして行っているため、いかに集客ができるか、テナント料を支払ってもらえるかに重きを置いている気がしました。

  • 近年成長が著しく、今やブランド化し成熟化しつつある「駅ビル」事業のビジネスモデルを取り上げる。彼らが菌年、伝統的な百貨店や総合スーパー、ファッションビルではなく、独自の価値を顧客へ提供し、収益を上げ、どのようにしてビジネスモデルを確立しえたのか。
    そこには、駅ビルが単に「交通」と「商業」をつなぐための単なる道具ではなく、「まち」に向けて開かれた1つの装置であることがわかる。

    第 Ⅰ 部駅ビルとは何か?_その発展の系譜と内実
    第1章 駅ビル形態の発展史
    駅ビル:駅に隣接した商業施設 × 床を仕入れる(商品ではなく)不動産業 × 複数ショップを集める集積事業
    日本の鉄道企業は諸外国と異なり、自立採算経営を取ってきたという大きな特徴がある。
    インフラでありながら、鉄道は旅客機やバス、乗用車など代替手段が多く、競争が激しい。

    商業施設の1つのモデル ローコストオペレーション
    例:「どこよりも良い品を どこよりも安く売る」阪急百貨店の大方針
    なぜ、それができるか。経費がかからないからである。
    広告費が少なくて済むから
    現金売を主にしているから
    外売をしないから
    遠方配達の経費も省けるから
    阪急電鉄の副業であるから
    家賃がいらないから

    第2章 駅の構造と商業の関係

    第3章 駅ビルビジネスの内実
    SCとは、デベロッパーによる床貸し業態である。
    テナントから賃料を得るもので、自ら商品を仕入れ売る百貨店とは異なる。
    人工的な計画の元にテナントを誘致するもので、自然発生的な商店街とは異なる。

    お客様の吸引集客は、商業施設の面積に対して正比例、時間距離に対して反比例の関係。「ハフモデル」
    施設に近いほど、食料品などの生活必需品、買い物頻度の高い「最寄り品」を購入する。たとえ中心から離れていても、高級品や嗜好品など「専門品」「買回り品」は影響を受けにくい。
    「物言う大家」ではあるものの、商売の中身までは命令できない関係にあるのがSCの難しいところ。
     SCが統一的意思を持って、テナントの参画により物件を盛り上げていく存在であり続けるためには、テナント会は不可欠な組織である。
    しかし、会議の形骸化や、スピード感の不足など課題も多い。
    郊外型SC売上 ¥61,000 × 4~5万㎡ = 300~500億
    駅ビル型SC売上 ¥203,000 × 1.5~2.0万㎡ = 300~500億

    SCの強みの一つは臆面もなく、あらゆる人気ブランドをテナントショップとして入店させられること。ショッピングに限らず、託児所や映画館、フットサルコートでも良い。

    第4章 「立地創造型」駅ビルの展開 
    〜 JRタワーとJR博多シティ 〜
    立地創造型とはエリアに大きなインパクトを与える都心再開発型の駅ビル。10~20年スパンで計画される大型の複合開発であり、顧客ターゲットも広範囲に及ぶ。乗降客数は30万人/日クラス、設定商圏は250万人クラスの広域商圏(半径50~100キロ+鉄道移動に依存した時間距離)を設定しており、地方大型都市駅ビルの市場成立規模を表しているようだ。
    フルライン・フルターゲット化を目指し、複数のライフスタイルを並存させ、相互に補完する。

    オーソドックスで保守的であるかもしれない。中長期的な事業計画を土台にもつ骨太のダイナミックなマーケティングであることは間違いない。
    MD構成およびリーシングを決める場合には、後ろのステップから前のステップへ何度も回帰していることがわかる。この試行錯誤、思考と再思考の連鎖がまさしくマーケティングの醍醐味であり、駅ビルの成否を分ける重要な意思決定である。

    ★「駅は都市の記憶装置」駅は日常と非日常が交差しながら、出会いと別れ、久しぶりに降りたった時の記憶などを思い起こさせる装置。そして、「商業空間」という時代の流れの中で常に変化によって鮮度を保つ部分と、公共空間としての普遍性によってデザインされたヒューマンスケールの「駅空間」という部分が同居するのが駅ビルである。
    「都市の記憶装置」であるべき駅空間と、相反するゆう「物流装置」たる商業をいかに共存させるか、という注力するため、JRタワーではアートワークに力を入れた。 一見、商業とは無関係かもしれないが、まちづくりの観点から見れば、そこにはキオクのフックとなるような要素がたくさん組み込まれている。 彫刻や壁画などを含め、来街者の印象、記憶に残るアート作品群がそこかしこに散りばめられている。 変化と普遍性とのバランスを駅ビルが体現しているのである。 この公共空間のデザインは、「立地創造型」駅ビルにとって不可欠な要素である。

    ★第5章「立地深耕型」駅ビルの展開
    〜アトレ誕生と駅ビル形態の確立〜
    立地創造型と比べ、小規模かつ複合性の難しい駅ビル。また、市場の変化が激しく、近接する駅ビルとも激しい競合環境にある。

    流動客をターゲット パッチワーク型MD
    過去の経験に照らして、想定する行動をイメージする。例えば、パンを食べるなら、ワインを飲みたいだろう。洋服もすっきり着こなしたい。そのようにして、連想される商品群を繋げていく。

    「ファッションゾーン」など専門ゾーンを設定しないことで、飽きさせない、連想させる。1万㎡程度であれば、5-7分で見て回れてしまう。何が中に入ってるか、把握されないことも重要。

    アトレは〈舞台〉お客様は〈観客〉ショップは〈役者〉。ショップに商売に専念してもらうために、アトレカードによる顧客情報を提供や、迅速な施設管理を行うことで、売上を上げる手助けをする。
    伝統的なSC事業システムからの変化。

    常に市場は、新たなブランドを待望する。テナントに、館としての「市場の変化」を知らせる(新しいブランドの誘致、売上不振のテナント救済、時には退店してもらう)こと、ブランドの成長段階がどこにあるのかを理解してもらうことがデベロッパーの大切な仕事。

    「アトレ化」は事業システム(結果)としての、ひとつのパッケージである。そのパッケージに詰め込まれているのは「名店会方式の廃止」「定借化」「賃料の総合化(共販の賃料一本化)」「デベロッパーのテナントへの情報提供」といった様々な要素(サブシステム)だ。
    「名店会の廃止」を否定する論理とは。それは、アトレが「同心円商圏」ではなく、常に揺れ動く捉えどころのない「流動客」の商圏であるから、この変化という情報をデベロッパーが掴んでテナントへ情報提供しなければならない役目がある。名店会主導の会議の合議を待つより、デベロッパー主導のマーケティング対応のスピード感のほうが駅ビルしょうけんの市場競争の激しさからすれば、不可欠なのである。

    アトレに求められるのは、洋服への関心よりむしろ、ライフスタイルへの関心であろう。ナチュラルビューティーベーシックとスターバックスの相乗効果を語れること、すなわちカテゴリーを超えた発想を持つことのできる人材が不可欠。
    テナントには、接客方法の押し付けは避け、個性を自由にさせるほうが良い。店員さんの個性に共鳴して、お客様は楽しさを感じるだろう。大切なのは接客技術ではない。店員、お客様相互の共感的な姿勢である。

    あくまで、駅ビルはオープンな空間でなくてはならない。その透過性を増していくことで、よどみなく顧客は流れていく。まちへ湧き出していくのである。

    6章 まとめ
    無目的な乗客をお客様に変える、駅を「管」→「器」に変える。そのための動線の結節点と目的を作る。

  • atreのことを具体的に取り上げている。一見すると、駅にSCが付随しているだけに思えるが、各駅を利用するユーザーの特徴に合わせ、それぞれの館のマーケティングを変えている点が分かった。

  • 博士論文をもとに書いているらしいが、具体的なエビデンスが不足しており、経済学の博士論文はこの程度の実証でよいのかという感想を持った。

  • 2019.01.16 よく調べられていて正直丁寧な仕事だと思った。素晴らしい。足で稼いでいる点は本当に素晴らしい。

  • 商業施設で世の中の25%相当の消費がなされている。(約31兆円)
    地方は駅に集客することが難しいとも思われるが、主要ターミナル駅では大型開発が進んでいる。

    顧客接点を持ちやすいという優位性を活かしながら、キチンと顧客を知り、自社に囲い込むことだけを目的とするのでなく、周辺地域を活性化させるのに一役も二役も買える存在になれると。
    全国津々浦々で実現可能な話ではないが、ECでなんでも簡単に比較して購入できる世の中において、体験と合わせて顧客価値を創造している小売店の集積に加え、施設としても同様の価値を提供すると確かに集客力が高まるだろう。

    しかし、世の中の全てのデベロッパーがそういう思想ではなく、右に倣えというわかりやすい展開をしているので、正直最近のSCはどこに行っても同じと感じる。
    嫁さんなんかはポイントが今日は5倍だからこっちのSC、今日はこっちと使い分けするし、乱立して価値を無くしちゃうのは残念。(人波に揉まれるくらいならネットで買っちゃう方が楽)

    新たな価値、驚きを創造し続けないと、すぐに見向きもされなくなるし、すぐに真似されちゃうし終わりなき戦いですが、その繰り返しで便利な世の中になっていけばいい。自分も少しでも貢献したい。

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著者プロフィール

阪南大学流通学部准教授・博士(経済学) 1972年愛知県生まれ。博士(経済学)、修士(法学)。SC 経営士・1級販売士・商業施設士。2008年に名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。流通・小売マーケティングとビジネスモデル論を専攻。百貨店、ショッピングセンターを対象とした研究を中心に行なう。1999年に JR系百貨店に入社し、百貨店の開業準備業務及び運営業務を行なう(その間、グループ会社の百貨店、商業デベロッパー会社に研修出向)。その後、2011年よりショッピングセンターの新規事業開発に携わる(7年間の開発・運営業務)。20年間勤務ののち退社。2019年より福山市立大学都市経 営学部准教授を経て、2022年4 月より現職。百貨店小売実務・商業不動産実務に明るい。著書に『駅・まち・マーケティング-駅ビルの事業システム革新』(同友館)がある。

「2023年 『小売業と不動産業の境界領域に関する研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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