実践CVC 戦略策定から設立・投資評価まで

  • 中央経済社 (2018年10月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (252ページ) / ISBN・EAN: 9784502281419

作品紹介・あらすじ

イノベーションを実現する投資手法の1つであるCVCの実践のしかたがわかる。ニコン、オムロン、朝日新聞社、富士通、テックアクセルベンチャーズによる具体的な取組事例も紹介。

感想・レビュー・書評

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  • 【第3章 コーポレートベンチャリングの設計】
    〇3-1 スタートアップ投資スキームの実務N81
    ・スタートアップ投資スキームを構成する4要素としてまず検討すべきことは、投資に対してCVC子会社を介在させるか否か(図表3-1N82の縦軸構成要素1)

    ・次に大きな論点としては、社外のVCと連携した投資スキームを選択するか否か(図表3-1N82の横軸構成要素2)

    ・投資ファンドを介したスキームを選択するか否か、選択する場合に、大企業グループ企業以外からのLP出資を受けるか否か(図表3-1N82の横軸構成要素3・4)

    ・このような4つの要素それぞれに対してどちらか一方を選択した組み合わせが論理的に導かれるスタートアップ投資の10スキーム
     ←CVC活動は、投資を本業としていない大企業によるスタートアップ投資である点を勘案すると、大企業自身が直接参加に投資ファンドを宇運営することは想定されないため、それを除く8つのスキームがスタートアップ投資の選択肢となる

    ・投資スキームの評価条件は10の基準にまとめられる(図表3-2N83)
     ←CVC活動、特に投資活動を成功させるために満たすべき10か条ともいえる

    ①意思決定の柔軟性
     柔軟な意思決定は軌道修正を可能にするだけでなく、様々な選択肢を吟味することであり、スタートアップ企業の可能性をゼロベースで議論することにもつながる
     ↓↑
     自由度が高まることで議論の発散を招きがち
     ↓
     仕組みの中に議論の収束を織り込むことが不可欠

    ②PR力
     大企業がスタートアップ企業への投資、連携活動にコミットする姿勢を対外的に明示することで、スタートアップの情報が集まりやすくなり、連携を図りやすい環境を整えることができる

    ③外部ノウハウ活用の容易性
     CVC活動は大企業同士の連携とは異なる固有のノウハウを必要とする。
     外部の専門的ノウハウへのアクセスを確保することが求められる

    ④人事・報酬制度の柔軟性
     大企業には固有のノウハウを有する人材を評価し、成果に応じて報酬を支給する人事制度がないケースが多い。
     CVCに必要とされるノウハウを得るために、こうした専門知識に明るい人材を評価し、推奨する人事・報酬制度の構築が望まれる

    ⑤資金調達能力
     自社の資源に限らず、外部からの資金調達も利用することで、より広範囲のスタートアップ投資を可能とする体制構築が求められる

    ⑥スタートアップ企業の自由度
     スタートアップへの投資や支援が、当該スタートアップの事業に対する阻害要因となったり、特に彼らの潜在顧客から見て事業に影響があるとみなされたりしないよう注意が必要

    ⑦事業部連携の容易性
     通常CVC担当者は企画部門や投資経験のある人材。
     ↓↑
     CVC活動で最終的に戦略リターンを最大化するためには、技術や事業に精通した事業部のノウハウが不可欠
     ↓
     CVC活動組織と事業部が連携してスタートアップ企業を支援する体制を構築することが必須

    ⑧リターン創出機会の自由度
     スタートアップ企業に対する投資から最終的に戦略リターンを得るまでの時間軸は中長期的にわたるため、なるべく時間的制約にある程度の柔軟性をもってポートフォリオを組む仕組みが必要

    ⑨組織運営コスト
     専門組織の組成後、活動を開始しての数年間は財務リターンが見込めない状況が続く。したがって、CVCの目的に照らした主体組織の組成と税金を含めた運営コストの抑制を検討しなければならない

    ⑩リスク/株式管理
     スタートアップ投資に伴うリスクを可能な限り軽減する体制が必要
     ↓
     複数のスタートアップ企業を一元管理し、ポートフォリオ全体の状況をいつでも確認できるようしておくことも不可欠

    ・8つの投資スキームを評価する前に、各投資スキームを構成する4つの構成要素(意思決定)を成功10か条に照らして定量評価する(図3-3N87)
     ←成功10か条を基準にした各投資スキームの優劣を評価できる

    ・投資スキームを構成する4要素(CVC子会社設立、VC活用、ファンド活用、社外LP活用)の成功10か条に対する影響を把握する
     ↓
     4つの構成要素のいずれも、10か条すべてに好影響を与えることはなく、トレードオフが生じる(図表3-4N88)
     ←CVC子会社を設立すれば、意思決定の柔軟性、人事・報酬制度の自由度が高まり、スタートアップ企業に対するコミットメントが示される一方で、組織を分離するコストや、本体との連携の図りにくさが課題となる
      &
      VCの活用は、スタートアップ企業への投資・支援を専門としているVCのノウハウを活用できるため、投資のリスク管理が容易になる
       ↓↑
       VCは財務リターン重視の為、必ずしも戦略リターンに繋がる活動とはならない可能性がある
      &
      投資ファンドの活用は、資金調達能力に幅ができるだけではなく、投資した株式を一元管理しやすい
       ↓↑
       ファンドの設立・運営コストに加え、運営期間が設定されるために、投資期間内にリターン創出を実現しなければならなくなる
      &
      社外LP活用は、自社のみでは成しえない資金調達が可能であり、参画したLPの力を借りながらスタートアップ企業を支援できる
       ↓↑
       社外LPに対し投資先の状況や投資環境の変化を定期的に報告することが義務付けられる

    ・8つの投資スキームを図3-3の手法で定量評価したものが(図表3-5,3-6N89~90)
     ↓
     どのスキームを選択したとしても成功10か条のうちどれかが不足する(図表3-7N91)

    ★自社の組織の現状(特にケイパビリティの有無)を把握したうえで、選択するべき投資スキームを検討する必要がある(図表3-8N92)

    ・開始時点:LP出資からCVC活動スタート
     =投資領域が定まった後、VCが公募する投資ファンドに出資参画することで、スタートアップとの接点の持ち方、必要となるスタートアップ投資のノウハウを徐々に蓄積していく
     ←スタートアップの経営者とのミーティングアレンジや、スタートアップ企業の情報提供、VCへの出向者受け入れを特典として用意するVCもある

    ・進化1:投資実務をVCとともに行う
     VCと2人組合を形成した投資スキームに移行
     ←VCは投資ファンドのGPとして投資ポートフォリオの設計、投資実行、運用管理、スタートアップ支援、Exitを主体的に担うため、密に連携することにより、実務的なノウハウを習得できる
     →ここまでは今の状態でもある程度できているのかな。exit関係のノウハウが不十分か?

    ・進化2:スタートアップ投資を自ら担う
     いよいよ自社単独でスタートアップ投資(ソーシングから投資・運用、exitまで)を行う
     ↓
     VCやLPなどの外部の意向にとらわれることなく、より戦略リターンを強く意識した取り組みができるため、事業部との連携体制の構築が重要となる

    ・進化3:LPを活用した投資範囲の拡大
     自社の投資資源に加えて外部から調達した資金も利用することで、広範囲な投資が可能に
     ←投資実績として一定の成果を挙げていることが求められるため、最終的な投資スキーム

    〇3-2 コーポレートベンチャリング活動の推進体制
    ・先ずはイノベーション領域の特定(図表3-11N97)
     ←2章の通り。中長期にわたって活動する中で、常に立ち返る活動の根幹

    ・事業上、技術上の特性も踏まえながら投資・連携の仕組みを決定
     ↓
     戦略リターンと財務リターンをどの程度の期間でどのように実現するかを定め、目標実現に向けた投資プロセスの活動を定義していく
     ←投資検討時点における案件のソーシング手法
      &
      投資実行時点における投資意思決定プロセス
      &
      投資実行後のスタートアップ企業の支援やモニタリング方法
      &
      事業部との連携方法や、大企業側への報告頻度・内容

    ・目標と活動内容が決まったら、実行しうる組織の構築と、それに必要なリソース(主に人・金)を調達
     ←自社組織の状況(ケイパビリティ)を踏まえ、成功10か条に照らして投資スキームを決定する
     ←CVC活動の権限も重要な検討項目。投資・連携プロセスを円滑に推進する権限の設計と社内調整を図る
     ↓
     人については、各事業部門から技術人財の支援について確約を得ることや、投資実務の専門家を社外から招へいする取り組みを行う
     &
     金については、活動全体の必要資金の予算取りをするとともに、グループ会社にLPとしての参画を募ることも有効
     ←グループ会社には、CVC活動への理解を得るとともに、参画することの利点を明確に示す必要がある

    ・最後に必要となるのが、スタートアップ企業を探索するソーシングネットワークの構築
     ↓
     2つの方法がある
     ①自社が主体となって行う方法
     =自らがアクセラレータープログラムを立案・運営することにより、将来性があるスタートアップ企業を見出す
      ←プログラム期間を通じてスタートアップ企業の力量や自社の投資領域との親和性を、時間をかけて判断することができる
      ↓↑
      スタートアップ企業の参加数と質を高めるために、大企業によるサポートの他、参画スタートアップ企業に対する目利きが求められる
     &
     ②社外のネットワークを活用する方法
     ←さらに2つの方法に分けられる
      ⅰ)VCからの有望なスタートアップ企業の紹介
      ←VCの目利きによって、財務リターン創出の可能性が上がる
      &
      ⅱ)スタートアップ情報のデータベース提供会社の利用
      ←圧倒的に早く自社の投資領域に適合するスタートアップ企業に目星を付けることができるが、実際のコンタクトに近道はなく、直接コンタクトを取る必要がある

    〇3-3 ファンドスキームの選択と設立手続きN100


    〇3-4 CVC投資意思決定プロセスと投資基準の実務N113
    ・スタートアップ投資の投資意思決定プロセスは、3か月以内と早い
     ↑↓
     M&Aや設備投資の等意思決定は月1回の稟議を繰り返し行い、半年から1年近くをかけて決定されることもあるが、半年で状況が激変するスタートアップ企業のスピード感にはそぐわない

    ・スタートアップ企業は情報が少ないため、留意すべき事項は人物評価になる
     ←シード期では財務諸表すらそろっておらず、第3者による増資を引き受けようとするタイミングになって初めて本格的な事業計画を作成するケースもしばしば
     ↓
     将来的な成長性を測る時に、要になるのがスタートアップ企業をリードする起業家を含む経営陣
     経営陣の評価及び起業家自身による成長可能性の説明を受けて蓋然性を判断し、投資意思決定を下すことになる

    ・スタートアップ投資の流れ

    ・ソーシング情報の共有は週次で行い、投資候補となりうるスタートアップ企業の共有や本体との連携可能性を議論する
     ↓
     投資に値するか否かのDDの実施も検討され、DDの決定がされた場合はNDAが締結される
     ↓
     前述の通り、スタートアップ企業は情報が少ないため、情報収集の対象は、資金繰り表、社長や経営陣の経歴、顧客との契約書など(図表3-17N115)
     →こーゆーチェックリストは役に立つかもな

    ・これらの情報をもとにスタートアップ企業に対する投資の是非をプレ投資委員会で確認する
     ↓
     投資検討と併せて追加的に確認すべき課題が議題となる
     ↓
     CVC担当者が課題のフォローと投資委員会向けのプレゼン準備、投資委員会でのスタートアップ企業の社長との面談をアレンジする

    ・投資委員会では、DDで確認された内容に加え、最終的なCVCとしての投資意義も含めて調査する
     &
     スタートアップ企業の社長自らによる成長可能性についてのプレゼンを依頼
     ↓
     CVCとしての投資意義を投資委員会で再確認し、投資実行に移る
     ←投資委員会は、通常GPメンバー数名で構成される(図表3−19N116)
      GP責任者である社長、執行役員、役員に加え、外部出資者であるLPの管理者を意思決定権限は持たないオブザーバーとして加える程度
      CVCでは、関連事業部の責任者をメンバーとして意思決定に関与させるケースも

    ・スタートアップ企業の事業計画は、企業がどのステージにあるかによって達成見通しが異なる

    ・ステージごとに訂正情報と定量情報のいずれを重視するかも変わってくる(図表3−20N118)
     ↓
     投資基準は主に7つの構成要素(①経営チーム、②革新性、③市場性、④ケイパビリティ、⑤安定性、⑥成長支援可能性、⑦協業可能性)に分類される(図表3−21N119)
     CVC投資基準を設定する際には、7つの構成要素について検討し、投資目的などに応じて、構成要素のバランスを考える

    ・投資基準の関係を財務リターン・戦略リターンの観点から整理したのが(図表3−22N120)
     ↓
     財務リターンの確らしさ(スタートアップの成長可能性)の裏付けを検証するためには、まずビジネスアイデアを革新性、市場性、安定性の3つの視点から評価する
     さらに、ビジネスプランの実行可能性を検証するために、経営チームとケイパビリティ(経営インフラ)の2つの視点から評価する
     &
     戦略リターン獲得のためには、自社のリソースやアセットをスタートアップ企業に提供し、新たな価値を生み出す成長の支援可能性とスタートアップ企業が保有する技術やサービスを活用した協業可能性という2つの視点が重要になる
     ↓↑
     7つの要素は相互に保管関係にあり、投資目的との関係性はあくまで重みづけとしての考え方
     投資検討においても、投資の意思決定はこれら7つの投資基準の充足を個別にチェックするのではなく、総合的に判断される。経営チームの評価が極めて高く、その他要素の多少のマイナス面を考慮しても投資するべきという結論になるケースも

    ・事業ステージごとの構成要素の重みを示したのが(図表3−23N121)
     ↓↑
     財務リターンの比重が高いCVCである場合には、シード・アーリーステージの投資であっても成長支援可能性に関する評価の比重は相対的に低くなるなど、投資目的により構成要素との関係は変わってくる
     ↓
     シード・アーリーの企業評価に関しては、大半が赤字で、事業計画の実現可能性を期待させるような実績もなく、そもそも外部環境や市場ニーズに応じてその都度戦略を見直している
      ↓
      定量面の評価よりも、経営チームと革新性のような定性面の評価が重視され、ミドル・レイターステージに進むにつれ、定量面の要素も持つ市場性、ケイパビリティ、安定性といった評価項目の重要性が相対的に高まる
      ↓
      戦略リターンの観点からは、シード・アーリーでは事業会社のリソース、アセットの活用という成長支援可能性が重要視されるのに対し、投資ステージが進むにつれて、事業会社との協業可能性が重視される

    ・シード・アーリーステージの投資評価は革新性とそれを支える経営チームを見る

    ①革新性
     =協業他社と比べて、ビジネスモデルやアイデアに関し、新規性、優位性、模倣困難性、拡張性、および再現性の観点で強みを持つこと
     ↓
     スターとアップの経営者と面談すると「これは世界で初めての事業」とよく強調される
     ↓↑
     社会ニーズの変化や革新技術の結果、新しい市場が創出されるケースは多々あるが、市場に最初に参入することと、参入して勝ち続けることは異なる
     →先行者利益ってのもあるだろうけど、大企業がリソース投下したら後発でも顧客巻き取られそうだもんね
     ↓
     ここでいう確信性とは、人材や資金などの大資本を有する大手企業が当該市場に本格参入しようとしたとしても、最低2〜3年を要するという優位性を示している
     →コアコンピテンシーが簡単に得られるものではないということが大事なのか
     ←バイオ産業では知的財産権の保有がそれにあたるかもしれないし、IT産業では洗練されたビジネスモデルよりも、むしろアナログの泥臭い営業力こそが差別化の源泉にあたることもある
     ↓
     革新性の源泉を突き詰めていくことは、スタートアップ投資を行う上で非常に重要なポイント

    ②経営チーム
     ⅰ)経営チームの多様性
      スタートアップでは日々予期せぬこと(事業提携、資金調達、人材採用、オペレーションの構築・管理、クレーム対応、メディア対応など)が起こる。そのような課題をスピード感を持って解決するために、多様性のある経営チームの存在が不可欠
      ↓
      最近はプロダクトサービスを開発するエンジニアの不足が深刻な経営課題となっているため、投資を検討する際には、エンジニアの取りまとめを行う最高技術責任者(CTO)の存在を重要視する
     &
     ⅱ)経営者能力の評価
     ←シード・アーリーステージのスタートアップに投資をする上で、一番重要かつ一番難しい部分
      ↓
      実務では事前に経営者に関する情報を入手・分析したうえで、これまでの経緯や実績について直接ヒアリングする
      ↓
      これらの情報を踏まえ、各投資担当者のこれまでに実績や周囲からの評判を加味し、総合的に判断
      ↓
      当然ながら、投資検討時の数回の面談だけで経営者としての適性を判断するのは難しく、その角度をあげるためには、結局経営者と長く付き合う(何度も会う)しかないのが本音

    〇3-5 CVC投資の定量評価手法
    ・CVC投資の定量評価は、定量評価モデルのアウトプットに基づいて行われる
     ↓
     対象会社の事業計画や資金調達計画を定量評価モデルにインプットし、そのアウトプットとして投資倍率およびIRRが計算され、これらの評価指標がCVCの投資基準を充足しているか否かで判定される
     ←投資チームは当該計画の合理性及び蓋然性を検証する。対象会社の業績が計画通りとならない場合の投資資金の回収可能性を検討するために、感応度分析を行うケースも多い。

    定量評価モデルの機能
    ①投資実行以前
     投資額と財務リターンの初期的な評価
     対象会社による資金調達計画及び当該資金調達に基づく対象会社の株主構成(経済的持分比率)の確認
     対象会社との交渉を見据えたKPIの定量化及び財務リターンに対する影響の確認
     財務リターンの達成可能性に関するLP投資家への説明根拠

    ②投資実行以降
     対象会社の事業計画策定
     定量評価モデルで前提とした事業計画と実績との比較、および差異が生じた場合の要因分析(対象会社のモニタリング)
     対象会社で資金調達が必要となる場合における、当該資金調達の検討及び財務リターンへの影響分析
     exitが近づいた段階における最終的な財務リターンの計算

    ・定量評価モデルは、投資実行まではCVCが投資の合理性や妥当性を自ら確認する為のみならず、LP投資家に対して投資条件の合理性や妥当性を説明するための重要なツールとして機能し、投資実行以降は対象会社とのコミュニケーションツールにもなり得る

    定量評価モデルの構成
    ・一般にExcelファイルを用いて「インプット」「計算」「アウトプット」の3つのパートに区分する(図表3-24N127)
     ↓
     インプットのパラメーターを変更することにより、アウトプットに関する様々なシミュレーションを行うことが可能になる
     ←インプットは、主要な分類に基づいて個別の入力シートに入力する
      例えば、投資額、取得比率やexitに関する前提を1つのシートにまとめるとともに、事業KPIに関する前提は別のシートにまとめるといった形
     ←定量評価モデルの客観性を担保する観点から、インプットの根拠となる情報や前提条件の計算方法についても取りまとめておくことが望ましい

    ・定量評価モデルは、投資案件における財務リターン(投資倍率およびIRR)がCVCの設定する投資基準(ハードルレート)を充足するか否かを判定するためのもの

    ・財務リターンの正確な計算を可能とする為に、定量評価モデルは、投資実行時点からexitまでの期間(保有期間)をカバーする必要がある
     ↓
     通常はIPOまたはM&Aによるexitが想定されるため、保有期間は想定期間を用いる
     また、IPOまたはM&Aでexitする際の対象会社株式価値の計算方法といったexitに関する前提の設定も必要となる

    定量評価モデルのインプット
    ①投資額・取得比率
     投資額は対象会社の資金需要に基づいて設定されることが多い。
     ↓
     資金需要を1つの投資家が全額出資する場合もあれば、株主もバリエーションを増やしたいという対象会社の意向等に基づいて、複数の投資家が共同で出資する場合もある。
     ↓
     取得比率は財務リターンに直結するため多い違法が望ましい一方で、CVCのポートフォリオや対象会社への経営の関与(支援)度合い、既存投資家との持分のバランス等を考慮したうえで、当事者の交渉により決定される

    ②exitシナリオ・exit時の株式価値
     一般的なexitであるIPOとM&Aのどちらをメインシナリオとするかは案件によりさまざまかつ、実際にどちらの形でexitするのかを投資検討段階で予想することは困難
     ↓
     いずれのexit手段であっても財務リターンを計算できるようにしておくことが望ましい
     ←財務リターンはexit時における対象会社の株式価値の計算方法やCVCの持ち分比率等、CVCの回収額計算に関わる前提条件を設定する必要がある
      ↓
      exit時における対象会社の株式価値の推計方法(図表3-25N129)
      IPOの場合は、exit時における対象会社の純利益にPERを乗じて
      M&Aの場合は、exit時における対象会社のEBITDAに企業価値/EBITDA倍率を乗じることのよって算出された企業価値からネット有利子負債を控除する方法が多い
      ←exit時の想定PERや想定EV/EBITDA倍率は、客観性を担保する観点からBloombergやMergermarket等のデータベースから対象会社と類似する企業の取引事例を参考にする
     ↓
     exit時におけるCVCの持ち分比率は基本的には対象会社の資金調達計画に基づいて計算される。スタートアップは投資家から出資を募ることで資金調達する必要がある為、それによりCVC持分の希薄化を考慮する必要がある(図表3-26N130)
     ←対象会社の将来の資金調達が投資実行時点の想定を超える場合には、exit時点におけるCVCの持ち分比率が想定を下回る可能性がある為、投資検討段階において、対象会社の資金調達計画で想定されている金額に重要な不足が無いかを検証する必要がある
      &
      対象会社のマネジメントや従業員に対するストックオプションの付与が想定される場合は、持分推移の計算をするにあたって考慮する必要がある
      &
      M&Aの際に優先分配権(exitする際に享受できる財務リターンの株主間の配分に柔軟性を持たせるための仕組み)が設定されるばあいも、考慮が必要

    ③保有期間
     2章で述べたように、日本においてはシード・アーリーで5~7年、ミドル・レイターで1~3年。
     米国ではシードで7~9年、アーリーで6年、ミドルで5年レイターで2~4年。

    ④ハードルレート
     国内におけるVC・CVCのパフォーマンスを参考に検討
     ←CVCの投資倍率(回収額/投資額)は約2倍、IRRは20%(図表3-27N132)
      The World of Corporate Venturingが2016年に101社を対象に実施したインタビューでは、CVCのIRRの平均は10~20%となっている
     ←投資先のサバイバルリスク考慮後の数値である点に留意が必要
     ←スタートアップは投資回収不能となるリスクが高いため、CVCトータルで財務リターンを確保するためには、CVCが目指す全体としての財務リターンの水準に加え、スタートアップへの投資が失敗して回収できないリスク(プレミアム)をハードルレートに反映する必要がある
     ↓
     対象会社のステージや事業展開エリア(の成長性)により成長期待が異なるため、これらの要素に応じてハードルレートを設定する必要がある

    ⑤事業計画
     スタートアップの事業計画は右肩上がりで作成されていることが多いため、対象会社の業績が計画通りとならない場合は、定量評価モデルに基づいて計算された期待リターンをCVCが享受できない結果となってしまうため、計画の合理性及び蓋然性を検証
     ↓↑
     スタートアップは管理体制が不十分なため実績財務データが入手しにくいうえ、営業赤字であることも多いため、売り上げ高や営業利益の予測は難易度が高く、事業計画の検証は難しい
     ↓
     財務数値よりも事業KPIに注目して計画の妥当性及び蓋然性を検証していくケースが多い
     ←事業計画に関する不確実性の排除は困難なため、不確実性が顕在化した場合に定量評価モデルのアウトプットに与える影響を把握するために、事業KPIを変数とした複数シナリオを作成すして感応度分析を実施するのも有効

    ⑥資金調達計画
     事業計画に基づいて、必要な資金がすべてカバーされているように作成されなければならないため、合理性・妥当性を検証する必要がある
     ←資金調達の結果として生じるCVC持分の希薄化について分析できるものでなければならない

    ⑦税金
     インプットとして考慮するべき項目は下記
     ・CVCのexit時におけるキャピタルゲイン/ロス
     ・スタートアップの事業運営上生じる法人税等
     ・スタートアップの繰越欠損金

    ⑧為替
     対象会社が海外にある場合、また日本の企業であっても収入や支出に占める外貨の割合が高い場合は、インプットとして為替の前提を織り込む必要がある

    成長ステージに合わせた運用
    ・CVCの投資対象はスタートアップの為、必ずしも定量評価モデルに必要なインプット全てが入手できるとは限らない
     ↓
     ミドル・レイターステージにあるスタートアップは人的・資源的リソースが比較的整備されており、既存の投資家に対して財務数値や事業計画に関する報告を行う必要があることから、比較的情報は入手しやすい
     ↓↑
     シード・アーリーステージの場合は、事業の立ち上げが優先され、内部管理に要する人的・資金的リソースが十分でないことが多いため、CVCの投資検討段階では財務数値や事業計画を十分に入手できない場合が多い

    ・CVC側で根拠となる情報を収集したうえで定量評価モデルの前提条件を設定することも考えられるが、CVCのリソースにも制約がある
     &
     シード・アーリーは特に1件当たりの投資額は比較的少額
     &
     投資意思決定にはスピードが求められる
     ↓
     前提を一部簡略化するなど、柔軟性を持たせた運用が必要になる
     ↓↑
     ミドル・レイターステージへの投資は財務リターン獲得の比重が高くなるため、定量評価モデルに基づく評価の比重が高い

    投資倍率とIRR
    ①投資倍率=投資回収額/投資額
    ②IRR=(投資回収額/投資額)^(1/保有年数)-1
    ←投資回収額はCVCの持ち分比率を乗じて計算されるものとする
     利益は再投資されるのが通常である為、配当はないものと仮定
     回収額に生じる税金は考慮していない
     ↓
     IRRは投資期間が長ければ長いほど、CVCのパフォーマンスが低下する
     ↓↑
     財務リターンを通常のVCと同様の指標で評価するのは必ずしも適切とは言えない
     ↓
     長期保有が多いCVCではIRRを評価基準にするのは目的と合致しない
     近年は投資倍率が重視される傾向がある

    〇3-6 CVCを用いた投資スキームの会計上の論点

  • 著者はKPMG FAS
    実務的な設立までの手続き有。
    投資評価を事前に設定する点はファイナンスサイドから牽制にもなり、撤退ポイント等の設定でも有用か。

  • 実施というより、基本書。スタートアップ段階における資本政策的なアプローチがもう少しあれば尚良かったのに。それは続編かな。.

  • ちゃんと体制作らぬままに走ったところは抜け漏れの振り返りに使えるかも。体系化されていて学びはある。

  • 仕事関連で読書。教科書的に網羅的にデータも含めて掲載されており参考になる良著

  • ー 社会課題のメガトレンドを把握するためには、マクロ環境を分析する際のフレームワークであるPEST分析 (Politics: 政治、Economics: 経済、Society:社会、Technology:技術)が有効である。

    なお, PEST分析は各項目間の因果関係や時間軸が明確に考慮されないままに分析されるケースが多いため、PEST分析のフレームワークを改良したSTEP分析の活用が有効である。これは、社会課題を起点としてメガトレンドがどう変遷するかを把握するために、PESTをSTEPの順番に置き換えたものである。

    社会課題(Society)が発生すると、この社会課題を解決しようとする技術トレンド (Technology)が登場する。次にその技術トレンドが成り立つか否かの経済性トレンド(Economics)、つまり費用対効果の傾向が見えてくる。そして社会的に意義が高いと認められる技術であれば、振興政策(Politics)トレンドが現れる。爆発的に経済性が認められて行き過ぎれば、規制(Politics)という形で制限をかけるトレンドが生じてくる。 ー

    すごく分かりやすく詳しく整理されている。
    実践的で非常に参考になった。

  • CVCと呼ばれるコーポレートベンチャーキャピタルに関する概要本
    全体を簡単に理解するには丁度良い難易度
    アメリカでの事例と比較したりしてあるので
    理解はしやすいと思う
    中身に深さを求めるのであれば不要かと思う

  • コーポレート ベンチャー キャピタル
    事業企業によるスタートアップ投資

    スタートアップ投資スキームの実際
    定量評価手法はスタートアップ投資以外にも参考になる

  • CVCについてサラッと勉強するのに丁度いい。


    CVCとは、不確実性の高い事業(イノベーションの源泉)を複数管理することで、地の探索と知の深化を両立させ、イノベーションを創発する仕組み

    ◯投資タイミング
    ・シード: シリアルアントレプレナーが好まれる、技術の目利きができれば可能
    ・アーリー: プロトタイプ完成、量産化への資金ニーズ。大企業へ技術を提供し、ライセンスフィー・ロイヤルティを払う。
    ・ミドル: 運転資金、追加設備需要。大企業は事業リソース提供や協業。
    ・レイター: フリーcash flowプラス、いつIPOしようか。大企業は財務リターンを狙う。

    ◯リターン
    ・戦略: 技術、情報といった経営資源のの獲得
    ・財務: キャピタルゲイン
    ・戦略リターンを追求し、結果的に財務リターンを得る

    ◯投資領域
    1. 補完性: 自社製品への需要、または供給力が上がる
    2. 代替性: 競争関係にあり、成功するとこちらが食われる
    3. ディスラプティブ: 将来的に競争力が上がるかもしれない、でも読めない領域
    ・集中すべきは3
    ・一番は技術

    ◯ポートフォリオ
    ・M&AのようなIRR等の投資基準は合わない。
    ・分散投資し、ポートフォリオ全体での投資回収倍率を見るべし


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著者プロフィール

企業戦略の策定から、トランザクション(M&A、事業再編、企業再生等)、ポストディールに至るまで、企業価値向上のため企業活動のあらゆるフェーズにおいて総合的にサポートするプロフェッショナルチーム。主なサービスとして、M&Aアドバイザリー(FA業務、バリュエーション、デューデリジェンス、ストラクチャリングアドバイス)、事業再生アドバイザリー、経営戦略コンサルティング、不正調査等を提供している。

「2022年 『ROIC経営 実践編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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