日本型人事管理 進化型の発生プロセスと機能性

  • 中央経済グループパブリッシング (2006年7月4日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784502385506

感想・レビュー・書評

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  • 本書の狙い・テーマが最初に下記の通り書かれている。
    【引用】
    本書は、現代の(注:本書は2006年の発行なので、現代とは2006年のこと)日本型人事管理を、主として1980年代の日本とアメリカの「人事管理」の「様式化された事実」に対比させて、それがこの20年余りの間にどのような特徴を持つ形態に進化したのか、なぜそのような進化が起こったのか、またそのような人事管理は何ゆえに機能的でありうるのかを、ケース・スタディとサーベイ・リサーチによって探索的かつ実証的に明らかにしようとするものである。
    【引用おわり】
    実際に読んでみると、内容が、ここに引用した通りに、非常に学術的(表現も方法も)であることに気がつく。

    高度経済成長期から低成長期にかけて発展・完成した日本的雇用システムは、90年代以降の経営環境の大きな変化、具体的には、ICT技術の飛躍的な発展、および、グローバル化を受け、うまく機能しなくなった。更にバブル経済の崩壊、山一や拓銀・長銀の破綻等の日本企業の業績の低迷が重なり、企業業績・日本経済全体の低迷の主たる要因は「硬直的な日本的雇用システムのせいである」という主張が、90年代後半から盛んに行われるようになった。そういったことを受けて、例えば、リストラが進み、従業員の非正規化が進み、処遇制度の成果主義化が進んだ(その後、成果主義処遇制度は廃れてしまったが)。結果的に、それは、現在に連なる日本国内の経済的格差拡大のきっかけだったと言われることも多い。
    最初に引用した「本書の狙い・テーマ」を再度読んでいただくと分かる通り、本書は、経済低迷の原因が日本的雇用システムにあるとされていた時代を、冷静に振り返り、その間に日本の企業が取り組んだ人事制度改革の中身と、そのロジックをクリアにしようとしたものである。
    内容に頭を追いつかせるのが非常に大変な本であったが、「学問をする」というのはどんなことなのかが少し感じられた気がする。

    【2024年8月1日追記】
    研究内容の本論とは離れた部分で、筆者が書いている2つのことが興味深かったので、感想を書いておきたい。

    ■「まえがき」部分
    筆者は、人事領域を中心に小売業で20年余りのキャリアを過ごした後、アカデミアの世界に移り、本書執筆時点では神戸大学大学院の教授にまでなった方である。そして、その間に「実務世界と学問世界・・・・その仕切りの壁はかなりの程度厚い」との感想を得たと書いている。
    具体的に言えば、「洗練された分析手法を用いる学術論文や専門書は、実務の重要な問題を研究対象としているにも関わらず、実務家にとって容易に読了できる類いのものではない」し、「"良い理論ほど実践的である"にも関わらず、学問世界の成果が、その学術性の高さゆえに実務家との対話不能をもらたしているのだとすれば、それは”もったいない"ことである」と感じ、「実務世界の側から見れば、学問世界の成果が実践に十分に応用できているとはいえないのではないかという思いも募っている」ということである。
    私も、この4月から大学院の経営学研究科に進んだ。大学教授である筆者とレベルは天と地の違いがあるが、それでも、アカデミアの端っこに入れてもらった、研究者の卵の卵でもある。そして、筆者と同じようなことを感じている。
    私は現役時代は、人事の世界に長くいたのであるが、人事部の中で検討していることは、たいてい、アカデミアの世界では、既に研究をされている方がおられ、何らかの知見が蓄積されているものである。「人的資本」「コンピタンシー」「キャリア」「リスキリング」等、何でも良いので、Google Scholar で検索してみて欲しい。相当に多くの論文が書かれているだろうし、あるいは、専門書も書かれているかもしれない。
    そういった状況にあるにも関わらず、人事の実務では、それらに関連する施策や制度を導入しようとした際には、一から自分たちで考えるか、あるいは、理論的根拠の薄いハウツー本や雑誌の他社事例、あるいは、他社ヒアリング等程度を参考にするのである。学問の世界では、決着のついていることですら、そのようなことを行い、ある面では「効果がない」と立証されていることを、わざわざ実施したりもする。
    そういったことが多い、というか、アカデミアの世界の知見を活用しないのは、「もったいない」と本当に感じている。私が現役の企業の人事責任者であれば、常に1人は、大学院の人事管理等の研究室に人を派遣させたいと思う。

    ■「人事は流行に従う」ということについて
    もう一つ印象深かったのは、本書のP3以降に書かれている、「"人事は流行に従う"を超えて」という部分であった。
    企業の人事スタッフは、業績の良い他社の(アメリカの会社も含め)、あるいは、流行の人事制度(これもアメリカのものを含め)を学習・模倣して自社に取り入れようとすることがある。結果的に、人事管理の仕方が各社で似てくるということもある。例えば、かなり以前の成果主義人事制度であり、比較的最近であれば、コンピタンシーモデル等である。
    それは、一面では合理的な合同でもあるのだが、一方で、最も大切な「自社らしさ」とバッティングすることにもなりかねない。
    私も人事が長かったので、このあたりの事情は、目に浮かぶように理解できる。
    しかし、人事制度・人事施策は、「手段」であって、「目的」ではない。従って、まずは、自社の人事上の課題を把握した上で、「何を実現したいか」を考え、決める。その上で、それを実現する「手段」として、他社の情報等も参考にしながら、制度や施策を設計する。そして、人事にとってのステークホルダー、すなわち、経営陣、ラインマネジャー、労働組合、従業員と議論を重ねながら、制度・施策に「自社らしさ」を練り込みながらリファインしていくし、導入後も、現実を観察しながら、ステークホルダーとの議論を継続していき、リファインしていく。
    このようにして、「"人事は流行に従う"を超え」た人事施策・制度が出来上がるのだと思う。

  • む、難しい、、、

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著者プロフィール

大手前大学学長,神戸大学名誉教授

「2025年 『人事管理〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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