たかが会計 資本コスト、コーポレートガバナンスの新常識

  • 中央経済グループパブリッシング (2021年6月8日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784502385810

作品紹介・あらすじ

利益最大化企業は必ず倒産する―資本コストやコーポレートガバナンスについて日本人が知らない世界標準の理論・研究成果を解説し、「たかが会計」の重要性を明らかにする!

感想・レビュー・書評

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  • 自社の企業価値評価や、投資基準、BSマネジメントなどを考える中で資本コストについて色々な本を読んできたが、この本はこれまでとは違った内容で新鮮だった。
    (ただ文章は読みづらい)

    以下、気になった点
    ・変動する資本コスト
    ・ストック価格=期待フロー÷資本コスト
    ・実際のフローはそれほど変動しないのにストック価格は変動する
    ・投資家の効用関数に基づく資本コストが変われば、ストック価格は大きく変動する
    →WACCはあまり変動する認識はなかった。感応度分析でWACCを動かすことはあっても、ストック価格のように変動するものとは思っていなかった
    →ただ、WACCの変動の論拠として、筆者はストック価格の変動を上げているが如何なものか。感覚的には、期待フローの情報の非対称性とか人間の心理面が関係してそうで、WACCが変動すると言い切れるものかねえ


    ・企業価値を見積もるのは本来、企業ではなく投資家の仕事であろう
    ・推計した資本コストを開示することが…本当に企業がすることか?
    ・資本コストの変動は、市場リスクプレミアムの変動(マクロの景気動向に影響)によってもたらせれる
    ・経済全体に関わる要因を把握することについては、経営者が優位な立場にいるとは言えない
    →会社がどうWACCを捉えているか、それを前提としてどう企業活動を進めているか、というのは投資家にとって有益な情報では?WACCの正解を会社は出そうとは思ってないし。

    ・キャッシュフローを生み出す源泉が借方であり、それに対する請求権を表したのが貸方
    ・借方、貸方双方で測ってもキャッシュフローはおなじ
    ・借方の期待リターンと貸方の資本コストは同じ
    ・資産の入替により期待キャッシュフローが増えたものの、資本コストも上昇すれば、企業資産価値はそのまま
    ・新たな投資を行うに際して、資産構成変更前のハードルレートを基準に持ちることは経営者の判断を誤らせる
    →理屈は合っている気がする。。。


    ・企業の資本コストを推計するにあたっては、貸方からが通例。そのため、企業の資本コストがまずあって、それが投資のハードルレートとなると考えがち。しかし、概念的にはまず借方の資本コストがあって、貸方の資本コストはそれを反映する
    ・資産が入れ替えられると、資本コストは変化する。期待リターンの低下はそれ自体経営者が責められるべき性質のものではない。
    ・企業の資本コストは加重平均なので、全ての個別資産の資本コストが同じでない限り必ず資本コストを下回る個別資産が存在する
    →貸方から見た資本コストを企業が意識するのは、株主等の期待に沿えているかのチェックという観点であると思う。筆者は貸方と借方はバランスするから〜とそこを論拠に挙げて、あたかも唯一の資本コストがある、みたいな論調だけど、企業とか株主とかそれぞれに思う資本コストがあってそれをIR等で埋めていくことが実務的には求められている気がする


    ・企業の資本コストをハードルレートとしてIRRの高低で投資の可否を判断するのは極めて危険
    ・高IRR投資はハイリターンであるがハイリスクの投資なのである
    →そうだね


    ・株主資本コストは固定されており、株主資本と負債に組み合わせから独立していると見なすことは、根源的誤り
    ・企業の資本コストはしさんから決まっているので、レバレッジによって変えることはできない
    ・概念的には、株主資本コストと負債コストを加重平均したWACCが資産の資本コストによって決まった後、レバレッジの程度に応じてリターンとリスクがそれぞれ株主と債権者に割り振られる
    →つまりWACCを下げるべく、負債でレバレッジかけまくるのは誤りということ。それは納得。感覚的には理解していたが、良い根拠を得たと思う

    ・債権者と株主の両方に帰属するリターン(営業利益ベースROA)とWACCを比較する手法とみなせるEVA(経済的付加価値)は企業の投資パターンが安定している場合には、有効な手法かもしれない
    →別の本でもEVAが有効という記載があったな・・・。
     (ROAーWACC)×投下資本

    ・経営者は本来株主のAgentとして株主価値最大化に努めねばならないのに、かならずしもそうでない。情報の非対称性のもと、AgentがPrincipleの利益を犠牲にして自分たちの利益を優先する、Agency問題が根底にある
    ・独立社外取締役という別のAgentを加えると、なぜAgency問題が改善されるのか
    →確かに。社外取は女性比率等も気にしつつ、裁判官とか弁護士、会計士とかを登用したりするけれど、本当に価値を出しているのだろうか。Panasonicの社外取の富山さんのようなプロ経営者なら良いと思うけれど。そんな人材たくさんいないよなー

    ・ラドナーらの理論的研究によれば、企業価値最大化は倒産することなく生き残る確率を最大化するという意味での生存最大化と一致するとは限らない
    ・いつでも逃げ出せる投資家や社外取締役が、本当に長期的視野に立って考えることができるのか
    ・経営者は生存最大化を目指しがち
    ・投資家やその代表の社外取締役は、企業価値最大化を目指す
    ・余分な資金は持たず配当や自社株買いで株主に還元し、結果的に倒産確率を高めることになっても企業価値最大化を推進せねばならない
    ・適度に企業が潰れることは想定内の事態

  • 面白かった。
    会計学者として、ちょっと自虐的なところがあったりして。

    個人的に最も興味をひかれたのは最後の方に書かれている「事実と予測を分離」した「実測予測財務諸表」。
    単純な過去の事実と複雑な将来の予測を分けたらどうかという話。
    これができていたら、例えばグレイステクノロジーのようなことは起きないのかなぁなんて思ったり。

    この先生の授業を受けたことがある。
    ゲラゲラ笑える楽しい授業ではないんだけど、じわじわ染みてくるような面白さがあって、個人的には好きだったし、財務分析に興味を持てるきっかけになった授業だった。
    お元気だといいなぁ。

  • 浅学ゆえ著者の論考に対して批判的視点を持って読み進めることは叶いませんでしたが、主張をとりあえず受け止めるだけでも価値のある一冊でした。

    資本コストをB/Sの貸借で考える、すなわち借方の期待リターンに対する請求権として貸方の資本コストを捉える。これは、処理に偏りがちな会計学習とその学習者を基本に立ち帰らせてくれる重要な考え方だと思います。

    他にも読者に洞察を与えてくれる記述が多く、実務に携わる前に出会えて良かったと思いました。

  • 久しぶりに会計絡みの本を読んだ。
    社外取締役、経営者の株式報酬等昨今のコーポレートガバナンス改革の間違いを明解に指摘し、解説している。実績予測財務諸表というのも面白い。これなら会計士、税理士、国税職員も不要になる。

  • 本書は、コーポレートガバナンス・コードへの強烈なアンチテーゼであり、企画部門、IR部門に所属している方にとっては必読書。
    筆者は結論部分で「コーポレートガバナンス・コードとは、コンプライ・オア・エクスプレインというカタカナ語で偽装した(悪名高き)行政指導に過ぎない」と断言している。通読すれば、この主張が奇を衒ったものではなく、至極真っ当な論理で導かれていることが分かる。
    会計・経済関係の書籍を数多く読んできたが「爽快」と言っていい読後感を得たのは本書が初めてである。傑作。

  • コポガバ論、投資指標、割引率等に対する日頃のモヤモヤの理由を、理論的に解きほぐしてある本。それぞれの限界を理解して使うことに繋がる良書。

  • くだけた表現ではありながらも内容は難しく、久方ぶりに会計学の考え方に関する議論に触れられて、うれしく感じました。海外の流れから常に見積りのウエイトが増えてきたここ数十年の変化を振り返る意味でも、ご都合主義で適用される会計基準の存在などに首をかしげざるを得なかった人間として、楽しめる内容でした。国際社会における日本の学問の成果の主張は奥ゆかしく謙遜が過ぎると感じますが、学者の皆様には英文で積極的に発信いただきたいと思います。

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著者プロフィール

青山学院大学教授(大学院国際マネジメント研究科)。1962年8月、京都生まれ。東京大学法学部卒。カーネギー・メロン大学Ph.D.、米国CFA。専門分野は会計制度・情報の経済分析だが、歴史に造詣が深く、英独仏露西の各国語に堪能という能力を生かして、日本では知られていない最先端の歴史論文を精力的に読破。その成果を月刊誌『正論』に「世界の『歴史』最前線」として連載したものに手を加え、再構成したのが前著『日本人が知らない最先端の「世界史」』である。本書はその続編。単行本未収録の2編を新たに加えた。著書に『たかが会計』『会計測定の再評価』『鉄道は生き残れるか』(中央経済社)、『中国がうまくいくはずがない30の理由』(徳間書店)など、多数。

「2021年 『日本人が知らない最先端の「世界史」不都合な真実編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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