物価の歴史

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  • 中央経済社 (2024年11月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (212ページ) / ISBN・EAN: 9784502509612

作品紹介・あらすじ

現在の物価は適正なのか。これから下がるのか上がるのか。シンプルな問いであっても答えることが難しい物価について、有史以来の変遷を見つめ、その実態と展望を読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • インフレを抑制するために初めて徴税というものが行われる。だから税金は財源ではなく、先に国が発行した貨幣の調整機能なんだ。MMT理論に基づき消費税減税を訴える、ある党派の主張だ。

    「税は財源ではない」というのは理論的に一理あるが、現実的に「国債市場の存在」と「国家信用の仕組み」がその反証となる。財源でなければ、国債市場も、財政規律も、必要ない。しかし現実はそうなっていない。MMT的に税収を無視して通貨発行し続ければ、ジンバブエやベネズエラになる。

    MMTはエッセンスとして理解し、範囲を決めて通貨発行すべき。これを一点突破に勘違いさせる所に、その教祖、伝道者、信者たちの認知水準範囲のエコーチェンバー的な怖さがある。

    本書で物価の歴史を学べば、その機微が徐々に分かってくる。素晴らしい、良書だ。

    物より通貨が多ければ物価は上がる。通貨を発行すれば物価は上がり、減税によって需要が高まれば、さらに物価上昇が進む。賃金がそれに追いつかなければ、税というかたちでの負担が、物価というかたちに置き換わるだけで、国民の負担感は変わらない。財政支出が維持される限り、公共サービスや消費財の価格も上がり、それは税ではなく「対価」として国民に転嫁される。見かけ上の減税は、別のかたちの徴収に変わるだけである。

    政府が通貨を発行できても、その価値を決めるのは民間であり、市場である。市場が「価値ある」と認める条件は、政府の財政規律と徴税能力に他ならない。

    ー 内部貨幣は、個人や企業による貨幣需要によって決定されるのに対して、現代の外部貨幣は、それらの需要者の外で中央銀行により供給されるマネタリー・ベースに着目していると考えてよいだろ。現代の内部貨幣は、金融機関が借り手の資金無要に応じて、借り手の口座に記入する形で創造する預金に着目しているのである。この内部貨幣の淵源は、「商取引による資産の移転を住民の間の債権・債務として処理する」用取引であった。秩序が保たれた共同体では、資金の受渡しを繰り延べる用取引を活用し、外部貨幣の使用機会を節約できたのである。あえて、この段階でカネとは何かという2つの側面を整理したのは、兌換紙幣に至る経緯は外部貨幣という枠組みで理解しやすいものの、不換紙幣への転換や銀行システム、さらにカネの未来を見晴らす上では、内部貨幣という枠組みも並走させる必要があると考えたからである。カネといっても、紙幣(銀行券)や金属貨幣(コイン)だけではなく、信用に基づく債権債務関係も含まれている点は、頭の片隅に置いておきたい。

    ー まず小麦や牛といった商品貨幣の中では、より便利な決済手段である銀など(金属貨幣)が使用されるケースが増え、科量貨幣だけではなく、鋳造技術の発展により鋳造貨幣が使用されるようになった。その後、経済成長率の上昇に応じて取引量が増大して決済頻度も高まったため、量的な制約があった鋳造貨幣は、その金属含有量を減少させる貨幣改鋳が度々実施されるようになった。また16世紀の欧州の場合には、米大陸から大量の銀が流入したため、金属貨幣の量が急増し、この貨幣不足が一時的に解消された。この過程で大量の貨幣が経済社会に外部から供給されれば、希少性の観点からも財やサービスの価格が上昇するという関係が指摘されるようになった。これは、他の条件が変わらない長期では、「貨幣量が価格を決定する」という貨幣数量説についての議論である。この仮説が正しければ、物価は外部から供給される貨幣の量で決定されることになる。しかし、データの得られる13世紀以降のイングランドを中心とした物価の動向から確認する限り、一時的な影響はあったものの必ずしもこの長期での関係は成立していなかった。その後、印刷技術が発展すると、金属を節約する効果がある兌換紙幣も広範に使用されるようになる。戦乱や混乱期には、戦費調達のために金や銀との兌換義務のない不換紙幣が大量に発行された(アッシニア紙幣やグリーンバックなど)。このケースは、物価上昇と連動したため、極端な不換紙幣が大量に発行されれば、一時的に物価に影響したと言えよう。貨幣の供給量が急増した場合に物価が上昇するという貨幣数量説は、不換紙幣による極端なケースで一時的に発生したケースが多いのである。

    現代貨幣理論は誤りだと思わないが、貨幣数量説も誤っていない。ただ、都合よく理論を用いるのは危険だ。政策判断も投票行動も歪む。

  • 2025.03.17
    とても勉強になる一冊。
    物の見方に偏りがなく、物価の歴史とはいってもわからないというか蓄積のない要素が多々あることも丁寧に教えてくれる。
    しみじみと良さを感じる一冊。

  • 桃山学院大学附属図書館電子ブックへのリンク↓
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000178709

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  • 物価変動の長期サイクル:著者は、物価の歴史を数百年単位の超長期波動として捉え、「物価安定均衡期 → 物価上昇・変動期 → 物価安定化期」という3つの期間から構成されるサイクルが繰り返されてきたと指摘しています。
    物価上昇・変動期として、13世紀、16世紀、18世紀、20世紀が挙げられています。
    「13世紀以降の物価循環は、おおむね4つの超長期波動に区分でき、各波動は、それぞれ「物価安定均衡期 ↓ 物価上昇・変動期 ↓ 物価安定化期」という3つの期間から構成されると考えられる。」
    貨幣制度と物価の関係:本書では、商品貨幣から金属貨幣、兌換紙幣、不換紙幣へと変遷してきた貨幣制度が、物価に与える影響について詳細に分析しています。
    16世紀の価格革命では、新大陸からの銀の大量流入が物価上昇の主要因の一つとして挙げられています。
    兌換紙幣の導入は、経済成長に伴う決済手段の不足を解消する役割を果たしましたが、金本位制の崩壊や不換紙幣の登場は、物価変動の新たな要因となりました。
    「16世紀の物価上昇については、新大陸からの銀の大量流入(急速な貨幣量の増加)が物価上昇を発生させたとされることが多い。」
    人口増加と物価の関係:人口増加は、食料や生活必需品の需要を増加させ、物価上昇の圧力となる一方、労働市場を活性化させ賃金上昇を抑制する側面も持つことが示唆されています。
    13世紀の価格上昇は、人口増加によって苦しんだ庶民の状況を背景に議論されています。
    しかし、19世紀の産業革命期には、生産性向上により人口増加と物価安定が両立する現象も見られました。
    「18世紀の人口増加は、「食料、燃料、住宅、土地といった生活必需品でのコストプッシュ・インフレーション」として、長期にわたる物価上昇圧力として働いたのである。」
    戦争・革命と物価の急騰:歴史的に、戦争や革命は、物資の供給網を混乱させ、政府による不換紙幣の大量発行を引き起こし、急激な物価上昇(戦時インフレ)をもたらす要因となってきました。
    フランス革命時のアッシニア紙幣や、第一次・第二次世界大戦時のインフレ、そして日本の敗戦直後のハイパーインフレなどが具体例として挙げられています。
    「戦乱の深刻化で上昇する物価?増幅される戦乱と革命の嵐(第3の波)」
    「戦時インフレで苦しんだのは誰か?繰り返された物価急上昇」
    金価格と物価の関係:金は、歴史的に価値の尺度や貯蔵手段として重要な役割を果たしてきました。本書では、金価格と消費者物価指数の長期的な推移を比較し、両者が交互に優位となるパターンが繰り返されてきたことを示しています。
    ニクソン・ショック以降、金価格は市場の需給によって決定されるようになり、インフレヘッジとしての役割が注目されることもあります。
    「100年超の期間で両者の関係をみると、金価格が物価を上回る数十年と、逆に下回る数十年は、順番に繰り返し到来している。」
    実質賃金の重要性:物価変動が人々の生活に与える影響を測る上で、名目賃金だけでなく、物価変動を考慮した実質賃金の動向が重要であることが強調されています。
    古代バビロニアの時代から、実質賃金の変動は社会の主要な課題の一つであったと推測されています。
    日本の江戸時代末期以降の実質賃金の推移も、米価との関連で分析されています。
    「昔から実質賃金が問題だった?古バビロニアの物価変動と物価の長期循環」
    日本の物価史の特徴:本書は、日本の物価の歴史についても、無文銀銭の登場から江戸時代の金遣い・銀遣い、そして明治維新以降のインフレとデフレ、戦後のハイパーインフレまでを概観しています。
    江戸時代の貨幣改鋳は、幕府の財政状況や物価の調整を目的として行われたことが解説されています。
    日本のインフレ率は、歴史的に見ると、欧米よりも低い水準で推移してきたというイメージがあるかもしれませんが、社会の大変動期には急激な上昇を経験していることが指摘されています。
    「日本のインフレ率は定期預金金利よりも低かった?買うチカラとタンス預金」
    重要なアイデア・事実
    「カネ」「貨幣」「通貨」は、本書において区別して使用されており、「カネ」はモノ(財やサービス)と比較する際の尺度、「貨幣」および「通貨」は、交換や流通手段としての機能や国際的な決済制度を強調する際に用いられています。
    物価の変動は、消費者の購買力に直接的な影響を与えるため、住宅ローンや資産運用など、個人の経済活動において重要な知識となります。
    2%のインフレ率が適切かどうかという問いは、教科書では扱われないものの、人々の生活にとって非常に重要です。
    中央銀行は、物価の安定目標として消費者物価指数の動向を注視しており、金融政策の判断材料としています。
    物価変動を捉える際には、第二次世界大戦以降のデータは比較的容易に入手できますが、20世紀初頭以前のデータ収集は困難になります。
    金価格は、長期的には物価とともに上昇する傾向がありますが、数十年単位で見ると、物価を上回る時期と下回る時期が交互に繰り返されています。
    戦後の日本における大幅な物価上昇は、公定価格と闇価格の乖離からも明らかであり、庶民は戦時中から終戦後にかけて長期にわたり苦しい生活を送りました。
    1990年代以降の日本では、情報社会への移行とエネルギー需要の鈍化により、30年以上にわたり物価上昇率が落ち着いた「物価の凪」の時代を経験しました。
    日本の貨幣史は、古代の物々交換から始まり、無文銀銭、銅銭、宋銭などの流通を経て、江戸時代の金貨・銀貨・銭の使い分け、そして近代的な貨幣制度へと発展してきました。
    江戸時代の貨幣改鋳は、幕府の財政収入の確保だけでなく、物価水準の調整といったマクロ経済政策の手段としても用いられました。
    明治維新以降の日本の物価は、日清・日露戦争、第一次・第二次世界大戦、オイルショックなどの社会変動期に急激な上昇を繰り返してきました。
    第二次世界大戦後のハイパーインフレは、国民生活を極度に圧迫し、預金封鎖や財産税によって国民の金融資産は大きく毀損しました。
    オイルショック期には、インフレ率が定期預金金利を大幅に上回り、預金の実質価値が目減りしました。
    2020年代の物価状況は、数百年単位で見ると物価安定均衡期に相当する可能性がありますが、数十年単位の国際関係の悪化や通貨システムの揺らぎは、物価上昇圧力となる可能性も否定できません。

  • 配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
    https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=10282267

  • 東2法経図・6F開架:337.8A/H69b//K

  • 物価とは何か、そもそも通貨とは何か、物価がどう変動してきたか、変動の原因は何か等を主にイギリスの歴史をもとに分析、解説。

    それほど難解な説明ではなく、経済の素人にも理解可能。

    読了90分

  • 限られたリサーチデータの中で、物価と歴史というテーマを取り上げる以上、骨々とした解説に陥りがちな感もある。
    テーマとしては面白いが広げ方が難しいやもしれない。金利の歴史という類著にもそこまで手を伸ばさなくてもいいかと思ってしまう。

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著者プロフィール

東京海上アセットマネジメント株式会社 執行役員運用本部長
1989 年横浜市立大学商学部卒業、94 年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了、2018 年埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。1989 年大和証券投資信託委託入社、97 年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社を経て、現職。約30 年にわたりチーフストラテジストやチーフファンドマネジャーとして、内外株式や債券等の投資戦略を策定・運用する。著書等に、『金利史観』『振り子の金融史観』『国債と金利をめぐる300 年史』(共著)、研究論文「1936 年の低利借換えと国債市場」(平成30 年度証券経済学会優秀論文賞)などがある。

「2019年 『戦前・戦時期の金融市場』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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