最終製品の競争戦略に終始せず、コア・コンピタンスを意識した企業力の競争を勝ち抜けるように、未来を見据えた経営をすべき、という内容。
初版は1995年だが、25年後の現在の状況を良く言い当てており、筆者の主張の正しさを裏付けている。これから10年後もまた、非連続な社会環境になっていると想定したうえで、経営戦略を定める重要性を感じた。
○コア・コンピタンスとはどのように定義するのか?
・顧客に対して、他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力
・顧客に特定の利益をもたらす一連のスキル
・個々のスキルや組織という枠を超えた学習の積み重ね
○なぜ、コア・コンピタンス経営でないといけないのか?
・未来の市場からの利益確保のために、将来の顧客価値への貢献を最も高められるような企業力を構築しなければならない
・コアコンピタンスは未来のビジネスチャンスへの入り口である
・コア・コンピタンスを構築し、それを育てることによってしか、経営トップには企業の存続を保証する道はない。
○デジタル時代となって何が変わったのか?
・従来の競争戦略では対応できなくなった
・未来を読む重要性が増した
【メモ】
<第1章 悪循環からの脱却>
・ダウンサイジングや基本業務プロセスの再設計は確かに重要だが、未来の産業を作り出すことを目的にはしていない。今日のビジネスを補強することが目的。
<第2章 未来のための競争>
・未来の産業構造に対する企業戦略と、従来の競争環境の中でのポジショニングによる企業戦略は根本的にことなる。
・未来のための競争の3段階
①未来をイメージする競争
②構想を有利に展開する競争
③シェアを獲得する競争
<第3章 過去を忘れる>
・生物が長年に渡り健全であり続けるには多様な遺伝子が必要である。同じことが会社という生き物にも当てはまる。
会社が生き残るためには、業界に存在する色々な遺伝子を社内に取り込まねばならない。(革新的なボトムアップ行動、他業界役員の引き抜き)
・今の経営の枠組みを作り上げている過去の思考の遺物こそ問題
1.未来に到達するために、過去の何を会社の強みとして活用すべきか
2.もはや役に立たない過去の遺物は何か
<第4章 産業の未来をイメージする競争>
・未来への視点とは、①付加価値 ②企業力 ③顧客接点
・経営陣は未来を展望し、明確に表現し、共有する責任を放棄してはならない
・産業の未来を展望するときにはまず、実現できるかもしれないことからスタートし、逆戻りしながら考える
・未来の可能性を察知するための秘訣
-先入観を捨てて子供のように純真になること
-経営者自身が無限の好奇心を持っていること
-専門外のことでも、色々と考えてみる意欲を持っていること
・今から(当時:電話/現在:スマートフォン/10年後:?)の使用を一切禁ずるといわれたらどうなるだろうか
・あまのじゃくであること:未来を見つけ出すためには預言者である必要はないが、常識にとらわれていてはいけない
・開発チームのメンバーに将来の顧客の気持ちが分かるように、ホンダはチームの構成メンバーの年齢をターゲット顧客層に合わせている
・未来への展望は人間の生活を変えようと真剣に考えることから生まれる
- 会社自身を見るレンズを戦略的事業部門からコア・コンピタンスに変える
- 市場を見る際のレンズを製品から機能性に変える
- 旺盛な好奇心を持ってレンズの角度を広げる
- レンズに積もったほこりをとって子供の目で物事を見る
- 複数の見方を合わせた複眼レンズで見る
- 天邪鬼的に考え、目の前に見えるものを疑う
<第5章 戦略設計図を描く>
・長期計画は戦略計画の五年目にスタートするという種のものではない。「それなりの市場になるまで様子を見よう」などと言っている会社には、主導権は取れない
・未来について論理的分析の後は、行動の中から学ぶしかない。
- 最先端顧客との提携
- プロトタイプのテストマーケティング
- 将来の競合とのジョイントベンチャー
- 技術の研究
<第6章 ストレッチ戦略>
・目的意識:短期の部門別の実績以上の目的意識は、一般社員レベルには浸透していない。強い目的意識が無ければ、自社の企業力向上に強い使命感を持った社員も出てこない。ほとんどの会社の本部組織は、方向性を示すよりも管理統制に労力を割きすぎている
<第7章 レバレッジ戦略>
・日本の多国籍企業としては例外的に、銀行・証券は世界市場参入時点に圧倒的な経営資源に恵まれていた。この競争優位も、経営資源が欠乏する中で生み出される戦略の独創性と比べると、全く役に立たなかった。
・経営資源をレバレッジする能力 + 野心
提携を成功させる実績、事業の境界を越えてスキルを移動する能力、競争戦術上の独創的なアプローチなど
・レバレッジの構成要素
経営資源の集中(一転集中、焦点の集中、ターゲットの設定)
経営資源の蓄積(学習・掘り起こす、借り入れ)
経営資源の補完(ブレンドする、バランスをとる)
経営資源の保守(リサイクル、他社取り込み、防御)
経営資源の回収(成功を早める)
・問題点は経営資源の欠如ではなく、ストレッチ・レバレッジに欠けること
<第8章 未来への構想を有利に展開する競争>
・企業提携が必要なのは、新製品や新サービスを生むのに必要な経営資源をすべて取り揃えている企業など存在しないから
・企業集団(コンツェルン)はもはや通用せず、仮想統合が垂直統合にとって代わる。未来のための競争とは、新業界標準規格を確立する競争でもある。
<第9章 未来への扉を開く>
・新しいコア・コンピタンスの構築に企業が踏み切るのは、個別の製品市場で事業化の機会を伺うためではなく、顧客い新しい利益の世界を切り開くため
・競争戦略分析は特定の製品・サービス単位が普通だった。企業力競争は企業力の主導権を確立する競争。
・企業力をめぐる競争の4レベル
①スキルや技術の開発と獲得
②コア・コンピタンスを合成・統合する
③コア製品(プラットフォーム)のシェアを最大にする
④最終製品のシェアを最大にする ※ここに終始し過ぎ
<第10章 コア・コンピタンスを展望する>
・コアコンピタンスの見通しを立てるために
①既存のコア・コンピタンスの確認
会社の成功を今支えているスキルを理解。
社内共通の財産、新規事業への道筋、企業力を巡る競争という現実を把握し、経営資源を積極的に管理する土台を築く。
②獲得計画
コア・コンピタンス × 市場(新規 or 既存)の企業と商品のマトリックスに応じて、企業力を作り出す計画を立てる
③構築
ある分野で世界的リーダーになろうとするならば、継続的な努力が必要
④社内への配備
マネーサプライと同様に、ストック×速度で定義できる
企業力を社内で動かして再配備しなければならない
⑤抜きんでたコア・コンピタンスの防御
・組織改革によって会社にコア・コンピタンスの仕組みを作るのではなく、全社員にコア・コンピタンスの見通しをソフトに植え込むこと
1)コア・コンピタンスを明確にするためのプロセス構築
2)企業力の獲得を目指す社内横断的プロセスに戦略的事業部が関与する
3)会社の成長と新規事業開発の順序を明確にする
4)コア・コンピタンスを管理する役を明らかにする
5)重要なコア・コンピタンスの資源を配備する仕組みを作る
6)競合他社に対して、競争力をつける取り組みを学ぶ
7)現在・将来のコア・コンピタンスを定期的に見直す
8)コア・コンピタンスの所有を自覚した集団を組織内に作る
<第11章 確実に競争に勝つために>
・探検的マーケティング
最初から的の中心を射ることではなく、いかに早く狙いを的に近づけ、次から次へと矢を放つかということ。研究所や製品開発プロジェクトで学ぶより、不完全でも生日やサービスが市場に出されたときに学ぶ
・新商品が外れた際の質問
1)リスク管理は適切だったか
2)市場発展への期待に無理がなかったか
3)次回の成功の確率を高める何かを学んだか
4)どのくらい早く再調整・再チャレンジできるか
5)ビジネスチャンスはまだあり、試す価値があるか
6)再挑戦しなければ、競合他社が先行するレッスンを与えてしまったことになるか
いずれもノーの場合に限り失敗宣言を行うべき
・グローバルな選考の四つのP
Preemption(先行)
Proximity(親近感)
Predisposition(顧客の関心を引く)
Propagation(素早く展開する)
・製品の優位性を支えるコア・コンピタンスは企業の基礎。その会社を引っ張っていく旗手ブランドは屋根。その中間にあるのは様々な事業。
<第12章 考え方を変える>
・企業は3つの考え方、競争の意味、戦略の意味、組織の意味を変えなければならない
・富の創造プロセスでは大企業は大切
1)大企業と小企業は共生関係。小さな新興企業の革新的な製品は、世界的に開発されたときに富を得る。
2)大企業は経営資源の多くを教育につぎ込む。ベンチャー・キャピタリスト同様に企業プロセスに貢献する
3)野心をストレッチしながら想像力を発揮して企業の資源を使うことで企業の大きさがものをいう。
4)従業員。大企業の失業は、競争の結果ではなく、次世代に突入し変革すべき時に、経営陣が眠っていた場合に生じる。
ストレッチとレバレッジがない大企業は単なる肥満、小企業は無能。
・戦略の考え方を変える
長期:遠い先の利益 → 業界の変革についての方策
野心:リスクをとる → レバレッジを利用してリスクを減らし、ストレッチした向上心
取り組み:多大な資金 → 首尾一貫した決断
・組織の考え方を変える
ある問題と別の問題を入れ替えることに意味はない。中道ではなく、一段高い地位を目指す必要がある。
本社 vs 事業部 → 事業部間をつなぐ
集権化 vs 分権化 → 集合
官僚主義 vs 権限移譲 → 方向を示す
クローン人間 vs 反逆者 → 活動家
技術主導 vs 顧客主導 → 利益主導
事業多角化 vs コア・ビジネス → コア・コンピタンス