タネが危ない

著者 :
  • 日経BP 日本経済新聞出版
4.13
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本棚登録 : 515
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532168087

作品紹介・あらすじ

手塚治虫『火の鳥』初代担当編集者となり、我が国で唯一、固定種タネのみを扱う種苗店三代目主人が、世界の農業を席巻するF1(一代雑種)技術が抱えるリスクを指摘、自家採種をし、伝統野菜を守り育てる大切さを訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 読みやすさ★★★
    学べる★★★★★
    紹介したい★★★★★
    一気読み★★★
    読み返したい★★★★★

    誰もが知っているメンデルの法則はここまで面白く広げることができるのか。学校の授業がいかに内容のないものだったかがわかる。
    私たちが毎日食べている野菜のタネがこんなことになっていようとは。知らないではすまされない。
    採種をやめた農家はF1のタネを毎年買う。規格が整い成長が早いF1は生産性が高く合理的で、種苗業界を瞬く間に席巻した。今やスーパーに並ぶ野菜はほぼF1である。個性のない、自身のタネに生殖力を持たない、野生動物がかじらない、F1。著者はその結果として、蜜蜂の大量失踪や人間の不妊にまで言及しているが、一理あるのではないか。食べ物が私たちの体を作っているのだから。
    生命の力強さ、栽培の魅力、生命倫理、人間のご都合主義、種苗業界の歴史と今。なんとも読み応えのある一冊。

    目先の利益に走る人間のツケを払わされるのは子供たちだ。人間はいつまで愚かなのか。

  • 種をとる自然栽培をはじめて、読んでみる。

    効率主義の弊害はやまほどある。
    私達が一体何をしてきたのか。

    f1で畑を二年ほどやってきて、最近自然農業を始めたのだが、全然違う。発芽もまばらだし、種がとにかく貴重なのだ。でも、本来はそうなんだよね。種は命だもの。

    私もこの地球の生き物として、生きていくこと。
    命を繋いでいくこと。食べること。
    手を動かしながら、大地に足を踏みしめて、続けていこうと思う。

  • 元手塚治虫の担当編集者という一風変わった経歴の持ち主であるタネ屋さんが書いている。そのタネ屋とは、飯能市で固定種を専門に扱う野口種苗研究所である。今は店舗をやめてネット通販に特化しているそうだ。固定種とは、選抜と採種を繰り返して形質が固定するに至った種なので「固定」種と呼ぶ。

    一方、F1とは一代雑種(交配種)。多くの栽培品種で、こちらが固定種に対して圧倒的に主流になっている。両親の優性遺伝だけが発現するので均一。狙った形質が安定的にできる。収穫も一斉にできるし、形も揃って売りやすい。雑種強勢なる効果もあって育ちが良い。なお、これの第二世代は劣勢遺伝も発現してバラバラになってしまう。また後述する雄性不稔によりタネができなくなっている品種が増えている。よって農家は種を買ってくるしかない。

    F1の仕組みを知りたくて図書館で借りたのだが、著者は固定種専門なのでF1についてはところどころ自信なさげな書きぶり。でも、それなりに分かりやすいかも。

    F1を作る技術は進歩している。ポイントとしては自家受粉すると雑種にならないので、それをさせないこと。あと、親系統をなるべく遺伝的に均一にする(固定種ってことか)こと。

    <除雄>・・・手作業で雄しべを摘み取る、または雄花が咲かないように留めてしまう。そこへ交配相手の花粉を受粉させてやる。単純だがコスト高。最初の除雄は日本人が1924年にナスで交配種を作った時。縞のあるスイカもこの技術で作られた。

    <自家不和合性>・・・アブラナ科野菜(白菜、蕪、小松菜等)の特質を活かした方法。アブラナ科は自分の花粉ではタネをつけない。ただし兄弟分の花粉であれば実がついたりする(そうなると雑種にならない)。この自家不和合性はつぼみの段階では働かないので、つぼみの段階で人工的に自家受粉させて(昔は手作業だったが、今はCO2濃度を高めてアブラナ科の生理を狂わせミツバチで自家受粉させる)、純系の度合いを強めてホモ化させてクローン状態にする。すると、兄弟分でも自分のクローンなので受精しなくなる。この状態になれば、除雄せずとも一気に他家受粉させられる。

    <雄性不稔>・・・突然変異で雄しべが不全な系統を利用する。雄しべが機能しなければ当然自家受粉はできない。雄性不稔は母系遺伝する。ミトコンドリア遺伝子の異常であるからだ。遺伝子組み換えで雄性不稔の遺伝子を導入することができる。

    雄性不稔じゃないF1だと、がんばり次第では何代か採種して安定した形質のタネを選抜できることも稀にある(桃太郎トマトでそれをやった人あり)。ただし品種登録されていると法的にやばいかも。

    キク科(レタス、春菊)とマメ科では、まだF1があまり普及していない。だが徐々に開発されてきている。

    固定種の方が味が良いとは著者の主張。F1がウケやすい淡白な味にどんどん収斂しているせいかも。もともと子供が嫌がる野菜の苦味・えぐみは、食べられないための野生の工夫とどこかで聞いた気がする。

    固定種もホモ化を進めすぎると生命力が弱くなると。なるほど。

    家庭菜園なら固定種のほうが楽しいですよ、と。収穫がバラバラの方が長く楽しめる。いっぺんに取れると食べきれないでしょ。味もいいし、八百屋にあるのとは違う野菜が楽しめます。採種も是非してみてください。⇒それは、そうかもね。

    雄性不稔のF1野菜を食べているせいで、ミツバチもヒトも精子が減る(仮説)!ホンマかいな。

  • 今私たちが食べている野菜は殆どがミトコンドリア異常のタネから生まれたもの。味や健康被害は二の次。形が均一で大量に生産されるものが求められる。自然の摂理に反したしっぺ返しはもう始まっている。
    ブログに長い感想文あります↓お時間あればぜひ。
    http://zazamusi.blog103.fc2.com/blog-entry-637.html

  • 引用
    アインシュタインの予言と言われるものに、「もしハチが地球上からいなくなると、人間は四年以上生きられない。ハチがいなくなると、受粉ができなくなり、そして植物がいなくなり、そして人間がいなくなる」
    -------

    普段食べている野菜がどうやって作られているのかを知ることに、役立つ本です。

  • 知人から植生の問題としてF1種ことを聞いたのが、この本を手に取るきっかけとなりました。
    F1と言っても自動車レースのことではありません。一代雑種、異なる品種をかけあわせた一代目の雑種のことだそうです。学校の生物の時間にメンデルの法則というのを習いましたが、子の代には両親の優性形質だけが現れる。また、縁遠い交配には、雑種強勢といって成長が早まったり、収穫が増大する効果があるそうです。
    今市場にある野菜のほぼすべてが、これらを利用し成長も品質も均質な収穫ができるようにしたF1種だとか。ただし、このF1種から取れたタネを育てても、孫の代では遺伝子の劣性形質を現すものも出現するため、F1種は一代限り。
    一方、異種交配の無い固定種と呼ばれるものは、兄弟姉妹でそれぞれ個性があるように、成長も大きさもまちまちで、現状の流通に適さないが、味や品質と言った面では優れている点が多く、採れたタネでまた次の世代を育てることができる。その過程でよく育つものを選り分け、何年かかけてその土地にあった品種に育てていくことができるそうです。
    現代の流通機構に都合のいいF1種ですが、その親種を維持するのが大変だそうで、元々おしべの欠如した変異種を育てたり、遺伝子操作による方法が主流になりつつあるとのこと。
    著者は、本来の野菜の味、その土地に合った野菜の重要性の再認識、こういった人為的操作で育てられた野菜を摂る人間側への影響について警鐘を鳴らす。
    固定種が失われ、F1種を生むための歪められた親種が席巻しつつある中に、温室効果ガスだけでない重要な環境問題が含まれているように思います。

  • 「品種登録法」という謎の法律を持ち出して訴えられる!という。
    この方は種苗会社の代表なのだが、「種苗法」をご存じない?顧客にどんな説明をしているかと考えると空恐ろしい。
    また、デタラメなメンデルの法則の解説をした後にF1が不妊の原因だと言っている。
    ミトコンドリアは動物と植物でまるで違うのに、どうやってそれを取り込めるのでしょう?
    仮に取り込めたとしても不妊どころか死産すると思うが。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/502212370.html

  • F1だから悪いとは言っていない。固定種も守っていこう。

    ぼくは野口種苗でどんどん種を買い、育て、種を取り、もう野口種苗で種を買わないようにしようと思う。(嫌味ではなくそれが野口さんの希望なのだ)

  • つい最近、有機農法というものの実態の一つには、字面から直感するものだけではなく、法律のスキマをつくようなものがあると知った。農薬的な働きをする薬剤を使用しているが、その薬剤は農薬として認定されていないので無農薬農法、みたいな。

    『菌類が世界を救う』によれば、植物は菌類と相互依存の関係にあり、なかには先行投資ともいえる菌類の奉仕によって成長する植物もあるという。生命の本能的利己主義とは相容れない観測結果について、その意味するところを完全には把握できていないという。
    遺伝子組換え操作は、植物と菌類の共生に似たようなやり方で行うと、本書からは読めた。F1と遺伝子組み換えの差異はどこにあるのだろう。

    世界には問題が多すぎて、考えるのも嫌になる。だとしても、知ることは面白い。
    本書に対する星4の評価は、本書の内容を正しく咀嚼できない読み手の知識不足に起因する。誤解、読み間違いもきっとある。

  • 4.15/474
    内容(「BOOK」データベースより)
    『手塚治虫『火の鳥』初代担当編集者となり、我が国で唯一、固定種タネのみを扱う種苗店三代目主人が、世界の農業を席巻するF1(一代雑種)技術が抱えるリスクを指摘、自家採種をし、伝統野菜を守り育てる大切さを訴える。』

    『タネが危ない』
    著者:野口勲(のぐち・いさお)
    出版社 ‏: ‎日経BPマーケティング
    単行本 : ‎203ページ

    メモ:
    ・松岡正剛の千夜千冊 1608夜

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