昨日までの世界(下)―文明の源流と人類の未来

制作 : 倉骨 彰 
  • 日本経済新聞出版社
3.86
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本棚登録 : 641
レビュー : 59
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532168612

作品紹介・あらすじ

本書下巻では、危険に対する警戒心、人間社会と宗教の関係性と重要度の変化、消えつつある言語の多様性と、社会における多言語の使用、非感染性疾患と西洋的な生活様式といった人間社会の諸問題を取り上げる。伝統的社会に強く惹かれ、研究者としての人生の大半をニューギニアなどの伝統的社会に捧げてきたジャレド・ダイアモンドが、現代西洋社会に住む私たちが学ぶべき人類の叡知を紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 世界的大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ジャレド・ダイアモンドによる本書。
    この『昨日までの世界』は、文明社会が興る前の人類の伝統的狩猟採取社会ではどのような生活が行われていたかを、最近まで、あるいは現在もこの伝統的狩猟採取社会を営んでいるニューギニア奥地の少数狩猟民族やアマゾン奥地に住む狩猟民族らの調査を通じて解き明かしていく学術書である。

    人類が現在のような中央集権的国家社会を営むようになったのは、およそ5000年ほど前だ。人類誕生が約600万年前、つまり人類歴史のほとんどの期間は伝統的狩猟採取生活による社会で人類は生活してきたのだ。

    下巻では『危機管理』『宗教』『言語』『病気』がテーマとなっている。
    『宗教』については、宗教の発生から為政者による宗教の利用等が記載されている。
    「宗教」の発生原因については、著者の『銃・病原菌・鉄』で詳細に描かれており、目から鱗が落ちた状態に何度もなったが、本書では伝統的狩猟民族にとっての宗教と文明社会になってから「キリスト教」や「イスラム教」がなぜこれほど発展していったのかを解説している。

    伝統的狩猟民族においては、いわゆる「宗教」的行為というものは現在の宗教的行為とは若干違っていた。
    伝統的狩猟民族は宗教に頼るよりも、自らの工夫を重要視していたのだ。
    さらに、宗教行為を司る、司祭や預言者のような専門家を養う余裕は伝統的狩猟民族にはない。つまり、司祭や預言者は、狩りや漁などの生産的行為をしないので、その日暮らしの伝統的狩猟民族には彼らを養う余裕が元々ないからだ。こういった専門に宗教行為を行う職業は、農耕が盛んとなり、食料の余裕(貯蓄)ができた時代になってから発生している。

    では伝統的狩猟民族は宗教的行為を全く行わなかったかといえばそうではない。
    自分たちの手に負えないこと、例えば、病気の原因は、他部族の呪術者による『呪い』によるものと解釈し、病気を治すために他部族の呪術者を殺しに行くというようなことも行われていたのだ。

    『言語』については、少数民族等だけによって話されている少数言語が9分に1つのスピードで消滅しているという話は衝撃的だ。これは現代文明社会と出会った少数民族達が自分たちの言語を子供に伝えず、子供たちが英語等の公用語のみを使うようになってしまったことが原因なのだという。
    また「バイリンガル、トライリンガルの人々」と「1つの言語しか話さない人々」の脳の比較などは興味深い。
    子供の頃に2カ国語以上の言葉を使って教育をすると子供が混乱し、教育に悪影響を与えるということは良く言われていることだが、これは全く根拠のないことだという。
    例えば、子供たちは家庭では伝統的言語を使い、学校では英語などの公用語を使って生活をしても、ごく普通に脳内で言語が分かれて理解され、混乱することはないという。
    さらに、家庭内であっても母親が母親の言語、父親が父親の言語、そして学校では公用語という3つの言語を使って生活している子供も普通に混乱することなくトライリンガルに成長するという。
    まさに、脳という器官は驚異的な能力をもっているのだ。
    さらに、高齢者になってからもバイリンガル、トライリンガルの人には認知症等の病気に罹患するのが遅くなるという。まさに良いことずくめだ。これは僕らが外国語を勉強する利点にもなるだろう。

    最後は『病気』についてだ。
    『病気』といっても、この本では主に『糖尿病(2型)』についてがほとんどであった。
    伝統的狩猟民族には糖尿病患者はほとんどいなかった。
    しかし、彼らが現代文明社会の生活を取り入れた途端、糖尿病患者が激増した。
    これは、食生活と運動量の変化が原因である。
    伝統的狩猟民族は、主に狩猟等によって食事を得ており、獲物を捕れる時と捕れない時がある。
    獲物が捕れた時はたらふく食べ、獲物がないときは我慢した。
    こういった生活を人間は何百万年も続けてきており、人間の身体、特に内臓がそのような生活に適するように進化していった。つまり、栄養を貯め込める様な身体器官を作り、食事が出来ないときは身体の中に貯めた栄養を使って生き残ってきたのだ。

    そのような生活を続けてきた我々人間は、ここ数千年で農耕というシステムを発展させたことにより、急激に食生活が豊かになった。
    朝昼晩とほぼ3食必ず食事を取ることができ、しかも、その都度、大量の栄養素を摂取する。その結果として、長い年月をかけて伝統的狩猟民族用に進化した人間の身体が破綻を来すのは当たり前のことなのだ。それが『糖尿病』という形で出てきているのだ。

    ただ、ヨーロッパ人の糖尿病罹患率が低いというデータは面白かった。
    その理由は、ヨーロッパでは農耕が早くから発達し、飢饉がなくなったのが原因だという。
    ヨーロッパの人たちの身体は既に農耕文化に対応できるように再び進化してしまったのだ。つまり、朝昼晩と3食必ず食事をとっても、その摂取した栄養素を使い切ることができるよう身体が再進化したからだという。うむ、人間の身体は凄い。

    以上のように、伝統的狩猟民族の生活を研究することによって、我々が現代においてどれほど短期間のうちに人間としての生活習慣が変わってしまったかということが明らかになる。
    『銃・病原菌・鉄』を読んだ時も非常に満足感を得ることができたが、本書も『銃・病原菌・鉄』と負けないほどの知識を得ることができた。

    人間は今後どのような方向に進んで行くのだろうか。
    これは過去の人間の歴史を知ることによってある程度予測することができるのだ。
    本書は『全人類必読の書』とまでは言えないかもしれないが、読書人にとって極めて有益な読書体験を得ることができるのは間違いない。

    • nejidonさん
      kazzu008さん、こんにちは(^^♪
      非常に興味深いレビューですね。
      特に「言語については」からの数行が、今読んでいる本とリークして...
      kazzu008さん、こんにちは(^^♪
      非常に興味深いレビューですね。
      特に「言語については」からの数行が、今読んでいる本とリークして、この本への
      好奇心をそそられます。
      ただの本好きであって「読書人」ではありませんが、読んでみたいですね。
      ところで前回のレビューでしたか、「黙ってスルーしてる」わけでは決してありません。
      テンションがあまりに高いとビビってしまう、私のような人間もいるという
      言い訳だけしておきます。
      文章と人となりは正反対という定説もあるので、kazzu008さんはきっと落ち着いた
      大人の男性だろうと思っておりますよ♫
      2019/12/12
    • kazzu008さん
      nijidonさん、こんにちは!
      いつも「いいね」&コメントありがとうございます!

      おお、nijidonさん、『言語』についての御本...
      nijidonさん、こんにちは!
      いつも「いいね」&コメントありがとうございます!

      おお、nijidonさん、『言語』についての御本をお読みなのですね。この『昨日までの世界』での『言語』については一つの章でしかないので、メインテーマではないのですが、ニューギニアの原住民族達が5言語も6言語も現地少数言語を自由に使いこなすという点は非常に興味をそそられました。

      前回の「タダイマトビラ」のレビューについては、お騒がせしました(笑)。
      もちろん、皆さんが『無言スルー』などしてないことは重々承知しております(笑)。失礼しました。
      どうしてもあの本の衝撃を皆さんにお伝えしたくて思いっきり言いたいことを書いてしまいました。

      いえいえ、僕なんか「落ち着いた大人の男性」だなんて、格好良いものじゃありませんよ。そこら辺にいるただのおっさんですw。
      2019/12/12
  • 伝統的社会における様々な価値観から,人類社会のあり方を,ジャレド・ダイアモンド博士が問う本の下巻.

    上巻では戦争と平和,子供と高齢者,などがテーマでしたが,後編ではリスク管理,宗教,言語,そして砂糖や塩や脂肪など,人体に必須でありながら現代の生活習慣病を招いている食品がトピックに挙がります.

    下巻の方が圧倒的に面白い.上巻で飽きた人も下巻は読むべきだと思います.
    科学が発展し,宗教の持つ役割がだんだんと変化を起こしてきている現代社会においてしばしば挙がる,「そもそもなぜ『神』が創られたのか」という根源的でコントラバーシャルな問にうまく答えを見出していると感じます.
    宗教の大きな役割の一つが『戦争』と『支配』に対する反論への答え,というのは現代の大国においてもなんら変わらないな,と思います.

    また,もうひとつ非常に興味深いのが言語について.
    伝統的社会の多くの住民が多言語,それも同系列ではないものも含め,5つ以上を扱うことが珍しくない,という事実に驚かされるととともに,そういった少数言語の多くが絶滅の危機に瀕し,今世紀末には現存する言語の90%が,それに付随する伝統文化とともに消滅してしまう,という話が特に印象的でした.

    上巻では多少くどい言い回しが多かったと思いますが,下巻ではよりスムーズに読むことができました.リスクの話,現代習慣病の話も非常に興味深い.「文明崩壊」「銃・病原菌・鉄」を読んでおくとより面白いと思います.

  • 「上」に引き続き。
    ゆるゆると読んでいたおかげで、興味をひかれる部分が多く上を読んだ時のけだるさを感じないまま読了。
    どのみち、他人事だと思って読んでいるからに他ならないのだが。
    危機との遭遇や死亡原因、宗教、言語関連そして、健康について書かれてあるので、よけい興味をそそられた。

    「宗教の定義の一例」や「暴飲暴食の事例」など挿入されている表が面白くて(失礼?!)

    先に読んだ「銃・病原菌・鉄」に次ぐ薀蓄ネタ本として文庫になったらまた買ってみましょうか!

  • 「銃・病原菌・鉄」でピューリツアー賞を受賞した人類生態学者である著者による一冊。上巻のテーマが、昨日までの世界と国家を持つ社会のマクロ比較であったのに対し、下巻である本書はミクロ アプローチ。

    印象深かったのは死因の比較。パラグアイ アチェ族・一位 毒蛇、アフリカ南部 クン族・一位 毒矢、中央アフリカ ピグミー族・一位 樹上からの落下。生活違いすぎる。

    その他、マクロがプラットフォームを同一性にした記述であるところミクロは異質をプラットフォームとしている。それだけに後半に語られる言語の多様性に対する賛美は秀逸。上下巻を通じて、大変有意義な旅に連れ出してくれたと感じます。

    因みに、もっとも恐ろしいライオンは、老いてしまったり病気や怪我などで弱って、俊敏な動きができず群れから離れ「人間を襲うしか手だてがなくなってしまった」はぐれライオンだそう。気をつけます。

  • 1

  • 歴史

  • 『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイヤモンドの新作である。ふたたびニューギニア等の伝統的社会を取り上げ、健康、子ども、高齢者、言語、宗教、交易、生命への危険、紛争解決、「われわれ」と「見知らぬ他人」との関係といった、人類に普遍的なテーマを紹介し、我々現代社会人も、伝統的社会から学ぶべきことがあるのではないか?といった示唆を与える本である。
    下巻では、危険への対応のしかた、宗教の発生の真因、糖尿病といった非感染性疾患について述べる。

    <目次>
    第4部 危険とそれに対する反応
     第7章 有益な妄想
     第8章 ライオンその他の危険
    第5部 宗教、言語、健康
     第9章 電気ウナギが教える宗教の発展
     第10章 多くの言語を話す
     第11章 塩、砂糖、脂肪、怠惰
    エピローグ 別の空港にて
    謝辞
    訳者あとがき
    参考文献

    2013.03.05 くまざわ書店で見つける。
    2013.06.09 読書開始
    2013.06.23 読了

  • 伝統的社会の観察結果から、文明を考察する、ということらしいが、正直疑問。

  • あまり面白くないかな

  • 伝統的社会(昨日までの世界)から今日の我々が学ぶべきことが、筆者の経験とさまざまな学問分野の成果を融合させ、数多くの事例を持って語られる。その説得力に驚かされる。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)地理学教授
1937年ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修めるが、やがてその研究領域は進化生物学、鳥類学、人類生態学へと発展していく。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部生理学教授を経て、同校地理学教授。アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会会員。アメリカ国家科学賞、タイラー賞、コスモス賞、ピュリツァー賞、マッカーサー・フェロー、ブループラネット賞など受賞多数。

「2019年 『危機と人類(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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