- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532169541
作品紹介・あらすじ
下巻では、藻、スイッチグラスといったバイオ燃料、風力、太陽光といった再生可能エネルギー、内燃機関の進化、電気・水素自動車といった未来の技術に注目する。いっぽうで、私たちが普段は「エネルギー源」として考えていなかった「効率」や「節約」についても解説する。これからの20年は、エネルギーの安全保障、エネルギーの公平な分配というテーマが、地球規模の問題になることは間違いない。危機や対立を生まずに、この大問題をどう解決すればよいのか?そのエネルギーの未来を形作るのは、いまの私たちの議論、行動、政策だ。本書には、その道すじが描かれている。
感想・レビュー・書評
-
凄まじい情報量。百科事典でもあり、歴史書でもある。ジョンフォンノイマンの生い立ちに触れていたかと思うと、アインシュタインの伝記に変わり、バッテリーの重要性、風力発電の事情、自動車の歴史からカーボンニュートラルまで幅広い。まるでフルマラソン。確かな読み応えと読後の疲労感は確実か。
例えば。天然ガスによる火力発電所は、建設コストが石炭火力や原子力よりも小さいし、建設期間が短い。そのため古い原子力発電や石炭火力発電所よりも安く電気を供給できる。CO2は自然の環境にも存在するが、高濃度だと殺傷性がある。CCSにおけるCO2の実質的隔離は漏れを起こさないようにしなければならない。石炭火力発電の価格もCCSを導入することにより80%から100%上昇させてしまう。在来型の石炭火力発電にCO2負担金を課すことで、CCS導入した石炭火力発電と競争させる。なるほど。炭素課税はこの辺も指標の一つになってくるだろうか。
他方、核廃棄物の量は、石炭火力発電でのCO2に比べ600分の1。殺傷性のある高濃度CO2とどちらがマシか。
風力は発電コストも他のエネルギー源より高い。アメリカエネルギー上は2030年までに全電力の20%を風力で賄うと言う国家目標を提案していたが、風が常に吹いているわけではないので発電に間欠性がある。風力発電の大きな問題は間欠性、インテグレーションコスト。遠隔地に多く分探しているため送電線への巨額の投資も必要。洋上タービンは道路を運ぶ必要がないのでかなり大型化できる。石油掘削プラットフォームと同じようにドックで組み立てて海に出せるという利点があるが、間欠性を補う別の発電やコスト課題を乗り越えられるか。
感想に書いたのは、ほんの一例。読めば、間違いなく視野が広がる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ケインズに代表される国家による経済統制とハイエクに代表される自由市場によるガバナンスという2つの経済思想の相克として20世紀の世界史のパースペクティブを華麗に描き出したダニエル・ヤーギンの「市場対国家」は、自身の読書体験の中でも色あせない記憶として強く印象に残っている。
さて、本書はもともとエネルギー問題の世界的権威であるダニエル・ヤーギンによるエネルギーを軸とした近現代史の傑作である。
本書では、
・新興国を中心に成長する世界の需要を満たすエネルギーが今後もまかなわれるのか?まかなわれるとしたら、どのようなコスト・テクノロジーが用いられるか?
・世界が依存する石油、天然ガス等のエネルギー源調達の安全保障はどのように護られるのか?
・気候変動などの環境問題への懸念は、エネルギーの未来にどのような影響を及ぼし、エネルギー開発は環境にどのように影響するのか?
という3つの主要論点に対する明快なパースペクティブを得ることができる。
上下巻1,000ページの大著でありながら、これだけの内容が3,000円で知ることができるという点に、驚きを禁じ得ない。何よりも面白いのは、我々が既知のものとしてきた近現代史が、エネルギーという補助線を引くことで、よりシャープなものとして深い理解をすることができるからである。その点で、「市場対国家」同様にヤーギンは優れた歴史家である、と断言できる。
エネルギー問題に直接の関心があろうとなかろうと、これ1冊でたいていのエネルギー問題に関する論点や歴史を押さえることができる名作。