等伯 下

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
4.11
  • (111)
  • (160)
  • (59)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 796
感想 : 149
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171148

作品紹介・あらすじ

誰も見たことのない絵を-狩野派との暗闘、心の師・千利休の自刃、秀吉の世に台頭する長谷川派を次々と襲う悲劇。亡き者たちを背負い、おのれの画境に向かう。とこしえの真善美、等伯がたどりついた境地。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 第148回(2012年上半期)直木賞受賞作(「何者」と同時受賞)、後半。
    画家の長谷川等伯の生涯を描いた力作です。

    当時既に大きな流派となっていた狩野派に敵視され、仕事をとるのに妨害を受けることに。
    秀吉の眼前で絵を描いて見せたり、盛り上がります。
    千利休との交流もあり、信仰心も篤かった等伯。
    狩野永徳のきらびやかな作風とは正反対の境地に、等伯はやがて達していくのですね。

    息子の久蔵は幼い頃から画才を示していて、跡継ぎが出来たことを心から嬉しく思っていたのだが。
    永徳に借り出されたまま戻されずに年月がたってしまう。
    板ばさみになる久蔵は気の毒だけど、永徳は久蔵を気に入っていたという
    エピソードには救いも。
    長谷川派に人気が出てくると、今度はどうしても人手が足りなくなり、手を尽くして返してもらう。
    久蔵と故郷を訪ねるエピソードは、いいですね。

    最初の奥さん・静子も出来た人なんですが、豪商の娘で店の仕事を手伝っていた明るい後妻さん・清子も、内助の功を発揮。
    政治も揺れ動き、狩野派とせめぎあう中で、腹の座ったところを見せます。

    武家の生まれであったことが災いしたというか、多少は勉強の機会や出世の手づるにもなるのだが、不本意ながら政治に巻き込まれてしまうこともある。
    信長、秀吉、家康と政権が移っていく時代を生き抜いたのだから、それは大変でしょう。
    表紙になっている松林図の風格と独自性からして、激しさと静謐さを兼ね備えた人物であることは察しがつきます。
    人間くさい迷いと後悔も含めた人間像。
    引き立ててくれた人物の大きさもさることながら、二人の妻と気立てのいい息子のことが印象に残りました。

  • 戦国の浮き沈みの厳しい世の中で、ライバルとして張り合う等伯と永徳。

    永徳の等伯に対する妨害は読んでいて呆れる程徹底している。
    家柄といい才能といい、絵師として生まれながらにして恵まれている永徳。
    それなのに、そんなにも等伯の才能が憎いのか。

    永徳と比べ実直で不器用な等伯。
    次々に不遇に見舞われ絶望しても、本質を見極め納得のいく迫力ある「松林図」を描き上げる様は圧巻だった。
    妥協を許さない男、等伯。
    あの利休が気に入るのも納得。
    今や国宝となった「松林図屏風」を見てみたい!

  • 戦国末期の信長が天下統一に動き出した頃から、本能寺の変、秀吉の天下統一、そして徳川の時代へと、大きな時代の流れを背景に、その時代に翻弄されながらも、独自の絵画の境地を見出した「長谷川等伯」の絵画への探究の物語だが、狩野永徳との死闘を始め、絵画の世界をこれほどまでに、手に汗握るように描いた作家は他に知らない。さすが「直木賞」受賞作の力作だと思います。
    「長谷川信春(等伯)」は時代に常にそっぽを向かれ、悲惨な生活に陥るが、その都度理解者が現れ、地獄から仏に救われるように、どん底から這い上がってくるたくましさにも驚かされる。彼の良き理解者の一人である利休からは、「これからは(自分のせいで)死んだ者を背負ったまま、そこへ向かっていけ」と、白の字に人偏を加え「等伯」の名を貰う。これがタイトルとなり、また物語全体のテーマとなっている。
    等伯の身辺で、養父母、妻・静子、清子、息子の久蔵、利休、実兄、旧主筋の夕姫等々と、兎に角沢山の人が死に、その先に等伯の画境が高みへと繋がっているのがよく分かります。
    上下二巻のボリュームがあるが、久々に時間を忘れて読む事に没頭できました。
    【追記】
    この本と併せて、山本兼一の「花鳥の夢」をお薦めします。
    こちらは狩野永徳を描いています。

  • いろいろナマナマしかった上巻に続く下巻はさらにドロドロしてきて、あっという間に読み進めてしまいました。 師弟関係の心のやりとりにウルッとくるものが多く、襖絵界のスター・ウォーズの様相。等伯の息子(久蔵)が狩野派に入る流れはまるで最澄と空海の間で揺れ動いた泰範のよう。そのあと大どんでん返しになるのですが、その間に狩野永徳と心を重ねた理由を息子が語る場面があって、その言葉がまぁ~、泣ける。

  • 直木賞受賞という事で著者の作を初めて手にしたが、期待以上の作品だった。自分自身は審美眼を持っているとは言い難いながらも、美の求道がいかなるものであるかをひしひしと感じることができた。現在も芸術界においては似たような状況であるのかもしれないが、中世の自身の生涯・生命をかけた凄みはまた格別のものと思われる。また、主人公を取り巻くさまざまな人物の人生観、宗教観もとてもよく描けていた。
    ストーリープロットは上巻と似たような部分もあるかもしれないが、人としての迷いに幾度もさらされ、浮き沈みを繰り返しながら徐々に主人公が高みに上っていくさまは、物語の後半に行くほど盛り上がり、退屈することなく一気に読み進めることができた。
    歴史、絵画、宗教を絡めたこの小説を書きあげた著者の力量に感服です。

  • 読み終わった! 
    これは等伯の生き様、妻、息子の死を乗り越えて元仏絵師でもあった自分が仏の境地にを悟りきった時に描いた松林図が最後秀吉の心も揺さぶる。狩野松栄におまえは自分の弟子と言われたが、その息子永徳からは疎まれ、ついに息子の久蔵が狩野にはめられ、急死するその死をも乗り越えて松林図を書いたくだりのところは感動もの。
    京で絵師として登り詰めていく過程にいろいろな人からの援助、また悲劇を乗り越えていく等伯の生き様はやはりすごい。
    歴史物の中で上下二冊を一気に読破してしまうほど引き込まれた本に巡り会えたのは久々。 座布団5枚あげても惜しくない名作。 
    さすが直木賞か。

  • 同郷の天才画家・長谷川等伯。
    まさかこの人を主人公にした小説が直木賞になるとは。
    もちろん名前ぐらいは知っているが、
    この本を読んで想像以上に骨太な人であることに驚いた。
    時の寵児であった狩野永徳に真っ向から勝負を挑むタフさにはあきれるばかりだ。
    そんな彼がいかにして松林図屏風を書くに至ったのか。
    失ったものが大きいからたどり着ける境地があることを知った。
    同郷人としってもっと誇るべきであり、知らねばならない人だと思い知った。

    ちょうど「清洲会談」を観たばかりだったので、
    前田玄以の名前にときめいた。格好いい。

  • よかった、特に利休と鶴松の章、『等伯』という名に対する利休の遺訓、長谷川久蔵と狩野永徳の関係、清子や静子の話、とにかく上下巻全体通して人と人との関係に関する描き方が本当によかった、長谷川久蔵が狩野永徳を総帥と呼び長谷川等伯が狩野松栄を師匠と呼ぶ、人の繋がりを根底にした等伯の絵に対する愚直なまでの真っ直ぐな追求。

    公家社会、武家社会の中で生きながら絵の世界を突き詰めようとする天才絵師だが一人の人間の苦しみ、その苦しみの中で心深い部分、凡人にはどの面から何をどう捉えてよいか分からないくらい色々なことを考えさせられる、思ったことは山ほどあるけどキリがないので…
    とにかよい本でした。

  • 絵仏師であった長谷川等伯が国宝「松林図屏風」を描く境地に至るまでの生涯を綴った時代小説。第148回直木賞受賞作。織田信長、豊臣秀吉、狩野永徳など、多くの偉人に翻弄され続けた等伯の生涯に焦点を当て、日蓮宗法華宗など当時の宗教による教えも丁寧にわかりやすく書き記されている。確かに当時の文化は宗教と密接に結びついているので、そこのところを疎かにしないところに筆者のこの作品に対する意気込みと思いが伝わってくる。
    登場人物である千利休の人間性に興味をもったので、次は「利休にたずねよ」(山本兼一著 第140回直木賞受賞作)を読んでみようと思う。
    こんな風に興味が広がっていくのが読書の醍醐味。

  • 安土桃山時代、能登七尾の出身で国宝の松林図屏風を残した画家、長谷川信春(等伯)の波乱万丈な人生が描かれていた。
    生家の奥村から長谷川家に養子として入り日蓮宗の絵仏師で有名なるも絵師をめざす者なら知らぬ者はいないという、大徳寺が秘蔵する牧谿筆の観音猿鶴図に魅せられ33歳で一流の絵師をめざし狩野派、狩野永徳に魅せられながらも挑戦して、頂点にたつのだが、辛く悔しい想いをしながらも認められる存在になられる姿に感動。
    そこには陰日向となり支えられる2人の内助の功があってこそと感じた。
    絵心の分からない自分でも松林図屏風初めとする色んな作品を鑑賞したくなった。
    本当に素敵な本で沢山の片に是非、読んで欲しいなと思った。

全149件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

安部龍太郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×