- 本 ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532171568
作品紹介・あらすじ
NHK Eテレ「100分de名著」放送決定! (2020年11月予定・全4回)
第48回泉鏡花文学賞受賞
第62回毎日芸術賞受賞
千年読み継がれてきた歌物語の沃野に分け入り、美麗な容貌と色好みで知られる在原業平の生涯を日本で初めて小説化。現代語訳ではなく小説に紡ぐことで、日本の美の源流が立ち現れた。これは文学史的な事件である!
歌物語の不朽の名作にして、「恋の教科書」ともいわれることもある「伊勢物語」。その主人公とされる在原業平の一代記を「伊勢」の百二十五章段の和歌を物語の中に据えて大胆に周到に小説化。やまとことばに注目の集まった令和改元をはさみ日経新聞夕刊に連載された本作は、平安時代の古典に、千年かけて培われてきた日本人の情感、美意識を現代小説として吹き込み、活き活きとよみがえらせた傑作長編。連載時に小説に平安の都の風を吹き込んだ大野俊明氏の挿絵もカラーで16点収録。この作品を読んでから「伊勢物語」を読めば平安の「みやび」を五感で味わうことができるだろう
【著者「あとがき」より抜粋】
古典との関わり方として、私は現代語訳ではなく小説化で人物を蘇らせたいと思ってきました。千年昔には身体感覚において、どこかが違う人間が生きていて、私たちは、現代にも通じる部分においてのみ、かの時代の人間を理解しているのではないか。この疑問は、書くことに矛盾をもたらし、文体を模索させました。平安の雅を可能なかぎり取り込み、歌を小説の中に据えていくために編み出したのが、この文体です。味わい読んでいただければ、在原業平という男の色香や、日本の美が確立した時代の風が、御身に染みこんでいくものと信じます。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
「業平少しは働けよ」と業平が女の尻ばかり追いかけてる前半は特にそう思いました。
ゲーム感覚で女に手を出して、手に入れたら次の女に行く。ヒロイン高子姫(藤原基経の妹。後の皇后)にツレなくされたら昔の女のとこに戻ったりする。サイテーです。
後半に入り、たまに働いているかと思ったら仕事にかこつけて絶対手を出しちゃいけない人(もう一人のヒロイン恬子内親王。伊勢斎宮)に手出しちゃうし、、、何かにつけて加持祈祷してた時代に斎宮に手出すなんて禁忌中の禁忌ですね。やっぱりサイテーです。
皇族として生まれながら、臣下に下った悲しみとかもあるんだろうけどさぁ、だったら仲良しの源融ちゃんも一緒じゃん。融ちゃんはもっと働いて出世しているよ。趣味も良いし。
源融も業平も共に光源氏のモデルと言われてます。どちらも臣籍降下した元皇族。政治力と趣味の良さは源融、禁断の恋や不義の子と言ったドロドロは業平がモデルかな?
全百二十五章の伊勢物語を在原業平を主人公として取捨選択して再構成した小説です。平安歌物語の世界が美しい言葉で再現されます。業平が主人公だと辻褄が合わない話(たとえば筒井筒)は酒の席で語られた話として取り上げたりと、無理のない作りとなっています。
また、業平以外もはっきりと固有名詞で語られるので読みやすいです。
駆け落ちする男女の話(芥川)は業平と高子。入内が決まっている高子との逃避行は高揚感たっぷり、まさにクライマックスです。
男が若い女を見そめる話(若草)は業平と恬子内親王。この時業平は30前半、恬子内親王は10歳くらい?いくら平安でもロリ過ぎるのでは?
とは言え業平の孫娘は高子の兄国経に嫁いでいるので当時の倫理観は侮れません。どうなってるんでしょうね(笑)
-
はるかな昔(平安時代ではないけれど)高校で「伊勢物語」を読み、興味を持った。
「源氏物語」は色々な現代語訳などたくさん出版されているが、これは小説として楽しめた。
でも、長かった!
在原業平はやはり光源氏のモデル?
業平の生きざまには現代を生きる女として物申したいが、
千年を超えて伝える和歌の力はやはりすごい!
それに命を懸けた業平はやはりすごい!
高樹のぶ子さんの平易で美しい文体で平安時代を堪能させてもらった。
どの行も美しい。
本の装丁も、挿絵も美しい。
≪ 恋こそが 飽かず哀しの 生きること ≫ -
表紙から、大河ドラマみたい……。
『伊勢物語』を、在原業平の生涯として読めるように話が配置されている。
何より、晩年付き添った伊勢の、業平を辿る筆致がなんだか相応しく思われて、心地良い語りが流れる時間に思えた。
やがて陽成帝の母となる高子と、斎王となる恬子内親王との、かなり危険な駆け引きも面白いのだけど。
個人的には、政治の舞台からスポットが当たらなくなる業平兄弟や、例になく立太子出来なかった惟喬親王の胸中の方が今は興味があったりする。
業平が高子にのめり込む想いに、政治的な憂さ晴らしの面があったのかどうか。
キレイに進められていくストーリーなので、執着が感じられないのだけど。どうだったんだろう。
最後に、『伊勢物語』は終わりが秀逸。 -
雰囲気はあるし挿絵は素晴らしいけど読みづらかった
-
古典でもよく聞く伊勢物語と在原業平。腰据えて読んでみようと、まずは現代語訳ではなく小説を選択。面白かった。
読みながら、業平にツッコミ入れること数えきれず。なんと危ない男か…。
家系図があるから、読みながら理解しやすい。
桓武天皇、安殿の平城帝、伊予の君の嵯峨帝、出てこないけれど空海の時代とかすっている。過去に読んだ本で得た知識の点が、この業平を読むことで線として繋がっていく面白さもある。
もどかしさを感じたり、しつこさを感じたり。
詩ではなく歌。
出てくる歌を、より情感豊かに受け入れてみたい。
-
面白かった! もとの伊勢物語を、業平を主人公に据えてシャッフル、取捨選択して、時系列にして小説にしたとは。また丹念に読み返したい。
-
伊勢物語の現代訳版ともいうべき艶やかな内容。在原業平の恬子(やすこ)内親王(伊勢神宮の斎王)、藤原高子(基経の妹・後の清和皇后)、在原行平の娘との男女の睦合…、その後の後朝の歌交換。雅文が情緒豊かに男女の営みを幻想的かつ官能的に描き出し読み応えがあり、一方で、紀有常の娘・和琴の方も登場するが、和琴の演奏が「かたことと音が尖り、清らかな流れと申せません」と拙かったことに現れているように非常に冷淡に終始し、当時の情緒ない女性との場面を象徴するかのよう。恬子斎王は月の妖精のような高貴な存在としての描写が幻想的。そして溌溂とした若いアイドルのような高子姫。恬子斎王の仕え人だった伊勢との間だけは、男女関係を明確に否定し、業平の良き秘書になったことが書かれているが、この人は実在なのか?どこまでが著者の創作かは不明。そして、業平の有名な歌やその序文などの背景も多く出てくるが、正に歌物語のようで、今でいうミュージカルを思い出され、親しみやすかった。
「名にしおはばいざ言とはむみやこ鳥 わが思ふ人はありやなしやと」
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは」
「月やあらぬは春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして」
そして辞世「つひに行く道とはかねて聞きしかど 昨日今日とは思はざりしを」 -
伊勢物語といえば、学校の授業でちょっと学んだくらいで、平安時代の歌が出てくる旅物語かと思っていた私ですが、この「小説業平」を読んで全く違ったものだったんだと知りました。次から次にと女人を口説くこの色好みの美男子につっこみを入れたり、権力争いや策謀など平安の貴族として生きるのも大変なんだと共感してみたり、在原業平の一生を文字通り小説として夢中になって読みました。そして作中の歌は有名な歌ばかり。まさに千年も受け継がれる歌です。この本を先に読んでいたら古典の勉強も違っただろうと思います。またいつか八橋かきつばた園に行き業平の気持ちになってかきつばたを眺めてみたいです。
著者プロフィール
髙樹のぶ子の作品





