コンピュータが小説を書く日: AI作家に「賞」は取れるか
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年11月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532176099
作品紹介・あらすじ
AI作家誕生か、と騒がれた“事件"の実相を、当事者が克明に綴る。
袋とじブック・イン・ブック――“AI作家"が一次選考を通過した第3回日経「星新一賞」への、人工知能を利用して作成したショートショート2編を一挙収録!
日本の文学賞で唯一、日本経済新聞社主催の「星新一賞」にしかない応募規定が「人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます」。第3回には遂に一次選考通過作も出たことが明らかにされた。選考過程は明らかにされていないが、2篇を応募した「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」所属メンバーらの報告会が2016年3月にあり、国内外のメディアが速報したのは記憶に新しい。これは単なる珍しい話題に過ぎないのか?
文藝春秋7月号の特集「2020年『日本の姿』」で「人工知能作家が芥川賞を狙う」と題してこの話題が取り上げられた。取材を受けたのは「きまぐれ~」を率いる松原仁・はこだて未来大学教授。松原教授はAIで小説を創作するための3つの要素を「物語生成」「文章生成」「作品評価」とし、今回は「文章生成」機能のみが使用できたことで「まだ人間が八割、AIが二割」と述べた。
本書で著者はこう述べる。「文章生成」がコンピュータにとってはもっともハードルの高い最初の難関だと。たとえば時間・空間・年齢・性別などの情報が明記されている定型文書などは、すでにコンピュータが作れる段階に来ていると言われている。小説がなぜハードルが高いのか、それは時間・空間・年齢・性別などの情報が明かされずに日本語が連関していき、法則性が見えないから。つまり、正解がないからだ。
日本語とAIの関係を通して、人とAIとの新たな関係まで見えてくる。その可能性の萌芽が兆したノンフィクションの好著!
感想・レビュー・書評
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最近めちゃくちゃ気になってるAIの執筆について。
実際の研究(意味の通る文書を機械的に作る方法の実現)と、その成果(AIがかいた※小説)の星真一賞への応募について。
論文まではいかない、その一歩手前で、だからこそ研究の真意や見通しも噛み砕いてわかりやすく書いてくれていて、とても読みやすく面白い。
言語をAIに認識させる研究、というもの自体にすごく興味がわく。
結局、AIはゼロからは生み出せない。
でも人間だって。これまでのインプットがなんらかあってのこと。
それはともかく、AIの場合は、いろんな制御パタンを与えて、パラメータを与えて、パラメータ同士の関係を与えて、、と、ルールに継ぐルール。ランダムなパラメータ設定でも、意味を成すように、ギリギリのラインの設定はされてたみたい。
最終的なAIのゴールとしては、世の中にある文章を限りなく読み込み、起承転結のトリックも含めて認識し、パラメータ化し、どの入力をさせるのかを決め、その結果としてはじきだす、ということなのだろうか?
後半の、AIを東大に合格させる研究も非常に面白い。
入試問題の各教科で、ベースになるのはやはり語学力。AIも、日本語を"理解"できないと(正確には、"理解""しているかのように")、いくら数式がつくれたって、問題文から直接数式を組み立てるところまではできない。
そして、今回の小説はAIが書いたといえるのか問題。北極システムと南極システム。レゴのセット。
境界は間にあって、つまりは受け取り方しだい。
コンピュータが○○をできた、というのは擬人的な表現でしかなく、本来の意味は、"○○のためのアルゴリズムがわかった"ということ。賢くなったのは人類であり、機械ではない。
→それを勝手に実装していくのがAIなのでは?それがシンギュラリティなのでは?
文法を満たす文を作っても、その文が意味が通る文かを判定する機械的な方法は明らかではない
研究者自身の言葉で書かれていることの意義
理性↔︎感性、ではなく、センス↔︎後付け論理で研究を語る筆者。直感で選択してから、うまくいったあるいはうまくいかなかった理由を論理で考える。納得。
現在の科学では、意識というものが説明できない、ゆえにコンピュータが意志を持って何かをするなど、現時点ではありえない。
→AIが意志を持たずとも勝手に"学習"していった結果、意志なき意志が生まれてしまうのが、こわいのかも
理系の学者が、ことばを扱うということの面白さ。
書かれている文章自体が非常に明晰で軽やかでわかりやすい詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
5章までは小説生成器の仕組み、6章から10章はAI作家の小説応募とその周辺で起こったことや筆者の考えが書かれている。あまりプログラムに縁のない人だと前半はそれほど面白くないかもしれない。6章からは小説に限らず創作に少しでも興味のある人なら面白く読めると思う。
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小説コンクールの日経「星新一賞」はプログラムで作成された小説も受け付けています。それに応募した自然言語処理研究者である著者が、どのようなアプローチで機械的に小説を生成し、どのような結果になったのかを著しています。コンピュータが小説を独力で生成するのは現代のテクノロジーではまだまだ困難であるとし、そのなかでもできることは何かを説明しています。そういうアプローチがあるのか、と勉強になりました。技術的な話は少ないですが、読み物として面白かったです。
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面白かった。論理的な思考の経緯。
中核のプログラムの記述は難しくて理解できなかった。
最後の部分でようやくAIが小説を書いたとは語弊がかなりあるということがわかった。 -
タイトルに惹かれて手に取った。最初は工学系の話で全然わからなかったので、工学系の人に勧めて解説してもらおうと思ったくらいだ。しかしながら、コンピュータに小説を書かせるということは、それに至るアルゴリズムを作る「人」がおらねばならないというところから、小説はいかにしてつくられているのか、を綿密に勉強され、分析されている。文系(元理系)の私にも非常に参考になり、なるほど日本語というものは、小説というものはこうなのかと改めて目から鱗が落ちた。さて、コンピュータは果たして作家となりうるのか。
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2017年12月10日に紹介されました!
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人工知能が、ではなく
コンピュータが、小説を書けるかどうかのプロジェクト。
勘違いして手に取りましたが、なかなか面白かった -
AI作家に賞は取れるか?というお題目には遠い感じの内容なのかな。
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著者の佐藤さんは、小説の賞の1つである星新一賞に、コンピュータを利用して書いた小説を応募したグループの中心人物。
その過程と、その過程からわかったことをまとめた1冊。
本の後半に書かれている、「『理性-感性』という対立ではなく、『センス-後付け論理』という対立の方がしっくりくる」とか、「独創性や創造性を信頼しない」、「文章を書くこととは、伝えたいことを伝わるように文を構成するパズル」といった考え方は、自分が何となくイメージしていたことの明確な表現で、それらに出合えたことは、この本から得た最大の収穫かもしれません。
AIにできること・できないことや、人間の認知の仕方などに対する著者の考え方は、非常に参考になると思います。
今年、自分が読んだ本の中では、文句なくNo.1です。