危機と人類(上)

  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532176792

作品紹介・あらすじ

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ大絶賛!
「国家がいかに国難を乗り越えたか?明快な筆致に引き込まれる。本書は、地球規模の危機に直面する全人類を救うかもしれない」

国家的危機を突破した国家と、崩壊した国家の分水嶺はどこにあるのか。

ペリー来航で開国を迫られた日本、ソ連に侵攻されたフィンランド、軍事クーデターとピノチェトの独裁政権に苦しんだチリ、クーデター失敗と大量虐殺を経験したインドネシア、東西分断とナチスの負の遺産に向き合ったドイツ、白豪主義の放棄とナショナル・アイデンティティの危機に直面したオーストラリア、そして現在進行中の危機に直面するアメリカと日本・・・・・・。私たちはそう遠くない過去の人類史から、何を学び取り、将来の危機に備えるべきなのか
『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』で知られるジャレド・ダイアモンド博士が、世界7カ国の事例から、来たるべき次の転換点を人類が超越する叡智を解く!

感想・レビュー・書評

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  • 「危機」という言葉に惹かれる私。

    なんで、そんな本読んでるの?と奇異な目で見られもしたのですが、正直言います。
    めっちゃ分かりやすいし、面白いです。

    ジャレド・ダイアモンドといえば『銃・病原菌・鉄』を思い出す方が多いのではないでしょうか。
    本書は、国家の危機を乗り越える要因として、12項目を挙げ、それぞれの国がどのような項目をクリアして、危機を乗り越えたかが述べられています。

    上巻ではフィンランド、明治日本、チリ、インドネシアを取り上げているのですが。
    フィンランドといえば、教育!(と、かもめ食堂と、ムーミンと、サルミアッキ)しか知らなかった私ではありますが、じゃあなんで教育なんだ、となった時に、世界大戦から続く危機的状況が背後にあったとは!と目からウロコでした。

    私の好きな「地政学的制約」についても、美味しく調理してくれ、満足。

    続く、明治期の日本についても、選択的変化を採用し、国自体を、そして国が残したいものまで残せた好例として書かれています。
    日本を外側から見た意見として面白く読みました。

    チリのピノチェト、インドネシアのスカルノ、スハルトと、デヴィ夫人くらいの知識の私でも、この三人の名前、覚えられました(笑)
    ちなみに、国家的危機を扱ってはいるのですが、筆者はこの12項目は個人的危機にも当てはまると述べ、個人的危機12項目についても解説しています。

    下巻に進む!

  • 『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』、『昨日までの世界』など、広範な知識を元に人類の歴史をグローバルな観点で分析をしてきたジャレド・ダイヤモンドの最新作は、近現代史における国家的危機を分析したものであった。

    原題は、”UPHEAVAL: Turning Points for Nations in Chrisis”
    UPHEAVALという耳慣れない単語は、激動・動乱といった訳語が当てられる。激動や動乱は、一般的には非常に個別の事象で、その場そのときに固有のものである。本書では、国家的危機の事例がいくつか並べられているが、そういった意味で「危機と人類」と大ぐくりにされるのはいかがなものか感がある。地政学的な違いや歴史の違いから危機に対しての行動や結果も違っていたというのがこの本の主旨であるので、どこか人類一般に適用されるような一般論を語っているわけではない。

    本書で取り上げられるのは、まずはいくつかの過去の国家的危機 - 第二次世界大戦までのフィンランドの対ソ戦、日本のペリー来航から明治維新、1970年代から始まるチリの軍事独裁政権、1965年のインドネシアの軍事クーデーター、ドイツの第二次大戦後から東西統一に至る変遷、1972年のオーストラリアの白豪主義廃止を含む急激な変化、が取り上げられる。そして、現在すでに進みつつある将来の危機として、日本の女性の役割/少子化/人口減少/高齢化という社会的問題、アメリカの政治的妥協の衰退、気候問題などグローバルな危機、である。

    著者も断っている通りなのだが、この本で個別に取り上げられた国のリストは、著者自身が何らかの関係があり、自身の経験としてもよくしており、友人知人の話も直接聞くことができるという理由で取り上げたものであり、決して網羅的なリストでもない。少し考えればわかる通り、優先的に取り上げられるべき上位の国ですらないかもしれない。
    世界には興味深く取り上げられるべき「危機」と「変化」を経験した国には枚挙にいとまがない。
    例えば、隣国の韓国が二十世紀に経験したこと、そして今も分断された国としてあることは、どの国にも負けず国家が向き合う危機として記録され、分析され、記憶されるべきものだろう。地政学的な要因をこれほど強く受けて翻弄された国もそう多くない。チリで取り上げられた独裁者による悲劇では、その悲惨と与えた影響を鑑みるとカンボジアを外すわけにはいかない。フィンランドと同じように大国に翻弄された国でそこからの復活した事例としてはベトナムが外れることはないだろう。悲惨な結果を招いた民族対立とそこからの復興についてルワンダを始め、アフリカ諸国にも無視すべきではない多くの事例が存在する。国家としてのアイデンティティの観点からも南アフリカは、オーストラリア以上に興味深い事例である。そして、もちろん、かつてソビエト連邦として知られたロシアの歴史と連邦としての崩壊についても分析すべき価値がある。

    もちろん著者はこの本で取り上げた国が網羅的でないことは百も承知である。著者はこの研究をさらに進めて、現代的な計量的手法を取り入れたいと考えていたが、そこには至らず、「本書は、叙述的な探索的研究」であり、「本書がきっかけとなり、今後計量的な検証がおこなわれることを希望する」としている。ここで取り上げた7つの国の事例だけでは、統計的に有意な結論を導き出すには少なすぎるのである。

    一方、危機に際してどのように対処するのかを分析するための下地として、心理療法において使われる個人的危機の解決の帰結を左右する12の要因を国家的危機にも当てはめる。その12の要因とは、①自国が危機にあるという世論の合意、②行動を起こすことへの国家としての責任の受容、③囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること、④他の国々からの物質的支援と経済的支援、⑤他の国々を問題解決の手本にすること、⑥ナショナルアイデンティティ、⑦公正な自国評価、⑧国家的危機を経験した歴史、⑨国家的失敗への対処、⑩状況に応じた国としての柔軟性、⑪国家の基本的価値観、⑫地政学的制約がないこと、である。これらの要因によって国家が危機に対応する行動とその帰結を理解できるのではというのが、本書で取り組んでいることのひとつである。確かに個人と国家において共通するところもあるが、そこから新しい定性的な結論を導くには至っていないという印象だ。

    なお興味深いのは、取り上げられた数少ないリストの中で日本に関するテーマが二度語られていることだ。一つ目は明治維新、そして二つ目は近年の少子高齢化社会の危機だ。著者の妻の親族に日本人と結婚した人がいるということもあって、日本に多くのページを割かれることになったのだが、それ以上に近現代史において日本という国が強く興味を惹く素材でもあるということだろう。日本と欧米社会の相違点として、著者は「日本人の親戚や学生、友人、同僚たりは口をそろえて」と言いながら次のように列挙する -「謝罪する(あるいはしない)こと、日本語の読み書きが難しいこと、黙って苦難を耐え忍ぶこと、得意先を丁重に接待すること、徹底した礼儀正しさ、外国人に対する感情、あからさまな女性蔑視的ふるまい、患者と医師のコミュニケーションのしかた、字の美しさが自慢になること、希薄な個人主義、義理の両親との関係、人と違うと周囲から浮いてしまうこと、女性の地位、感情について率直に話すこと、私心のなさ、異議の唱え方」。同意するところ、そうでないところはあるにせよ、著者のような知識人の間においても、日本人に対してこういった視点(ステレオタイプとも言えるかもしれない)がグローバルに共有されているということについては、日本人として十分に意識的である必要があるかもしれない。

    巷間言われるように、明治維新については、隣国の中国がいいように列強に扱われているのと対比して、その指導者層の対応について著者も非常に高く評価している。その要因として、明治政府が海外派遣などを通して自国を公正に評価して、冷静に判断を行っていたことを挙げている。それに対して、第二次大戦前の指導部、特に陸軍における慎重で公正な評価に必要な知識と経験の欠如が、彼らをして誤った行動に駆り立てた原因だとしている。
    また、明治国家の特徴として、国家神道という伝統に接ぎ木をしたような仕組みを浸透させることで強固なアイデンティティを形作っていたことを挙げている。それがどれほど強力であったかは、第二次大戦の降伏条件に国体の護持をあの時点でさえも必須の要件としたことや、「神風」や「回天」などの特攻兵器に多くの若い兵士が志願したことからもわかる。

    チリやインドネシアの近現代史は、この本がなければもしかしたら一生触れることはなかったかもしれない。多数の島々からなるインドネシアがひとつの国としてアイデンティティを保っていることはよく考えると不思議なことかもしれないが、そのためには国語が大きな役割を果たしたということや、植民地からの独立やクーデーターなどについては知ることがあまりに少ない。
    また、ドイツについては、冷戦終了後間もない1993年に個人旅行先でベルリンを訪れ、壁を挟んで東西の落差を見て、その後アウシュビッツ収容所後にも足を運んだが、そこに至る歴史を知っていたかと言われるとまったく心許ない。本書を読むと何よりもナチスとの向き合いが国家レベルとしても、とても重要であったことがわかる。著者はドイツと近隣諸国の関係と日本と中国・韓国との関係を何度か引き合いに出す。もちろん、ドイツの戦後のリーダーのふるまい含めて、ドイツが良い結果をもたらしている一方で日本はその事実に向き合うことに失敗しているという枠組みで語るのである。それに対して反対の意見を持っているわけではないが、軽々に語るべきことでもないようにも思う。ただし、ジャレド・ダイヤモンドのような人が冷静な観点でそのように語っていることに対しては謙虚に認識をするべきだと思われる。

    そして、現代の日本社会の課題について滔々と語る第八章は、耳が痛いところが多いのだが、著者に言われなくてもという思いも強い。日本は外圧により動くことが多い(これもまた課題のひとつかもしれない)ので、こういうことを言ってもらった方がよい方向に動くのかもしれないとも思う。女性の役割、少子化、人口減少、高齢化の他にも国債発行残高や移民の少なさも問題として挙げられる。一方で、人口減少は必要となる資源が少なくなることを意味することから大いなる強みになると考えていると続く。本当か、と思うとその次に高齢化はもっと大きな問題と続くので、それはそうだ。女性の地位については、自分が生きている時代の中でもそれでも大きく変わったと思うのだが、まだまだ全く不足だと説く。さらには韓国や中国との間でいまだに第二次大戦のしこりが残っているのは結果として失政としか言いようがない。

    著者は彼にとって身近なアメリカの格差問題、トランプの問題に触れ、さらに核問題、気候変動、資源問題、格差拡大、イスラム原理主義、などを挙げる。ちょっと風呂敷を広げすぎた感があり、結論が出ない問題をこねくっているような印象も受けた。

    自らが住む日本のことにも数多く言及されていたこともあり、眼から鱗が落ちた、といった部分は少なかったが、なかなか楽しめた。著者は、ここで採用したような国家危機の分析を広くまた定量的にも行ってほしいと考えているとのこと。この内容であれば、誰かと共著で『危機と人類 II』というものが出せそうである。御年82歳、誰か後継となるものをそこで指名してもよいのではなかろうか。

  • ジャレドさん、銃病原菌鉄に続いて2冊目。
    この本では、いつくかの国に訪れた危機と、その危機にどのようにして対応したのかが描かれている。

    まず、はじめに思ったのは、知らないってことは恐ろしいな、と。この本に書いてあることが、真実なのかどうか、私には確認する術がないけど、それでも、歴史について知ることは自分の考え方に幅をもたらしてくれるような気がする。

    例えば、フィンランドの話し。ソ連との関係性について、その内情を知らない人から見たら、なんでそこまでソ連の機嫌を伺うような振る舞いをするのか、理解ができないことだろう。でも、それまでのソ連との関係からフィンランドの人々がどのように考えるに至ったのかを知れば、理解できるようになる。

    日本についても、明治維新後の日本については、危機への対応が良かったことが書かれているが、第二次世界大戦や昨今の日本には対応の不味い点が指摘されている。特に戦後のドイツとの比較で、戦争時の過ちに対して正確な自己評価が不足している、と指摘する。ドイツは過ちを詫び、自国内でその過ちについて、きちんと教育しているが、日本ではいまだに戦時の教育ではそうした負の部分が正確に伝えられていない。わたし自身、どちらかというとこの作者の指摘通り、日本がそこまでひどいことをしていないのではないか、という幻想を抱くことがあったように思う。

    歴史に学ぶことの重要性を考えさせられる本でした。

  • 「銃・病原菌・鉄」「文明崩壊」などジャレド・ダイアモンドによる、人類・国家はこれまでどんな危機を迎え、いかに乗り越えてきたか、21世紀において世界はどのような危機を迎えるのか、に迫った一冊。

    まず序論で危機対処における重要なポイントとして以下の12個をあげ、著者の馴染みのある国の歴史的事例を取り上げ研究する。個人的な危機の事例をベースに国家に適用する、というのは面白いし理解の助けにはなる。
    1.危機にあるという状況への世論の合意/2.行動に対する責任の受容/3.囲いを作ること・問題の明確化/4.他国からの物質的・経済的支援/5.他国を手本とすること/6. ナショナル・アイデンティティ/7.公正な自己評価/8.危機を経験した歴史/9.失敗への対処/10. 柔軟性/11. 国家の基本的価値観/ 12.地政学的制約の有無

    上巻で紹介されるのは、第二次世界大戦のフィンランド、明治維新の日本、ピノチェト将軍のクーデターを経験したチリ、スカルノ&スハルトによる独裁と虐殺のインドネシア。フィンランドと明治維新の例は非常に好意的に取り上げられ、チリとインドネシアでは凄惨な虐殺に胸が痛む。
    気になったのは個人にフォーカスを当てすぎでは?という点。それがストーリーを面白くさせているのも事実ですが、特異な一個人が歴史の中で果たす役割は代替不可能なものか?日本の例は比較的そうではなく、快く読めます。
    そもそもの事例抽出において、著者の馴染みがある、という点を縛りにしている以上、どうしても客観性が不完全な点については本人の記述の通り。
    著者の思いがある分(意図したか別として)いずれの国も魅力的で、現在にいたる変遷をもっと知りたくなりました。

    個人的には地政学の話の掘り下げはもっとあってもよかったのでは、と感じました。残りは下巻で。

  • 現代世界史の特異点に注目し、フラットで詳細な解説を試みる。
    日本の章を読むと、学校で習う日本史ではなく、世界史の中で明治以降の日本はこのように見られているという視点があり、実に面白い。
    この人の視点、評価軸、叙述は良いね。

  • たぶん、NewsPicksでビル・ゲイツの愛読書と紹介されていたのが気になって読んだ本。
    個人的な危機と国家的な危機の類似点と相違点を比較した上で、7つの国に起こった危機を紹介・分析している。
    上巻では、フィンランド、日本、チリ、インドネシアに起こった危機が紹介されているが、フィンランド、チリ、インドネシアの歴史をほぼ全く知らなかったこともあり、すごく興味深かった。
    まだ、下巻は読めてませんが、オススメの一冊です。

  • 上・下巻合わせて1、2、3、8章のみ読了。日本に対する章では明治維新で西洋の文化をうまく取り入れながら、自国の文化を再構築し、西洋諸国に並ぶ国力を得られた要因を考察している。現代日本の問題では、男女の不平等や、少子高齢化などの多くの日本人が認識している問題に加えて、移民、中国と韓国、自然資源管理など重要だがあまり考えられていない問題にも触れている。個人の人生に対する危機と、国家としての危機を要員に分けて分析し、退避している点が面白かった。折に触れて他の国に対する言及をしている章も読みたい。

  • この歳になって、恥ずかしいことにインドネシアの方が日本より人口が多いという事実を知った。

  • 「国家的危機の帰結にかかわる要因」の12項目を、第1次世界大戦や第2次世界大戦当時のフィンランド、明治維新の日本などに当てはめて、どう対処していったかを検証している。
    フィンランドの例を読んでいてとても辛かった。他国の支援がない中で、多大な犠牲を発生させながらも、よく生き残ったと思う。
    危機を世論が認識して合意するということが大事であるが、とても難しい。

    現在の日本が、まだ直面はしていない国家存亡の危機に際したとき、あるいはその気配を感じたときに、どうなるかは心配でいっぱい。
    世論が自分ごととして考え、行動できるか、政府や首長が世論をまとめられるか。少なくともそのとき、対立を煽って人気だけ得ようとしているリーダーがいないようにしておかないといけない。

  • 危機に直面した個人と国家にとって難しいのは、機能良好で飼えなくてもいい部分と、機能不全で変えなければならない部分の分別だ。大半の国は、古いアイデンティティと新しいアイデンティティを抱えた人々でモザイク状を成している。
    個人的危機の要因のいくつかは、そのまま国家的危機にも応用でき。いくつかの類似点・相違点をもとにした比較は役に立つ。

    【個人的危機の帰結にかかわる要因】
    1 危機に陥っていると認めること
    2 行動を起こすのは自分であるという責任の受容
    3 囲いを作る(問題を特定し、選択的変化を取ること)
    4 周囲からの支援
    5 手本になる人々
    6 自我の強さ
    7 公正な自己評価
    8 過去の危機体験(経験の豊富さ)
    9 忍耐力
    10 性格の柔軟性
    11 個人の基本的価値観(何なら譲れる、変えられる?)
    12 個人的な制約が無い(身の振り方を変えやすい)

    【国家的危機の帰結に関わる要因】
    1 時刻が危機にあるという世論の合意
    2 行動を起こすことへの国家としての責任の受容
    3 囲いを作り、国家問題を明確にする
    4 他の国々からの物質的支援と経済的支援
    5 他の国々を問題解決の手本にする
    6 ナショナル・アイデンティティ
    7 公正な自国評価
    8 国家的危機を経験した歴史
    9 国家的失敗への対処
    10 状況に応じた国としての柔軟性
    11 国家の基本的価値観
    12 地政学的制約が無いこと

    以上のように、類似した点が多くあれば、メタファーになったり、個人的危機とは全く異なった問題もある。

    【フィンランド】
    ロシア帝国による統治下のもと圧政を受けていたフィンランドは、その後ロシア革命でソ連が誕生した際に独立するも、フィンランド内戦が勃発した。
    その後、ナチスとソ連がポーランドに侵攻し国境線を拡げるにつれ、ソ連がドイツへの対処のために、フィンランドに軍事的要求を出す。これをフィンランドが拒否。それは、フィンランド併合こそがスターリンの真の目標と考えており、また、スターリンの恫喝ははったりだと考えていたから。
    ここから、1939年に冬戦争が勃発。フィンランド軍は決死の覚悟とホームでの戦争で、結構粘る。ソ連も予想外の損耗と独ソ戦への準備のため、戦い続けるのは望ましくないと判断、和平条約を結ぶ。そこでカレリア州を含む多くの土地を割譲されてしまった。

    継続戦争
    1941年、独ソ戦が勃発。周りに頼る国がいないフィンランドはドイツと「共戦」関係になる。ともにソ連と戦うが、目的はカレリア州の奪還であり、アグレッシブにソ連に進軍せず、様子見に徹していた。その後落ち着くとモスクワ休戦協定を結び、戦争が終わった。

    この2つの戦争とも、西側諸国の支援は一切得られなかった。

    戦争終結後、フィンランドは新たな戦後政策に取り組む。それは、自国を弱小国と認め、ソ連と対話を重ねて信頼を得て、民主主義的権利を部分的に制約することだ。小国にとって、生き残りのためには手段を選んでいられない。地政学的観点から、ソ連に従うことを選んだ。
    また、この時ソ連を立てながら西側諸国とも友好的に接する綱渡り外交を展開。これが功を奏し、ソ連から国を守ると同時に経済発展を遂げるという目標を達成した。

    敗戦後、地政学的な制約から取った(取らざるを得なかった)様々な問題に対する政治的判断は、かなりうまく舵取りされたのだ。

    【日本】
    ペリー来航からの開国、不平等条約の押し付けという危機にさらされた江戸幕府は、西洋列強への段階的な譲歩により時間稼ぎをしつつ、その間に軍事力と国力の強化を行っていく。その間国内では攘夷派による様々な内乱が起きるが、西洋列強に勝つには到底遠い。
    明治維新により幕府が廃止された後、日本は軍事力だけでなく、西洋の強さを支える社会・政治制度も取り入れていく。ほとんどが西洋を手本としたものでありながら、日本人の考え方と折り合いがつくようにし、日本人の間に、イデオロギーと一体感を醸成し天皇を敬愛するような制度が作られていった。日本の伝統的要素を残しながら、西洋化されていった。これは日本を文明国として諸外国に認識させ、不平等条約を撤廃させることを目指したものであった。
    これほどまでに自国判断が正確だった日本が、太平洋戦争に突入した理由は、1930年代においては、欧米の力を知らぬ若い青年将校--自国評価に必要な知識と経験が欠けていた--が力を握っていたからだ。

    【チリ】
    1970年にマルクス主義者であるアジェンデが大統領になってから、外国資本の大手企業や鉱山会社を次々国有化、カストロとの接近、計画経済への段階的な移行など、過激な政策を実行、経済悪化と国民からの反発を招く。その後クーデターにより軍事政権が樹立し、ピノチェトが指導者になる。ピノチェトは独裁により、対立政権の政治家や活動家を次々と虐殺していく。アジェンデ以上に不可解な人物であった。
    経済政策では、国有化した企業を民営化、輸入関税の引き下げなど、国際競争に打って出、高い経済成長を実現した。(格差の放置など、負の面もいくつかあったが)
    その後ピノチェトに代わって新左派が政権を握り、民政に移行したが、新左派は歩み寄りを示し、ピノチェト側を弾圧することはなかった。ピノチェトは極悪非道な残虐行為を行ったが、同時にアジェンデ政権の経済問題を取り去った功労者であり、今でも国民の中で支持・不支持が割れている。

    【インドネシア】
    インドネシアは700の島々からなる国であり、古くはその島ごとに国が置かれていた。その島々の住人に国家意識が芽生え始めてきたのは、1910年になってからだ。
    幅を利かせていた領主国のオランダに対して反発する動きはWW2まで続き、WW2で日本が占領、独立を約束する(本当は天然資源目当て)が日本は敗北、日本が敗北宣言をした2日後に独立宣言するも、再びオランダが支配権を狙って介入してくる。
    初代大統領スカルノはオランダからの独立を企画するも、インドネシアに政治主導の経験がないことから難航する。
    1960年代、インドネシアにはスカルノ、軍、PKIの3勢力があった。PKI主導のもと起こしたクーデターが失敗に終わり、軍はその報復としてPKIの関連のある組織や一族を虐殺する。50万人もの犠牲者が出たといわれている。
    スカルノの後はスハルトが独裁政権を握り、軍から一般市民にいたるまで汚職が蔓延、30年間大統領の座を握り続けたが、アジア金融危機の影響で失脚した。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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