危機と人類(下)

  • 日本経済新聞出版
3.65
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本棚登録 : 349
レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532176808

作品紹介・あらすじ

ペリー来航によって開国を迫られた日本。外からの勢力によって引き起こされた危機に直面した国家は、どのような改革によって生き残ることができたのか。

そしてそのなかで意識的かつ選択的に残された伝統と、除去された因習とは何だったのか。なぜ日本が世界のなかでも独特で豊かな工業国になれたのか、その理由は明治時代における変貌を見ていくことで理解できる。そして、明治時代に形成された意思決定の過程が、後の中国大陸への侵攻や、第二次世界大戦での壊滅的な敗北に結び付く。

いま日本は現在数多くの国家的な問題を抱えている。そのうちいくつかは日本人が懸念し、いくつかは日本人が無視しているように見えるものだ。女性の役割、低い出生率、人口減少、高齢化、膨大な国債発行残高・・・・・・現代日本の危機は、明治維新の再来によって対処できるのだろうか。再び基本的価値観を選択的に評価しなおし、意味が薄れた価値と意味のある価値を選別し、意味のある価値を新しい価値と混ぜて、現状に適応できるだろうか。

下巻では、博覧強記の博士が、日本、アメリカ、世界を襲う現代の危機とその解決法を提案する。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わりましたー!

    ちょっとした達成感(笑)
    上巻レビューも割と詳しく書いたので、こちらは概要的なものは飛ばして、中身に入ります。

    上巻に引き続き、国家が危機を乗り越えた事例としてドイツとオーストラリアの紹介があります。

    ドイツについては、敗戦にまつわる自己憐憫的な振る舞いから一転し、政治的中枢を担う人物がきっちりナチスドイツの暴虐を謝罪し、教育にもその反省が生かされている点が評価されていました。
    その点で、曖昧な態度を取り続ける日本の今の問題点も、後の章で取り上げられます。

    オーストラリア編では、母なる国イギリスへの奉仕を中心に進んでいきます。
    これを読んだ時、オーストラリアではなくニュージーランドに行ったときに受けた感じに、あれはイギリス系住民のプライドだったんだな、と思い当たる部分がありました。
    まぁ、英語全然出来ない自分がダメだったんですけどね(笑)

    第3部からは、現代の日本とアメリカが抱える危機について述べられます。

    日本については、少子高齢化と移民受け入れに対する消極性のこと。
    そして、資源がないのにサスティナブルな運用をしていかないこと。
    更に、教育の行き届いている国なのに、女性の登用にはまだまだ壁があるということが主でした。
    個人的には、女性に光が当たりつつあるという感触がありましたけど、筆者から言わせると根強い壁が残っていて難しいとあって、そういう風に捉えられているんだな……と思いました。

    この第3部については現在進行形の危機ということもあり、やや教訓的で、そこがちょっと読みづらかったです。
    なので、上巻は星5つ付けたんですが、下巻は1つ減らすことにしました。

    上下巻共に、時間はかかりますが、読みやすい!
    方法論としては大学生の方にオススメします。
    んー。楽しかった!

  • 「銃・病原菌・鉄」「文明崩壊」などジャレド・ダイアモンドによる、人類・国家はこれまでどんな危機を迎え、いかに乗り越えてきたか、21世紀において世界はどのような危機を迎えるのか、に迫った一冊。
    下巻で紹介されるのは、ドイツ、オーストラリアが第二次世界大戦後に迎えたアイデンティの危機、そして進行中の危機、としては日本、アメリカ、世界を取り上げます。
    二十世紀前半を混乱の中で過ごしたドイツは、第二次世界大戦後の東西ドイツの分断、ナチスの負の遺産と近隣諸国との和解などの問題を内包した。
    オーストラリアは第二次世界大戦の混乱の中で、自分たちが「イギリス」ではない、と理解して新たなアイデンティティ確立に迫られた。

    日本の進行中の危機としてあげられるのは女性問題、隣国・中韓との関係性、少子高齢化と移民、非持続的な資源管理。
    まあ項目自体はよく聞くものではあり、反論したくなる部分もありますが、状況は耳が痛い。
    結局は公正な自己認識ができていないこと、責任を受容なのだろうけど、なんでこうも対策が打てないんでしょうね。本作に照らし合わせれば、自己認識すべき情報はあり、参考にできる他国もある。特に女性問題においては遥かにうまくやっている他国が多々ある。

    アメリカに住む著者なだけあり、アメリカの危機には切迫感が強い。民主主義崩壊の兆し、民主的選挙制度の崩壊、格差拡大、など2-3世代前のアメリカの強みであった部分が、現在は脅威になっている。
    世界危機としては核兵器、気候変動、エネルギー問題、格差、など。


    上下巻と合わせて結構なボリュームですが、個々の事例はそこまで長くもないので、区切って読み進めていけました。
    ストーリーとしては面白いです。客観性については上下巻とも不完全。特に国家という組織が一個人のような情緒的な行動原理を持つもののような描写もあり、これは気になるところ。
    まあこれらは著者も書いている通りです、定量的評価を目指した論文の紹介はあるものの、今度は個々の特異性の排除の問題が出てきて、なかなか両立しないでしょう。(そもそも危機って特異なものですし)

    ジャレド・ダイアモンド氏は誠実な知の巨人という感じで、世の中知らないことだらけだな、と思えてやっぱり面白いです。

    あとタイミングとして、この本は2019年の11月発売、つまりCOVID-19以前の危機を問題にしています。本作にウイルスの話は出てきません。多くの読者が「一番身近な危機がないじゃん」と思ってしまうでしょう。今回の世界規模の危機については、どういう言及だったのか、気になるところだし、著者はご高齢ですが、「銃・病原菌・鉄」を書き進化生物学の博士でもある方ですので、続編に期待しておきます。

  • 下巻では、第二次大戦後のドイツ再建(ドイツの戦争責任の直視に至る戦後二十年の意識変化、ブラント首相の社会改革とポーランドへの謝罪)、オーストラリアのイギリスへの強い帰属意識(アイデンティティの依存)への訣別と精神的自立、日本における現在進行中の危機(巨額の財政赤字、男女不平等、少子化、人口減少、高齢化、移民政策、中韓との関係、グローバルな自然資源保全への無関心)、米国の危機(政治的妥協の加速度的な衰退と二極化、選挙制度問題、格差と停滞、教育を含む公共投資の減少)、世界的な危機(核兵器のリスク、気候変動、化石燃料を含む自然資源の枯渇、格差解消に伴う将来の消費激増)などが詳述されている。

    日本を巡る分析には異論もあるが(例えば、日本は原爆投下の有無に関わらず降伏しか選択肢がなかったのに「日本は自己憐憫に陥り原爆の被害者としての立場にばかり目を向けており、原爆が落とされなければ起こったであろうさらに悪い事態について冷静に議論することはない」と言われてもさすがに承服できないなあ)、資源の逼迫に悩まされ続けてきた日本は、人口が減少すれば(高齢者問題を別とすれば)「困窮するのではなく非常に裕福になるだろう」との指摘などには頷ける。

    トランプ大統領によって混迷の度を深めている米国については、「アメリカ人による政治的妥協が加速度的に衰退している」危機的状況にあるとし、その原因は選挙活動費用の激増と資金集めへの奔走(=大口資金提供者の意向に左右される政治活動)、情報のニッチ化、顔を突き合わせないコミュニケーションの爆発的増加にあると分析している。そして、このまま二極化が進み対立が激化すると、「アメリカ政府、あるいは州政府を手中に収めた政党が有権者登録をどんどん操作し、裁判所判事に同調者を送り込み、こうした裁判所を使って選挙結果に介入し、「法的処置」を発動し、警察や国家警備隊、陸軍予備軍や陸軍そのものを使って政治的反対勢力の抑圧をおこなうという未来が予見される」と怖いことを言っている。歴史が浅く常に移民が入り続けている米国は、建国の理念が薄れやすく、個人主義を重視する風土やキリスト教精神の希薄化なども相俟って、元々容易に分断されやすい社会なのかも知れない。

    世界的な課題、特にエネルギー資源枯渇問題について、著者は強い危機感を持って警告している。この点、自分はやや楽観視している。途上国も所得が向上し生活水準が高まってくれば必然的に少子化して人口増加は抑えられるだろうし、経済原理が働くから省エネ技術や代替エネルギー技術はより発達すると思う(確かに、その過程で国際紛争を含めてかなり悲惨な状況が生じるかもしれないのは著者の言うとおりかもしれない)。なお、問題の根本は、経済成長を必須とする資本主義の考え方にあるんじゃないかな。いい加減「足る」を知り、経済成長を目標に掲げて無駄に消費拡大を煽るのはやめるべきだと思うのだけれど…。

    下巻の方が、現在の危機を扱っているので面白かった。

  • 下巻で取り上げられているのは、ドイツ、オーストラリア、日本(現代)そしてアメリカ。上巻で幕末~明治維新の日本は絶賛されていましたが、現在の日本はかなり厳しい。特に感じるのはドイツと異なる第二次世界大戦に対する清算かな。もちろん、現在直面する危機はあるのだけど、やはり認識の問題はとても大きく、日本人としては違うのではないかと思うことも、そう見えるということなのかもしれない。

    現代アメリカの抱える課題はある意味世界の課題。一番課題として認識されていたのは格差の拡大ではなく「アメリカ人全体が二極化し、政治的妥協を受け付けなくなっている」ということ。民主主義に備わっている利点として、ダイアモンド先制は「運用に際して妥協が必要不可欠であるという点」を挙げている。妥協は権力の座にある者の暴政を抑制することに繋がるらしい。それと、経済格差も問題、地球環境問題(特に二酸化炭素排出による温暖化問題=異常気象)も問題であることはあえて語るまでもない。

    ダイヤモンド先制は現代の世界の問題として3つを挙げている。核兵器と世界的気候変動、そして、必要不可欠な自然資源の世界的枯渇。どうも先進国は途上国の一人当たり最大32倍の資源を利用しているらしい。世界の人口が増えても、途上国で増えている分にはあまり問題なかった。しかし、増えている途上国で一人当たりの資源消費が先進国並みになってきたら・・・確かに想像を絶する話になる。グローバル化が明らかにこれを後押ししている。グローバル化は3つの課題を引き起こしている。ひとつは貧困国から富裕国への新しい病気の拡散。2つ目は貧困国の多くの人々が、世界の他の地域で営まれている快適なライフスタイルを知り、不満と怒りをつのらせている。なかにはテロリストになるものもいるし、多くはテロリストにならずとも、テロリストを容認あるいは支持している。そして、3つめのは、低消費生活を送ってきた人々が高消費のライフスタイルを求めるようになることである。そう資源消費だ。人類史上初めて、真の地球規模の課題に直面しているとダイヤモンド先生は指摘する。
    さて、この本の結論はどこにあるのだろうか。危機、つまり何か大きな悪いことが突然起こるほうが、ゆっくりと進む問題よりも、また、何か大きな悪いことが将来起こりそうだという見通しよりも、人々に行動を促す。まず、世界規模の危機がそこまで来ていることは明らかだ。そして、この本で述べられてきたように、国の場合は、まず自国が危機のさなかにあると認識すること。他国を責め、犠牲者としての立場に引きこもるのではなく、変化する責任を受け入れること。変化すべき特徴を見極めるために囲いをつくり、何をやっても成功しないだろうという感覚に圧倒されてしまわないこと。支援を求めるべき他国を見出すこと。自国が直面している問題と似た問題をすでに解決した、手本となる他国を見出すこと。忍耐力を発揮し、最初の解決策がうまくいかなくてもつづけていくつか試す必要があるかもしれないと認識すること。重視すべき基本的価値観ともはや適切でないものについて熟考すること。そして、公正な自国評価をおこなうことだった。これから世界が向かうべきところは何とも明らかだということだろう。

  • 心理療法の分野で個人が精神的危機を乗り越えるために有効とされる12の要因を、かつて国家的危機に瀕した国々の歴史に当てはめて分析し、そこから今日の世界的課題の解決に向けた示唆を得ようとする著者の研究をまとめた一冊。

    著者はフィンランドやオーストラリア、日本など、自身との関わりが深い国々に関して得られた様々な知見をもとに、他国からの侵略や敗戦など、過去に国家的危機に直面した国々が復活した背景には、まず自国が危機にあることを認め、その克服に向けた責任を受容するとともに、自国の現状を公正に評価した上で、守るべきものと変えるべきものを明確にして対処する「選択的変化」という必要不可欠なプロセスがあり、さらには国としての柔軟性と忍耐、他国との関係性も重要になる場合があるという。

    著者自らが認めているように、本書の分析対象は著者がよく知る国に限られ、叙述的(定性的)な分析が中心となっているため、科学的根拠を基にした史実としての正確性については批判する向きもあるだろう。特に日本の戦争責任に関する記述は賛否両論があるだろうし、それは他国の分析についても同様かもしれない。ただ歴史の解釈は常に動くものであり、本書の日本に対する見解も、海外ではこのように受け止められることもあるのだという事実を理解する必要がある。その上で、著者が提起する核の脅威や気候変動などの世界的危機に対しても「選択的変化」を実現できるのか、そのために日本ができることは何かを考えるきっかけにしたい。

  • ジャレドダイアモンド様にどハマりしました。

    上下で危機に直面し、変えることのできない制約と選択できる変化とを分別して危機を乗り越えた国家の事例を解説してくれる。

    国家が紡いだ歴史から、どう組織は危機を乗り越えるのか。何が危機を生み出したのか、などを世界史を知らない人でも1から学べる。

    その上でその国の課題やあるべき姿を提言する。
    それは説得力に富んでおり、国が取るべき対応策まで歴史から学べる気がする。

    なによりも適切な自己評価、それに伴って最善の行いを行うことの大事さを感じる。
    危機に迫られると、人や国家は変わる。それは、ピンチはチャンスということにもつながるのかな。

    逆に自己評価を謝ると、破滅的な結果を招くことも歴史から学べた。

    問題や課題から目を逸らさずに忍耐強く取り組むこと。
    そして、組織を団結させるために神話的なストーリーを繰り返して組織のアイデンティティを増強するなどの方策もまなべた。

    いろーんな矜恃に満ち溢れた良書の典型だった。

  • 下巻はドイツ、戦後の日本、アメリカなどについて取り上げ、
    最後に世界全来に害を及ぼす問題にどんなものがあり、今後の危機に世界はどのように立ち向かっていかなければならないかを述べています。
    著書はもともと地理学を専門としているだけあり、切り口や原因に地形や風土、位置に関連性を持たせているところが特徴的でした。
    今回、あげられた国々はすべて著者が住んだり住んでいる人が身近にいたりした国に限られているが、国家的危機の帰結に影響を与える12の要因(要因が多すぎないか?)をもっと多くの国のについても触れることを期待します。

  • ジャレットダイアモンド氏の歴史書。政治史・社会史
    国家的な危機について、その内容・原因・解消の分析が
    個別の事例で紹介せれている内容です。
    フィンランド・近代日本・チリ・インドネシア・ドイツ・
    オーストラリアの6か国の歴史と
    日本とアメリカの進行中の危機
    現代日本の進行中の危機についての論述と分析について
    非常に有意義で深い内容であったと思います。
    また、この内容が個人的に個人の危機と
    その原因や解消すべき方向に対する示唆があるように
    思いました。
    また、本当に今の日本の問題意識の本質を指摘している
    ものだと思います。

  • ジャレドダイアモンド氏の他の著書に比べてインパクトが薄い気がした。ドイツ、オーストリア、日本、アメリカの危機とそれの対処法が書かれていた。強制収容所、ヒトラー、ウィルヘルム2世、日本の教育、国債、少子高齢化、移民の受け入れ、キューバ危機、気候変動、風土病。最近のコロナウイルスも想定に入っているところは凄いと感じた。

  • (上巻)
    フィンランドの例が詳しく紹介されている。
    フィンランドって北欧の裕福な国としか認識していなかったので、新たに色んなことを知ることができた。ソ連と激しい戦闘をしたとか、その歴史を踏まえ、民主主義国でありながら、ソ連、ロシアと友好関係を築き、政治面や経済面で、通常の独立国では考えられないような同国への譲歩を行っているとか。フィンランド化という言葉で同国が非難されてきたとか。
    チリのピノチェト政権も詳しく紹介されている。よく知らなかったが、軍事独裁政権として、チリの国民を多数殺害したらしい。今の北の将軍様のようなものか。経済運営としては米国のシカゴ学派の考えを取り入れたらしく、その辺りは違うのだが。
    インドネシアのスカルノ、スハルトについても、別人とは知っていたけれど、どちらもスで始まる4文字名前だから(?)、どちらがどういう人か知らずにいた。デビ夫人はどっちの奥さんだったっけみたいな感じ。この本を読んで、スハルトがスカルノから権力を奪取したとか、スカルノは近隣諸国に戦争を仕掛けていたとか、色々と知識が増えた。
    (下巻)
    上巻では危機にうまく対処した例として日本の明治維新が取り上げられ、褒められていたが、現代の日本に対しては厳しい評価。まず、巨額の国債発行残高、女性の役割、少子化、人口減少、高齢化が取り上げられる(最初の1つと後ろの3つは実際は同じことだけれど)。
    そのうち、女性の役割については、日本は実際は男女平等ではなく、女性が損をしているかのように言われると、そういう面もあるけれど、だからといって女性が損ばかりしているわけでもなく、ただ日本の社会は欧米のような男女の役割分担にはまだなっていないだけで、男尊女卑の女性が可哀そうな社会だなんて考えるのは違うと反論したくなる。著者のような見方をしてしまうと、専業主婦になりたい女性が結構いるとか、日本の男性の多くがお小遣い制で汲々としている人がいるとか、日本の男性の幸福度が先進国で最低といった話が理解できなくなる。現在でも男尊女卑の男がいることは否定しないが、ある程度教養がある層ならそんな人は見かけないように思う。労働分担が非効率と言われるとそうかもしれないが、そのことと男女不平等はイコールではなく、家庭において主たる稼ぎ手となることが期待されていない点で女性が守られてきた側面も強い。最近、給料が家族を養うのに十分支給されなくなったため、女性にも稼ぎが期待されるようになり、女性を優先的に役員や管理職にするようになったが、それが必ずしも女性の幸せにつながっているとは思えない。
    少子化、人口減少、高齢化については、移民が他の先進国で実証済の解だという説明だったが、その点についてはなるほどと思った。ただ、移民にも色んな人がいて、富裕層の周囲には優秀な移民が、貧困層の周囲にはそうではない移民が集まるだろうから、著者の観点からは移民はお薦めの政策かもしれないが、必ずしも全員にとってはすんなり受け入れがたいだろうとは思う。日本人は民族的同質性が損なわれるから反対しているだけではないと思う。公にはそうではないが、実質的な移民の受入れはなし崩し的に進んでおり、外国人労働者は大きく増えている。留学生という名の学校に籍だけある移民も増えているし(東京福祉大学でなぜか多数の失踪者が出たり)。
    次に、日本人が意識していない危機として、中国と韓国、自然資源管理が挙げられる。
    中国と韓国については、日本に敵対心を抱いた近隣の2国が、経済大国化し、軍備増強を続けていることが危機だとし、西独のヴィリー・ブラント首相が、ナチスの非ではなく、ナチス時代のドイツの非を認め、近隣諸国のドイツへの警戒心を解き、結果的に東独を取り戻したことになぞらえて、日本も緊張を緩めるよう真摯に謝罪すべきとする。指摘のとおり、中国、韓国の、特に中国の軍事強国化は日本にとって危機であり、何らかの対処が必要だと思う。謝罪だけで友好関係を維持できるなら安いものだ。しかし、そういう方向で進めるのは現時点では政治的にほぼ不可能だし、中国は、日本というより米国をターゲットに軍備増強を図っており、謝れば解決するような簡単な問題ではないと思う。韓国については、日本からすると何回か謝罪したことになっているし、政治的な困難を排して竹島を差し上げたとしても、かさにかかって追加要求してくるようにしか思えないので、謝罪は解とは思えない。観光による人の頻繁な行き来やネットを通じた相互理解、経済的な結びつきを通じて、時間をかけて相互理解を深めていくしかないだろう。日本人は領土的野心があって安部首相が右派だから支持しているのではなく、野党がダメダメで、他もダメなので消去法で支持しているだけで、憲法改正より経済をなんとかしろよと思っている(今はとりあえずコロナだろうけれど)ことが心の底から理解できれば、無用な摩擦は減っていくと思う。
    自然資源管理は、個人的には問題として認識しており、鰻の高騰やマグロが絶滅危惧種になったのは、日本のせいもかなりあると思っている。共有地の悲劇を地で行くような話であり、なぜ今のようになるまで放置してしまったのか、よく理解できない。簡単ではないかもしれないが、著者のいうとおり、世界的な枠組作りと国際協調で持続可能な資源管理を図っていくべきだと思う。
    日本以外にも、ドイツ、オーストラリア、米国が取り上げられ、どの記述も興味深く、知的好奇心を掻き立てられるものであった。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)地理学教授
1937年ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修めるが、やがてその研究領域は進化生物学、鳥類学、人類生態学へと発展していく。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部生理学教授を経て、同校地理学教授。アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会会員。アメリカ国家科学賞、タイラー賞、コスモス賞、ピュリツァー賞、マッカーサー・フェロー、ブループラネット賞など受賞多数。

「2019年 『危機と人類(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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