稲盛和夫の実学―経営と会計

著者 :
  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532190064

作品紹介・あらすじ

バブル経済に踊らされ、不良資産の山を築いた経営者は何をしていたのか。儲けとは、値決めとは、お金とは、実は何なのか。身近なたとえ話からキャッシュベース、採算向上、透明な経営など七つの原則を説き明かす。ゼロから経営の原理と会計を学んだ著者の会心作。

感想・レビュー・書評

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  • 稲盛和夫がどのように会計を考えているかを語った本。
    実態の把握が難しくなりがちな会計の従来の手法に対して疑問を持ち、会社独自の手法を一部採用して対処しているというのが新鮮だった。
    今簿記で机上の会計手法の基礎を学んでいるわけだけれども、それが実際にどのように運用されているかというところは疑問を持ちつつ注視することが大事だろう。

    自社の購買発注の体制に関して疑問に持っていたところが一部解決されたのは意外なところだった。

    稲盛和夫の経営は正直経営ともいうべきところで、嘘偽りのないこと、というところを根底に置いているように思う。とても立派な人だと思う。ただ、あまりにも立派すぎてちょっと引く時もある。

    「そもそも資本主義社会は、利益を得るためなら何をしてもいい社会ではない。参加者全員が社会的正義を必ず守るという前提に築かれた社会なのであり、厳しいモラルがあってこそ初めて、正常に機能するシステムなのである。」
    ここら辺の主張は綺麗すぎてほんまか?という感じ。前作の生き方でも感じたが、稲盛和夫の言うことは聖人君主のようで少し疑いの目を向けてしまう。

  • 私には参考図書でした。

  • 会計の基本と稲盛哲学が同時に学べる名著。企業人なら一度は読むべき。
    本書では会計を切り口として「人の心をベースとした経営」とは何かが語られている。
    例えば「ダブルチェックの原則」は「人は間違えるから再確認する」のではなく「人に罪をつくらせない」ために必要な仕組みだと説かれている。まさに「哲学」の世界で唸るしかない。

  • この本は、経営者に限らずビジネスマンにとって普遍的で、バイブルとなる本だと思います。
    私が特に興味深かったことは『ダブルチェック』の内容でした。おすすめです!

  • 22年も前の書籍だけど、全く古さを感じない素晴らしい本だと思います。稲盛さんのように「人間として何が正しいか」という原理原則を持って生きたいものです。

  • 経理担当者のバイブルとなる本です。会計の専門分野は、あくまで実学の為にある。これから経験を積んでも忘れないようにします。

  • 経営と会計の原理原則。当たり前のことを当たり前にやることの難しさを学べる1冊。

  • 稲盛氏が京セラで実践してきた経営を、会計の切り口で論じた一冊。原価管理について、一石を投じる論調もあるが「JAL再生」という本でも書かれている通り、稲盛氏の社内取引が彼の経営の核にあることを納得させてくれる。

  • 稲盛和夫
      稲盛和夫の実学 経営と会計

    [著者のプロフィール]
     稲盛和夫さんは、日本の実業家。京セラ・第二電電(現・KDDI)の創業者。鹿児島県出身。1959年に京都セラミック株式会社を設立。

    [概要]
     序章 私の会計学の思想

    1.私の会計学はどのようにして生まれたか

     稲盛和夫は27歳という若さで京セラを設立した。当時、彼は経営の知識も会計の知識もなかった。だから、人としての道理に基づいて経営することを心に決めた。会計についても同様である。これが功を奏し、京セラは大企業に成長していった。

    2.私の会計学の基本的な考え方

     先程も述べたように、稲森和夫は基本的なモラル、良心に基づいて経営を行ってきた。それは物事の本質を見極めることを意味する。だから、彼は法定耐用年数や歩積み・両建て預金が「常識」として受け入れられていたにもかかわらず、それに疑問を持ち続けた。彼は「常識」を鵜呑みにするのではなく、本質を見極めることが経営をしていくうえでは必要だという。

    3.私の会計学と経営

     創業当初、彼は経理については無知であった。だから、「売上を最大に、経費を最小に」という難題を経営の原点だと理解した。ただ、これは間違いではなく、利益の追求には必要なことだった。そして、まず売り値を営業部に決めさすのではなく、自ら決めた。この売り値が経営状態を良くも悪くもすることが分かっていたのだ。これら会計の知識を経営者自身が身につけていることが真の経営には必要なのである。

     第一章 キャッシュベースで経営する

    1.儲かったお金はどうなっているか

     損益の動きとお金の動きは異なる。だから、利益を出してもお金が増えたというわけではない。これをほとんどの経営者が理解できていない。

    2.資産か、費用か

     経営はキャッシュベースで行わなければならない。先程も述べたように、損益とお金の動きは異なるため、資産と費用にも違いが出てくる。費用として支出したものが実際は資産であり、当初予想していた税金より多く支払わなければならないこともある。そうなると、現金が足りなくなり倒産に至ることがある。だから、経営はキャッシュベースで行うべきなのである。

    3.土俵の真ん中で相撲をとる

     多くの経営者は、借金をして事業を展開していき、経営規模を大きくしていく。ただ、この場合、銀行からの借入が必要である。ただ、借入は市場の金利や資金受給の動向、政府などの政策や方針に直接影響をうける。これにより、新しい設備投資の機会を逃すかもしれない。だから、借金をするのはいいが早期に返済し、できる限り自己資金を蓄え、その範囲で設備投資することが安全な経営といえる。これにより、京セラは自己資本比率を高くすることができている。

    4.勘定あって銭足らず
     
     現在、「キャッシュフロー」は、会計学でも非常に重視されるようになっている。
     

    第二章 一対一の対応を貫く

    1.モノ・お金の動きと伝票の対応は

     経営活動において、モノまたはお金と伝票が、一対一の対応を保つことを「一対一の原則」という。この原則が守られないと、経営者が数字のつじつま合わせに走り、少しでも業績をよく見せようとする可能性がある。だから、この原則を守ることは数字に信頼性を与えるということになる。

    2.アメリカでの経験

     一対一の原則を守らねば、売上と仕入が対応しない場合があり、月次決算書で利益の振り幅が不自然に大きくなる可能性がある。そうなると、誤った経営判断を招きかねない。

    3.米国現地法人の会計監査

     一対一の原則を守れば、現預金の管理に誤りがなく、実際有高と帳簿が食い違うことはほとんどない。

    4.売掛金・買掛金の消し込み

     一対一の原則はモノだけではなく、売掛金や買掛金にも適用しなければならない。何月何日発生した売掛金の入金が完了し、何月何日に発表した買掛金を支払ったなど、売掛金や買掛金をグロスで処理するのではなく、必ず具体的な日付で管理しなくてはならない。

    5.「一対一の対応」とモラル

     「一対一の対応」は企業の中であらゆる瞬間に成立している必要がある。これは健全な経営を守るために不可欠なのである。


    第三章 筋肉質の経営に徹する

    1.中古品で我慢する

     経営は虚栄心を出さず、身の丈にあうようにしなければならない。例えば、製造設備でも、すぐに新品を購入するよりもまず中古品を検討するべきである。必ずしも、生産能率が経営効率の向上につながるわけではないからである。新品の製造設備により生産能率が向上しても、値段が高過ぎれば資金繰りが悪化する可能性がある。

    2.健全会計に徹する

     不良資産は捨てるべきである。受注生産では、売れ残った製品はもう売れない可能性がある。その場合、多くの経営者は会社の実績をよく見せようと資産として残しておく。ただ、こうすると不必要な税金を払うことになる。これが経営状況を悪化させる。

    3.「固定費」の増加を警戒する

     設備投資などにより固定費を増やすと、利益率の低下につながる。だから、変動費だけでなく、固定費も出来るだけ減らすべきである。ただ、不用意に固定費を減らすと従業員の労働意欲向上の妨げになる可能性もある。そのため、従業員の理解を十分に得る必要がある。

    4.投機は行わない

     稲盛和夫は投機的利益を狙うことはない。彼にとって利益とは、自らの額に汗して働いて利益を得るために、必要な資金を投下することであるからだ。そして、企業の使命は、自由で創意に富んだ活動によって新たな価値を生み出し、人類社会の進歩発展に貢献することである。このような考え方を持つ彼にとって、投機的利益は浮利であり、真の利益とは言えないのである。

    5.予算制度は合理的か

     京セラでは、必要な分だけ仕入れ、余分な分は仕入れない。たとえ、まとめて買えば安くなる場合でも必要な分しか買わない。つまり、意図的に在庫を残すことはない。これは、人は必要な分しかなければそれをより大切に扱おうとするからである。また、余分なものがないから、倉庫がいらず在庫管理コストが不要になる。これらのコストを考慮すれば、この方がはるかに経済的である。これを「一升買いの原則」と呼ぶ。


    第四章 完璧主義を貫く

    1.マクロとミクロ

     経営者は完璧な決断が求められる。決断を間違えれば、従業員やその家族、株主、顧客などにも影響が及ぶ。そのため、経営者は会社のことをマクロの視点とミクロ視点を持って理解しなければならない。

    2.100%達成でなければ

     経営者でも従業員でも完璧主義を守ろうとする姿勢が必要である。その姿勢がミスを減らすのである。99%を目指すのであれば1%のミスが出る。そして、その緩みは徐々に大きくなり、90%、80%となっていく。これが社内の規律に悪影響を及ぼす。だから、常に完璧主義を守る必要がある。

    3.厳しいチェックでパーフェクトをめざす

     普段から完璧主義を貫いていれば、月次決算書の数字を見れば、違和感に気づくようになる。このような場合、経理部長のチェックが甘かったりする。逆に経理部長がちゃんと目を通しておけば、違和感を感じない。つまり、資料を作る側もそれをチェックする側も両者が完璧主義を貫かねばならない。


    第五章 ダブルチェックによって会社と人を守る

    1.人に罪をつくらせない
     
     「ダブルチェック」は会社のためにも社員のためにも必要である。少しの気の迷いで資産の流用を犯せば、それだけで信用を失い、経営自体が出来なくなる。だから、「ダブルチェック」を行うことで、不正ができないようにする必要がある。それが、業務の信頼性、会社経営の健全性に繋がる。

    2.ダブルチェックシステムの具体的なあり方

     ダブルチェックの管理方法には次のようなものがある。
     入出金の管理においては、お金を出し入れする人と、入出金伝票を起こす人を必ず分ける。
     現金の管理は、現金担当者以外のものが現金残高と伝票とをチェックする。
     他にもあるが、これら全てに共通することは必ず、1人で管理しないことである。そして、経営者自らが現場に出向き、時々チェックする必要がある。そうすることよって、社内にダブルチェックの意識が定着していくのである。

    第六章 採算の向上を支える

    1.時間当り採算制度とは

     京セラでは「時間当たり採算制度」を採用している。これは、単位時間当たりの付加価値(差し引き売上÷総時間)を計算し、これを付加価値生産性を高めていくための指標とするものである。そして、アメーバ経営である京セラでは各アメーバで「時間当たり採算表」を作成し、各アメーバ間の取引も記載することで、アメーバ間で支え合い1つの会社を経営しているという一体感を生む。

    2.付加価値を追求するアメーバ経営

     多くの大企業では標準原価計算を採用している。ただ、標準原価計算による原価管理システムにおいては、原価に主眼が置かれる。一方、京セラでは標準原価計算による原価管理は行わない。アメーバが生み出す付加価値に焦点をあて、最小の経費で最大の売上をもたらすような付加価値を創造する。

    3.時間当たり採算と会計との関連

     もちろん、アメーバでも「一対一の対応」がなされている。アメーバで発生した収益・費用はそれぞれの業績となる。そのため、どのアメーバで発生したかが明確になるようなシステムを構築し、管理者に責任を持たせている。間接費はアメーバ間で納得のいく配布方法で負担し、経費削減の意識づけを行なっている。このようにアメーバのモラルや活力を維持し、会社全体の業績向上につなげている。

    4.管理会計報告としてよ時間当たり採算制度
     
     アメーバの得た利益は月次決算書に反映される。そのため、月次決算書から利益のうちアメーバが貢献した部分を読みとることができる。こうすることで、アメーバのメンバー全員が現在の自己の姿を数字で把握し、今後の目標達成に必要な行動を理解することができる。

    5.売価還元原価法による経営

     京セラでは、棚卸資産の評価に「売価還元原価法」を採用している。「値決めは経営である」という考え方に馴染むからである。売価に対して、顧客が満足するような製品を最小の経費で作る努力をしている。そのため、売価も原価も固定したものではありえないとら考えている。これが「売価還元原価法」の採用につながる。

    6.アメーバ経営と売価還元法における原価の考え方

     アメーバ経営では、原価がずっと同じことはありえないと考え、常にあらゆる工夫をしてコストダウンをするようにしている。

    7.時間当たり採算制度は魂を入れないと生きない

     会社が成長するには、経営者の誠意を従業員に理解してもらわなければならない。そのために、経営者自身が現場に赴き、従業員に を直接の鼓舞する必要がある。また、自身の思いを直接伝える必要もある。利益が出るのは、経営を支える制度が優れているからではなく、従業員が頑張っているからなのである。


    第七章 透明な経営を行う

    1.公明正大な経理

     実態通りの会計処理が行われ、真実かつ公正な情報が提供されるためには、経理部門が清廉潔白であり、かつフェアであることが重要である。そして、不正が行われないような雰囲気を作り、社内でも一目置かれる存在になる必要がある。

    2.社内に対するコミュニケーション

     経営は常に透明なものでなければならない。そのためには、経営者自身が考える会社の目標や経営方針を従業員全員に伝える必要がある。そして、社内全体が同じ目標、方向を向き、力を結集することが大事なのである。

    3.フェアなディスクロージャー

     透明な経営を行うには、社内だけでなく社外に対する情報提供においても公正でなければならない。投資家に対して、自社が健全な会社であることをアピールし、より多くの投資家に投資をしてもらうことは重要である。そのためには、どんな状況でも真実な情報を提供することを心がける必要がある。これが結果として投資家の企業に対する信頼につながる。

    4.経営のモラルとあり方

     多くの企業で不正が起こるのは、不正に対する厳しい社風が乱れているからである。不正をあえて問題にしなかったり、不正を指摘することが裏切りだという雰囲気が作られていたりする。不正をなくすためには、正義や公正な行動を尊重する社風をつくりあげ、その上でシンプルな原則が守られる会計システムを構築する必要がある。

    5.公正さを保証するための一対一対応の原則

     不正は「一対一対応の原則」による管理を確実にすれば未然に防ぐことができる。曖昧な処理や、不正な処理は全て排除されるからである。

    [感想]
     経営と会計についてある程度の知識がある人が読めば、稲盛和夫さんの考え方が理解できると思います。京セラの経営方法について書かれている部分も多々あり、今や大企業である京セラの成長の仕方を一部知れた感じがします。「常識」にとらわれない稲盛さんの考え方が好感が持てました。特に法定耐用年数を使用せず、個別資産に対応した耐用年数を使用するという点に魅了されました。周りの行為を鵜呑みにせず、本質を追求し続けることが稲盛和夫さんの経営に対する姿勢を現してると思います。
     是非、多くの経営者さんに読んでいただきたいです。


     


     

     

     

  • 「会計」を会社経営の中でどのように活かしていくのかをテーマにした本書。

    まずは会計上の常識に囚われすぎず、物事を本質から考える癖を身に付けること。
    本当に必要な数字を導き出し、リアルタイムで経営状況を把握していくことの大切さを実感させられました。(特に償却費と在庫管理の話は強く印象に残っています)

    会計は過去の結果をまとめるためだけでなく、儲けるための武器の一種になりうると感じた。

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著者プロフィール

1932年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長に就任。84年、第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問、2010年には日本航空会長に就任する。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問となる。84年、稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。2022年8月逝去。その他著書に、『稲盛和夫の実学』『アメーバ経営』『稲盛和夫のガキの自叙伝』『高収益企業のつくり方』『人を生かす』『従業員をやる気にさせる7つのカギ』『成功への情熱』『生き方』等がある。

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