リスク 上: 神々への反逆

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532190798

作品紹介・あらすじ

人類は神々に逆らってリスクの謎に挑み、やがて科学やビジネスのあり方を一変させてきた…。一賭博師からノーベル賞学者まで、リスクに闘いを挑んだ歴史上の天才・異才たちの驚くべきドラマを壮大なスケールで再現した全米ベストセラー、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 『リスク 神々への反逆 上』 ピーター・バーンスタイン

    リスクに関する歴史を古代から現代にわたるまで追った記録の上巻。前半は古代から近世にかけてのパートであるが、非常に面白い。そもそも筆者が、リスクというものについて「過去と未来を画する画期的なアイデア」と定義していることが、抽象度をぐっと上げて読者を引き込んでいく。そもそも、我々の生きてきた時代の中で、未来はほとんどが神の領域であり、お告げや占いによってでしか、我々が理解することを許されていなかった。そこから、大きく二つの潮流があり、リスクという言葉の下に、未来を神の領域から民主化していくプロセスをたどる。大きな二つの潮流とは、まずはアラビア数字の導入、そしてもう一つが、ルネサンスと宗教改革に端を発する人々のパラダイムシフトである。前者は算術的としか呼べなかった数に関する知識の総体を、我々が今日呼ぶような数学的な発想に引き上げた。しかし、そのようなテクニカルな発達だけでなく、ルネサンスと宗教改革により、人々が「人間は与えられた運命に対して全く無力というわけではなく、現世での宿命は神によってきめられているわけではない」という大きな認識の転回があり、初めて数学を使用して未来を予測するという思考様式が確立された。プロテスタンティズムの禁欲と倹約の思想は、現在よりも未来に価値を置くことを示唆しており、さらには大航海時代における人々の認識の拡大やビジネスチャンスが、未来を好意的にとらえ、人々の興味関心を誘ったのである。まさに、リスクを考えることは、神の領域たる未来への人間の侵蝕であり、神々への反逆であった。そんな未来への認識の変化を各時代のヒーローたちを中心に紐解いていくのが本書である。
    本書はやはりリスクの計量化において数学的な記載に多くを割いている(登場人物はほとんどが数学者)が、上巻では、基礎的な確率論な統計学なので、高校までの文系数学しかやっていない私でも理解ができるものであった。特に後半は、統計学の基礎(相関、信頼区間、サンプリング等)の記述が多い。
    上巻で面白かった部分は、17世紀になって初めて「被害を受けることへの恐怖感は、被害の大きさだけでなく、その確率にも比例すべきである」という革命的な文言が現れる部分である。現代のリスクマネジメントでは、被害の大きさと頻度を縦横の軸とするマトリックスが常識的であるが、この文言が出る前の人々は、未来への恐怖を被害の大きさという単線的にしかとらえていなかった。しかしながら、確率の概念の導入により、初めて未来への恐れは複線的に考えられ、その結節点である期待値の概念により規定されるべきとする発想が生まれるのである。このような発想は歴史的な転換を示すものだけでなく、ある意味、現代でも新たなリスクに対する人々の態度としてしばしば現れるものであろう。さらに、その後は、グラントによる死亡率の計算や、ハレーによる生命表の作成、そしてゴールトンによる相関の発想など、正規分布、相関、信頼区間、サンプリング、そして大数の法則という統計学の発展を歴史的に見ていくことになる。さらに、その間にはベルヌーイによる限界効用逓減の法則のようなアイデアが現れる。ここでも興味深いのが、グラントが初めて人口統計のようなものを作成しようとした際に、ロンドンの死亡調書を使用していたが、このような情報が各教区の教会でも手に入ることであった。まさに生死が神の領域であったために、このような統計データは教会でも集まったのである。また、グラントがこのような統計を取ろうとした背景には、マーケット・リサーチがあり、やはりこの時既に駆動していた資本主義の流れの中で、このような動きが加速したのではないかと思うばかりである。下巻は現代に近づくにつれて、数学や統計が高度化されるのであろうが、上巻は非常に楽しく読むことができた。

  • 速読用

  • 勝間さん推薦
    リスクを人間がどのように管理してきた歴史的に辿った本

  • ゴールトンの主要な伝記作家でありまた傑出した数学者でもあるカール・ピアソンによれば、ゴールトンが引き起こしたのは「我々が持つ科学的概念における革命であり、これにより科学、ひいては人生そのものに対しての観点が修正された」。ピアソンの言葉は大げさではない。実際、平均への回帰は驚愕に値する。ゴールトンは確率の概念を無作為性と大数の法則を基礎とした静学的概念から、動学的過程へと変換し、そこでは異常値とされるものの後継者は中心に集まる大勢に加わることが運命づけられている。外側の境界線から中心に向かう変化と動きは不断で、不可避であり、また予測可能である。この過程が回避不能であるとすれば、結果は正規分布以外にはありえない。推進力は常に平均へ、標準の再生へ、ケトレーの言うところの平均的人間へと向かっているのだ。 (p.284)

  • 2012.3記。

    かなり前のベストセラーということで若干今更だがやっと読み終わった。

    本書は、原題の”Against the Gods”からも読み取れるように、「未来の出来事は神の摂理」という思想に反抗して未来の可能性(あるいはリスク)を計測しよう、という試みを歴史と理論の両面から説く内容で恐ろしく面白い。

    まず、ユークリッド幾何学をあれほど発達させたギリシアでは、ソクラテスが「真実への類似」という極めて重要な論点に着眼していた。にもかかわらず、「論理や公理によって証明できる真実」でなかったが故に学問的に発展することはなかった、という点がいきなりなるほど感。

    その後長い時を経て、欧州文明は十字軍を通じて進んだアラビア数学に出会い、さらにルネサンス期のキリスト教的因習からの解放により、「未来を計測」することが本格化する(と、言っても最初は賭け事の勝率から議論が始まる)。
    後半の、市場の効率性、ブラック・ショールズなんかの議論には、「変わり者」研究者の伝記としてのおもしろさもある。

    リスクの語源は「勇気をもって試みる」の意のイタリア語だそうで、「・・・この観点からするとリスクは運命というよりは選択を意味している」。

    が、本書(原書)出版の数年後にLTCMが破綻したのもまた事実・・・

  • ルネサンス以降、綺羅星のごとく現れる天才数学者たちのすばらしい功績と、彼らによって確率・統計がどのように発達していったのかが詳しく書かれています。またそれらの功績から導き出される現在の市場動向、リスクについての仮説等も説明されています。これらの考え方は、マーケット動向の予測等にも応用できるはずです。ビジネスマンにお勧めですが、読むにはかなりの忍耐力が必要です。下巻と合わせてお読みください。

  •  上巻では、ギリシャ・ローマ時代から1900年頃までの統計学の発展の歴史が描かれている。
     確率やリスクという概念の発見から始まり、それを人類がどう考えようとしてきたのか、という歴史は、とても面白い。
     大著であり、ある程度の統計やファイナンスの知識が前提とされているので、簡単に読めるとは言えないが、人物を切り口としているので、単なる統計の教科書より面白く読める。
     本書を読んだあとで、統計学や金融工学のテキストに戻っても良いかもしれない。

    [more]
    (目次)
    【上巻】
    1200年以前 始まり

    第1章 ギリシャの風とサイコロの役割
    第2章 ?、?、?と同じくらい簡単

    1200〜1700年 数々の注目すべき事実

    第3章 ルネッサンスの賭博師
    第4章 フレンチ・コネクション
    第5章 驚くべき人物の驚くべき考え

    1700〜1900年 限りなき計測

    第6章 人間の本質についての考察
    第7章 事実上の確実性を求めて
    第8章 非合理の超法則
    第9章 壊れた脳を持つ男

    【下巻】
    第10章 サヤエンドウと危険
    第11章 至福の構造

    1900〜1960年 曖昧性の塊りと正確性の追求

    第12章 無知についての尺度
    第13章 根本的に異なる概念
    第14章 カロリー以外はすべて計測した男
    第15章 とある株式仲買人の不思議なケース

    未来へ 不確実性の探求

    第16章 不変性の失敗
    第17章 理論自警団
    第18章 別の賭けの素晴らしい仕組み
    第19章 野生の待ち伏せ

  • 時間があれば

  • 太古の昔から現在に至るまで、人々が「リスク」をどう考え、向き合ってきたのかに関する解説。主に数学者の取り組みであったことは考えてみれば当然か。ギリシャ・ローマ時代からギャンブルはあって、いかにして他人より有利になるかということから「リスク」の研究が始まったことは興味深い。しかもこの研究はルネッサンス時代まで続く。一方、当時は身分制度が厳格な時代であり、職業に関するリスクは全く考慮されない。つまり僧侶の子は僧侶、不可触民の子は不可触民である。19世紀になるとリスクを計算するのに不可欠な統計学が発達する。その中で、優秀な親からは優秀な子が生まれる確率が高いという分析結果があり(ただし、階級社会の非合理が全く考慮されていない)、これがのちの優生学となり、ナチスの選民思想につながっていく。

  • 確率論に基づくリスクマネジメントに関連する学問の歴史を約500年前から順に振り返りつつ、歴史の転換点や重要な発見についてこれでもかと言うほど詳しく説明している本。

    数学における「0」の発見から始まり現代の金融理論に至るまで、上下巻合わせて約600ページというなかなかのボリューム。
    正直なところ、読み物としては内容が冗長だと感じたし、個人的には名著とは言い難かった。
    しかしながら、(ところどころ読み飛ばしつつも)通読したことによって得られた知的発見が非常に大きかったので、星は5つ。

    特に、第6章に出てくる「サンクトペテルブルクのパラドックス」にとてつもない衝撃を受けた。
    日々の生活の中で、中等教育レベルの確率論が意思決定の基準となっていた自分にとっては大きなパラダイムシフトとなった。

    本書の全体を通しての結論をあえて一言で言うとすれば、「古典的な数学的確率論は、人間社会での実生活には容易には適用できない。なぜなら人間という生き物が不合理で矛盾に満ちているから」といったところか。

    日々の生活の中で、確率から期待値を計算して意思決定を行っているような人には一読の価値があると思う。

    以下メモ

    ・ダニエル・ベルヌーイによると、効用の増大は当初保有していた富に反比例する(基本的には)

    ・利益によって得られる効用よりも、同額の損失によって得られる「負の効用」は常に大きい(富を、大きなレンガを土台にして小さなレンガを積み重ねていくようなものと考えたとき、頂上から取り除かれるレンガは、次に付け加えられるレンガよりも確実に大きい)

    ・「確実に受け取ることができる25ドル」と、「50%-50%の確率で50ドルまたは0ドルを受け取ることができる機会」では、数学的期待値はともに25ドルだが、効用の期待値は前者の方が大きい

    ・分散が正規分布するための必要条件は、標本が互いに独立した事象であること(サイコロの1回目の目と2回目の目に依存関係がないことのように)であり、独立でない(純粋なランダムでない)標本を集めてしまうと重大な失敗につながる

    ・自然の摂理たる「平均への回帰」が長期的に作用していたとしても、我々は短期の世界に生きることを余儀なくされている

    ・数学的確率よりもむしろ不確実性こそが現実世界における支配的パラダイムである

    ・フォン・ノイマンのゲーム理論では「不確実性の真の原因は他人の意思にある」とされ、自身と他者との要求の交換の中で、最適ではない結果に妥協するということが起こる

    ・分散投資は数学的に正しい。分散されたポートフォリオの収益率は、各銘柄の収益率の平均に等しいが、ボラティリティは、各銘柄のボラティリティの平均よりも「小さくなる」。つまり無償でリスクを低減できる

    ・ベルヌーイの「効用の増大は当初保有していた富に反比例する」に一部誤解があったことが、カーネマンとトベルスキーによる「プロスペクト理論」によって判明。それによると、リスク機会の評価は、最終的な資産価値よりも、「利得・損失のどちらが生じるのか」という点にはるかに大きく依存する

    ・上記の実例。被験者に30ドルを与えた上で、「表が出れば9ドル勝ち、裏が出れば9ドル負け」というコイン投げを「するかしないか」の選択を迫る。この場合、被験者の70%がコイン投げを選んだ。他方、初めから「表が出れば39ドル勝ち、裏が出れば21ドル勝ち」というコイン投げか、「単に30ドルもらえる」権利、で選択を迫ると、コイン投げを選んだ被験者はわずか43%だった。いずれの場合も、最終的な利得額は全く同じ「39ドル、21ドル、または確実な30ドル」であるにもかかわらず、初めに30ドルを所持金として与えられたグループはリスクを取り、一文無しで始めたグループはリスクを回避した

    ・通常の金融取引は、安く買いたい買い手と、高く売りたい売り手の交渉によって成立するが、デリバティブは、金融の不確実性そのものを商品とする。つまり、リスク回避者からリスクを取ってもいいという他者へリスクを転嫁する手法に対して需要がある

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