遊牧民から見た世界史: 民族も国境もこえて

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532191610

感想・レビュー・書評

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  • ・筆者は中立的な立場を貫けているのか?
     筆者の仮想的は「文明主義」であった。これまで遊牧民はこの「文明主義」的な前提の基、軽蔑の的になってきた。すなわち、これまで文明主義というフィルターを通してしか遊牧民が考えてこられなかったことに問題意識を感じているのである。だからこそ、筆者は遊牧民の歴史的に果たした役割やその文明の高さを再評価しようとした。しかしながら、本書全体を通してであるが、あまりに遊牧民側に立ち過ぎてはいないだろうか。遊牧民が「野蛮」でないこと、またその文明の高さを示すだけにとどまらず、杉山は西欧文化への批判も随所で行っている。むしろ西欧の方が野蛮であるし、後進地域であったと幾度も述べている。しかしながら、その批判はどれも説得力に欠けると思う。例えば、杉山は核兵器の発明を以て西欧は「野蛮」であると断罪する。しかしその時、「野蛮」とはいかなることなのかについての言及はない。実際に核兵器が現代社会においてある種の均衡をもたらしたという考えもあり得るし、むしろ拷問のような残虐な行為を「野蛮」だと感じることもあるだろう。また、資本主義の発展についても、モンゴル帝国が資本主義発展に果たした役割は概ね納得できた。だが、西欧の視点が不十分であると言わざるを得ないし、資本主義とは何かという重大な議論が抜け落ちている。当然、市場経済の発展と資本主義はことなるという考えもありうるはずである。マックス・ウェーバーのように資本主義の発展をある精神 の発展だとみなす考えもあれば、ポランニーのように「万物の商品化 」とみなす論者もいる。自らを中立的な立場とするのであれば、このような西欧の議論も踏まえる必要があったのではないだろうか。それをせずに、西欧の後進性や野蛮性を批判することは、従来の文明主義と本質的にはあまり変わらないと言わざるを得ない。

  • ユーラシアの遊牧民を中心に世界史を見直をすと、従来の定住民(農耕民)中心の歴史とは全く違った世界が見えてくるという壮大な意図で書かれた新しい歴史である。スキタイ、匈奴、テュルク、ウイグル、モンゴル等西欧史、中国史に登場した諸民族と彼らが組織した帝国を新しい史料により見直していく著者の手際は鮮やかで、中国諸王朝の始祖が遊牧民と関連有る等の事実にも驚かされる。従来の史観への暴走気味のツッコミも楽しい。西欧による「海と火器の時代」が始まる前は、ユーラシアの「陸と騎射の時代」で有ったことを理解した。

  • 2009-00-00

  • 詳細にみていくと中国もロシアも遊牧民との関わりが深いのにも関わらず歴史にあまり出てこない感じが。文字で残していない、ということは、自分達の存在を主張できない、ということにつながっているんだろう。

  • 自分の受けてきた教育がいかに西洋中心のものだったかあらためて思い知らされた。
    海が世界をつなげる前にユーラシア大陸というとてつもなく広い陸を遊牧民がつないでいた。
    遊牧民国家は境界線を想定する固定された国家とは異なる。
    境界線を固定する国家が生まれたことにより桁違いの破壊、侵略が行われるようになってしまった。
    今はそのような時代を経て、人から奪って手に入れたように見えた豊かさは長く続かないものだと気づく時。

  • 遊牧民ってどんだけ強かったの?モンゴルすげー。ってみんな1回は考えたはず。

    「大航海時代」以前は陸戦が圧倒的で、遊牧民が騎馬能力に優れててめちゃ強いから、現在の経済中心の文明からの巻き戻しで西欧中心に歴史見てるのも、華夷思想で漢人が偉かった!って歴史語るのも誤っちょりますよ。と。だいいちアメリカ除く世界は、遊牧民国家とイスラーム商人らの手でだいぶ前からつながっておりました。

    日本なんてなおさら農耕定住の単一民族国家(一部除く)。歴史上の遊牧民の国家名は次から次へと出てきて、それはなんで?て疑問だったが、それは民族じゃなくてあくまで国家というゆるい集合体だったんです。今も民族自決なんていうけど、区切り自体が恣意的なんだから、そんな簡単じゃないでしょう。さらに遊牧民は人の集合と、政権そのものまでもが地理的な移動繰り返すから理解しづらいでしょう、という内容。
    確かに。そこが一番理解しがたい。

    ロマンがある。
    モンゴル帝国礼賛。

    それを追い返した鎌倉幕府てすごい。かつ、日本の武士ってユニーク。

  •  内陸アジア・遊牧民の歴史関連を読むと、いつも自分の凝り固まった歴史観が覆される。
    ・アジア史を中国中心史観でとらえてしまっていること。
    ・世界史をヨーロッパ中心でとらえてしまっていること。
    ・民族という枠組みはその時々の政治が作り出すものであって、「民族が先にあり、国家が作られる。」といういかにもありそうなストーリーは実際にはほとんどの場合ないということ。
    などなどである。

     そういった固定観念を捨てて今、世界の関係を見ると自分達がなぜかアメリカ視点で世界を見てしまっていることに気がつく。

  • 特にチンギス・ハン以前の中国が面白い。
    中国の昔の国が漢民族に作られたものばかりと思っているなら、ぜひ読んでみることをオススメします。
    目からウロコ。

  • 21世紀の中心は複雑系、生態系、遊牧系。
    遊牧民は名前を変えて登場するが、それはすべて同じだったのではないかという大胆な仮説。また遊牧民が歴史に与えた影響について。

  • えてして民族や国家という枠にとらわれがちな僕の歴史認識をグラグラ揺らしてくれた良書。騎馬民族はやはり特定の人種だけで構成されていたりしたわけではないという。

    騎馬民族はよく連合体を形成したが、それは形成しやすくもあり、瓦解しやすくもあったという記述は、【ノマド】がキーワードになってきている現代社会の共同体にも言えることだよなぁ。

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著者プロフィール

京都大学大学院文学研究科教授
1952年 静岡県生まれ。
1979年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、
    京都大学人文科学研究所助手。
1992年 京都女子大学専任講師を経て同助教授。
1996年 京都大学文学部助教授・同教授を経て現職。
主な著訳書
『大モンゴルの世界――陸と海の巨大帝国』(角川書店、1992年)
『クビライの挑戦――モンゴル海上帝国への道』(朝日新聞社、1995年)
『モンゴル帝国の興亡』上・下(講談社、1996年)
『遊牧民から見た世界史――民族も国境もこえて』(日本経済新聞社、1997年、日経ビジネス人文庫、2003年)など。

「2004年 『モンゴル帝国と大元ウルス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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