鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」―セブン‐イレブン式脱常識の仕事術 (日経ビジネス人文庫)

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  • 日本経済新聞出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532194543

感想・レビュー・書評

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  • 顧客の為と顧客の立場での違いは、含蓄が深い。買い手の都合は”必ず”売り手の不都合に繋がるのだから、自分の経験則をきちんと捨てないといけないのだな。


    「売り手の都合は買い手の不都合。買い手の都合は売り手の不都合。」

    「経費に対して利益を最大化する事が合理化であり、経費削減の結果利益が増えたように見えるのは縮小均衡にすぎない。」

    「顧客のために、と顧客の立場で、とは意味が全く違う。自分の子供を叱る時が、分かりやすい例。子供のためと言って子供を叱るが、それは自分の経験から我が子はこうあるべきだという考えや感情が優先している。しかし、子供は成長しており、社会環境も変わっている。子供の立場でしかるには、自分の経験をいったん否定しなければならず、叱り方も大きく変わるはず。」

    「ものまねは一見楽に見えるが、進む道が制約され、やがて価値競争に巻き込まれる。ものまねをしない経営はいかに新しいものを生み出せるかが勝負で、一見大変そうに見えるが、全方位に広角度で自由に考えられるのでむしろ楽であるという発想に切り替えるべき。もう、ものはいらないというお客にいかに買ってもらうかという時代に、物まねをしている限り、成功はありえない。」

    「ものわかりのよい上司を演じるのは、要は部下のご機嫌取りで、モラールを下げる一番悪いやり方です。自分で部下の持つ問題に答えを導けるという自信が無いから、ものわかりの良い上司を演じるのです。」

    「顧客は今無いものについては聞かれても何も答えられない。」

  • 「顧客のために」と「顧客の立場で」では全く違う。
    大パック売りは「顧客のために」、小分け、量り売りは「顧客の立場で」。

    高価なおにぎりも「顧客の立場で」考えた結果。

    真似をするほうが簡単か?真似でないほうが自由に発想できるので楽、とかんがえる。

    顧客は飽きる。顧客が飽きる商品、を毎日開発する。

    買ってもらえない責任を何かに転嫁しない。欲望には限りなく、そこに人間の本質がある。
    顧客は今無いもの、をほしい。聞かれても答えられない。ニーズを探って先回りする。

    ものを売るのは心理学。
    わがままで矛盾だらけ、が顧客心理。

    自分は売り手であるとともに、買い手でもある。自分の中にあるわがままで矛盾だらけ、の買い手の立場で考える。

    部下とは、上司に対して常に自己正当化を図る存在である。

    漫談と対話は違う。面白くても説得力のある話がなければ講演も漫談と同じ。

    社員の対話力を高めるためにはコストを惜しまない。

    トップの「信念」と現場の社員の「自分たちで物事を決定して動いている実感」

    最初からあれもこれも、と盛り込まない。手段が目的化すると必要以上のものを作りたがる。

    怪我を予想しつつ飛び降りるのは挑戦とはいえない。

    みんなが反対することはやる。賛成することはやらない。ボーリング場の例。

    決断の鉄則は、素直に考えアタリマエのことを行う。

  • ビジネス現場にたくさん落ちているほんとうのようなウソの見分け方がわかりました。「売れない時代」という言葉を鵜呑みにしない、目くらましに合わない・・本や新聞の読み方などの記載もありました。セブンイレブンCEOの思考方法(統計心理学とメタ認知力)がわかります。

  • 提灯記事、乙。

  • ■仮説の使い方

    A.今の時代に必要なのは、「顧客のために」ではなく、「顧客の立場で」考えることである。

    B.「明日の顧客」が求めるものは、「今日の顧客」が求めるものとは異なる。
    従って重要なのは、顧客に聞くのではなく、自ら仮説を立てて、その結果を検証することである。

    C.仮説づくりは、過去の常識にとらわれず、頭の中を白紙にして、「なぜか」と疑問を発し続けることから始まる。

    D.仮説に近づくためには、「顧客が求めるものを見極める」ことが重要になる。
    その際、最も気をつけなければならないことは、“手段の目的化”である。

  • 情報の接し方には二つのアプローチがある。
    ①情報とは自分の考え方を補強し補正するものである。
    ②情報は鵜呑みにせず、裏をとるべし。

    という点が参考になった。

  • 鈴木敏文氏の経営の考え方が勉強できる。
    ものすごく考えてる。
    なにより超顧客視点。

    さすが名経営者。

    本としては、解説がいちいち長い。
    コンビニ業界の人以外には、不必要な解説・分析が目に余る。

  • 鈴木流経営学のどこが卓越しているのか。その醍醐味は、世間に流布する数多くの「本当のようなウソ」を見抜き、われわれの気づかない顧客や市場の「真実」を掴むところにある。

    合理的かどうかの判断は利益と経費との関係で決まるものであり、経費をただ減らすより以前に、「経費に対して利益を最大にすることこそが合理化ではないか」と鈴木氏は考えるのだ。これは、人を「単なるコスト」と考えるか、「利益を生む存在」と位置づけるかの違いだ。「合理化だからといって、単に人を減らすようなまねは絶対にしてはいけない。人が生産性を
    上げる時代なのだ」

    企業は中長期的な経営計画をしっかり立て、その実現に向かって邁進しながら成長しいくものであるとされる。しかし、氏はグループの経営において、この考え方にはくみしない。一年後の経済状況どころか、一週間後の為替レートさえ読めない変化の時代に、中長期的な目標を掲げても意味がない。目標を設定すると、その目標数値が一人歩きし、数字のつじつま合わせの経営に陥りがちだ。「経営とは決して数字合わせであってはならない」と鈴木氏は考えるのだ。
    実際、セブン-イレブンには中長期計画は存在しない。あるのは一年単位の計画だけだ。

    今の日本は本当に「多様化の時代」か。「多様化といった方が耳に心地よいが、むしろ逆で日本ほど画一化の国はない」と、鈴木氏は言う。「この商品がいい」となると、みんなその商品に集中する。そうした商品が次々出ては消えるため、一定の時間軸で立体的に見ると多様化に見えるが、ある時点で輪切りにすると特定の流行商品にみんなこぞって飛びついて画一化以外の何ものでもない。そこで、ある商品の売上げカーブが立ち上がったら一気に店頭に投入し、落ち始めたらすぐ除いて、販売の機会ロスと廃棄ロスを防ぐ。これが、「富士山型」から「茶筒型」へと変化した商品ライフサイクルに合わせた鈴木流の販売術だ。「多様化」という「本当のようなウソ」にとらわれていると、こうした迅速な行動を取ることはできない。

    「私たちが"顧客のために"と考えるときはたいてい、自分の経験をもとに、"お客とはこういうものだ" "こうあるべきだ"という決めつけをしています。だから、やってみてうまくいかないと、"こんなに努力しているのにお客はわかってくれない"と、途端に顧客を責め始める。これは努力の押し売りにすぎません。あるいは、"顧客のために"やっていると言いながら、そこには売り手側の都合が無意識のうちに入っていて、実態はその押しつけになっていたりする。
    今の時代に本当に必要なのは、"顧客のために"ではなく"顧客の立場で"考えることです。どちらも、顧客のことを考えているように見えて、決定的な違いがあります。"顧客のために"は自分の経験が前提になるのに対し、"顧客の立場で"考えるときは、自分の経験をいったん否定しなければなりません。
    「"顧客の立場で"考えて、顧客にとって都合がよく、便利だったり、快適だったりすることは、たいてい売り手にとって都合の悪いことが多い。しかし、それを実行できる店や企業が顧客の支持を得ることができるのです。大切なのは、発想の仕方を変えることです。

    新しい課題を解決しようとするとき、最大の阻害要因は過去の成功体験であり、これを切り捨てなければならない。ただ、人は仕事で成功したからこそ評価されるだけに、この切り捨てがなかなかできない。「今は変化の時代であり、過去の成功体験は通用しない」と頭では理解できても、無意識のうちにとらわれてしまうのだ。人はなぜ、過去の成功体験に縛られてしまうのだろうか。

    成功体験のある玄人よりまったくの素人を持ってきた方がいい
    「過去に縛られるのは、成功体験がその人にとって、非常に心地のよいハッピーなものだからです。もちろん、成功体験から得るものもあるでしょう。困難を乗り越えた自信や苦労を克服する信念といった普遍的なものです。それ以上に、ハッピーな結果とそれをもたらした方法の方がセットで刷り込まれてしまう。そして、次は困難や苦労を避けようとして、一度うまくいった同じやり方をしようとする。しかも、それが"顧客のために"なると勝手に思い込んでいる。過去の成功体験から抜け切れない人間は、当然、顧客や市場の変化に対応できない。一番の問題は、当の本人がそれに気づいていないことです」

    ところで、鈴木氏がよく口にする言葉の一つに「ノウハウ本は読むな」というのがある。これも、「ノウハウ本やハウツー本の類は過去の成功体験に基づいている」からだ。
    「よく、本を読みながら線を引いている人がいます。"ああ、そうだな"と、自分も同感に思うからでしょう。しかし、それは単に自分が同感する箇所をなぞって安心感を得るだけで、何のヒントにもなりません。同感するのは自分にも潜在的に同じような考え方があるということです。同感して気持ちはいいでしょうが、自分もすでにその考え方に達しているわけですから、得るものは少ない。線を引くなら、自分の理解とは異なる反対の意見のところに引くべきで、これは価値があります」
    自分と同じ意見と出合えば心地よいが、そこからはそれ以上の発展は生まれない。一方、反対意見は、なぜそう考えるのか、その根拠は何かと突き詰めることで、自分の考えをより発展させることができるということだ。

    ものが売れないと、とかく、値段を下げて売ろうとする。誰もが一番陥りやすいパターンだ。そして、安くしても売れないと、「こんなに安いのになんで買わないのだろう」と顧客を責め、「やっぱり財布の紐が固いからだ」と不景気のせいにしたりする。これも、「安くすれば"顧客のために"なる」という発想の典型だと、鈴木氏は安売り志向を徹底して批判する。

    「売れなければ値段を下げて安く売るという考え方はもの不足の時代の発想です。特にバブル期までは基本的にはインフレ基調でしたから、安くすれば客ウケするという考え方が通用しました。そのころの過去の成功体験を引きずっていて、安さで通すという問題解決法が今も通用すると錯覚している。もの余りの買い手市場の時代には、新しくて価値あるものを次々と提案しないと変化に取り残されていくことが自覚できていないのです。
    常に新しいことに挑戦するDNAを持ったセブンーイレブンでさえ、安売り志向が頭をもたげることがあります。100円台後半の高価格で売り出して大ヒットした『こだわりおむすび』を開発したときもそうでした。それ以前に一度、おにぎりの値段を一○○円に下げたことがありましたが、ヒットは半年しか続きませんでした。次はどうするか。社内からはさらに値下げをする案が出ました。
    この高級路線のオリジナルアイスについても、「アイスは主に子どもが買うもの」という過去の経験から当初、反対意見もあった。これに対し、「今では大人が年間を通して買うもの」「100円前後の商品では大人は満足しない」「新鮮で良質な原料を使った高品質の商品を提供すべきだ」と踏み切った戦略が成功したのだった。
    鈴木氏が安易な安売りを批判するもう一つの大きな理由は、「ものまね経営」の典型と見るらだ。「安くしないと売れない」と誰かが言えば、「流れに乗った方が楽だから」と誰もが安く売り始める。

    「ものまねをする経営としない経営、どちらの方が楽か。ものまねをする方が楽のように見えますが、これも"本当のようなウソ"で、ものまねは進む道が制約され、やがて価格競争に巻き込まれます。自分で勝手に制約をつくって苦しむのです。一方、ものまねをしない経営はいかに新しいものを生み出せるかが勝負で、一見大変そうに見えますが、全方位に広角度で自由に考えられるので、むしろ楽であるという発想に切り替えるべきです。それでもつい人間は、ものまねをしがちです。だからこそ、ものまねをするなと繰り返し言うのです。同業他社の店を見るなと社員にきつく言うのも、見ればまねをしたくなるからです。ものまねは絶対本物以上にはなれないし、トップを取ることもできません。もの余りで、同じものならいらない、もう、ものはいらないというお客に、いかに買ってもらうかという時代に、ものまねをしている限り、成功はありえません」

    それぞれ身近にある店との関係をもう一度、思い起してもらうと考えたからです。そのとき、心に浮かぶ思いが店に対するロイヤリティ(忠実度Ⅱ継続して利用したいと思う度合い)です。コカ・コーラの販売量が日本一多いのも、このロイヤリティによるものです。どうせ買うなら、いつも行きつけのセブンーイレブンで買おう。なぜかあの店の方が買いやすいので寄ってしまう。それが顧客のロイヤリティです。セブンーイレブンのあらゆる活動は顧客のロイヤリティを高めるためにある。高い収益や一万店突破はその結果にすぎません。

    「品揃えにしても、お金を儲けさえすればいいのなら、すべて売り切れる量だけ並べておけばいいでしょう。しかし、売り切れ後に来た顧客はそこに商品がなければ、この店は来る価値がないと思うようになって足が遠ざかり、やがて店は縮小均衡になります。顧客の求めるものが、求めるときに、求める数だけある状態にしておくためには、多少の廃棄ロスは出て当然と考え、それを極力最小限にするため、売れ筋を的確に把握して死に筋を排除する。セブンーィレブンの得意とする単品管理も直接的には機会ロスをなくすことが目的ですが、最終的にはそれによって顧客ロイヤリティを高めることを目指しているのです」

    「去年と同じことをやっていたら顧客から飽きられ絶対に売上げは落ちる」とは、鈴木氏の口癖だ。

    欲望に際限はなく、そこに人間の本質がある
    「今の顧客は本当にものはいらないのかといえぱ、そうではありません。マクロで経済を考える人たちは消費は一定であり、消費者がすでに買ってしまったものは、もう売れないと考えますが、これも"本当のようなウソ"で、人間の消費はそんなに経済合理性で動いているわけではありません。人間は満足することなく、常に新しいものを求め続ける。欲望に際限はなく、それが"生きる"ということであり、そこに人間の本質があります。顧客は安いから通うのではなく、今度はどんな新しい商品に出合えるかという驚きを求めにいく。新しいものを出し続けなければ、商売は成り立ちません」

    顧客は「今ないもの」については聞かれても何も答えられない
    「ニーズが刻々と変わる変化の時代には、明日の顧客の求める新しいものは目に見えません。今日の顧客にどのような新しい商品が欲しいかアンケートを取っても、今ないもの、見たこ
    とないものについては答えられない。こだわりおむすびにしても、"200円近い高級おにぎりをコンビニで買うか"と事前にアンケートや消費者調査を行ったら、ほとんどの人が"ノー"と答えていたでしょう。
    顧客は現物を提示されて、初めてこんなものが欲しかったと気づく。アンケート結果は狭い範囲に限られ、それだけを見ても新しいものは生まれません。だからこそ、自分で"仮説″を立てることが非常に重要になってくるのです」

    仮説を立てるにはどうすればいいのか。仮説づくりには、もとになる先行情報が必要だが、同じ情報でも先行情報としてとらえることができる人もいれば、まったく気づかない人もいる。この差はどこから出てくるのだろうか。「仮説を立てるのに最新のマーケティング理論や特別なスキル、能力が必要かといえば、そうではありません。簡単な話、立てようと思うかどうかです。別の言い方をすれば、自分の仕事について安易に妥協するかしないかです」

    「なぜ、自分だけが売れないのか。そう思い悩んでいる人たちは、はたして、日々、仮説を立て、挑戦しているでしょうか。当然、失敗もあります。失敗を恐れる心理も働くでしょう。失敗が嫌だったらやらなければいい。そのかわり、いつまで経っても業績は伸びません。
    結局、成績が伸びない、仕事がつまらないと文句を言う人間に限って挑戦をしていない。仮説を立てない人は、仕事をする気がないのと同じです。セブン-イレブンの場合、挑戦するのが当たり前と考えてきたから今の姿があるのです。人間は挑戦しない限り、成功はありえません。ビジネスの世界で挑戦するとはどういうことか。それは、自分で仮説を立て、実行することです」

    仮説づくりは、「なぜ、どうしてなのかとクエスチョンを発し続け」「そこから踏み込んで"顧客の立場で"見直す」ことが大切だという。そのとき、今抱える問題点の原因を探ったり、結果を検証したりするには、ある程度、論理的な思考力も必要だろう。ただ、「変化の時代には先行情報に基づいた思いつきの方が大切になっている」と鈴木氏自身言うように、仮説そのものは、「こうすればもっと売れるのではないか」「顧客はこういうものを求めているのではないか」と「顧客の立場で」考える自分の思いつきや気づきに基づくものであり、その意味では、きわめて主観的で個人的な思いが投影されたものといえる。それが正しいかどうかは誰もわからない。だから、失敗を恐れる気持ちも働く。そこで、つい安易に妥協し、過去の経験や前例に基づいて考えようとしてしまう。その方が楽なように見えるが、「人間の本質は本当はそうではない」と鈴木氏は言う。

    人間は本来理想を追い求める
    「人間は妥協するより、本当はこうありたい、ああありたいと思っているときの方が安定しているものなのです。人間は常に新しいものを求め続けるように、仕事においても際限なく何かを求めようとする。新しいことに挑戦しようとする意欲、その心境こそが"生きる"ということではないでしょうか」

    「わがまま」で多くの「矛盾」を含んでいるのが顧客心理だ
    「どんな売り方が好まれるかは、商品によっても違うし、店の業態によっても異なる。これが顧客の心理です。その最大の特徴はわがままで、多くの矛盾を含んでいることです。例えば、野菜や魚類は日本人ほど鮮度にこだわる国民はいません。牛肉も鮮度を重視するなら、ブロックで買って食べるときにスライスした方がいいのに、肉は鮮度より銘柄にこだわる。あるいは、ブランド物はいかに安く買ったかを自慢するのに、スーパーの洋服はいかに品質はよくても、安すぎるからとスーパーで買ったのがわかるのを嫌がる。重要なのは、こうしたわがままで矛盾した顧客の心理といかに歩調を合わせることができるかです」

    自分の中にもある顧客の心理を呼び覚ます。これは日ごろから意識していないと、なかなかできない。世の中の仕組みの多くは、依然、売り手側の都合でつくられており、その中にいると自分ではそのつもりはなくても、いつのまにか、「顧客の立場で」考えることができなくなってしまうからだ。

    日本経済新聞社が出す本で一番確実に売れるのは「日経新聞の読み方」だ、という冗談めいた話がある。鈴木氏によれば、「それは自分が情報を取れているかどうか、みんな不安に思っているから」だという。

    真面目な人ほど情報に接すると不安になる
    「情報を活かすとは情報に価値づけをすることです。新聞を隅から隅まで読んでも、個々の情報に価値づけして何かヒントを得るなり、それに基づいて何か行動するなりしなければ、ただ新聞を読んだだけで情報たりえません。リンゴが落ちるのをいくら見ても、"リンゴが落ちた"だけで終わってしまうのと同じです。真面目な人は一生懸命さまざまな情報をたくさん集めて、仕事に活かそうとしているように見えますが、肝心の価値づけがなかなかできない。だから、同じ新聞を読み、テレビを見、本を読んでも、自分だけ何も発見できていないのではと、真面目な人ほど不安に思うのです」
    情報が氾濫する現代社会。それは、情報に接する人々の不安が渦巻く社会でもある。われわれはどのようにして個々の情報に「価値づけ」をし、仕事に活かしていけばいいのか。「情報にも商品と同じくライフサイクルがある」|「情報は人の手を経れば経るほど加工されていく」「問題意識を持っているとあらゆることが情報として役立つ」…等々、鈴木氏は情報に関しても、本質を知り尽くした数々の名言を発している。

    「自分の考え方」をしっかり持たないと情報に左右される
    「情報への接し方には大きく二つあって、一つは、自分のまったく知らないことや、新しく起こったことについて、なるほど、こんなことが起きているのかと素直にニュースとして受け入れる。これは当たり前のことです。しかし、それ以上に大切なのは、自分の考え方をしっかり持ったうえで、入手した情報によってそれを補強したり、補正していくことです。したがって、情報に接するときにまず求められるのは、自分の考え方をはっきりと持つことです。情報の価値づけも、自分の考え方がベースにあるからこそできる。自分は情報が取れているかどうか不安に思うのは、真面目に情報は収集しても、価値づけをするための自分の考え方がしっかりしていないからでしょう」

    同じ時期に、以前は驚異的な業績の伸びを見せていたユニクロも、一転して既存店売上高の前年割れが続くなど低迷し、マスコミで騒がれていた。このユニクロ凋落の情報についても鈴木氏は持論をベースに、ユニクロも他の企業と同様に、安いだけでなく今や次々と質の高い新しい商品を投入していかなければならない段階に入っただけで、特に大騒ぎする必要はない」と、とらえていた。その言葉通り、ユニクロはその後、カシミア製品など通常より値段は高くても高品質の商品を投入したり、女性の来店動機につながるような多様な商品を次々開発するなどして、業績を回復していった。その経緯を見ると、情報の奥にものごとの本質を見抜いていた氏の眼力に敬服する。

    マスコミの報道を「鵜呑み」にしてはならない
    では、自分の考え方はどのように身につければいいのだろうか。基本は、「情報に対し本当にそうなのかと常に疑問を持ってみる習慣をつけること」だという。

    「報道の場合、一般的に現場の記者が書いた記事が上のデスクによって加筆修正されてしまうことが性々にしてあるようです。特に変化の激しい時代には、"昨日の情報"と"今日の情報"とでは異なることが多いのに、デスクが自分の過去の経験で判断して手直してしまうこともあると聞きます。それが組織における自分の役割だと思っている。報道はありのままを伝えるのが本来のあり方なのに、内部を意識した内向きの編集が行われる部分があることは否めません。記事のタイトルにしても、整理部の人間がどういうタイトルなら読者に受けるかという感覚でつけて、本来の要旨とズレている場合もあります。ここで重要なのは、情報を決して"鵜呑み"にしないことです。自分が普段持っている感覚と報道内容が違って、エッと思うときは決して鵜呑みにせず、本当にそうなのか、ニュースがおかしいのか、自分の方が違うのか、必ず〃裏″を確認するようにすべきです」

    失業率についても同様のことが言えるという。われわれはコンマ一%上がり下がりするたびに一喜一憂し、「雇用不安から買い控えが起きている」とマスコミが報道すると、思わずうなずいてしまう。これも裏を取って確認すると、「売上高と失業率の間には明確な相関関係はなど(鈴木氏)ことが明らかになる。

    また、真実を報道すべきマスコミこそ、本来は情報を鵜呑みにせず、裏を取らなければならないのに、逆に報道する論調や内容に合わせて、作為的にではないにしろ、自分たちの都合でその都度、「現実」をつくり上げようとする傾向もときとして見られる。

    さまざまな報道や情報、あるいは、世の中に流れる統計や数値データに惑わされないためには、自分が実感を持って語ることのできる数字を持てば大きな強みになる。情報とは、自分の考え方を組み立てる材料だ。情報社会では、その材料があまりにも多すぎ,る。この情報過多時代にどのように取捨選択の目を持てばいいのか。

    まわりに合わせ、世の中の風潮に任せていた方が楽かもしれません。ただ、あっちのニュース、こっちの人の話と、みんな鵜呑みにして右往左往していたら、自分を確立できなくなってしまいます。今は一つの情報、一つのニュースだけでは確実でない部分があります。常に疑問を持ち、本当にそうなのか、今まで自分の考えていたことが違うのか、それとも、この情報の方がおかしいのかと、客観的に見直さないと、自分の考え方を持ち続けることはできないでしょう」

    氏は社内のさまざまな会議に何の準備もせず出席する。会議のテーマさえ知らないこともある。出席者の発表に対して何の先入観もなく、頭を白紙にして受け止めるためだ。そして、ちょっとでも疑問に思うことがあると、突っ込みを入れる。相手が答えられなければ、発表を始めてまだ数分であっても、続けることを認めない。それほどに、社内で上がってくる情報に対しては厳しい姿勢を取る。

    「つじつま合わせ」をしようとするのが人間の心理
    「誰しも人前で発表するときは、少しでも格好よく見せようと、意図的でなくともつじつま合わせをしたり、ごまかしを入れたりする。それが人間の心理です。そのため、情報は人の手を経れば経るほど"伝言ゲーム"で加工されてしまいます。だから、つじつまが合いすぎるのは逆におかしいわけで、鵜呑みにせず、そこを突くと問題点がぼろっと出てきます」

    悪い話は聞きたくないと思う人間には真実は掴めない
    「(人を介した場合)ストレートな情報など誰しも言いにくいから、上がってこないものだと思っていた方がいい。それでも、情報をしっかり取りたいと思ったら、大事なのは探求心です。耳に心地よい話だけを鵜呑みにして満足し、悪い話は聞きたくないと思えば、自分からそれ以上は知ろうとしないでしょう。そして、知らなかったことにしてすませてしまう。悪い話は聞きたくないと思う人間には真実は掴めません。一方、探求心に必要なのは情報に対する感性で、つじつまの合いすぎる話や耳に心地よい話ばかりでは気がすまないという感性を持てるか、どうにも納得できないという感覚が身についているかどうかです。それは本当なのか、なぜそうなのか、誰が言ったのか、いつ、どこからその情報は生まれたのか、突っ込んで探求していく。そこで、真実を掴めるかどうかが左右されるのです」

    そもそも、「答えを持てる人間こそが上司になれる」というのが鈴木氏の上司論だ。グループの幹部たちにもしばしば、「リーダーというものは部下に指示をするとき自分で答えをきちっと持っていなければならないと」と、上司の心得を語る。ここで少し、鈴木流の上司論に耳を傾けてみたい。

    部下は上司が「答え」を持っていると思うから自分も頑張ろうとする
    「リーダーが自分は答えを持たず、解決策を持たないで、ただ号令だけかけてもそれはむなしいばかりで、部下は動きません」

    自分で答えを持っているから、部下に対しても仕事で厳しさを求めることができる。それが結果的に、部下を育てることになる。組織の一番上に立つトップとして、仕事については徹底して厳しさを求めることで知られる鈴木氏は、厳しさの理由をこう話す。
    「オリンピックの選手を育てるとき、コーチは選手をとことん追い詰めるといいます。部下がいかに自己正当化しようと、現に数字が落ちていれば、それはなぜなのか、仕事のやり方
    のどこをどう変えたのか、なぜ、新しいことに挑戦しないのかと、徹底して追い詰めていくべきです。そうすることで、部下に今のやり方ではダメだと気づかせ、殻を破らせる。答えをすぐ教えるのではなく、自分で考えさせる。それが成長につながるのです。教育とは部下に気づきを与えることで、それには上司が自分で答えを持っていなければならない。上司が仕方がないと言ったら部下は絶対成長しません」

    「答え」を持てない上司に限って「ものわかりのよい上司」を演じる
    「ものわかりのよい上司を演じるのは、要は部下のご機嫌取りで、モラールを下げる一番悪いやり方です。ものわかりのいい上司と思われれば、その間だけ部下との人間関係はよくなるでしょう。しかし、業績には絶対結びつきません」

    今の若者たちの世界では、情報は一気に広まるが、受け手はすぐに飽きてしまう。しかも、情報が刺激的であればあるほど飽きやすい。そして、変化を求め、また新しい情報を求める。情報は急速な勢いで世の中に拡散していくが、決して長く溜まることはない。そのため、変化の時代には、情報の発信者は常に新しい情報を生み出し続けなければならない。問題は、発信者の意図とは関係なく、ウイルスのように口コミ伝染で広まっていく悪い情報だ。「顧客のロイヤリティは築くのは大変だが壊すのは簡単だ」と鈴木氏が話すように、よい情報を次々発信して顧客のロイヤリティを確保できても、一つの悪い情報でいとも簡単に崩れかねない。悪い情報は悪いほど、いっそう真実味を増して伝わっていく。

    株式相場全体は時代を反映するが、個別の株価は会社の業績をストレートに反映していない場合もある
    「大きな株価としての株式相場は、その時代をものすごく反映します。デフレで景気が低迷すれば、金融機関を始め、日本経済全体が株価に左右されるのは事実です。株価を上げるのは簡単なことではなく、基本的には構造改革の遅れを取り戻すなど、きちっとした抜本的な対応を取らなければ回復させるのは難しいでしょう」「一方、個々の株についてはどうか。会社の業績がストレートに株価に表れている場合もありますが、会社は好業績なのに株価に反映されていないケースも多く見られます」

    「私はよく、どうしてそんなこと考え出したんだと聞かれて困るんですが、別に普段から整理して考えているわけではありません。何とはなしに、情報がどこか頭の中のフックに引っかかっているんです。例えば、車に乗るときも私はラジオをかけっぱなしにします。意識的一に情報を取るというより、印象に残った情報が無意識のうちにフックされている。社内でいろいろ話をするときも、こういうことがある、ああいうことがあったといろいろな情報が入ってくる中で、これはと思う情報がフックにかかる」

    鈴木流情報術を知って、情報の取捨選択に悩んでいる多くの人は気が楽になったのではないだろうか。脅迫感から無理に情報を集めようとしなくても、関心のフックさえ持っていれば有用な情報は自ずと自分の中に取り込まれていく。おそらく、誰もがその経験があるはずだ。あることに強い関心を持っていたとき、関係する情報がそこだけ偶然ともいえるくらい目に留まったことがあるのではないだろうか。

    人間の誰もが持つ革新性と保守性の二面性が表れるという。
    「人間というものは、今の世の中は変えなくちゃダメだ、政治は何をやっているんだなどと、一方では革新的なことを言いながら、その一方でとかく自分の問題になるとコンサバティブ(保守的)になって、自らの経験の範囲でものを言うようになります。だから、自分で商売をやるときは保守的になってしまうのです。
    一典型的なのが、完売についてのとらえ方です。完売は品切れにより機会ロスが生まれたと考えるべきなのに、"完売=善"という過去の経験から、売れ残りの損が出なくてよかったという保守的な感覚になってしまう。これでは完全に縮小均衡になります。ここでOFCと対話をすれば、機会ロスの方がはるかに大きいことがわかる」

    値段を下げて量で売る傾向が依然強いスーパーに対し、コンビニは基本的には値段を下げず、利便性を売りものにする。同じ小売業でも業態は大きく異なる。

    最近では、大きな話題としてアイワイバンク銀行(以下、IYバンク)の設立があった。「素人が始めてもうまくいくはずない」「絶対失敗する」「賭けにもならない」「万が一うまくいったら銀座を逆立ちして歩く」……等々、冷ややかな声が経済界やマスコミにあふれた。中には「グループのステータスを上げるために銀行をつくろうとしている」などと、「私から見ると卑しい見方をする人々」(鈴木氏)もいた。
    IYバンクの設立も私にとっては一つの仮説でした。セブンーイレブンでの公共料金等の収納代行サービス取扱額は増加の一途をたどり、顧客がコンビニに求める利便性はますます高まっていました。次は、コンピニにATM(現金自動預払機)が設置されるのを顧客が強く望んでいる、と考えるのはごく自然のなりゆきでした。小売業から銀行業への進出などという大それたものではなく、あくまでも本業における顧客の利便性を高めることが目的だったのです。

    こうした融和の過程で、先頭に立って範を示したのがトップである安斎社長だった。最初はヨーカ堂の顧問として入り、IYバンク発足と同時に社長に就任した安斎氏が感じたのも、「寄り合い所帯の中で共通語がないこと」「会話が通じないこと」だった。そこで、もともとの気取りのない性格から行動に出た。「前は買い物嫌いだった」というが、自ら率先して夫人と一緒にヨーカ堂やセブンーイレブンの店に通い、一着八二○○円のスーツを求め、おでんのうまさに驚いた。IYグループの幹部が集まる会議で、鈴木氏が出席者に向かって、「この中でヨーカ堂が売り出した八二○○円スーツを着ている人間がどれだけいるか」と問いただしたとき、安斎氏だけが手を挙げたのに驚き、「君が着たら五万円のスーツに見える」と相好を崩したエピソードも残る。率先して実行した理由を安斎氏が話す。
    「私が新しい会社のトップとして何よりも重視したのは、出身の異なる社員の寄り合い所帯であるこの会社に、基本的なカルチャーをいち早く定着させることでした。それにはトップ自ら行動しなければならない。ヨーヵ堂やセブンーイレブンの店に通ったのもそのためです。体験を重ねていくうちに、実感したのは、IYグループがすべてにおいて、本当に顧客の視点でものごとを考えていることでした。われわれもその一員でなければならない。顧客の視点を忘れないため、社長であろうとグリーン車には乗らない、宿泊もできるだけ安いホテルを探し、普段も電車通勤で、帰りには必ず駅前のセブンーイレブンに寄ります」

    起業家とはアメリカのシリコンバレーなどで典型的に見られるように、ビジネスチャンスを虎視耽々とねらい、起業することそのものにやりがいや達成感を感じることのできる人材が選ぶ職業だ。成功すれば富も、地位名声も得られるが、失敗したらしたで、また次のビジネスチャンスをねらう。実際、シリコンバレーでは起業して五年後に存続しているベンチャーは二○%にすぎないという数字もある。

    みんなが反対することはたいてい成功し、いいということはたいてい失敗する
    「例えば、ボゥリングが一大ブームになったとき、流通業からもみんな参入しましたが、私は社内で一人、絶対に反対しました。誰もがやりたいと思うのは誰でも参入しやすいからで、逆に言えば、差別化しくい。単純な競争に陥るのは目に見えていました。実際、ボウリングは施設をつくって機械を入れ、あとはマニュアル通りに運営できるからと、みんながやり始めたものの、すぐに経営が成り立たなくなりました。みんなから無理だと言われ、反対されることはたいてい成功する。逆に、みんながいい、大丈夫だということはたいてい失敗します」

  • 第4章のセブン銀行の立ち上げの話は読んでよかった。
    あとは漫談と対話の話は納得かつ共感。

    P293からの一覧を最初に読んで、気になったら
    本文を読む形のほうが賢い。。
    仕事術、というよりかはケーススタディ寄り。

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著者プロフィール

ジャーナリスト
1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退後、フリージャーナリストとして経済・経営分野を中心に執筆。企業組織経営・人材マネジメントに詳しい。

「2017年 『全員経営』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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