地形と日本人: 私たちはどこに暮らしてきたか

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  • 日経BP日本経済新聞出版本部
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532264383

作品紹介・あらすじ

歴史地理学が教える、大災害時代の必須教養

・河川が平野の地形をつくった
・9世紀の平安京にあった堤防見廻り役
・堤防をつくると災害が起きる
・古くからの集落が微高地にある理由
・なぜ川沿いに住宅団地や工場が集まったのか
・山崩れや地滑りが起こりやすい地域とは

○本書は、私たちが暮らす場所の地形にはどのような特性があって、どう変化してきたのかについての見方を紹介する歴史地理学入門。近年各地で発生している水害や地形災害は、単に地球温暖化や異常気象だけで説明できない。どこで、どのように災害が発生しているのかについて理解を進めるために、地歴、地形環境やその歴史的改変の知識が欠かせない。

〇日本人の大半は平野に居住している。そもそも平野は川によってつくられた。平野は、扇状地・自然堤防・後背湿地・氾濫平野・三角州などに分類でき、後背湿地や氾濫平野は、主に水田に利用され、集落は自然堤防沿いにつくられてきた。

〇近年相次ぐ大型台風による洪水や山崩れは、地形的に災害の発生しやすい低地や地盤の弱いエリアに集中して発生している。本書は過去の日本人の土地との付き合い方、地形環境の改変の歴史を豊富な事例とともに紹介、大災害時代の必携教養として伝えたい。

感想・レビュー・書評

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  • 近年、地形とその性質を知らないまま開発された都市部や住宅地において、水害や土砂災害に被災するケースが増えている。
    本書は、そのような事態に警鐘を鳴らし、歴史学と地理学を組み合わせた「歴史地理学」、特に景観の変遷を分析する「景観史」の視点から、地形がどのように成り立ち、日本人がどこでどのように暮らしてきたのかを紐解く。

    人が多く住む平野部は、山地から平野への出口付近に形成される扇状地、その下流に、氾濫により土砂が多く堆積してできた微高地である自然堤防、その背後に広がる低湿地で形成される。

    おもに河川によって作られたこのような自然景観に対し、人は、増水時の影響を受けにくい自然堤防に集落や畑をつくり、低湿地には水田や遊水地を設けるなど、人為的な文化景観を形成していった。

    しかし、都市が形成されるにつれ、居住地はどんどん低地へと広がっていく。また、築堤技術が向上したことに伴い、沿岸には連続した堤防が築かれ、広く安価な低地には工場や商業施設、公共施設などが建設されるようになった。
    さらに、海岸が埋め立てられ、圧密や地下水の汲み過ぎにより地盤沈下が起きると、河床が高くなって水害が起きやすくなる。それを防ぐため、より高い堤防が築かれていった。

    本書は、自然による地形の変化(自然景観の変化)と、人為的な地形の変化(文化景観の変化)について説明し、強引な文化景観の改造により災害が起こりやすくなっている状況を明らかにする。
    現代的なテーマで興味深い内容なのだが、話題が散漫してしまい趣旨が伝わりにくいうえ、最後は概念的な話でしめくくられるため、読み終わっても、かみくだけなかった異物が残っているような違和感を覚えてしまう。
    また、できるだけ視覚的に理解できるよう地形図や古地図などを多数掲載しているものの、肝心の図は小さく、白黒なので地質の違いがわかりにくい。

    新書という限られた字数、紙面の中で、できるだけ多くの内容を取り上げたい、という著者の思いが感じられ、テーマも興味深いだけに、構成をもう少し工夫することでもっと面白い本になったのではないか、と残念に思う。

  • 大学卒業以来、久々に読んだ歴史地理学の本。

    日本の地形は主に侵食力のある河川によって作られたもの。
    「堤防を作ると洪水が起きる」説明の箇所は必読だと思う。
    堤防で完全に河川を囲ってしまうと、土砂が堆積して川床が高くなるため
    さらに堤防を高くする必要がある。また、水の逃げ場が無いので、
    一旦堤防が決壊すると、被害は昔よりも大きくなる。
    また、堤防の後背地に開発されたエリアの地盤沈下が進めば、
    相対的に河川水位より低くなり、洪水時の被害は大きくなる。
    結局はイタチごっこを数十年・数百年単位で繰り返しているわけである。

    どこに住むか検討するにあたり、地形の変遷に関する知識は必須。
    今でこそ、日本各地は都市化が進み、以前は人が住めなかった
    斜面や低地もコンクリートで覆われ居住できる。
    昔その土地がどのような場所だったのか跡形も無いところもある。

    さて、個人的に最も心配なことは、川を堤防で囲い、嵩上げや強化を繰り返し、
    後背地をコンクリートで固めるという、人口増加時代のインフラ事業を
    どう維持しているのかということだ。
    気候変動による激甚災害が増え、今後人口が急激に少なくなる日本において、
    全国各地に作りすぎたインフラを維持できるとは、とても思えない。
    だとすれば、我々は普遍的に安全な地形の場所を選んで居住しなければならない。

    結局のところ、河川の氾濫や山地の地滑りなどを回避できる場所、
    即ち、伝統的に集落として発達してきた場所が選ばれるのではないだろうか?
    数十年先の「危機」を考えると、古地図の閲覧は単なる趣味道楽ではなく、
    現実味を帯びた実学であると感じさせられた。

  • ◯出だしでカントの自然学が出てきて、これは壮大な体系の理論が打ち出されるのか、テーマ的にも興味深いと思ったが、内容としては事例に則した紋切り型の解説という印象であった。
    ◯個々の章では、ブラタモリさながら古地図と現代の地図の比較、自然の状況が描かれており、とても面白い。後書きにもあるが、河川に関する部分が大半を占めている印象。
    ◯新書くらいのページ数だからか、若干の物足りなさを感じる。とても興味ある章も少なくないのでもっと深掘りしてほしいと感じる。
    ◯地図や写真が多いのは理解を促進できて大変好感であった。

  • 著者は歴史地理学の分野の専門家。
    まず、その分野がどんなものか興味があって、本書を読むことにした。

    空間の学問(地理学)と時間の学問(歴史学)をつなぐ分野であるとのこと。
    時間地理学なる分野もあり、ビッグデータの利用が進めば、これも何か進展がありそうな気がするが、本書では深くは紹介されていなかった。

    さて、筆者は「微地形」(プレート移動など大規模な地殻運動でできたものではない地形)についての業績で知られる人とのこと。
    私の出身地近くの濃尾地方が取り上げられることも多く、土地感覚があるので、興味深く読んだ。

    人間が堤防(連続堤)を作ることで、天井川を作り出し、さらに水害のリスクを高めてしまったという指摘が考えさせられる。

    湖や海の岸、山裾が動くのを古い地図と重ねながら読み解いていくのも面白かった。

    棚田の多くが昭和の食糧増産のために、耕作に適していない土地に無理に作ったものであるとのこと。
    もっと古くからあるもの、人々の知恵の結晶のようなものというイメージで見ていたので、びっくりした。

    ただ、この本は、以下の2点が残念だった。
    ・地図が小さい
     →細かい文字や模様が読み取りづらく、筆者の指摘する事象が確認しづらい。
    ・専門用語の定義が少ない
     →初出のところできちんと書いてほしい。

  • 日本の地形や地名の変遷を追っている。自然にあったものをある場所は人工的に作り直し、ある場所は自然に変化して行っている。

    改めて、地形というものは時間とともに形を変える、大地が生きているということを感じさせる。自然災害が多い地域にも人は住む。「なぜそこに?」と他人からは思えても、そこで暮らす人達の長い歴史がある。

  • 平野や崖ができる理由やその活用方法について述べられている

  • 新書というより、きちんとした歴史地理学の教科書的な内容なので、とっつきやすくはない。読む側も、ちゃんと読まなくてはいけない感じ。だから、この内容を新書として出すのが間違っているように思う。また、せっかくの内容なのに、地図が見にくいのもいただけない。
    ということで、出版社の姿勢に対しては☆2つなのだが、内容は勉強になったので☆3つにしました。

  • 先日読んだ「地形で読む日本」の前の作品があったということで、順番を違えて手に取った一冊。
    著者が提唱する歴史地理学の入門第一弾という位置付けです。
    歴史地理学は「空間と時間の学問」。歴史学と地理学における空間と時間のギャップへの、架け橋の役割をも果たすもの、としています。現在、歴史と地理は別々に学習すべきものという印象がありますが、もともとは一緒に学ぶべきものでした。確かに、歴史と地理はお互いに影響し合うものです。個人的に興味がある分野でもあります。
    そして著者は、「私たち日本人はどこで暮らしてくたのか」を知るためには、空間と時間を同時に視野にいれた、歴史地理学の視角こそ有用として、この視点での学びの重要性を強調します。
    その背景には、頻発する豪雨などの災害への危惧があります。特に冒頭で大都市の川沿い高層マンション群を指摘します。防災対策として、歴史地理学の視点から、この地形が、もともとどのようにつくられ、どのような性格の土地なのかを知り、これまでどのようにその土地を利用し、どう改変したのかを確認するこは災害対策の前提であるとし、日本の人口が集積する平野部の成り立ちを中心に展開していきます。
    内容が専門的ではありますが、近年の災害への対策として、どのような視点で考えるべきか、その根幹を問われる一冊でした。


    ▼本書は、私たち日本人がどこに暮らしてきたかについて、振り替えることを目的としている。暮らしてきた場所の地形が、どのような特性を持っていて、どのように変化してきたのかについての見方を紹介しようとするものである。
    ▼近年各地で発生している水害や地形災害は、単に気候温暖化とか、異常気象とかだけで説明できるものではない。水害や災害がどこで、どのように発生したかについて理解を進めるためにも、地形環境やその歴史的改変に注目しなければならない。

    ▼近代科学としての地理学と歴史学の分類は、カントが、「地理学は相互に隣接している事象の記述であり、空間と関連する」、また「歴史学は相互に継起する事象の記述であり、時間と関連がある」としたことに由来する。簡略に表現すれば、地理学を「空間的併存」の状況を記述する学問、歴史学を「時間的継起」の様相を記述する学問、と定義したのである。
    ▼すべての空間的事象は時間的(歴史的)存在であり、すべての歴史的事象は空間的存在であることになろう。空間を考えるために歴史過程への視覚を保ち、また歴史過程を考えるために空間への視覚を保つことなくしては、さまざまな事象の実態へは十分に接近し難いことになる。前者が地理学の側からの歴史地理学の視覚であり、校舎における歴史学からの視覚もまた、同様に歴史地理学と呼ばれる。

    ▼ハザードマップの原型とでも言うべきは土地条件図であるが、土地条件図が地形の基本的様相を表現しているのにたいして、ハザードマップは一定条件の本での災害予測、ないし危険度予測を表現しているという点の認識が重要であろう。

    ▼日本の平野の地形は、河川が下流域で土砂や泥土を堆積し、あるいは河川が上流域で山地。丘陵を侵食し、そのような過程を繰り返すことによってつくられてきた
    ▼現在確認することができる平野の台地や低地は、それら自体がつくられてきた長い歴史の結果である。言うならばこれらの地形そのものが、その土地を形成した歴史あるいは記憶を物語るものであろう。地理学には地形史ないし地形発達史という研究分野があり、このような過程を重視する視角である。


    <目次>
    第1章 歴史地理学は「空間と時間の学問」
    第2章 河川がつくった平野の地形
    第3章 堤防を築くと水害が起こる
    第4章 海辺・湖辺・山裾は動く
    第5章 崖の効用、縁辺の利点
    第6章 人がつくった土地
    第7章 地名は変わりゆく
    第8章 なぜそれはそこにあるのかー立地と環境へのまなざし

  • 『地形と日本人 私たちはどこに暮らしてきたか』(金田章裕)

    地形学、歴史地理学との関わりがマニアック。好きな人、このテーマで調べ物やレポート書いている人にはハマる一冊。決して軽くは読めない本です。

  • 人類学的なアプローチを期待して読んでみたが、あくまでも地理からの解説に留まり、残念。
    第1章 歴史地理学は「空間と時間の学問」/第2章 河川がつくった平野の地形/第3章 堤防を築くと水害が起こる/第4章 海辺・湖辺・山裾は動く/第5章 崖の効用、縁辺の利点/第6章 人がつくった土地/第7章 地名は変わりゆく/第8章 なぜそれはそこにあるのかー立地と環境へのまなざし

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著者プロフィール

金田章裕:砺波市立砺波散村地域研究所長、京都大学名誉教授。1946年生まれ。京都大学教授、人間文化研究機構長などを経て、2018年より現職。専門は人文地理学。オーストラリア地域研究や日本古代の地理学研究に従事し、多数の著書を刊行(参考文献参照)。近著に、古文書や絵図、地形などから古代の壮大な土地計画の実態を探究した『古代国家の土地計画:条里プランを読み解く』(吉川弘文館、2017年)がある。

「2019年 『BIOCITY ビオシティ 80号 日本の美しいむら再発見! 水系散居村の歴史と景観』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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