危機を超える経営: 不測の事態、激変する市場にどう対応するか

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532317317

作品紹介・あらすじ

リーマンショック、大震災といった危機を乗り越え、業績を急回復させた企業は何をしてきたか。その背後で忍びよるもうひとつの危機にどう立ち向かうか。サムスン、日本電産、ユニ・チャーム、日産、コマツなどの事例をまじえ、停滞する日本企業の活路を見出す。

感想・レビュー・書評

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  • ▼調べた単語
    ・未曾有(みぞう):今まで一度もなかったこと。
    ・隔絶(かくぜつ):遠くへだたっていること。
    ・隔壁(かくへき):間をへだてる壁。しきり。
    ・環太平洋経済連携協定(TPP):2006年にAPEC参加国であるニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヶ国が発効させた貿易自由化を目指す経済的枠組み。TPPは加盟国の間で取引される品目に対して関税を原則的に100%撤廃しようという枠組みである。
    ・二律背反(にりつはいはん):=アンチノミー、二つの相矛盾する命題である定立と反定立が等しい合理的根拠をもって主張されること。
    ・肥沃(ひよく):土地が肥えて作物がよくできること(さま)
    垂直統合(すいちょくとうごう):ある商品やサービスを市場に供給する際、関連業務の多くを単一起業(グループ)内で連携させること。自動車産業において、部品製造から販売に至るまでの業務をグループ企業内で総合的に行う状態など。
    垂直統合に対して、水平分業(すいへいぶんぎょう)がある。ある商品やサービスを市場に供給する際、複数企業(グループ)が関連業務を分業的に担当すること。パソコン産業において、メモリーやハードディスクなどの部品を複数企業が競合的に供給する状態など。
    ・ガラパゴス化:日本の技術やサービスが国内市場で独自かつ高度に発展したため競争力を失ってしまうこと。携帯電話業界などについていわれる。ガラパゴス現象。ガラパゴス諸島で独自進化した固有種が外来生物の侵入により絶滅危機にさらされている様子から。
    ・コモディティー化:従来は特別な価値をもっていた商品やサービスが何らかの理由で日用品化すること。機能・品質・ブランドなどによる差別化が困難となり、価格・供給量などが購入基準となる。部品の標準化により差別化が困難になったパソコンなどが好例。
    ・逓減(ていげん):時とともに少しずつ量や額が減ること。また減らすこと。
    ・肥沃(ひよく):土地が肥えていて作物がよくできること(さま)。
    ・SPA(製造小売):企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルを指す。消費者の嗜好の移り変わりを迅速に製品に反映させ在庫のコントロールが行いやすいなどのメリットがある。
    ・趨勢(すうせい):物事がこれから先どうなってゆくかという様子。成り行き。趨向。
    ・醸成(じょうせい):ある気運・情勢などを次第に作り上げてゆくこと。
    ・披瀝(ひれき):考えをすべて打ち明けること。
    ・インフォーマル:非公式なさま。
    ・涵養(かんよう):水が自然にしみこむように少しずつ養い育てること。
    ・喝破(かっぱ):大声でしかりつけること。
    ・傍証(ぼうしょう):ある事実を間接的に証明する証拠。
    ・焦眉の急(しょうびのきゅう):さしせまった危険や急務。
    以上。

    ▼付箋した箇所
    P.161
    商品企画力 キーエンスが持つ第二の強みは「商品企画力」にある。キーエンスでは、商品コンセプトを具体的な技術や商品に仕上げる際、付加価値を数値化して、その最大化を目指している。顧客の要求やニーズには直接対応しないという姿勢のもと、滝崎は次のように社員に指示している。「『キーエンスさん、こうしてください』といった顧客の要求に直接応えない。それでは、高く買ってもらえないだろう。そうではなく、顧客が意識していない潜在的ニーズを嗅ぎとり、それを実現する商品を企画して持っていけば、『そうなんだよ、この商品が欲しかったんだよ』と顧客が喜んでくれる。そうすれば、それだけの対価を払ってくれる」
    キーエンスでは、実際に顧客が行っている方法で、コストや工数、品質などの改善方法を検証し、付加価値が最大化される提案をする。つまり、「かゆいところに手が届く」商品を顧客に提案しているのである。顧客にとっては、費用や工数がどれだけ削減されるかによって、提案された商品に対する魅力度が増し、認識価値が上昇する。キーエンスが提案する付加価値が認識価値にリンクするのである。こうして、粗利益率8割という驚異的な数字が実現される。
    さらにキーエンスは、特注品は決して開発しないという方針を貫いている。特定の顧客に限定されないよう、商品の横展開による市場拡大を図ることに注力している。「特注品は社会的資源のムダづかいである」という考えに立ち、付加価値の高い製品コンセプトが生まれたら、その製品コンセプトが同業他社にとっても付加価値の高いものかどうか、さらには他産業にとっても付加価値の高いものかどうかを確認するという。

    P.246
    顧客洞察力 ユニ・チャームは、自社の顧客をつぶさに観察することで認識価値を高めた。
    技術融合力 コマツは、ITを活用したコムトラックスやダントツ商品で認識価値を高めた。デジタルカメラ産業やPFUは、アナログ技術とデジタル技術を融合させることで他社の参入を防いだ。
    文化発信力 シマノや島精機は、自社の製品を使用する際の利便性や快適さといった無形の効用を顧客に浸透させることで、競争力をより強固なものにした。
    他社資産活用力 ファーストリテイリングは、東レの技術を活用して認識価値を高めた。

    P.256
    7つの試練と10の行動原則
    PDCAサイクル
    P 1.問題を理想と対比して定義する。
    2.問題を扱いやすい単位に分解する。
      3.根本原因を特定する。
      4.代替解決策を策定する。
    5.評価し、いま分かっていることに基づき、最適な解決策を選ぶ。
    D 6.解決策を実施する。
    C 7.解決策の影響を確認する。
    A 8.調整し、標準化し、学んだことを展開する。

    P.258
    行動原則1 PDCAサイクルが回る仕組みを日ごろから確立しておく
    行動原則2 現地・現物で、危機の兆しをすばやく嗅ぎとる。
    行動原則3 正確かつ鮮度の高い情報と接する機会を社内外に張りめぐらす。
    行動原則4 日ごろから厳しく現状を認識し、自己規律を求める。
    行動原則5 危機の状況を「見える化」する。
    行動原則6 ひとつひとつの行動(PDCAサイクル)のスピードを上げる。
    行動原則7 やるべきことに優先順位をつける。
    行動原則8 情報を収集し、共有する仕組みを構築する。
    行動原則9 限界突破の着想力を磨く。
    行動原則10 平時から思考と行動の「癖」を涵養し、危機時に覚醒・再強化する。

    P.313
    「答え(情報)が全部わかってからやるんだったら、誰でもできる。わかってからやるのなら、それは意味のないことだと思う」と語っている。
     このときの体験から鈴木は、初動の重要性を組織内に植えつけなければならないと考えるようになる。新潟県中越地震後のインタビューでは、次のような発信をしている。「情報をとってから行動しろ、マニュアルをつくっておけと言われているが、ナンセンスな話。マニュアルは必要だが、その対応に固執しすぎるから、臨機応変の柔軟な対応ができない。激しい変化への迅速な対応力は、日常的な変化対応への積み重ねで培われる」

  • 危機を超えるには?

    →危機耐性力を支える行動原理は、PDCA+3Sであり、情報力を媒介として感知力、高速回転、危機意識
    差異恒常化モデルとは、顧客認識価値の逓減問題を克服する手段であり、差異化再創出型である差異化の機能を付け加える方法と技術、認識価値連動型として、参入障壁や技術優位性を築く方法がある
    競争優位を構築する力として、顧客洞察力、技術融合力、文化発信力、他社資産活用力の4つ
    PDCAサイクルは見える化しておく

  • リーマンショック、311といった危機を乗り越え、そして克服した企業の戦略・行動を分析した本。

    さまざまな企業の事例を紹介しつつ、その中から日本企業再飛躍のための条件を導き出しています。

    本書では、その危機を克服するための力として
    ・危機耐性力
    ・危機進化力
    と分析しています。

    危機耐性力では3つの行動原理として
      危機をすばやく感知する(Sensor)
      高速回転する(Speed)
      危機意識を熟成する(Sense of urgency)
    といった行動原理を分析し、スズキ、日本電産、キヤノン電子の事例を紹介しています。

    さらに危機進化力としては3つの戦略を示し
      高付加価値モデル
      新興国最適化モデル
      差異恒常化モデル
    として、3つの戦略について、多くの企業の事例を紹介しています。

    そして、危機突破の行動原則として7つの試練と10の行動原則を導き出しています。

    最終章では、311にとった各企業の対応をドキュメントタッチで紹介しています。311での各企業の行動は本当にすばらしいものだったと思いました。

    本書でぜひ参考にしたいものが
      新興国最適化モデル
      差異恒常化モデル
    の戦略。
    とりわけ、差異恒常化モデルとして、コモディティ化にどう対処するかというところはしっかり分析する必要がありそうです。
    筆者によれば、コモディティ化に対応するには2つの戦略型があり、差異を付加するか参入障壁を築くかとのこと。
    私たちのビジネスで考えると、ある程度参入障壁が築けてはいるものの、その中でもコモディティ化が進んでいるので、やはり差異を付加するしかなさそうです。
    では何で差異を付加するかがポイントとなりますが、本書では、ユニチャーム、コマツ、ファーストリテイリング、シマノ、島精機といった企業の事例を紹介しています。自分たちのビジネス分野で何かしらのヒントにならないかなって思います。

    250ページに各戦略モデルとそれに必要な力が分析されている図があってこれがとてもわかりやすいです。

    これだけ、各企業の事例を分析し、わかりやすくまとめているのはとてもありがたい本です。

    お勧めの一冊です。

  • 東日本大震災の対応も分析したタイムリーな本。

  • 2012年10月末読了。
    2011年末の本で、リーマンショック・東日本大震災という危機に対し、さまざまな企業がとったactionを取り上げ、そこに共通する力を、大きく情報・行動・恒常化の3点にまとめ論じた本。具体的な企業の具体的な対応が次々と数多く取り上げられている。ここまで多数の企業の具体的なactionがまとめられている本はなかなか貴重だ(…と思う)。自分はメーカー勤務だから、読むのはビジネス本はメーカー関連のものが中心だけど、この本に取り上げられている企業の取り組みを読み、流通・金融にも企業経営には共通点が予想以上に多かった。
    最終章に書いてあった震災直後の企業の団結力、人々のつながりに少し涙してしまった。本としての構成もさまざまな話題も取り上げながら本題は決してぶれることがなく、最後のまとめも美しかった(美しすぎ?)。良本でした。

  • 2011年9月という比較的早い時期にここまでまとめることができたのはさすが、という書籍。とくに震災後の企業の対応がまとめられている第12章の事例が読み応えあり。東京海上日動、日産、ローソンなど。

  • リーマンショックを中心に、企業の対応事例をあげて一般化しようという内容。

    表現はあまり好きではなかったが、エピソード本としては面白かった。

    普段の仕事に活かせそうなこと。
    ●ユニ・チャームの週次SAPS
    ●原因自分論

  • 著者は伊藤邦雄先生。

    ケース分析の中からエッセンスをまとめ、帯びにもあるが「再飛躍の条件」を探る内容。

    読んでて思うが、新興国最適化モデルなるものとか、自分が読んだ中だと『未来をつくる資本主義』の内容と酷似。BOPの成功ケースだとこの辺りしかないのか。

    読んでて思うが、ケースに触れるほど、根本的には『人の力』だと。『知恵』だと。あと『人の力』を具現化できる、実行できる組織力だな。


    備忘録。
    ・そもそもだけど、リーマンショックのダメージが一番深刻なのは日本だという著者の主張。確かに鉱工業生産指数だとそうだ。メーカーだからか。確かにコスト削減余地が限られた中での一気な需要減は大変だ。
    ・イノベーションは研究開発費の額とは関係ないbyジョブズ
    ・日本メーカーの危機→技術的差別化効果の減少と、新興国市場の台頭(日本が世界二位のマーケットではなくなったという意味で)
    ・ファブレスの強みと弱みと対策法の整理はわかりやすい。弱み→製造現場でのカイゼンを自前で出来ない。対策法→委託先にうまく競争原理を働かせる。
    ・ネスレの現地化いい→ブランド階層を構築。コーポレートブランド→世界戦略ブランド→地域戦略ブランド→ローカルブランドとする。
    ・色々と、○○力として整理していただけているが頭に入らないので、とりあえず、分析力が大事で、成功体験のそのままゴリ押しはダメ、と理解しておく。


    そんなとこ。

  • 勇気をいただけたような気がしました。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、3階開架 請求記号:336//I89

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著者プロフィール

一橋大学CFO教育研究センター長・同大名誉教授
1951年千葉県生まれ。75年一橋大学商学部卒業。84年一橋大学助教授。87~88年スタンフォード大学フルブライト研究員。92年一橋大学教授。96年商学博士(一橋大学)。02~04年一橋大学大学院商学研究科長・商学部長。04~06年一橋大学副学長。

「2023年 『企業価値経営 第2版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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