共感経営 「物語り戦略」で輝く現場

  • 日経BPM (2020年5月25日発売)
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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532323370

作品紹介・あらすじ

 現在、日本企業の多くがオーバー・プランニング(過剰計画)、オーバー・アナリシス(過剰分析)、オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)の「三大疾病」に陥っています。米国流の分析的な経営手法に過剰適応した結果、自社の存在意義が見えなくなってしまったことに起因します。現場を知らない本社からの指示をこなすのに精一杯で、ミドル、現場がストレス過多でへばっている。これが日本企業の現状です。その一方で、現場が活性化し、社員一人ひとりが活き活きと仕事に向き合い、イノベーションや大きな成果を実現しているケースも少なからずあります。それらのケースに共通しているのは、企業と顧客、トップと部下、社員と社員との「出会い」の場があって、つながりが生まれ、そこでわき上がる「共感」が新しい価値を生む原動力となっていることです。
 アメリカでもマイクロソフトのV字回復を達成し、時価総額世界1位へと導いたCEO、サティア・ナディラは「共感」を経営における最も重要な概念と位置づける「共感の経営」や「共感のリーダーシップ」を唱えている。
 もう1つの共通点は、市場環境や自社の内部資源を分析し、市場における最適なポジショニングを見いだそうとする米国流の分析的戦略ではなく、自分たちはどうあるべきかという存在意義を問いながら、組織としてのビジョンを実現するため、その都度、最適最善の判断を行い、成功に至る「物語り戦略」を実践していることです。
 物語り戦略は、絶えず変化する状況に対応、対処していくため、変動性や不確実性が高いなかでも、成果に至ることができます。そのため、海外の経営学においても、物語り戦略が注目されているのです。
 共感経営を生み出すにはどんなマネジメントが求められるのか。物語り戦略を推進するための条件はどのようなものか。本書は、『Works』誌の連載「成功の本質」において、主に2015~19年にとりあげた30の題材のなかから、共感経営を実践し、物語り戦略により大きな成果を上げたケースを選りすぐり、それを可能にしたエッセンスを抽出します。

感想・レビュー・書評

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  • 「全員経営」の続編みたいな感じで、事例の紹介とその「知識創造理論」による解説という構成。本のデザインも似た感じ。

    基本的にはいつもの野中さんなんだけど、これは、ある意味、わたしが初めて「共感」した野中さんの本かもしれない。

    これまでは、野中さんの言っていることは「分かる」んだけど、なんか再現可能性が低い感じがしていた。この本で、なんか、その辺の距離感が縮まった感じがした。

    もともとのSECIモデルは、共同の暗黙知の形式知化というEのところにフォーカスがあったのだけど、これはSの部分、つまりメンバー同士の「共感」による暗黙知の共有みたいなのは、日本企業にはもともとあるという前提があったとのこと。

    が、この前提が自明のものではなくなってきたので、Sの非言語レベルでのコミュニケーションにフォーカスしたのがこの本との説明で、これはとても腑に落ちた。

    わたしが、野中理論に距離感を感じていたところも、「共有されている暗黙知はすでにある」という「暗黙」の前提があったからだとわかった。

    「全員経営」では、誰でも知っているような大企業の事例が中心だったのに対して、こちらはやや地味かもなんだけど、今起きている変化をピックアップしたようなもので、私的には希望がもてる事例が多く、その辺もよかった。

    タイトルからも分かるように、共感性とか、ストーリー性といったところを強調していて、あと、パーパスみたい言葉もでてくる。

    なんとなく、ナラティヴとか流行り物(わたしもはまっているが)を取り入れてみましたという軽さもあるが、悪くはない。

    でも、流行り物には止まらない新しさ、深さがこの本にはある。それは、昨年でた「直観の経営」における現象学、相互主観性という哲学的な考察が取り入れられているからだと思う。

    最後の章で、この本でのインプリケーションをこれまでの優れた経営者、たとえば、本田宗一郎さんとか、稲盛さんに当てはめて、改めて共感が大事なんだという、野中さんのこれまでの本との連続性を整理しているところが、ややくどい、言わずがもな気がしたが、それはご愛嬌ということで。。。。

    野中さんも随分ご高齢だけど、まだまだ進化しているな〜、と思った。

  • イノベーションを成功している企業を「共感」というキーワードから読み解く試み。

    ・日本企業は分析過剰、計画過剰、法令遵守過剰の三代疾病に陥っている
    ・VUCAの時代においてはこれまでの分析的思考だけでは生き残れないのであり、共感を軸にした物語り戦略をとっていくべきである
    ・顧客への共感、社員への共感を元に「あるべき姿」を分析的思考ではなく飛ぶ仮説として描き、辿り着きたい場所からの逆算思考で発想するべきである
    ・この発想は論理的三段論法ではなく、「目的(何を目指すのか)→手段(どのような手段が必要なのか)→実践(その手段を用いて行動に移す)」とつなげる実践的三段論法と呼べる
    ・物語り戦略にはプロット(筋書き)とスクリプト(行動規範)がある
    ・スクリプトは訳せば脚本、台本であり、演劇の主人公が場面場面において脚本にしたがって演技するように、スクリプトは蓄積した経験やパターン認識にもとづいて、無意識のうちに心と身体に刷り込まれている思考や行動にまつわるルールのようなもの。つまり、ある特定の文脈や状況において、「こういう場合はこうする」と暗黙知になった行動規範。
    ・物語(ストーリー)は複数の出来事(WHAT)を並べて記述したものであり、物語り(ナラティブ)は複数の出来事の間の相関関係(WHY)に即して語るもの
    ・WHYにこそ当事者の主観や直観が表れ、WHYこそが人々の共感の源泉となり、物語りのプロットの軸となり、人々の行動のスクリプトにも結びつく
    ・物語り戦略はアートとサイエンスの綜合

    ビジョン・ミッションとバリューを物語りにおけるプロットとスクリプトと読み替えるような視点。元々ビジョン・ミッション・バリュー自体が定義が統一されていない曖昧なものなので、ストーリーという観点から捉え直すのはわかりやすいと感じる。

    事例と解説を交互に行なっていくスタイルは体系的ではないもののそれなりに分かりやすい。

    ただ、最後のまとめでユニクロやセブンイレブンを事例として持ち出すべきではなかったと思う。それでの事例もそれなりに有名な企業が多いとはいえ、取り上げているのは企業内の特定の状況における特定のプロジェクトだったからこそ説得力があったのに、これまで散々さまざまな戦略論で分析され尽くしたユニクロやセブンイレブン、富士フイルムの全社戦略を最後に出してしまうことで、結局これまでの戦略論から見せ方を変えただけなのではという印象が強くなってしまう。

    VUCA時代における新たな戦略としての説得力を増すのにその事例出す必要ある?と最後に冷めてしまう。

    最後はもったいなかったものの全体的には面白味を感じる本ではあります。

    もう少し触れていると良かったと感じるのは「アートとサイエンスの綜合」が重要なのである、ということ。最近アートの強力さを論じるものが多いし、これまで軽視されすぎていたからしょうがないと思うけど、だからと言ってアート一辺倒でうまくいくのではなく、あくまでサイエンスとの両輪で走るべきなのにサイエンスが無視されすぎる場面があるように感じるので。

  • ワイズカンパニーからの連続して読んだ。企業ビジョンについて日本の企業を例にして書かれた本はあまりであったことが無いが、組織のビジョンづくりを考えている方にはぜひおすすめしたい。(野中氏はビジョンという表現は使っていないが)

    経営において、「高次の目的」を掲げることの実感が持てない方や、そもそもそういった経営の指針とはいかに組織に浸透していくのかの理論と実践を両方知ることができる本だった。
    実例紹介と、野中氏の丁寧な理論補足が各章セットで書かれているので、非常に読みやすい

  • 第四章は読む価値あり。事例は?ユニクロとセブンって、ブラックな香りしかない。

  • 多くの学びがあり、今の自分にとって勇気づけられる要素が多かった。新しい事例が多く身近に感じるのと、事例がぶつ切りではなく、次の事例解説で何度も振り返ってくれるので頭に染み込む。
    分析的戦略の限界と物語り戦略の違い、競争に勝つ事よりも企業の存在意義という部分が特に刺さった。リーダーに求められる未来構想力、筋書きと行動規範を意識していきたいと思った。

  • 言っていることは共感できるし、よく分かる。ただ成功事例においても『経営陣の反対を押し切って』となっている。
    求められるのはリーダーのやり抜く力であり、まだまだ理論としては確立していないということだろうか。
    そんな中、経営の必要性って何なのだろう?

  • 名著『失敗の本質』(小池百合子都知事の「座右の書」としても知られる)などで知られる、日本を代表する経営学者・野中郁次郎氏と、ジャーナリスト・勝見明氏のコラボレーション。

    人と組織に関するマネジメント誌『Works』の長期連載「成功の本質」をベースにしている。
    同連載で取材した、日本企業の成功事例・イノベーション事例をふまえ、イノベーションを生み出す「共感経営」とは何かを抽出していく内容だ。

    勝見氏による企業リポート(要約)と、野中氏によるその事例の解説で構成されている。

    タイトルにもなっている「共感経営」とは何か?
    これは要するに、アメリカ流の「分析的経営」に対するアンチテーゼである。

    日本企業は1990年代以降、アメリカ流経営に「過剰適応」するあまり、「三つの過剰による〝三大疾病〟に陥って活力を失い」、弱体化が進んでいると、著者たちは言う。
    「三つの過剰」とは、オーバー・アナリシス(分析過剰)、オーバー・プランニング(計画過剰)、オーバー・コンプライアンス(法令遵守過剰)だ。

    現今の「VUCA」な世界は従来の分析的経営では太刀打ちできなくなっているうえ、イノベーションも生まれにくい。
    ゆえに、これからの企業経営は分析よりも他者への共感を重視する経営にシフトすべきだ。そこにこそ停滞の突破口がある。じっさい、近年の成功したイノベーション事例のベースには、共感重視の経営がある……大要そのような内容である。

    著者たちは、山口周氏のベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? ――経営における「アート」と「サイエンス」』と同じ問題意識を共有している。
    あの本は、〝企業経営がサイエンス側に偏り過ぎているため、アート側にリバランスする必要がある〟と説く内容だった。

    本書にいう「分析的経営」はサイエンス、「共感経営」はアートに相当するだろう。
    山口周氏も本書も、分析的経営を全否定しているわけではない。ただ、それ一辺倒ではもうダメだと言っているのだ。

    本書は、野中氏が提唱した知識創造理論「SECI(セキ)モデル」の具体的事例集としても読める。

    「暗黙知」と「形式知」の相互作用からイノベーションが生まれるとする「SECIモデル」は、まさに共感を重視する理論である。そして、本書で紹介された事例はいずれも、共感からイノベーションが生まれているのだ。

  • マツダの事例を読む。

  • Seci モデルが、日本の最新具体例とともに解説してあり分かりやすい。ドコモアグリガール、ブッシエン、グッジョバなど。

  • 物語る(ナラティブ)戦略。
    分析戦略との違いが丁寧。
    何をするにもなぜなのかの未来思考。
    そのためには物語る発見と観察が求められる。
    物語る話ばかりなのでそもそも泣きそうになるぐらいおもしろい。
    アグリガールはガールを咀嚼している点が強い。

    仕事をなくすために仕事をするのだと思えてきた。
    また読み直したいし、基本戦略におきたい考え。

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著者プロフィール

野中郁次郎
一九三五(昭和一〇)年、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』、『失敗の本質』(共著)『知識創造の経営』『アメリカ海兵隊』『戦略論の名著』(編著)などがある。

「2023年 『知的機動力の本質』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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