人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2007年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532352455
作品紹介・あらすじ
帝国化・金融化・二極化する世界、一国単位ではもう何も見えない。1995年を境に、大航海時代にも匹敵する「世界経済システムの変革」が始まった。第一級のエコノミストが明らかにする、グローバル経済の驚くべき姿。
感想・レビュー・書評
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国際収支を会社の決算書に当てはめれば、貿易収支は企業会計の営業損益、投資収益収支は営業外損益。「米株式会社」の第一の定款(経常赤字を上回る対米証券投資の存在)が意味するところは営業損益の、極大化であり、第二の定款(米国の対外証券投資の増加)は営業外損益の極大化を意味している。
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榊原英資 どうすれば「最高の仕事」ができるか P94
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★2008年3月10日 18冊目読了『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るか?』
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100年デフレに続く、水野和夫3部作の2冊目の本。
前著では、歴史的に、構造的にデフレの時代が来ることを検証していたけれど、本書では、1995年を分水嶺に経済の常識が覆され、世界がいろいろな意味で2極化することや、(進歩史観的な)大きな物語の終焉することで、成長か定常状態かを選択するときが来ているとしている。
中世から近世に変化したように、歴史観が異なってきているときには、前時代の常識はそのままでは適用できないし、多くの人は未来を不安に思う。その意味では未来が読めなくなる。
同じ著者の3部作の3冊目の「終わりなき危機・・・・」の冒頭では、それまでの3部作の目的は利子率革命の原因を探ることであり、本書はグローバリゼーションの資本の反革命として、先進国の中産階級を疲弊させ、賃金が下落してデフレが起きていることを検証している本だとしている。
前著が歴史観的の知識(世界システム論や長い16世紀など)に比べて、本書は現在の数値のデータをどのように読み解くのかが多いのと思った。 -
本書は難解な経済書である。専門的でよくわからない点も多々あるが、タイムスパンが長い視点で経済を見ているので、簡単に評価しにくい本であると感じた。
「覆される戦後経済の常識」では、日本において「デフレ下で景気は回復していた」とデータを元に主張しているが、小泉政権における構造改革の取り組みとの関連性については、主張がよく理解できないと感じた。とにかく本書には、詳細なデータが多く出てくるが、主張がわかりにくい。思うに著者は、一般的な読者に理解してもらおうという意欲があまりないのではないのだろうか。
本書では、かつて覇権国であったオランダや英国を例に引き、「利潤率の低下」という100年単位の概念を語っているが、世界経済の現状を考えると、興味深い主張だと感じた。
「重層的に2極化する世界経済」では、紀元前100万年からの一人当たり実質GDPの推移や17世紀のインドの経済成長を引用するなど、とにかくタイムスパンが長い考察をしているが、これも主張がわかりにくい。しかし「成長の収斂仮説」や「世界的貯蓄過剰論」などの説も取り上げており、興味深いと思った。しかし、もし現在の世界経済の危機が過去におきたような時代の転換点と同じであったとしたら、通常の経済対策をいくら繰り返しても、対処不可能となり、別の時代の始まりとなるのだろうかと思った。だとしたらば、新しい時代とは一体どのような時代になるのだろうか。少なくとも、アメリカの覇権は終わるのだろうと思った。
「大きな物語の終わりとバブルの物語の始まり」では、16世紀以来の500年間は、インフレの時代だったが、それはもう終わったと考察している。16世紀イタリアと現在の日本の超低金利を取り上げての考察を読んでも、主張は理解しても評価はわからないとしか言いようがないと感じた。
「資本の反革命における二つの選択」では、景気が回復しても、2極化する格差によって中流階級の没落が始まると主張している。大企業・製造業に集中する利益は、現代の君主(グローバル企業)を生み出しているが、中流階級は砂上の楼閣となろうとしていると論考する。本書には、歴史と経済の分析のみで、どうすべきかと方針があまりない点が物足りない。
とにかく本書は、簡単に要約できるような内容ではない。難解であり、複雑であり、データも多く、理解しにくい。それでも最後まで読み通せたのは、現在の世界経済危機の様相を知りたいからである。世界的な経済危機をわかりやすくバッサリと切って、胸のすくような対処を皆求めていると思うが、そのような本は見当たらないのが現状だと思う。本書が難解なのではなく、世界経済の現状が難解なのかもしれない。できれば、本書をわかりやすくリライトした本がないものかと思った。 -
初版は2007年3月で、サブプライムローン/住宅バブル崩壊前ですが、それによって議論が古くなった感じはしません。
「人々は…」「見誤る…」の対象がはっきりしないので、ボクの解釈を言うと、「グローバル経済の仕組みを解説する本」です。面白いのは、グローバルで見ていくと、実物経済を金融経済が振り回すようになった。従来は実物経済が頭だったのが逆になった、という解説。
分かりやすい例では、金融取引のフローは2004年で見ても、貿易取引のフローに対して83倍の規模になっているそうだ。株価を予想するには「実物経済のファンダメンタルよりも、マネーの需給に影響を及ぼす要因」の方が重要になっている、とも。資産運用の世界でも、ここ数年でファンダメンタル分析では説明できないことが増えている。自由化された金融は「グローバル」という空間をあっという間に駆けめぐる。
金融の自由化は規制緩和の結果だけれども、そもそもなぜ金融取引がかくも膨張したのか。資本が経済の成熟化に一定の効果(循環)をもたらし、人口増加率が減りはじめると、資本のリターンが低くなって、余ったマネーは実物投資から資産への投資(取引)へ向かうのである。
中国を例に挙げよう。不動産バブルを除くと、今まで中国で起きていることは実物投資だ。ただし、グローバル全体で見れば、より安い生産コストを求めて、労働力が主要国から中国に、中国の国内で見れば沿海部から農村部に、移っている出来事にすぎない。つまり、この状態が持続するとは考えにくいから、いずれ(株主)資本のリターンは低下していく。
昔は日本が貿易黒字を積み上げ、外貨を米ドルで保有していたのが、今度は中国が同じことを行っている。実物経済で稼いだお金は、米国債で保有され、一方で国債を買ってもらった米国は対外投資で黒字を得る。では、なぜ外貨が米ドルで保有されるかというと、それこそが基軸通貨国のメリットなのであり、金融立国を進めてきた米国の戦略、との指摘。
この話にはおまけがあり、中国経済が過熱して資源価格を暴騰させた結果、産油国が潤って米国に資金を還流させたということと、余ったマネーが米国などの不動産に投資されて、かの不動産バブルの一因となったこと、さらによく知られているように不動産担保によって米国の消費が膨張した面もあるから、幾重にも増幅されて今日の姿に至っている。
ではどうしたら良いかと言うと…、の部分で著者はグローバル経済圏の企業とそうでない企業を分けて論じ、前者は競争、後者は公平を掲げる。先日読んだ野口さんの「日本だけが取り残されるのか」と共通するのは、輸出製造業を支援し続けるのは止めよう、と。この本が出版された2007年以降、自動車業界が置かれている状況もいっそう厳しさを増してきたから、トーンの違いはあるものの同じメッセージであろう。
「一国のマネーサプライとインフレ率は関係が薄まった」など、グローバルの景気や経済を見る際にはグローバルで物事をみるべき、という主張が一貫している。経済指標の見方も、昔のように一国だけ見ては不十分だし、実物経済の指標だけ見ても駄目だろう、と思った。
ボクのブログより:http://d.hatena.ne.jp/ninja_hattorikun/20100603 -
いや、凄い本です。しかし何よりも現代日本の低下した学識社会の中で数少ない経済学者、水野和夫という真のエコノミストの存在を知ることができます。
およそ二年前に刊行された経済学の本ですが既に古典の名著のような赴きがあるのが凄い。 -
Facta編集長が推薦していたので図書館で借りる。巨大多国籍資本は帝国主義(アメリカ、ロシア、中国)と親和性が高いという話だけは理解できた気がする。そのほか難しすぎて完全挫折。
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光先生推薦