朽ちるインフラ: 忍び寄るもうひとつの危機

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532354596

感想・レビュー・書評

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  • もしこの状況で、手をこまねいて見過ごすだけだとしたら、行政も市民も等しく、未来の人々に重大な災害をもたらした元凶となるでしょう。津波被害想定を黙殺した東電のように。

    本書はそうならないためにどうしたら良いか、自分の身の回りのこととは関係ないと思いたいけれどどうやら違うらしいと思い始めた人に「そうそう、気がついてくれた?」と語りかけてくれます。

    思えば好景気が未来永劫続くはずもなく、いつかはその影が落ちるときが来るわけで、それがインフラの崩壊という形でおとずれます。形あるものはみな、その姿を変えるときが来ます。インフラの維持更新を見越してもっと計画的に整備できなかったのでしょうか?

    4市が合併した我が市も、好景気時に整備されたインフラの耐用年数が次々に過ぎようとしています。けれども少子高齢化や景気の後退により、税収が落ち込んで新築どころか維持更新費用も捻出できない状況です。

    さて、そこでどうするか?実際の試算に基づき「選択と集中」で乗り切ろう、もう行政だけでは担いきれない公共を市民も共に担おう、などの案を本書は提案しています。

    もっとも大事なのは提案の詳細ではなく、行政と市民(住民)が「覚悟」することです。現在生きている私たちの誰にとっても得になることはありません。今まで享受してきたことをあきらめなければなりません。

    たとえば、あなたがタダで使っていた公民館が明日から有料になったとしたら、それどころか公民館が他の施設に吸収合併されたとしたら、きっと憤ると思います。けれども実は今までのあり方が誤りだったかもしれないのです。それを受け入れる「覚悟」があるでしょうか?

    もし覚悟できない、市議会議員に圧力をかけて、あるいは甘言で票を集める市長に投票して、自分のまわりだけは特例にしてもらうというのでしたら、それは未来の市民に対する搾取となります。

    これから行政が私たち市民に「将来の市民のためにあきらめていただきたいことがある」と言ってくる日が来ます。そのときに「そんなのうそだ!」と思わず、本書に示されたことを思い出して、話を聞いてください。

    私たちは平等に扱われるべきですが、それは時間を越えても同じです。自分たちと未来の人たちが平等でないとしたら、私たちは未来を搾取しているのです。

  • 20年ほど前、米国で橋梁が崩落したというテレビ報道を見た記憶がある。当時は日米貿易摩擦たけなわで、大国の黄昏めいたものを子供心にも感じたものだ。

    米国で1980年代から橋梁事故が増加した背景には、ニューディール政策の時代に行なわれた公共事業の一環としての架橋が50年を経て老朽化し、更新期を迎えた点が挙げられる。保守や更新が満足に行なわれなかったため、人命を奪う結果となった。

    ニューディール政策から30年遅れること、日本でも高度成長期に構築された社会基盤の多くが2010年代以降に更新期を迎える。同書によれば、過小に推計しても50年間での更新投資総額は330兆円、年平均で8.1兆円の更新費用が発生する。現在は公共投資20兆円のうち2兆円が更新費だから、ざっと4倍の計算になる。

    国・地方自治体の財政事情を考えると、すべての公共サービスの水準を維持したまま設備を更新していくのは困難だ。「選択と集中」が必要になる。たとえば橋であれば間引く、水道なら配管を見直す、各種施設(病院や学校・図書館・公民館など)は統合したり複合型とする。あるいはスケルトン・インフィル方式を採用し、施設と機能とを分離して社会の需要に応じて異なる機能を提供できるように(たとえば学校→介護施設への転換など)する。また、自治体の垣根を越えて施設を共有する(広域連携)ことも考える。

    本書の優れた点は、地方自治体の公共施設マネジメントに実際に参画して、更新すべき施設の洗い出しや必要な費用の算出、住民との対話の実施などを地道に重ねてきた結果がまとめられているところだ。たとえば神奈川県藤沢市の例では、公民館は全体の74%が一部のサークル活動のために使われており、施設費用の96%が税金で賄われている。図書館では、1件の貸し出しあたり1000円の費用が発生している。こうした数字を目の当たりにすれば、市民も税金の使い道について自ら考えはじめる。

    なお、事業の進め方としてはPFIが、資金調達手段としてはノンリコースのプロジェクトファイナンスが好意的に取り上げられている。PFIと第3セクターの違いとして(1)リスクとリターンの設計、(2)契約によるガバナンスを挙げ、どちらも日本の従来の公共投資には欠けていたものだという。

  • 2010年代中頃から老朽化したインフラの問題が顕在化してくる。これは確実(アメリカでは建設後50年頃から橋が落ちたりし始めた。日本のインフラが一気に整備されたのは東京五輪1964年頃からだから、ちょうど2010年代中頃に50年を迎える)。減少する予算の中で、いかに増大する需要に答えるか。。。

    爺さんたちは膨大なインフラを整備してくれたわけだし、年金もらいまくってもまぁ。。。って思ってたら、おい待て、と。残るのは老朽化したインフラと借金だけか。人口ボーナス使って経済成長しておいて残せるのはこれだけなのか。。。??なんかもう敬老の日とかいらないんじゃねぇのかと

    選択と集中をやらざるをえないのは確か。中々厳しい世の中です。。。

  • 1981年米経済学者パット・チョート「荒廃するアメリカ」で社会資本の老朽化とその問題が引き起こしうる経済の停滞を指摘した。2007年ミネソタ州ミネアポリスで起きた橋の崩壊事故は、私も記憶が新しい。

    日本では、崩壊に至る前に不備の発見、使用停止をするこおとで人災の発生は回避できているものの、供給の発想を見直さねければ、今後インフラ更新の先延ばしによる人災リスクは高まるばかりである。(実際に、公共施設の老朽化状況がもっとも進んでいるのは首都圏一都三県と近畿ニ府一県である)。

    問題が先送りされる原因として、本書は三つのタイプを指摘
    1. 国家責任転嫁型
    2. 市民責任転嫁型 (選挙で支持を得られにくい)
    3. 聖域主張型

    それでも、いくつかの地方自治体で独自の持続的インフラ討議が始まっている。再配置の原則としては、
    1. 公共施設の利用状況、費用内訳、老朽化状況を客観的に分析し、優先順位をつける
    2. 原則として、新規の公共施設は建設しないこと
    3. 原則として、優先でない公共施設を廃止し、余剰地を転用、売却すること
    4. 優先されるべき公共施設は、老朽化している場合は、速やかに更新すること
    5. その際、施設の統廃合、施設の多目的化、PPP導入などを検討し、機能更新維持と更新投資負担軽減を工夫すること
    などが汎用的なものとして紹介されている。

    上記を実施すために、下記項目を行政、民間、市民がそれぞれの役割責任の元に協調することを提言している。

    ・社会資本老朽化データの把握と整理
    ・施設仕分け(統廃合)
    ・多機能化
    ・インフラマネジメント
    ・長寿命化
    ・不動産有効活用
    ・規律ある資金調達
    ・更新設備の実施・資産の所有、更新に伴う負債の返済
    ・計画実施のガバナンス
    ・更新後の運営・維持

    著者の経験から、本テーマは市民の参画も欠かせないことから、国の主導ではなく、自治体のリーダーシップが重要と説く。ニューディール政策のように、内需喚起策として公共投資する手法が、通用する時代ではない。

  • 東日本大震災では九段会館で死傷者が出た。全国では一自治体につき一つの橋が通行止めになっている計算だ。アメリカのニューディール政策で建造された橋の崩落が相次いだ時期が、今の日本と重なる。

    うーむ、あんま俺に関係ねーや。

    正直なところ、まったく危機感が無い。自分に関係ないと思うから解決策も流し読みしてしまう。

  • 公共事業費が削減されている。「もう、これ以上投資出来ない」という理由が主であろう。その通りである。
    が、実はそれは、大変な問題の取り違えが起きている。
    4,50年前~10年ほど前に大量に造られた、インフラ(基盤)構造物。
    橋りょう、下水道、ハコモノ。
    これが一斉に更新時期を迎え始めている。
    財政は硬直化、大震災発生。高齢化、少子。
    危急に必要な事業費と、更新時期を迎えるインフラの長寿命化や、補修、取り壊し、選択と集中などを判断する上で、民間企業のような、施設(資産)棚卸しが不可欠でさる。資本金や、引当金の積み立てがない自治体、まずは、市民に全ての実態をわかりやすく提示(報告)する必要がある。その上で、決めるのだ。どうするのか。

    本著作には、その実態と事例が解説されている。
    これに取り組まない自治体は、将来に問題(借金)を先送りにしているに他ならないと言える。それどころか、人命にも関わる人災とも言える崩壊事案に繋がる恐れをはらんでいる。
    今すぐ対応をしてかないとならない。

  • 本の貸し出し一冊1000円
     一回4,5冊借りる 購入費、施設整備費、維持費、人件費、光熱費

  • 自分が置かれている現状ではなかなか厳しいけど、それでもどこかでPFIにかかわりたいという気持ちを捨てられない。

  • 我が国の公共施設・インフラは、戦後復興期から東京オリンピック、そして高度成長期からバブル崩壊後の景気対策期を通じてほぼ一貫して整備されてきたもので、これらが今いっせいに老朽化を迎えている。だが建て替えは容易ではなく、財源不足の中でまかなわなければならないのが現状だ。
     本書では、地域ごとに予算不足額を把握することの重要性を指摘し、基礎データを把握すれば手軽に計算する方法を解説。また、安全・安心で費用対効果の高いインフラを整備した再生のシナリオをエピローグに描く。老朽化は、天災と違って100%確実に起きる人災。日本が「社会のつくり方」の模範となるためには、この問題を先送りしない官・民・市民の責任感が不可欠となる。

  • 東日本大震災が起こった日、3.11。東京でも大混乱が起こりましたが、その中で重大事故がありました。九段会館での天井崩落によって、2名が死亡、26名が重軽傷という事故は、東北の被災地の悲惨なニュースによって扱いは小さくなりましたが、今の公共インフラが抱える潜在リスクを明示するものではないでしょうか。


    一般的に構造物の耐用年数は50年と言われています。そして道路、橋りょう、上下水道、病院や図書館といった日本の公共建築物などは1960-70年代に建てられたものが多く、まもなく耐用年数を迎えるものがほとんどなのです。


    アメリカにおいては、1930年代のニューディール政策の際に建設された公共建築物が1980-90年代に崩落したり機能不全に陥る事故が多発し、その増え続ける公共投資が現在のアメリカの双子の赤字の原因となりました。


    日本においても今後累計330兆円、年間8兆円規模の更新メンテナンス投資が発生するとみられており、それが現在の公共事業規模20兆円に上積みされることになります。ところがそんな財源はどの自治体にもあるわけではなく、多くの地域で「朽ちるインフラ」が多発するのではないかと考えられます。


    私の暮らす集落でも、50万円を拠出すれば行政が1,000万円の予算で道路を直してくれるといった話で集会を開いていました。そのような陳情が市全域で行なわれている結果、私の住む自治体では全国ワースト4位の住民1人当り行政コストを計上しています。


    このままでは、膨らみ続ける公共投資と減少する税収によって日本では多くの自治体が財政破綻を起こすことでしょう。とくに地方行政においては、高齢化と人口減少によって生産世代が著しく少なくなりますから、その課題は他の地域に先駆けて起こります。


    ハード依存の地方経済と、お上依存の住民、そして持続不可能な地域社会、、これはいずれ日本全体において顕在化する社会課題ですが、すでに多くの地方では現実問題として対応が迫られています。東京出身の私が課題先進地域の岡山県美作市で活動しているのも、このような社会課題に対するソリューションをいち早く確立することが私たち以降の世代の持続可能性に係わるからです。


    新しい公共、官から民へというかけ声は多くの自治体から聞かれますが、その実態は旧来のしがらみと政治的駆け引きによって骨抜きにされています。でも自治体とは本来、家族から始まり集落自治、町内会といったボトムアップ型のコミュニティ社会によって支えられているものであり、トップダウンで何とかしようという発想自体が筋が悪いでしょう。


    道1つを補修するにしても、住民たちがそれぞれの技能や労働力を出し合って協働作業を行なっていけば、それだけでその地域は持続可能になります。それが昔ながらの普請と呼ばれるものです。特別なことをする必要もなく、そんな昔からあった地域における仕事が持つ機能を1つ1つ現代の産業水準に合わせて制度設計しなおしていくことが、日本社会を持続可能にしていく唯一の手段だと思うのです。

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