ポスト・マネタリズムの金融政策

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  • 日本経済新聞出版
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レビュー : 15
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532354688

作品紹介・あらすじ

新古典派総合はスタグフレーションを招き、マネタリズムはマネーと物価の関係性が薄れて色褪せ、「インフレ目標+バブル崩壊後の後始末戦略」の組合わせは金融危機を増幅させた。完成したかにみえた政策の枠組みが砂上の楼閣に終わるたび新たな体制の模索が始まる。先進国の中央銀行が今日抱える課題とその先に見えてくるものを提示する注目書。

感想・レビュー・書評

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  • 「日銀理論」の守護神であり、元日本銀行研究所所長だった翁邦雄による主要中央銀行の金融政策史が語られているのが本書である。1980年代に猛威を振るったマネタリズムからマネタリズムを事実上葬ってしまった90年代のティラ―・ル―ルの登場、2004年の講演でバーナンキが提唱した「グレートモデレーション」の時代と08年の世界金融危機でのグレートモデレーションの終焉、世界金融危機以降の「後始末戦略」であるFedビューと「風に逆らう戦略」のBISビューの比較検討などが書かれている。

    マネタリズムの登場と敗北、ティラ―・ル―ルの登場

    よく誤解されているが、ミルトン・フリードマンは財政政策のみならず、金融政策の裁量性も否定していた。フリードマンによれば、「金融政策が貨幣要因以外の影響を打ち消して安定を齎す可能性は普通に信じられるよりもはるかに限定されている」と指摘し、「非貨幣的混乱を打ち消すために金融政策を発動するのは、明確に存在する危険があるときだけにしておくのが賢明」だとしている。(『インフレーションと金融政策』) 裁量性を回避して、一定のルールに乗っ取って金融政策を行なうために考えられたのが「K%ルール」である。1979年からポール・ボルカーにより新金融調節方式が導入された。ボルガーFRB体制の成立により、マネタリズムが勝利したと通説では思われているが、ボルガーはマネタリズム政策を行なったわけでなく、マネタリズムを隠れ蓑にして、単に普通の利上げ政策でスタグフレーションを鎮圧したに過ぎないとしている。(P.42~P.44) フリードマンは勝利者でもなんでもなく、金融政策に関しては一貫して敗者であったのが実情のようだ。第三章『日本銀行とマネタリズム』では、日本銀行が1975年から約十年間はマネーサプライ管理政策を行なっていたとする鈴木淑夫の見解に対して反駁がなされている。当時の関係者の回顧と証言から、独立性を確保していなかった日本銀行は大蔵省の下部組織に過ぎず、単独でのマネーサプライ政策は不可能だったと結論づけている。また窓口指導に関しては、飽くまで金融引き締め時の補完的制度であり、その影響は限定的だったようだ。

    90年代にジョン・ティラーにより「ティラ―・ル―ル」が考案される。ティラ―は元々、親マネタリストであったが、ティラ―・ル―ルは1987~1992年のFFレートの経路を極めて正確に説明しており、多くの中銀関係者(イエレンなど)に受け入れられた。これにより中銀は通貨集計量への関心を急速に失い、ティラ―・ル―ルによる代わりに金利を操作手段とする金融政策ルールが急速に浸透していった。(P.99) マネタリズムは完全に「敗北」したといっても良いと思う。

    世界金融危機とFedビュー、BISビューという二つの見解

    バーナンキは2004年に「 The Great Moderation」と題する講演を行っている。バーナンキによれば、「金融政策によりインフレ率を適切な水準に保っていれば経済がうまく行く、昨今の金融政策運営の向上により、グレートモデレーション(超安定化)の時代を迎えている」という趣旨の講演内容であった。この勝利宣言は、前年のロバート・ルーカスによる「恐慌予防の中心課題は、すべて実質的な目的において解決された」とする経済学の勝利宣言と呼応していると筆者は述べている。(P.119~125) 周知のように、この「勝利宣言」は世界金融危機の到来により崩れ去ることになる。

    第六章『「資産バブル」と二つの金融政策』では、FedビューとBISビューという資産バブルに対する中央銀行の二つの金融政策のスタンスの違いが比較検討されている。本書で筆者が一番力を入れて書かれているであろう章である。Fedビューは、金融政策は一般物価の安定に専念し、バブルが崩壊するまで放置する。崩壊後にデフレ予防の大胆な金融政策を展開するという「後始末戦略」であり、主にFRBが依拠していた理論である。一方、Bisビューは、資産バブル時の高すぎるレバレッジや与信の行き過ぎた伸びなどを金融政策で均すという「風に逆らう戦略」であり、国際決済銀行(BIS)のエコノミストが唱道してきた。筆者によれば、バブル崩壊後の日本の経験から「Fed Viewが主にバブル崩壊期から教訓を読み取ろうとしたのに対して、Bis Viewはバブル生成期の段階から教訓を読み取っているとしている。」(P.170) ゼロ年代のITバブル後にグリーンスパンが低金利政策を取ったことから住宅バブルにつながり、それがサブプライム危機、そして世界金融危機を招いたことからFRBビューは旗色が悪いが、BISビューは、資産価格上昇の背景にある市場の見方が正しかった場合には、金融引き締めは不必要に景気を悪化させて飛躍の芽を摘み、社会厚生を悪化させてしまう可能性があり、どちらも一長一短があるようだ。(P.180) スヴェンソンの2010年の論文によれば、資産価格、レバリッジ、投資比率やリスクティキング・チャンネルなど、これまではインフレ目標政策のモデルがあまり取り上げてこなかった変数を明示的に経済見通しの際に考慮して、かつ金融システムの安定性への影響を念頭においたより長期の目標に向けた政策運営を目指すという折衷案が幅広くうけいれられているのが経済学会の主流のようである。

    他の章では、日本銀行がゼロ年代に行っていたゼロ金利政策と非伝統的金融政策の検証、FRBが世界金融危機時に行った非伝統的金融政策は「量的緩和」ではなく、「信用緩和」であった事、インフレ目標の引き上げを提言するクルーグマンが金融政策における「時間非整合性」の問題を解決しておらず、本人もそれを認めていることなどが書かれており、内容は多岐に渡る。ただ、本書の記述に問題がないわけではない。第七章において、御自身も関わったであろう速水優日銀体制下での政策については、亡くなった速水優にゼロ金利解除の責任をおっ被せていたり、日銀はあと2.5%利下げすればデフレにならなかったとするアハーン等の論文を躍起になって否定したりと、信用できない点もある。本書では色々と金融政策の検証が行われているが、本書自体もクロスチェックが必要であると感じられた。

    以上の欠点を踏まえても、マネタリズム以降の主要中央銀行の金融政策史としては大変良くできている。金融論の準教科書的な位置づけである。記述は100%信用できないが、お薦めです。

    評点 7.5点 / 10点

  • 今、不動産を買いたがっている人は多い。そんな人になぜ不動産が欲しいのかと聞くと、多分3人に2人はこう答えるはず。「金利が安いから」と。

    日銀の莫大な額の長期国債買いオペによって、金利は日本の公的債務残高に全く見合わない水準にまで落とし込まれている。さらに東京オリンピックの開催決定により、「なんだか分からないけど東京の不動産ってアガりそうだよね」といった合意が何となく形成される一方、金融機関は低レートファイナンスの大盤振る舞い。投資家は「銀行が貸すから」というだけの理由で、血眼で不動産を探し回っている。

    この光景が、この本で触れられている米FRBの「後始末戦略(バブルが崩壊するまでは資産価格高騰を放置し、バブル崩壊時に事後的に対応する金融政策)」とどうしてもオーバーラップしてしまう。本書によれば、このようなファンダメンタルズに対する過度の期待が存在する局面では、インフレ目標政策は資産価格のボラティリティを高める方向に作用する。この戦略の帰結はリーマンショック後の混乱に見る通りだ。

    本書はかつて金融政策の中心思想であった「マネタリズム」の台頭と蹉跌の歴史を辿りながら、あるべき中央銀行の姿とは何かを模索する。難解な部分も多いが、金融政策を巡る論点が幅広く網羅されていて、整理の助けになる。震災直前に書かれたものだが、ここでの議論から汲み取るべきものは益々大きくなっているように思う。

  • 内容は正直難しいが、具体例やたとえ話の引用等が多く、直感的な理解がしやすかった。

  • 【金融政策】近年の学術的アプローチ

  • 著者買いでオーケー

  • マネタリズムの変遷を時系列で描いている。数式等についても、都度説明が加えられており、経済学の知識をさほど前提とせずにわかりやすい構成となっている。

  • マネタリズムの考えから出発し、現在の金融政策までの流れを見る。FRBも最近は量より資産に着目している。

  • 金融政策について客観的・中立的な視点でまとめられている。自分の勉強不足を痛感させられるが、実際のニュースを見て、理論の現実への反映を確認する際に再読したい。

    経済の本は書きやすい内容だから本屋の店頭にはトンデモ本が多いのは残念だが、こういう頭に負荷がかかる本こそ、基礎を学んだ後に本来読むべき本なのだろう。

  • 日銀の金融研究所所長であった翁氏による金融政策の解説です。
    印象に残りましたところをいくつか。
    量的緩和による準備預金の増加が
    マネーストック拡大に結びつかないことは
    世界の中央銀行の共通認識になっていること。
    2000年8月のゼロ金利解除は失策であったことを
    元日銀マンの著者が率直に認めているが、
    その原因を当時の速水総裁の個人的資質に
    その責を求めているので、やや言い訳めいているな、と
    感じられたこと。
    FRBの金融緩和は資産サイドにリスク資産を積むことによるのに
    対し、日銀は負債サイドの準備預金の拡大であること。
    日銀の自己資本は約五兆円しか無く、
    東京三菱UFJ銀行(単体)の半分しか無いため、
    ETFやREITなどリスク性資産の購入は
    限界があること。
    などなど、興味深い話が盛りだくさんです。
    昼食を削っても読む価値がある一冊です。

  • マネタリズム全盛期から現在までの金融政策を振り返り、まとめと今後への提言を行う本。

    理論的にも実務的にもかなり突っ込んだところを、自然言語で極めて平易に解説できてしまうのは、セントラルバンキング研究の第一人者として本質を理解している著者ならでは、といったところ。

    マクロ経済学の入門的教科書で金融政策の概略を大凡掴んだ後、本格的に学び始める際に手に取る本として最適。同じく金融政策を本格的然るに平易に解説した本に現日銀総裁の白川氏が書いたものがあるが、あちらは手続き論まで踏み込んでしまっており、政策の効果という面ではこちらの方が断然見通しが良い。

    さて本書の主張は、少し思いきった捨象をすると、『中央銀行ができる(すべき)ことには限りがあり、過度の期待はするべきではない』、ということになる(あくまで私が読み取ったメッセージだが)。

    70年代から80年代のマネタリズム全盛期において、中央銀行は貨幣数量の調整を通じて物価水準をコントロールすることが求められた。しかし、貨幣需要関数の不安定性により、どの貨幣集計量を基準にすべきかが曖昧で、適切な政策を定められないと結論付けられ、次第に放棄されていった。
    代わって90年代以降に隆盛を極めたのは、ニューケインジアン的な金利調整にフォーカスした政策スタイルであり、特にバブルの発生を事前に抑えるマネはせず、仮に発生した場合に大規模な緩和的手法を取ることでソフトランディングを図る『後始末理論』が幅を利かせた。これは、後始末を必ずキレイに出来るという自信の表れでもあったが、その自信はリーマンショックにより崩される形となった。また、物価安定が安定的経済の十分条件ではないという事実を突きつけられ、中央銀行の在り方に大きな疑問が投げかけられた。

    バブル崩壊後の日本、リーマンショック後の米国、ギリシャショック後の欧州に共通して見られるのは、金利調整による物価調整の限界であるゼロ(付近)金利であり、貨幣供給による物価調整を無効にするバランスシート型不況と厳しい国家財政であった。いずれも、マイナス金利やマネタイゼーションなど、より過激な方法を取る手もあるが、市場の破壊や国家財政の破綻など大きなマイナスの作用を引き起こすリスクが高い。
    結局、中央銀行に出来ることはあまりない。

    ここから導かれる中央銀行の役割は、平時において経済の過度の加熱と減退を平準化するバランサーであって、大きなショックが起こった際の外科医を期待してはならない、といったところだろう。

    中央銀行の出来ることと出来ないことを冷静に論じた、素晴らしい本。万人にお勧め。

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著者プロフィール

1951年生まれ。74年、東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。83年、シカゴ大学でPh.D.取得。以後、筑波大学社会工学系助教授、日本銀行調査統計局企画調査課長、企画局参事、金融研究所長等を経て2006年、中央大学研究開発機構教授に就任。
09年、京都大学公共政策大学院教授。17年より法政大学大学院政策創造研究科客員教授、京都大学公共政策大学院名誉フェロー。
主著
『期待と投機の経済分析』東洋経済新報社、1985年、日経・経済図書文化賞受賞
『金融政策』東洋経済新報社、1993年
『ポスト・マネタリズムの金融政策』日本経済新聞出版社、2011年
『経済の大転換と日本銀行』岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞
『金利と経済』ダイヤモンド社、2017年など

「2019年 『移民とAIは日本を変えるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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