デフレーション: “日本の慢性病”の全貌を解明する

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532355487

作品紹介・あらすじ

マネーサプライで日本のデフレ現象は解明できるのか?なぜ日本だけが?その「答え」が本書にある。

感想・レビュー・書評

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  • 最初に結論から読んでみると、本書の骨子は以下のようによみとれます。
    1 貨幣数量説の否定
    ⑴理論的な反証
    ゼロ金利の状態では、マネーサプライの増加が利子率の低下をもたらすことはないため、投資や消費を刺激することはない。
    ⑵実証的な反証
    デフレが始まった1990年代中頃を見ても、マネーサプライとCPIの動きは乖離している。
    2 人口減少説の否定
    労働人口の減少はマイナスの影響を与えるが、その影響は限定的。
    高度成長期でも、生産年齢人口は1%しか増加していない。
    高齢化により、貯蓄率が低下し、消費性向は高まる。
    3 合理的期待形成の否定
    「合理的期待」モデルは、現実の経済との関わりを持たない知的遊戯。
    マクロ経済の動きを代表的個人をモデルに捉えるのには限界がある。
    現実の世界で、デフレ下においてインフレ期待を生み出すのは容易ではない。
    モノやサービスの価格決定に「期待」が寄与することはない。

    で、何がデフレの原因かというと
    1 賃金の減少
    1998年以降、日本だけ、実質賃金が減少している。
    その理由は、雇用を増やした成長業種ほど賃金がさがるという独特の傾向に起因している。その理由は⑴パート比率が高まっていること、⑵専門職の人手不足と、事務職の雇用過剰。
    2 コストカットのための「プロセス・イノベーション」
    経済の成長に重要である需要創出型の「プロダクト・イノベーション」ではなく、低価格志向、コストダウン志向の「プロセス・イノベーション」に腐心してきた。

    と読み取っていますがいかがでしょう。

  • デフレ論争。
    デフレ20年の記録。

    リカードの貨幣数量説。
    マーシャルはマネーサプライより、実物的な要因によって生み出される、とした。
    M=kPy kはマーシャルのk。yが増大すれば、Mが変わらなければ、物価Pは減少する。しかし、yの増大にともなってMが増えれば、Pは減少しないはず。しかし、yが増大してMが変わらなければ、金利は上昇するはず。しかし実態はかわらなかった。これをギブソン・パラドックスという。
    ケインズの時代は、Mが増大したが、Pは減少した。
    ブラウン=オズガによると、交易条件によって物価水準がきまる。

    貨幣数量説は正しいか。ミルトン・フリードマンなど。絶対価格の変化か相対価格の変化か。
    テーラールール=金利水準を決定するルール。カーター大統領とボルガー議長の時代
    マネーサプライだけでは、インフレデフレは制御できない。

    ポール・クルーグマンモデル=金利がゼロ水準で流動性のわなに陥っている状態でも、現在のマネーサプライを増やせば、将来の物価上昇の期待を通じて、デフレを解消できる。
    しかし、個人の集合を代表的な個人で代表することはできず、実社会では、異時点間の消費の代替の弾力性はないに等しい。

    価格の決定の論理=社会的に正義にかなうか否か。フェアなことは通用する(仕方ないと社会が思う)が、アンフェアな価格付けは社会が拒否するので通用しない。

    2部門アプローチ=一次産品は需要によって価格がきまるが、二次産品はコストによって価格が決まる。一次産品は、需要と供給によって価格が決定するが、二次産品は、価格は一定で、需要がない場合は供給が減ることで調整が完了する。

    日本だけがデフレだったのは、賃金の下落があったから。雇用が賃金か、と選択を迫られたときに雇用をとった。
    賃金は非伸縮性が高いが、非正規雇用の増加によって、全体として伸縮性が実現した。

    貨幣数量説の弱点は、均衡点と均衡点を比較すれば成立するが
    その過程を説明できないこと

    目の前でデフレが進行している時、インフレ期待は生じないだろう。しかし、合理的個人、で代表させて説明しようとする合理的期待モデルでは、経済主体が合理的であれば、変数をいじることで、インフレ期待が生じることになる。

    • garconさん
      すごくわかりやすいまとめ、ありがとうございます。参考になりました。
      すごくわかりやすいまとめ、ありがとうございます。参考になりました。
      2022/09/08
  • 失われた20年のデフレの原因は、マネーサプライの減少でも労働人口の減少でも説明がつかない。名目賃金の減少こそが原因という。経済学のあり方にも批判。ミクロを積み上げてもマクロにはならない。

  • 日本のデフレの原因は名目賃金の低下、つまり労働分配率の下げすぎが主因。非正規雇用の増加だけでなく、賃金におけるボーナスという仕組みも一因。

    賃金支払いのしくみとして考えたときに、ボーナスって大きかったんだということを、再認識させられました。

  • <内容>
    筆者は日本経済が金融政策の失敗によるデフレではなく、20年間に渡るイノベーションの不在であると説明する。クルーグマンの主張するような非伝統的金融緩和は説得力のないものとしてリフレ派を否定している。

    <感想>
    リフレ派が根拠としているミクロ基礎的マクロ思想?(ミクロ経済的基礎からマクロ経済を説明する)が否定されているが、これはゾンビ経済学の本でも同様の説明がなされていた。本書の特徴はデフレ論における先行研究を丁寧にレクチャーした上で分析して、イノベーションというオリジナリティを主張している点だろう。もっとも、イノベーションをどうするのか…?という点が難しいのだが。

  • よほど腹に据えかねているんでしょうねえ。

  • 本書は、週刊ダイヤモンドで2013年経済書籍ランキング1位を獲得したもので、今日的なデフレ現象の原因について、経済学議論を省みながら自説を展開するもの。機を見るに敏ではないが、アベノミクスの三本の矢への世の中の関心が、とかく学際的な議論・主張を行う本書に注目を寄せる契機になったことは言うに及ばない。

    【ポイント】
    ・デフレは、過去15年の我が国のマクロ経済政策を巡る議論の中で、まさにキーワードだった
    ・その答えはマネーサプライの中にはない。スタンダードなマクロ経済学では、貨幣(マネーサプライ)を増やせば、利子率の低下や投資・消費の刺激といった期待(流動性のわながあっても将来への期待)が高まり、デフレは止まるという(貨幣数量説)。しかし、ゼロ金利状態では話が違い、現に貨幣数量を増やしても実体経済にプラスの影響を与え物価を上昇させる、ということはなかった
    ・人口減少、生産年齢人口の減少が、日本経済の長期停滞原因➔デフレの正体という説も正しくない。確かに経済成長にマイナスの影響は与えるが、インパクトは小さい。むしろ一人あたり所得の上昇、即ち設備投資等を通じた資本ストックの増加と技術進歩によるところが大きい

    ・デフレは長期経済停滞の結果である。
    ・「失われた20年」と言われるが実際は10年。日本の一人当たり実質GDP成長率は、米国と比べるとそれほど遜色はなかった。しかし、金融問題、即ち不良債権問題、金融システムの動揺(とりわけ97-98年の金融危機)、それに伴う株価の低迷は、90年代~2003年にかけて日本の成長を大きく阻害
    ・さらに、デフレに陥るほどの長期停滞を招来した究極の原因は、イノベーションの欠乏。デフレ・バイアス=消費マインドの低価格志向(安いモノへの需要のシフト)+企業のプロセス・イノベーション(グローバル競争での1円でも安いコストダウン)➔新しいモノやサービスを生み出す需要創出型のイノベーションがおろそかになった
    ・日本だけがデフレに陥ったのは何故か=日本だけ名目賃金が下がったから。終身雇用制の崩壊後、大企業を中心に「雇用か、賃金か」という選択に直面した労働者は、名目賃金の低下(雇用を守ること)を受け入れた
    ・1%の物価上昇のためには、2.5%の賃金上昇、そのためには失業率が2%台になる必要がある。

  • 文字が大きいので、それほど分量はないのですが、読むのに時間がかかってしまいました。
    内容は、結構わかりやすかったです。デフレの原因もなんとなく納得できました。 モデル式の詳細は読み飛ばしましたが。

    ただ、デフレ対策について、何らかの指摘があるのかと思って読んだのですが、それについては「イノベーション」という結論だったので、がっかりしました。

    しかし、タイトルを見かえせば、「全貌を解明する」本であって、デフレ克服の示唆を示す本ではなかったですね。

  • 最初の方は日本がデフレに陥った過程を概説し、わかりやすかったのだが、後半の理論的な部分はさっぱり。経済学を専門的に学んでいない一般の読者も想定しているのであれば、もう少し、丁寧な説明が欲しかった。

  • リプレーション政策の批判がメイン。ただ、それをとても細かく説明してあり、また、文体が軽いので読みやすい。ただ、リフレの是非はこの本を読んでもよくわからない部分がある。言っていることと実際に起きていることが違うから。あと、後半のリアルビジネスサイクルに対する批判はデフレとは関係ない気がする。

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