宇沢弘文の経済学: 社会的共通資本の論理

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532356354

感想・レビュー・書評

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  • 経済学者の権威である宇沢弘文氏が自身の提唱する社会的共通資本について自身の出自とともに書かれた一冊。

    経済学に傾倒していくなかで影響を受けたアダム・スミスやジョン・スチュアート・ミルやソースティン・ヴェブレンなどの話から社会的共通資本について概略や環境面、学校教育や医療などの各項目についてまで氏の考えがふんだんに書かれており、非常に勉強になりました。
    人々の生活基盤を構築し、基本的人権を尊重すべく公平に普及されなければならない社会的共通資本に対する氏の危惧する思いが本書の随所から伝わってきました。
    特に自動車に関する見解は交通手段として欠かせないものとなっている現在において深く考えさせられるものでした。

    また、学校教育の私立学校の理論は今まで考えてこなかった部分だったり、景観についての理論も勉強になりました。

    誰もが公平に社会的共通資本が提供するものを享受できることが理想であり、そのなかで供給側がきちんとその質にあった利益を享受できる関係が理想であり、そのなかで環境に配慮した取り組みを行っていくべきであるということが大事であると読んで感じました。
    21世紀で文明が発達するにつれて自分たちが立ち返るべきことを経済学の観点から書かれた一冊だと感じました。

  • 社会主義的統制でも自由主義的放任でもなく、かといってケインズ主義的な手法だけでもよしとはしない。そこに宇沢の言う制度学派、あるいは進化論的な経済学が置かれる。ケインズと宇沢の着眼点の違いは、次のように著されている。
    「ケインズ経済学で、財政支出の有効需要に及ぼす効果に焦点が置かれ、その内容を問わなかったのに対して、生活権の思想では、政府が果たす役割に関する理解が全く異なったものになってくる。「完全雇用を!」と言うスローガンに表されたケインズ理論に対して、「何のための完全雇用か!」と言うことが問題となってくる。このような観点から、生活権に対応するものは社会的共通資本の考え方であると言ってもよい。」(63頁)
    本書が内容で読んだかいがあったのは第1部の経済史における制度学派の位置づけについて論じた部分。それ以降は、宇沢の歴代の著作の要約で、それはそれで過去の社会事象を社会的共通資本の考えで眺め直すと言う意味はあるが、要約であるためか、話は現実を述べているにもかかわらず観念的で総花的にさえ感じられる。様々な現場に関わってこられた方のようだが、やはり学者だなと言う印象。
    彼の議論を読むにつけ、何か1つの論理で社会問題や経済問題は解決できない、従って中央集権的な体制で物事を良い方向へ変えていくこともできないと思った。

  • 以前から必ず読まねばと思っていた宇沢先生の論文集。資本主義、民主主義ついて学び直しの総決算。社会的共通資本の考え方の基礎について、まず開祖ともいうべきヴェブレンの考え方を解説。第二部では「自動車」「公害」「青森県むつの大規模開発」における社会的コストの考え方を解説。第三部では「地球温暖化」「教育」「医療」「金融」「都市開発」など個別の切り口からこのテーマを論じている。民間の活動であっても社会の中でコストを負担しており、企業にはそのコストに見合う負担をさせるべきという考え方は納得。世界では「コモンズの悲劇」が定説だが、日本では昔から「入会」や「講」などが行われている。最近スペインのバルセロナやビルバオなどで実施されているこの考え方、日本はもっと簡単に実施できそうで、もう少し勉強してみたい。

  • 181208 中央図書館

  • 人類の歴史を振り返ってみるに、所謂、産業革命以後の経済活動以前から、大なり小なり商業資本主義の活動は営々と継続されてきたわけである。その中で、金融も経済活動の潤滑油として機能してきた。

    そして、そのような経済活動はその民族の歴史・文化・自然条件・立地条件、宗教などなど、先人が培ってきた様々な制度を遵守しながら継続してきたわけである。

    とりわけ、宇沢先生の提唱する社会的共通資本については、経済活動における「聖域」として、みんなで守り育ててきたものなのだろう。

    都市におけるみんなが利用する社会的インフラも自然社会におけるコモンズ、入会権のように都市システムに参画する多様なステークホルダーで管理するようなことになっている。

    いずれにしても、社会的共通資本を守り育てていくには、フィデュシアリー(fiduciary)という価値観を有することが根底になければならない。

    この価値観については、岩井克人も「資本主義から市民主義へ」という著作で力説している。

    宇沢弘文、岩井克人、日本の経済学の権威が言う『フィデュシアリー(fiduciary)』、日本人の根底に脈々と流れる価値観のはずなのですが・・・

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784532356354

  • 【書誌情報】 
     定価(本体2,500円 +税) 
     四六判 310 ページ 
     ISBN:978-4-532-35635-4 
     2015年3月16日発売予定

    “宇沢弘文の出発点は、社会的弱者への思いだった―。「自動車の社会的費用」「ヴェブレン論」「地球温暖化問題」などの幅広い論考を、到達点である社会的共通資本に即して総括したウザワ・ワールド凝縮の一冊。”
    http://www.nikkeibook.com/book_detail/35635/


    【目次】
     第I部 リベラリズムの経済学と社会的共通資本
    第1章 アダム・スミスからジョン・スチュアート・ミルへ
    第2章 ジョン・スチュアート・ミルと木村健康先生
    第3章 ソースティン・ヴェブレン
    第4章 制度主義の考え方
    第5章 社会的共通資本の考え方

     第II部 自動車の社会的費用と社会的共通資本
    第6章 自動車の社会的費用
    第7章 水俣病問題とむつ小川原の悲劇
    第8章 「コモンズの悲劇」論争

     第III部 自然・都市・制度資本
    第9章 コモンズと都市
    第10章 地球温暖化の経済分析
    第11章 社会的共通資本としての学校教育
    第12章 社会的共通資本としての医療
    第13章 社会的共通資本としての金融制度
    第14章 社会的共通資本としての都市

    解説――凝縮されたウザワ・ワールド(小島寛之)

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著者プロフィール

中央大学研究開発機構教授
中央大学地球環境研究ユニット(CRUGE)責任者

「2000年 『地球環境政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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