原発危機の経済学

著者 :
  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535556874

作品紹介・あらすじ

原発技術が非常に厄介な技術であるからこそ、民間企業が原発技術に関する意思決定を行う場合には、企業経営や企業金融の原理原則に則るべきである。原発技術は特別扱いすべきでない。

感想・レビュー・書評

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  • ただのyesかnoかの世界から、一気の視界が開けた気がする。
    頑張れば、体育系の僕でもわかる。

  • ★経済学というより良い意味での原発入門書★経済学的な観点からは「高レベル放射性廃棄物を永遠に貯蔵する一方で、その管理は途中で放棄する」という発想はどうしても受け入れられず、地層処分はありえないとした。再処理・高速増殖炉事業のコストの高さを考えると、撤退の道筋としては全量を地上保存すると訴える。

    ただし経済学的なもの言いは驚くほど少ない。むしろ、原発を理解していなかった時代の知識人としての反省と、次世代への熱い思いがたぎる。
    同時にBWRとPWRなども分かりやすく説明し、入門書としての役目も果たす。本書の矩を超えるかも知れないが、図解がもっとあれば分かりやすい。

  • 経済学というタイトルがついていますが、著者が述べているように経済学を用いた考察が最後になり、それまでは延々と原子力発電の関連知識となります。(とはいえ、自分も含めて多くの人が知らないと思われる事柄なので、記述が必要なのですが)
    痛快な切り口でカタルシスが得られるといったことはないですが、やはり現実に向き合って学問的な知見を積み重ねていくとそうなるのでしょう。そういった著者の真摯な態度には好感がもてました。

  • 緻密な論理の積み重ねによって書かれた一冊。
    前半は原子力発電や今般の事故に関する分析である。
    この部分だけでも、さまざまな人によって書かれた諸々の原発関連書籍よりも読む価値があるだろう。
    経済学者であるにもかかわらず、ここまで原子力について勉強されているということが驚きであった。
    「関連事項について勉強するということは斯くの如し」と思った。

    また後半部分は今後の原子力発電事業に対する経済学的な分析であったが、こちらも単純に推進だの反対だの言っているわけではない。
    冷静に客観的に投資事業として、そのリスクとコストを考慮したうえで成立させるためにはいかにすべきかということが書かれており、これまで感情に訴えることが多かった他の書籍とはまったく違っていた。

    また随所に人間を等身大に理解するというメッセージが込められている。
    それは「我々は人なのだから、人を過大評価することもなく見捨てることもない」という人に対する深い愛情を持った眼差しによるものなのだろう。

  • 齊藤誠は、「競争の作法」(ちくま新書)以来、個人的に注目している経済学者。齊藤の関与したマクロ経済学の教科書も、手に入れたいと思っている。

    福島原発の問題に関して、経済学者がなぜ?という感もあるが、防災経済学も守備範囲としているとのこと。といっても齊藤は「競争の作法」を読めばわかるように、現実の問題に対して強い取り組み意欲を持っているようだ。3.11の事象に対し専門家の見地から少しでも発信したいと思うのは自然だろう。

    しかし全体の1/2以上を費やして説明される原子力発電技術および福島で起こった事態の分析は、驚くほど正確かつ詳細であり、それでいて原子核工学および周辺化学の特殊な専門家では描出できないような全体観を押さえて記述されており、とても解りやすい。

    また経済学のフィールドでありながらも、どちらかといえば会計およびガバナンスの視点から、福島サイトをどう取り扱うかの方策を提言するものであり、電力会社の発送電分離等には踏み込んでいないのも、感覚で放言しているような他の論客とは一線を画している。

  • 「福島第一原発の事故では何が起こったのか、事故はなぜ起こったのか」を説明した本としては、自分がこれまで読んだ中で最もよい本だと思います。
    著者は経済学者ですが、技術的なところも可能な限りフォローしていますし、冷静に客観的に事象を見つめ、記述しようという姿勢を感じる本でした。

    原発に対する著者の態度としては、「反「反原発」」あるいは「反「脱原発」」という印象を受けました。
    安易な「反原発」や「脱原発」の危うさに触れつつ、かといって、現状の日本の原発政策にはもろ手を挙げて賛成、というわけではなく、今、日本の原発が置かれた状況や、原発の経済性を丁寧に分析した上で、これから進むべき道を示している良著だと思います。

    決して奇をてらった内容ではなく、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の際に福島第一原発で起こったことに対して、理性的、合理的、論理的にアプローチしていくと、自然と、著者の齊藤氏の思考にたどり着くように思います。
    そんなわけで、「原発危機」に関する本ではありますが、読んでいて、安心感があり、信頼のおける内容だと思いました。

  • 原発の有益性、危険性を、冷静に分析。
    そこから、原発推進、反原発の中間的な意見。

    福島第一原発の古さ 寿命は40年程度か=技術者の寿命
    東電経営者の判断を狂わせた 60年ルール。

    1970年代原発はスクラップし、そこから、新しい原発で、どれだけリカバリーするか考えていくべき。

  • わかりやすい。

  • 原発技術について全く知らない読者にとっては、その「手触り感」を得られる貴重な書。人間のコントロールが難しい高度な技術と向き合う際に、忘れてはならない社会科学的な視点が提供されている良書。

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著者プロフィール

1960年愛知県生まれ。1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授、京都大学経済学部助教授、大阪大学経済学研究科助教授、一橋大学経済学研究科教授などを経て、2019年より名古屋大学大学院経済学研究科教授。
日本経済学会・石川賞(2007年)、全国銀行学術研究振興財団賞(2010年)、紫綬褒章(2014年春)。

著書
『新しいマクロ経済学』(有斐閣、1996年、新版2006年)
『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、2000年、日経・経済図書文化賞)
『資産価値とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、2007年、毎日新聞社エコノミスト賞)
『原発危機の経済学』(日本評論社、2011年、石橋湛山賞)
『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015年)
『危機の領域』(勁草書房、2018年)
Strong Money Demand in Financing War and Peace(Springer, 2021年)他

「2023年 『財政規律とマクロ経済』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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