思春期をめぐる冒険: 心理療法と村上春樹の世界

著者 :
  • 日本評論社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535562103

作品紹介・あらすじ

フィクションとノンフィクションの交錯する点を掘り下げ、心の深層の知恵を示しつつ、村上春樹作品と心理療法の本質に迫る名著である。

感想・レビュー・書評

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  • たしか、河合隼雄先生がお勧めする図書の中に入っていたような記憶が…

    ざっと総括すると、あとがきにある、
    「善悪の峻別を超えた『向こう側』のパワーが、
    秩序を破壊する『性』と『暴力』というかたちで『こちら側』へとなだれ込み、
    その身体のうちに境界性を内包している子どもを通して事件として顕現している…。
    これには大人たちが表面の流れだけが整えばいいという、
    浅薄でインチキな物語を生きていることへの警告も含まれているのを感じる。
    子どもたちは、問題を起こすことによって大人たちに対して、
    『向こう側』のことをイメージし続けられる感性と、
    そして日常生活を意識的に大事にしていく態度をもち続けることを、
    強く求めているように思う。」
    という部分に、集約されるのではないかなと。

    それにしても、村上春樹の作品については、
    また時間がたっぷりあるときに読んでみないとなぁとしみじみ思いつつ…

  • あとがきで泣けたのは初めてかもしれない。著者にそのような伴走者たちがいたとは。素晴らしい本は簡単にできるものではない。
    本文は、村上春樹が好きということもあるが、全て自分ごととして読んだ。
    目に見えない部分も含めて、自分の人生も他の人の人生も関わっていこう。時間をかけていこう。

  • やわらかい語感の表題であるが、奥行きの深い内容で、悪魔的な魅力すら秘めている恐るべき書である。

     岩宮氏は大学の助教授で臨床心理士。そして、村上春樹の小説に、オタクと冠してもいい程傾倒している人物でもある。
     本書では「羊をめぐる冒険」から「海辺のカフカ」まで、多数の村上春樹の作品世界から引用しながら、村上小説の読み解き方を、臨床心理の地平から案内。同時に、村上の作品世界を手掛かりにして、人のこころの世界のありようを見つめてゆく。 

     そもそも村上春樹の小説の登場人物には、生きることに微妙な居心地の悪さを感じ続ける人や、心を病む人、そしてその末に死を選ぶ人などが数多く登場する。また、異次元との往還を思わせる不可思議な展開も多い。
     そういったある種の神話的な構造すら連想させる村上春樹の作品世界の成り立ちが、読み手のこころに、示唆と救済を与えるのではないか。それが著者岩宮氏が村上春樹の世界を案内する視座である。
     一方、村上春樹の小説だけでなく、著者がカウンセリングの現場で向き合った実際の臨床例も、効果的に織り込まれる。本書の“縦軸”として、引きこもりを続ける少女とその母のこころの変化が、治療の進行に沿って紹介されていくのである。
     この母娘の臨床例は、不思議な出来事の連続で驚かされる。私にはまるで超科学的な世界にすら感じられた。

    本書のキイワード(概念)は
    「こちら側」と「向こう側」、
     さらに、これに対応しているのだが
    「見える身体」と「見えない身体」。

    主にこの概念を用いて、ひとのこころの深奥に
    深く分け入ってゆく。
     幾分抽象的な記述の積み重ねになる部分もある。その為「見えない身体の位相」といった概念を実感を伴って想像出来ない読者には、呑み込みにくい内容になるかもしれない。

     向こう側の位相を感じながら生きることは、より自分らしい生き方に近づく、と示唆する本書。しかし、異界の淵を覗くことで日常が破壊される危険性もある、という「注意書」も添えられている。

     劇薬のような魔を秘めた刺激的な書である。

  • <閲覧スタッフより>
    「思春期」という不安定な時期と村上春樹の作品を絡めて迫っています。
    現実と物語双方の少年少女たちが悩みながらも懸命に生きていることが分かります。
    村上春樹全作品集と共にどうぞ。
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    所在記号:146.8||イケ
    資料番号:10183299
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  • 本の読み方が変わった。

  • 「海辺のカフカ」や「羊」3部作の不思議部分が、なるほど…って思えた一冊。

  • 村上春樹の小説を、心理療法、思春期の考え方から分析する。

  • おもしろかった〜。村上作品は10代の頃に読んでみてもいまいちよくわからずにいたけど、これはその村上作品の解説本みたいな感じ。あと、心理学が好きな人も楽しめるかも。もう一回村上春樹を読み直したくなる本。

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著者プロフィール

島根大学人間科学部心理学コース教授

「2020年 『こころを晴らす55のヒント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩宮恵子の作品

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