消えた山人 昭和の伝統マタギ

  • 農山漁村文化協会 (2019年8月9日発売)
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  • 本 ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784540151002

作品紹介・あらすじ

昭和最後の9年間、わずかに残る伝統マタギの集落に通い、狩り、皮はぎの神事、熊祭り、山の神祭り、小屋がけ、火起こし、装束や猟具など撮影した記録。347枚の写真と聞き書きから伝統マタギの全貌が浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  • 「山人」のマタギに同行取材した写真記録。
    マタギの研究書とも言える、素晴らしい本だった。
    写真の数は実に347枚にものぼる。
    いつも粋なものを出される、さすがの農文協さんであるよ。

    写真家でもある著者の千葉克介さんは秋田県の角館生まれで、マタギの末裔でもあるらしい。
    格別そんなことを意識もせずに育ったらしいが、マタギ研究者の太田雄治さんに出会い、次第にマタギと民俗学の虜になっていったという。

    取材したのは1982年から1990年までの9年間。昭和57年から平成2年の間だ。
    「玉川マタギ」と文中で呼ばれる秋田県仙北市湖玉川と、「百宅(ももやけ)マタギ」という秋田県由利本庄市鳥海町百宅。どちらも県境の山深い場所だ。
    マタギの狩りの仕方、猟具、装束、履物、小屋がけ、火おこし、呪物、マタギ小屋、村田銃の弾作りなどなどの実物とその聞き書きがびっしり。
    最後の鷹匠も後半に登場する。

    わけても興味深いのはクマ狩りと皮はぎの神事、クマ祭りだ。
    これはまるでアイヌのイヨマンテと変わらない。
    誰が仕留めたかは関係ない。集落の各戸から正装し、祝いの品を持参して集まり、山の神に感謝して祈り、その後「おふるまい」と呼ばれる祭りが二日にも及んだと言う。
    肉と毛皮のみでなく、内臓や骨に至るまであますところなく平等に分けられる。
    病弱なひとにはクマの血が分け与えられたらしい。
    貴重な食料は「自然からの授かり物」であるというごく基本的な考えが、ここには生きている。

    意外に思ったのが山人と海人との繋がり。
    マタギの狩猟したカモシカの角がイカ釣りの擬似餌として活躍したという。
    コメ一俵が7円か8円の時代に、この角が一本3円から20円くらいだったらしい。
    桐の箱に入れて高価な貴重品としてもてはやされたというから、驚く。
    もっとも、カモシカが国の天然記念物に指定されてからは捕獲禁止となり、衰退したらしい。

    「山をまたぐ」が語源のマタギたちの山歩きの技術。
    「鉈、マッチ、ライター、塩、味噌。これだけあればしばらく生き延びられる」という言葉通り、いかなる場合でも出来る「火おこし」の技。
    山とそこに棲息する命への畏敬の念。
    取材したどちらの場所もいまはダムの底で、もはや再生することはない。
    市中に現れるまでになったクマたちも、居場所を失って彷徨うばかりだ。
    山人たちの消滅を、クマも寂しがっているのかもしれない。

    「時代が進み、振り返るときが来たときに、この記録がささやかな足がかりに
    なれば幸いである」という前書きが、哀切極まりない。

    ではではブク友の皆さん、今年もどうぞよろしくお願いします。

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著者プロフィール

1946年、秋田県角館町生まれ。写真家。1970年から東北を中心に活動。太田雄治著『消えゆく山人の記録 マタギ』(翠楊社、1979年)で撮影を担当。以後、マタギに興味を持ち、撮影を続ける。1988年「黎明舎」設立。世界環境写真家協会会員。2000年、全国観光ポスター展で銀賞受賞。『十和田 奥入瀬 八甲田』(旅行読売出版社)、『千年ブナの記憶』(撮影担当、七賢出版)、『紅葉をとるカメラワーク』(主婦と生活社)など著書多数。

「2019年 『消えた山人 昭和の伝統マタギ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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