シェイクスピアの密使

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560027202

作品紹介・あらすじ

シェイクスピアの一座に連続して起こった不審な事件の謎を追って、少年俳優ウィッジはライバル劇団に潜入する。17世紀初頭のロンドンを舞台に展開する痛快冒険物語。

感想・レビュー・書評

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  • シェイクスピアと少年俳優ウィッジのシリーズ3作目。これで完結のようです。
    わかりやすく、すらすら読めて、感じがいい歴史ものの児童文学です。

    17世紀はじめのイギリス、エリザベス女王の治世。
    シェイクスピアのいる宮内大臣一座で、孤児のウィッジは俳優をしています。
    女性の役は少年が演じた時代。
    女形を演じるには、声変わりが来たらおしまいという不安を抱え、時折声がおかしくなる時期をすでに迎えていました。
    仲間につきあって、占い師のマダム・ラ・ヴォワザンのもとを訪れたウィッジは、不思議な予言を聞くことに。

    シェイクスピアの娘ジューディスが突然ロンドンにやってきて、その美しさにウィッジは初めてのときめきを覚えます。
    少年俳優達は皆、浮き足立ちますが‥
    ジューディスが伴っていた男は、何か理由があって身元を隠している様子。

    ジューディスに見栄を張って、脚本を書いていると言ってしまったウィッジ。
    見せようにも書き進められず、見かねたシェイクスピアが書きかけでやる気をなくしていた「アテネのタイモン」を譲ってくれます。

    フランスに渡った友達のジュリアが苦難にあっているらしいと知り、心配するウィッジ。
    女性はイギリスでは俳優になれないのでフランスに渡ったのですが‥
    ジュリアの父親は泥棒で、いまだに癖が抜けない様子。

    一座では衣装が紛失したり、不審な出来事が。
    ライバルの劇団が何かたくらんでいるのかもと、ウィッジは潜入することに。
    おりしも老いたエリザベス女王は死を迎え、一座はやっていけるのかどうか?岐路に立つことになります。

    初恋、俳優としての競争。
    老人との交流に、父親のような愛を見出すウィッジ。
    少しずつ成長するウィッジを応援したくなります。

    シェイクスピアと少年俳優というと、「影の王」という素晴らしい作品がありますが、これは3部作をゆっくり読んだので、こちらの愛すべき味わいも捨てがたい。

  • カテゴリ:教員著作物
    英語英文学科:安達まみ教授の著作物

  • 速記術が得意な少年役者ウィッジを主人公に据えた『シェイクスピアの密使』は、『シェイクスピアを盗め!』『シェイクスピアを代筆せよ!』に続く三作目。ここまで続くとシリーズものとして、作品の評価も定まってくる。前二作は全米図書館協会ヤングアダルト部門最優秀賞に輝いている。最新作も前二作に劣らず、面白い読み物となっている。

    前二作は、ストレートな物語の展開が印象的であったが、さすがに三作目ともなると、作者も趣向を変えてくる。それまでの登場人物に加え、新しく物語に入ってきた人物、帰ってきた人物と、多数の人物が織りなす複雑なサイドストーリーを同時進行させ、物語はポリフォニックな展開を見せる。ウィッジはもちろん、彼の友人であるサムやサル・ペイヴィの人間像もより鮮やかな輪郭を持って描かれることで物語の厚みが増したと言えよう。

    1602年のロンドン。女王エリザベスも年をとり、余命が危ぶまれている。芝居に対して寛容な女王の治世が終わることは、役者たちの生活を脅かす。政情不安は王室の猜疑心を強め、芝居小屋の中にもカトリック信者に対する弾圧が忍び寄ってくる。ウィッジ自身について言えば、女役を演じるには不利な第二次性徴がはじまっていた。ひげが生え、声変わりしては女役は無理。それは、せっかく恵まれた居場所をなくし、もとの孤児に戻ることを意味する。そんな中へ、シェイクスピアの娘ジュディスが田舎から出てくる。

    一目で恋に落ちたウィッジは、いいところを見せようとして、芝居を書いていると嘘をついてしまう。話を聞いたシェイクスピアが、好きなように使えといって書きかけの作品をくれる。はじめは無理と思われたが、フランスで女優をしていた親友ジュリアに危機が迫る。帰国費用を捻出するため悪戦苦闘しながら台本を仕上げるウィッジ。その間にも、宮内大臣一座がカトリックに関する芝居をすると、監視役が現れたり、衣裳が次々と消えたりする。どうやらライバル劇団のスパイがいるにちがいない。疑われたウィッジは劇団を辞めライバル劇団に雇われるのだったが。

    ウラジミール・プロップが『魔法物語の歴史的根源』という著作の中で、「魔法物語の最も古い核は原始社会のならわしである入門儀式にある」ということを述べている。そのプロップが分類した民話の機能の一番目「留守」の機能で物語は幕を開ける。芝居小屋を出た三人は、場末の女占い師に予言を授かる。その予言は物語を導く運命の糸の働きをする。言葉の表面上の意味と裏に隠された意味の二重性が深い意味を持って少年たちの運命を操る。

    「魔法の授与者に試される主人公」という機能がある。今回の「魔法」は、劇作家としての才能である。シェイクスピアの口述筆記をするうちに、ウィッジには作劇術に対する自身が育っていたのだ。そしてもう一つ「主人公の新しい変身」という機能。ウィッジは変装して劇団に潜入していたカトリックの司祭から実の父の死を知らされる。台本を完成したウィッジは、父の名と育ての親からもらったジェイムズ・ポープという名前を書きつける。劇作家ジェイムズの誕生である。少年は入門の儀式を無事通過したわけだ。

    主人公のウィッジはもちろん創作だが、多くの登場人物は実在の人物である。このシリーズの面白さは、ペストの猖獗やエリザベスの死、スコットランド王ジェイムズの戴冠という史実を背景に、シェイクスピアの活躍した17世紀初頭の庶民の生活や劇場の有り様などが、まるで目の前で見ているように描写される愉しさにある。少年向けの読み物だから、登場人物は悪人であっても憎めないところを持つように描かれている。人生の入り口に立ち、その意味を問うたり、人を恋しはじめたりする年頃の少年はもちろんのこと、歴史好き、芝居好きの大人にも楽しめる一冊。

  • シリーズ3作目ということなので、前2作も読んでみたくはなる。
    シェイクスピアって、どんな人物だったのかに興味があります。

  • シーリズ第三作。巻が進んでも変わらず面白いシリーズ。気付けば装丁やタイトルもお話にマッチしたものに変わっている。
    訳はくせがなく読みやすいけど、他の人のレビューにもあったように、主人公の訛りがいちいちブレーキに。日本の特定の地域の色をつけたくなかったのかとも思うけれど、もう少し一般的に認知?された方言を借りてくれればより楽しめたかも。

  • シリーズ三作目。いよいよウィッジがいい人で・・・読後感もさわやか。

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