- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560027257
作品紹介・あらすじ
雪景色のなか、なぜ、恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?記憶をなくした男が、失われた時を求めてパリの街をさまよう-。ゴンクール賞受賞作品。
感想・レビュー・書評
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中盤まで、自己を探索し記憶との距離を詰めてゆく主体の在り方にうっとり。描写が良い。後半、ここで終わる!?という唐突さ。余剰はたっぷり。ミステリは謎を解決するためにあるのではないのね…。落下の解剖学と同じ構造。
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記憶喪失だった男が自分を捜してパリのあちこちの通りを彷徨い歩く。最終的には記憶を喪失した前後のことは明らかになるが、だからと言って自分が何者なのかの本質は曖昧(obscure )なまま。フランス版の私小説。極めて観念的で読後もフワフワしたかんじがとれない。
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“彼女はわけもなしに泣く―”
探偵事務所の助手として働く、記憶をなくした男。事務所の閉鎖を機に、自身の過去を探す旅に出る。雪景色のなか、なぜ恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?失われた時を求め、男はパリの街を彷徨う。
「それは果たしてぼくの人生なのだろうか?」
意味の分からない、混沌とした切れ端のかけら。切れそうな糸を頼りに、かろうじてそれを辿ってゆく。知らず知らずのうちに、誰か他の人生に滑り込んでいっているのかもしれないという疑いを常に感じながら。
「われわれは、最後には気化してしまうかもしれないのだ」
古い写真、新聞記事の切り抜き、淡い覚え書き。果たしてそれは彼の道標となり得るのか。夜闇が次第に白いふわふわした靄に代わり、少しずつ皆をかき消して透明にしていく。
「砂は何秒かの間しかわれわれの足跡を留めない」
忽然と虚無の中から現れ、暫し光った後でまた虚無に戻る。ある日姿を消しても誰も気づかない。結局のところ、人間は皆そういう存在であり、やがて行方をくらましてゆく。
2014年のノーベル文学賞受賞作家、パトリック・モディアノによるミステリ風叙情純文学。サスペンス的な展開やどんでん返しがあるわけではなく、霧が晴れるように徐々に見えてくる真実と、明らかになる悲哀に満ちた人生劇が書かれています。ゴンクール賞受賞作。
そんなお話。 -
霧。
濃霧のなかに一人いる。
霧の向こうにはなにかる気配がある、時々影もみえる。
匂いも・・・シガレット?コーヒー?古い書物、埃・・・夏と冬。
「結局のところ
私は◯◯なんかではなかったかもしれず
要するに何ものでもなかったが
それでもある時ははるかな
かと思うとある時はもっと強烈な波動が私の中をよぎり
空中に漂っているそうした散り散りの谺が結晶していき
それが私となるのだった。」 -
訳は読みにくいし、展開は遅いし、話はつまらない。
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傑作でありました。記憶喪失の主人公がアイデンティティーを求めて、手がかりを一つ一つ追いかけていく推理小説のような仕立てでありながら、霧の中のような、なんとも不思議な読後感。目が離せなくなるという点では、モディアノの他の作品と同様です。まさに、中毒性がありますね。
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953.7
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8年前より以前の記憶を失った「私」が自分の来歴を探し求める話。
主人公は意識を取り戻して以来従事していた私立探偵時代のツテを利用し、微かな手がかりから手がかりを経て、少しずつ自分の過去に迫っていく。
ヒントを握っていそうな人物に次々話を聞きに行くが、その証言も――これは記憶喪失でなくても誰もがそうだが――過去の出来事を完璧に再現できないために、断片的である。
少しずつフラッシュバックのように過去の場面が浮かぶこともあるが、それすら「私」が追跡をする中で思い込みが生み出した幻視かもしれない。
自分という地盤を失った「私」の不安感と、思い起こされる過去の自分が陥っていた時代の不安感とが混じり合い、えも言われぬ雰囲気を醸し出す。
読者は、「私」とともに推理小説的な彷徨を続けるのだが、ネタバレをすると、本書のなかでは彼の出自は断片的に解明された(かもしれない)という段階で終わりを告げる。しかも一つの断片が明らかになったことで、より大きな疑問を何個も残して。
では、「私」はそもそもどこから来て、その後どこへ行ったのか? そこからの追跡は、読者の空想にゆだねられるのである。
作品中で答えを出さず、読後にまだ作品世界の余韻を引きずる、こういった手法で熱心なファンがつくのは納得できる気がする。
「私」とともに「自分とは何者か」の迷宮にともに迷い込む。作品世界に没入できるという点で優れた読書時間を提供してくれる良書だと思う。