暗いブティック通り

  • 白水社
3.14
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本棚登録 : 197
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560027257

作品紹介・あらすじ

雪景色のなか、なぜ、恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?記憶をなくした男が、失われた時を求めてパリの街をさまよう-。ゴンクール賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 中盤まで、自己を探索し記憶との距離を詰めてゆく主体の在り方にうっとり。描写が良い。後半、ここで終わる!?という唐突さ。余剰はたっぷり。ミステリは謎を解決するためにあるのではないのね…。落下の解剖学と同じ構造。

  • 記憶喪失だった男が自分を捜してパリのあちこちの通りを彷徨い歩く。最終的には記憶を喪失した前後のことは明らかになるが、だからと言って自分が何者なのかの本質は曖昧(obscure )なまま。フランス版の私小説。極めて観念的で読後もフワフワしたかんじがとれない。

  • 冒頭、以下の一節から、物語が始まる。

    私は何者でもない。

     ギ―・ロランという名の男。これまで8年間、探偵事務所の世話になって糊口をしのいできた。だが、8年より前の記憶は持たぬ、記憶を喪った男である。舞台はパリ、戦後。
    この男の、「私」という一人称で、物語が進む。
    自分は何者だったのか、未知の事実を、真実を求めて探し続ける道行が、ドライに、淡々と描かれる。
    故に、ミステリー小説のようである、とされている。だが、モディアノである。明快な謎解きも、事実を詳らかにする爽快なカタルシスもない。
    探索の道程で出会うふるびた写真を手掛かりに、人々を訪ね歩く。写真に写る「私」らしき男が何者であったのか、訊ねてまわる。グルジアのヤルタの海岸で撮られたらしき家族写真。だが、証言者の記憶もまた曖昧で、「私」らしき被写体と眼前の「私」を見比べながらも、似ていると言えば似ている、とか、そうですかねえ、などと要領を得ない。
    その後、「私」らしき人物の手ごたえをつかむが、それもまた思い違いで、その人物は、その頃(第二次大戦中)「私」と行動を共にしていた友人であると知れる。
    「私」という自分を探す謎解きは、そのものがまるで迷宮のような様相を深めてゆく。
    やがて、「私」は、フランス中西部の地方都市から、スイス国境に近い山岳地帯の山村、その山小屋に隠遁していた事実にたどりつく。時の対独協力政権のもとで、不安定な地位にあった「私」は、恋人らと共に、危機から逃れるべく山間の地に居を移していた。
    その後、スイスへと不法の国境越えを謀るのだが、ガイドに裏切られて雪の山中で恋人と離散。雪中の遭難で記憶を失ったことが示唆される。
    モディアノがこだわり続けている、二次大戦中フランスの負の歴史、裏切りに生きた人々への、穏やかなる告発が、そこに秘められていると思われた。

    「私」は何者なのか、自分とは一体何者なのか。男は、探し続けた。しかし、その明解な回答は得られない。少なくとも、そこには、爽快感やカタルシスを伴わない。
    むしろ、そこでは “「私」は何者なのか” という問いの不確かさこそが、強い印象を刻んでいる。

    ※読後、改めて、カバー絵を見る。読後初めてその意味に気付く。

  •  “彼女はわけもなしに泣く―”

     探偵事務所の助手として働く、記憶をなくした男。事務所の閉鎖を機に、自身の過去を探す旅に出る。雪景色のなか、なぜ恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?失われた時を求め、男はパリの街を彷徨う。

    「それは果たしてぼくの人生なのだろうか?」

     意味の分からない、混沌とした切れ端のかけら。切れそうな糸を頼りに、かろうじてそれを辿ってゆく。知らず知らずのうちに、誰か他の人生に滑り込んでいっているのかもしれないという疑いを常に感じながら。

    「われわれは、最後には気化してしまうかもしれないのだ」

     古い写真、新聞記事の切り抜き、淡い覚え書き。果たしてそれは彼の道標となり得るのか。夜闇が次第に白いふわふわした靄に代わり、少しずつ皆をかき消して透明にしていく。

    「砂は何秒かの間しかわれわれの足跡を留めない」

     忽然と虚無の中から現れ、暫し光った後でまた虚無に戻る。ある日姿を消しても誰も気づかない。結局のところ、人間は皆そういう存在であり、やがて行方をくらましてゆく。


     2014年のノーベル文学賞受賞作家、パトリック・モディアノによるミステリ風叙情純文学。サスペンス的な展開やどんでん返しがあるわけではなく、霧が晴れるように徐々に見えてくる真実と、明らかになる悲哀に満ちた人生劇が書かれています。ゴンクール賞受賞作。

     そんなお話。

  • 霧。
    濃霧のなかに一人いる。
    霧の向こうにはなにかる気配がある、時々影もみえる。
    匂いも・・・シガレット?コーヒー?古い書物、埃・・・夏と冬。

    「結局のところ
    私は◯◯なんかではなかったかもしれず
    要するに何ものでもなかったが
    それでもある時ははるかな
    かと思うとある時はもっと強烈な波動が私の中をよぎり
    空中に漂っているそうした散り散りの谺が結晶していき
    それが私となるのだった。」

  • 訳は読みにくいし、展開は遅いし、話はつまらない。

  • 傑作でありました。記憶喪失の主人公がアイデンティティーを求めて、手がかりを一つ一つ追いかけていく推理小説のような仕立てでありながら、霧の中のような、なんとも不思議な読後感。目が離せなくなるという点では、モディアノの他の作品と同様です。まさに、中毒性がありますね。

  • 953.7

  • 8年前より以前の記憶を失った「私」が自分の来歴を探し求める話。
    主人公は意識を取り戻して以来従事していた私立探偵時代のツテを利用し、微かな手がかりから手がかりを経て、少しずつ自分の過去に迫っていく。
    ヒントを握っていそうな人物に次々話を聞きに行くが、その証言も――これは記憶喪失でなくても誰もがそうだが――過去の出来事を完璧に再現できないために、断片的である。
    少しずつフラッシュバックのように過去の場面が浮かぶこともあるが、それすら「私」が追跡をする中で思い込みが生み出した幻視かもしれない。
    自分という地盤を失った「私」の不安感と、思い起こされる過去の自分が陥っていた時代の不安感とが混じり合い、えも言われぬ雰囲気を醸し出す。

    読者は、「私」とともに推理小説的な彷徨を続けるのだが、ネタバレをすると、本書のなかでは彼の出自は断片的に解明された(かもしれない)という段階で終わりを告げる。しかも一つの断片が明らかになったことで、より大きな疑問を何個も残して。
    では、「私」はそもそもどこから来て、その後どこへ行ったのか? そこからの追跡は、読者の空想にゆだねられるのである。
    作品中で答えを出さず、読後にまだ作品世界の余韻を引きずる、こういった手法で熱心なファンがつくのは納得できる気がする。

    「私」とともに「自分とは何者か」の迷宮にともに迷い込む。作品世界に没入できるという点で優れた読書時間を提供してくれる良書だと思う。

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著者プロフィール

(Patrick Modiano)1945年フランス生まれ。1968年に『エトワール広場』でデビュー。1972年に『パリ環状通り』でアカデミー・フランセーズ小説大賞、1978年に『暗いブティック通り』でゴンクール賞を受賞。その他の著作に、『ある青春』(1981)、『1941年。パリの尋ね人』(1997)、『失われた時のカフェで』(2007)などがある。2014年、ノーベル文学賞受賞。

「2023年 『眠れる記憶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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