歌で味わう日本の食べもの

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  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560027752

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  • おから寿司水といっしょにのみおろし売られゆく娘にマフラを投げる
      山崎方代

     書店での楽しみは、料理本コーナーに長居することだ。文学との接点も少なくなく、先日は、「和歌、俳句、童謡…歌を通して、食文化を知る」という帯文に惹かれ、「歌で味わう日本の食べもの」を購入。そのなかで「おから寿司」の存在を知った。
     時代は敗戦直後だろう。闇米にありつくのも難しく、屋台のすし屋では、米ではなく、おからの握りが提供されていた。ネタは、当時は廉価だった鯨ベーコンなど。かさついたおからなので、水分と一緒に飲み下ろし、何とか胃に収める。
     戦争で右目を失明した山崎方代は、復員しても職がなく、かつかつの暮らしだった。それでも、自分以上に貧しく、身を売るしかない女性を見てマフラーを与えている。同胞意識を語るその歌が、ただの「寿司」であればさほど心は動かないだろう。「おから寿司」だからこそ、琴線に触れる。

      大いなるいと大いなる梅干にいと熱かりし玄米の粥 
       徳川夢声

    太平洋戦争末期、人気弁士徳川夢声のごちそうは、梅干しをのせた玄米粥だった。「大いなる」のくり返しから、つばが出そうな迫力ある梅干しが目に浮かび、熱々の湯気も想像される。配給不足の空腹を、とりあえず粥の熱さでしのいでいたのだろうか。

      海藻の代用そばの冷めたると海豚【いるか】の肉に箸つけしのみ
        鹿児島寿蔵

     これも時代は戦時下で、代用食の歌。今日では食卓にのぼる機会はめったにない、海藻麺とイルカ肉。歌が、食文化の貴重な記録になっていることも味わいたい。
     
    (2012年3月11日掲載)

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