本棚の歴史

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560028490

作品紹介・あらすじ

かつて本は鎖で本棚につながれていた!巻物から写本、そして印刷術の発明-そんな書物の発達とともに歩んだ収納法の進化の跡を名著『鉛筆と人間』の著者がたどる。読書人・書店・図書館関係者必読の好著。

感想・レビュー・書評

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  • 本屋さんや図書館に行って、本棚まで観察したことがあるだろうか。
    たぶん殆どの方は棚の本だけを見ているかと。
    ところが世の中には、本棚にフォーカスする人がいるのだ。
    著者の専門は土木工学で「鉛筆と人間」「フォークの歯はなぜ4本になったか」「橋はなぜ落ちたのか」などの著書が邦訳されている。
    身近なモノに焦点をあてて、今日までどのような形態的・機能的な進化を遂げてきたのかを解説する。本書は「本棚」について。これがすごく面白い。

    グーテンベルクの印刷術以前、手書きに頼っていた本は非常に貴重で高価なもの。
    いくつもの鍵がついた本箱(棚ではない)に保管されていた。
    しかし蔵書が増えてくるにつれ、保管場所にも悩むようになる。
    当時の本は装丁が豪華で、浮き彫りや宝石が施されていたりと重ねて置くことが不可能だったのだ。留め具や突起もあり、他の本を傷つけてしまう恐れもある。
    そこで、1冊ずつ表紙を上にして平置きされた。
    収納しきれずチェストから出された本たちは、書見台に鎖でつながれる。

    このことが、図書館の構造と発展を17世紀末まで支配していくことになる。
    電気もなく、本を守るために火を使うわけにもいかない。
    そんな時代の照明は、窓からの太陽光に頼っていた。
    鎖につながれた本の移動は出来ず、書見台を日の光がさす場所に置く必要がある。
    それが、本の収納場所とともに図書館の構造の決め手となっていく。

    増え続ける蔵書の前に、書見台のスタイルにも限界がくる。
    台の上に、現在の本棚に近い棚をつけるというアイディアが生まれ、その後ようやく本を立てて収納するという方法がとられる。
    格段に収納数は増えたが、興味深いのは背表紙の部分を奥にして入れていたこと(!!)。
    こちらから見えるのは「小口」という頁をめくる部分だ。
    当時はまだ背表紙に著者名やタイトルは書かれておらず、何より鎖が手前の端についていたため、他の本を傷めないようにこの収納方法だったらしい。
    図書館では、本箱の端に内容目録が貼り付けられ、その枠には木の扉がついていて、リストを調べるとき以外は閉じられていたという。

    更に蔵書数が増え、古い本は次々に装丁し直されて、ようやく背表紙にタイトルを入れる時代がくる。新しい本は背表紙を手前に向け、古い本は奥に向けるという方法が一般的になるのはほぼ16世紀の終わりごろから。
    しかしこの後も書斎の作り方や収納の際の本のサイズ問題、固定式の棚と可動式の棚とどちらが良いかなどと、問題は尽きない。

    本書で面白いのは、メルヴィル・デューイの「図書館記録」からの引用箇所が大変多いこと。分類法を考えただけじゃなかったのね。
    長さ100センチを超えると棚は重みでたわむとか、収納は左から右へ&上から下へとか、背の高い本棚から本を取り出すためのはしごの話や、本棚そのもののサイズについて、司書が入る書庫の暗さについても言及している。
    今じゃ当たり前のようなことでも、先人たちの試行錯誤の結果なのだ。

    本棚と本は別々に進化するわけではなく、互いに影響しあい必要に迫られて共進化してきた。その視点が非常に新鮮で興味深い。
    今も情報は増加し続け、どのように収納するかと言う問題は終わることがない。
    データーベース化されたところで、同じ悩みが生じるだろう。
    未来の本棚はどんな形に進化するのだろうか。もしや昔に戻るのだろうか。
    著者は最後まで増え続ける本の収納で悩み続けている。
    それってつまり、私たちの姿と変わらない。そう思うと笑いがこみ上げる。

    翻訳の良さかもしれないが、文章はよくこなれていて読みやすい。
    図版やイラストも要所要所に入り、いくつもの新しい発見に恵まれた。
    蔵書家さん・愛書家さんたち、これはお勧めですよ。

    • nejidonさん
      夜型さん。
      ごめんなさいね、今コメントに気が付きました。
      「思考の取引」ですか。
      そう言えばエーコの本も未読でしたね。
      いつかたどり...
      夜型さん。
      ごめんなさいね、今コメントに気が付きました。
      「思考の取引」ですか。
      そう言えばエーコの本も未読でしたね。
      いつかたどり着いてみせます。いつか。
      今更ですが、決して速読ではないんです。
      首を長~~~~~くしてお待ちくださいね♪
      他に読みたい児童小説もあり、なかなか悩ましいのですよ(*´▽`*)
      2020/11/29
    • 夜型さん
      猫型さんって呼びそうっておっしゃってましたね。
      僕は、Don子さんってたまに呼びかけてます、画面の前で。
      オッドアイのにゃんこ可愛いです...
      猫型さんって呼びそうっておっしゃってましたね。
      僕は、Don子さんってたまに呼びかけてます、画面の前で。
      オッドアイのにゃんこ可愛いですね。
      嬉しい悩みならよい悩みですね。
      2020/11/29
    • nejidonさん
      夜型さん。
      うっふっふ、Don子さんでかなりウケました(*´▽`*)
      「ne」「 ji 」「don 」に分かれて、どれもにゃんこの名前...
      夜型さん。
      うっふっふ、Don子さんでかなりウケました(*´▽`*)
      「ne」「 ji 」「don 」に分かれて、どれもにゃんこの名前の頭文字なんです。
      オッドアイの子、毎晩一緒に寝ています。
      枕をふたつ並べてて、ひとつはその子の分です。
      「世界一の猫」って呼んでます。はい、親バカです。笑ってやってくださいませ!

      ええ、もちろん嬉しい悩みですとも♪この先ずうっと読む本があるんですよ!
      なんてすごいことでしょう。幸せが持続するってことです。本当に素晴らしい♡
      2020/11/29
  • 本棚を見る時、主人公は本そのものでそれを整然と収納している本棚には目がいかない。本棚自体をひとつの工芸品として歴史を追ったもの。でも近い将来電子書籍が普及して、本棚は過去の遺物になるのかな?

  • 昔の本の保存法、扱い方に驚き
    当たり前のように本棚に本を入れているのも
    その形は昔の同じように本を扱う人達が様々な失敗を繰り返して試行錯誤の結果

    本が燃やされてしまったり、紙くずの同然の扱いを受ける時代があったというのは本好きにとって心が痛むものだ

    自分の本棚はこの本に載っている蒐書家の人達にとって邪道かもしれないが、仕方がない(本の前に本を並べるとか・・)。
    ただこの先電子書籍が主流になったとしても紙の本が好きな人は確実にいなくならないだろう。
    私も多分その中の1人

  • 普段注目することのない"本棚"の発達史です。
    それは本の発達と共に歩むものであり、当たり前のように存在していますが、並々ならぬ努力の結晶です。
    現代の図書館や書店に佇む本棚、この形になるまでの変遷を辿る一冊。

  • 本と共に進化してきた本棚の歴史を見てゆくことで、その設計上の工夫や、空間との関係性など、本を扱うことの変化・進化の過程がわかります。本を探して読む経験について新たな視点をもたらしてくれる一冊でした。

    九州大学 総合博物館
    メディアデザイン 教員 松本隆史

  • フィリップ・アリエスの『子どもの誕生』を読むまで、「子ども」時代というのは、ずっと、昔からあったものだと単純に思い込んでいた。子どもというものが、単に小さな大人としてみられていた時代が長く続いたことを、この本ではじめて知った。それまでは、歴史的な価値をあまり認められてこなかった風俗資料にまで目を通し、既成の歴史学とはちがった角度から人間の歴史を見直すアナール学派の登場は、目にしていながら見えなかったものをあらためて考えさせる契機となったことはまちがいない。

    ヘンリー・ペトロフスキーの『本棚の歴史』は、それを思い出させる。本についての書物を挙げだしたらきりがない。それに比べて、公共図書館であっても、書斎であっても、そこに本がある限り、必ず存在しているはずの「本棚」についてまとまった考察を述べた本というのをあまり聞いたことがない。一種の盲点になっていたわけである。とはいうものの、この本、ただ本棚についてばかり書かれているわけではない。本棚という視点を押さえることで、その上に乗る本というものが却って明らかになる仕掛けになっている。原題は「The Book on the Bookshelf」そのものずばりという題名である。

    アルブレヒト・デューラーの有名な「書斎の聖ヒエロニムス」をはじめとして、挿入されている木版画が楽しい。版画自体もだが、その版画に描かれている背景としての本や本棚を、まるで推理小説に登場する名探偵のように、実に精緻に読み解いていくその読解技術には、ほとほと舌を巻く。同じ聖ヒエロニムスを描いたデューラーの木版画三枚を時代順に並べて、背景に描かれた本の置き方に注目するところなど、知的興奮を満喫することができ、下手な推理小説顔負けである。

    この筆者の考証癖に付き合っているうちに、本と本棚の変遷が知らず知らずの裡に説き明かされていくのだが、パピルスによる巻物状の巻子本にはじまり、それが次第に表紙付きの折りたたんだ冊子本(コデクス)に代わり、中の用紙も、パピルスから仔羊革に、そして紙にと変化してゆく様が、本棚の変遷から語られるのが新鮮である。そういえば、映画『ベン・ハー』では、巻物状の本を部屋の棚に平積みしていたなぁなどと、思い出した。活版印刷ができるまでは、修道院の中、天板の傾斜した机の上で、修道僧が貴重な書物を写し取るのが常であったことは、これも映画『薔薇の名前』で見た通りであった。

    何より驚いたのは、本は背表紙をこちらに向けて棚板の上に垂直に立つのが当たり前だと思い込んでいたことが、『子どもの誕生』における子ども同様、とんでもない思いこみであったことを知らされたことである。冊子状になってからも、本の表紙には、題名や作者などが記載されることはなく、最初の一行が、その識別する手がかりになっていたという。必然的に、本は前小口をこちらに見せて並べられていたが、それを証すのも、古拙な木版画である。意外なことに背表紙の歴史はずいぶん新しい。本を統一した意匠で装幀するという流行が生じた16世紀になって、はじめて、同じ体裁の本を識別する必要上、背に文字を入れる習慣が生まれたのである。

    現在では、公共図書館における本棚の並び方は、壁際を埋めながら、フロアにも並行に幾つもの本棚を並べるという、ウォール式とストール式の併用が主流だが、これらが、現在の形に落ち着くまでの様子は実に興味深い。盗難を防ぐため鎖に繋がれた本の中から、お気に入りの一冊を取り出すための苦労など、たっぷり挿入された図版から、当時の人の読書の模様などを窺うのも一興である。スチール式の本棚が登場する頃から、少し、興味が薄れるのは、現代に近づいたことから来る既知感が邪魔をするからで、筆者の所為ではない。

    本好きを自認し、書斎とは言わずとも、本を蒐集することにかけては人後に落ちぬ読書子なら、何を置いても一読する価値のある一冊といえよう。

  • 本好きが高じてついにこんな本にまで手を伸ばしました笑
    背表紙が外側をむくのが当たり前と思っていたけれど、昔は違ったんですねー!

  • 008
    タブレット=書字板
    いつどのようにして図書館司書は本と棚と垂直に並べることを思いついたのだろう
    ストール・システム/ウォール・システム
    自立式書架最下段の傾斜
    回転式書架
    スニード規格
    スライド書架

  • 雨の日に、熟練の大工さんがこれをのんびり読むのもありかと。

  • 本棚の「棚」の側面をガチで扱っててユニークです。技術的・経済的・工学的な、本と本棚(と「読者」も?)の共進化の歴史として読めるかと。

    さらっと10分くらいで読んでしまいましたが。がっつり読みたい感じではないな、と読み始めてから気づいたので。

    著者は著名な作家・土木建築学者で『橋はなぜ落ちたのか』『フォークの歯はなぜ四本なのか』も名著です。

    『橋はなぜ落ちたのか』の要点:上手く機能している建築様式は、その成功の連続によって規模を拡大し、いずれ破綻するという法則。まるで「ピーターの法則」(人は能力の限界まで出世するから組織構成員は全員無能になる(ほんとかよ))ですね。
    http://booklog.jp/users/zerobase/archives/4022597860

    『フォークの歯はなぜ四本なのか』の要点:人工物は「不満」を解消するように進化するという法則。
    http://booklog.jp/users/zerobase/archives/4582766935

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