ベルリン・オリンピック1936 ナチの競技

  • 白水社 (2008年7月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (542ページ) / ISBN・EAN: 9784560031889

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  • 資料番号:011054475
    請求記号:780.6/ラ

  • 掲載]2008年8月24日
    [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)■プロパガンダに利用した五輪の全容

     北京五輪の開会式。圧巻は聖火台への点火であった。トーチを高く掲げたまま、宙に舞い上がった最終ランナーが、文字どおり天空を駆けぬけた。背後に各国をめぐった聖火の映像が絵巻物風に投影された。美しい演出に素直に感動しつつも、厳重な警戒下で行われた今回の聖火リレーの記憶がよみがえった。

     聖火リレーは古代ギリシャにさかのぼるものではない。1936年のベルリン五輪で、ナチスの宣伝部が創案した「でっち上げられた伝統」である。「ナチスの五輪」を検証する本書も、オリンピアの廃虚で行われた点火式から説き起こす。その後、ヒトラーの待つベルリンまで運ばれた聖火は、各国で反ドイツ的感情を高め、一方でドイツ系住民の「民族の誇り」をかき立てた。

     そもそも五輪に対して否定的であったナチスが、巨費を投じてまでベルリン大会開催に転じた背景には、国際的な「平和の祭典」をプロパガンダに利用する意図があった。本書は新資料を駆使、当時の国際社会の状況も含めて、巨大スポーツイベントの全容と成果を多面的に分析する労作だ。

     五輪の準備段階にもページを割く。米国で展開されたボイコット運動が実らなかった経緯、五輪期間中に限ってユダヤ人に対する迫害政策を緩めた様子も詳述する。読みごたえがあるのは開会式や閉会式、各競技に関する叙述だ。臨場感満点の筆致が素晴らしい。閉会式終了後の暗闇のなか、立ち去らない大観衆が「ハイル、ヒトラー」と叫び出すくだりなど、その場に居合わせたような気分になる。

     エピローグで著者は、01年夏に北京招致が決定した際、一党に権力が集中する国での開催という意味からベルリンやモスクワの先例と比較する声があったこと、対して五輪が契機となって「中国の開放性を加速し、人権に関する状況を改善するだろう」とする見解が示された点をあえて指摘する。実際、今回の北京五輪が中国の人々に何をもたらすのか。著者のような歴史家だけではなく、世界中が継続して注視するところだ。

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