- Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560042625
作品紹介・あらすじ
カナダの女性作家アトウッドは、その風土を思わせる透明感と、幻想味にあふれた珠玉の短篇集を生んだ。小説の醍醐味を満契させる、六粒の宝石をあなたに贈る。
感想・レビュー・書評
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どこか不穏で狭い世界に、閉じ込められている。
そんな嫌~…な雰囲気の世界観だよな…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
トークイベントで知った、岸本訳のアトウッド。後書きになんと「まだ日本で馴染みが薄い」と書いている(とはいえ、この時既に侍女の物語も発刊している)。岸本さんが「キッチン・ドアは侍女の前夜のようだ」と言っていたが、戦争や情報統制など、嵐の前の不穏さがテーマだ。どの短編も絶妙に後味が悪く、いびつな現実を垣間見せる。岸本さんのユニークな作家・作品を取り上げるセンスはこの時から健在。
短編集の一部ということで、完訳ではないらしい。アトウッドがノーベル賞を受賞して完訳が出るといった流れになることを期待する。 -
長編が素晴らしいので、短編も読んでみた。
悪くないが、長編の方に力を発揮する作家なのかなと感じた。十分面白いが、えぇっ、これで終わらせないでもっと書いて!と思わずにはいられなかった。
しかし、「ベティ」での女性への優しさと共感、「キッチン・ドア」「旅行記者」での女性の能力への信頼にアトウッドの本質を見た思いがした。
「火星から来た男」は、しつこい異人種の外国人の男ってこういうイメージなのかな、と。日本人もこう感じられているのかも、と暗い気持ちになった。 -
当事者以外は気付かない、隠された違和感をあらわにしてみせるさまざまな話が収められている短編集(「キッチン・ドア」は未来小説か)。アトウッドは「何かが良くないことになっている」ことをじわじわと書くのが本当にうまい。本書はSFではないのだけれど、『侍女の物語』と同じ場所が刺激されて、ぞくぞくしながら読んだ。岸本さんが訳しているのもあっている気がする。
「火星から来た男」、「キッチン・ドア」、「ダンシング・ガールズ」が特に良かった。 -
女性心理描写が巧み。そして男性心理描写も的確!「こうありたい自分」と「そうならない現実と自分自身」が日常目線で書かれた短編集です。
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何か変わったテーストの小説が読みたいと思いついてあれこれ書評などを見たりしつつ何となくしっくりこない感を味わった後、岸本さんの翻訳したモノというのがきっと今一番読みたいものじゃないかと気付いてこの本に辿り着く。
「新しいアメリカの小説」と銘打たれたシリーズの一冊(でもアトウッドはカナダの人だけれど)である本書の帯を見ると、興味深いことに他にはオースターの「鍵のかかった部屋」(本当はシティ・オブ・グラスを出すつもりだった、と柴田さんがCoyoteで明かしてました)や、ティム・オブライエンの「僕が戦場で死んだら」などが並んでいる。アトウッドのこの本が、だからといって同じようなファンを引き寄せたかどうかは知らないけれど、自分にとって感慨深かったのは、最近はまっていたJudy Budnitzによく似たテーストの小説が既に30年も前に出ていたという事実。少しベトナム戦争の影があちらこちらに見え隠れするけれど、どの短篇も時による風化をそれ程受けていないように思う。
Budnitzに似ていると書いたけれども、実はアトウッドのこの短篇集に収まっている作品はどれもほとんどオチがなくて、Budnitzのそれを読み終えた時に感じることができる解放感を味わうことはできない。それでも二人に共通していると感じるものがあるのは、読み進める過程で自分の中のどこかのねじがギリギリと巻き上げられていくような感慨のせいだと思う。しかし、繰り返すけれどもアトウッドはそれを解放してくれることはない。
その一方で「ほらね、絡まってしまったでしょう」と、どこかで世間一般を信じていた自分がアトウッドに手玉に取られたような声が聞こえてくる過程で、ねじはリセットされる。不思議な味わいが残る。
読み始めは、なぜこれを岸本さんが、という想いが頭の片隅をよぎったりしたけれども、読了してみればなんのことはない、岸本さんの「変なものを探り当てる力」の確かさを再認識したのであった。